お待たせしました。13話目です。どうぞ。
四日目、今日は少し見てまわって帰るだけだ。にしても眠い。また遅くまで遊んでしまった。戸部元気すぎだろ。
部屋の片付けをして荷物をまとめ、ロビーへと降りる。朝食は既に済ませている。
「ヒキガヤ君今日ってどこ行くんだっけ?」
「どっかで適当に見てまわったあと駅に行って帰るんじゃなかったか? その途中で土産買う時間とかあったはず」
「っべー、俺まだ全然お土産買ってなかったわー」
おい、ちょっと待て、なんでナチュラルにお前が横にいるんだ? 今までこのタイミングで話しかけてきたの戸塚だろ? なに乗っ取っちゃってんの、チェンジだ、チェンジしろ!
点呼をとりバスに乗り込んだ。隣はもちろん戸塚、死守してやったぜ。
しばらくしてバスから降ろされ集合時間だけ伝えられて解散となった。お土産は既に買ってあるし今日は基本的に暇だ。戸塚も他の友達とまわりにいったので余計に暇である。また新幹線でね、だってさ。仕方ないから散歩しよう。そう思い歩き出そうとしたところで声をかけられる。
「ヒキオ」
「三浦か、どうした」
「とりあえずお礼いっとこうと思って。あんがと」
「おう、律儀にどうも」
「それとさ、結衣の様子がおかしんだけど、なんかあった? もしかしてあーし達のことのせい?」
「いや、それは間違いなく俺のせいだろうな。俺のやり方が気にくわんかったらしい。ま、俺のまいた種だから自分でなんとかする」
「わーった、でもなんかあったら言って。元を辿ればあーし達の事があったからだし」
「ああ、そのうちな」
「じゃ、もう行くし」
そう言って葉山達の方へと歩いていった。さて、俺も行くか。
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はい、帰ってきましたー、家に。え、飛びすぎだって? 仕方ないじゃん、あの後ずっとぶらぶらしてただけだし、帰りはみんな寝ちゃってるし、俺も寝たけどさ。特になにもなかったからもう家です。
にしても家に帰り着いたとたんどっと疲れた。旅行あるあるじゃない? 帰ってきたっていう実感のせいか急に体が重くなるやつ。
「ただいまー」
「あ、お兄ちゃんおかえり! どうだった、修学旅行は!?」
「おう、楽しかったぞ」
「ほ、本当?」
「ああ、本当」
「よかったね! お兄ちゃんがこういう行事を楽しめたことってあまりなかったから」
「そうだな。俺もびっくりだった。ほれ、お土産だ。リビングにでも置いといてくれ」
「わかった。ありがとー」
小町にお土産が入った袋を渡す。小町はそれを持ってとてとてリビングに走っていった。
はー、めっちゃ疲れてるわ。そうだ、俺この三日間あんま寝てないんだ。ずっと夜更かししてた。もう早く飯食って風呂入って寝よ。
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そして時は過ぎ週始めの月曜日。え、また早いって?土日は寝ている間に終わっていたんです。
あー、学校かー。もっと寝ていたい。しかも部活いかないといけないじゃん。絶対気まずいよね。重い足でペダルを踏みしめ通学路を走り学校を目指す。
教室に入るといつも通り賑やかだった。修学旅行終わったからもうテストくらいしかないのに何が楽しいのだろうか。
「お、ヒキガヤ君じゃん、うぇーい」
「うぇーい」
ついそのまま返しちゃったじゃん。
「あんれ、テンション低くない?」
「いや、これが普通だ。むしろお前が高すぎる」
「そんなことないっしょ。俺いつもこんくらいじゃね?」
「そうだな。つまりいつも高いお前の近くにいるから相対的に見て俺が低く見えるだけで俺は悪くない。お前が悪い」
「っべー、よくわかんないうちに俺悪者になってね?」
「気のせいだ」
ほんと元気だな。二言ほど交わした後戸部は葉山達のところへ戻っていった。そして再び声をかけられる。
「ヒキオ、おはよう」
「ん、三浦か、どうした」
「いや、挨拶しただけなんだけど」
「そ、そうか。おはよう」
なんかこいつら修学旅行の件以降、若干距離近くなってるよな。ほら、クラスの連中も何事かって顔してるし。三浦とも適当に言葉を交わした後、席に向かう。椅子に座りボケーっとしていると教室に戸塚が慌てて入ってきた。え、もうそんな時間か。
朝礼がさらっと終わり授業が始まる。そろそろ勉強にも本腰いれていかないといけない時期だから真面目にうける。ちょ、先生そんな怪訝な目で見ないでくださいよ。傷ついちゃいますって。
そんな感じで授業が終わり、待ちに待っていなかった放課後。部室の方へ向かっていた俺は知らないうちにベストプレイスにいた。わ、無意識で逃げてきちゃったよ。しかし実際何を言えばいいのかわからない。俺の反省を言った後なんて言えばいいだろうか。穏便に済ませたいし、どうすっかな。
なかなかまとまらないがこのままでいても仕方がない。ひとまず部室行くか。部室に着き、戸に手をかけ開ける。
「よう」
「こんにちわ、来たのね」
「まあな」
部室には二人とも先に来ていた。でもあまり空気がよろしくない、この空気で切り出すのかよ。胃に穴が開くぜ。定位置に座り本を取り出す。どう切り出すか悩んでいると由比ヶ浜が口を開いた。
「みんないつも通りだったね」
「そうだな」
「なら依頼はなんとかなったってことでいいのかしら」
「たぶん…。てか、ヒッキー知らないうちに戸部っちと仲良くなってるし」
「あら、あんなことしたのにいったいどういう風の吹き回しかしら」
「まあ色々あったんだよ。まあ、その、修学旅行の時はお前達に不快な思いをさせて悪かったな。でも今回の件はお前達も反省するところあるはずだ。確かにあんな手を使ったのは悪いがそもそも……」
突然開かれた扉に俺の話は遮られる。ぅおい、何事だ! せっかくチャンスだったのに。微妙な空気が部室内に漂う。って、やっぱあんたか平塚先生。
「先生ノックを」
「す、すまん。今回は本当にタイミングが悪かったみたいだな。本当にすまん、出直すよ」
「いや、今さらですから別にいいですよ。なんの用ですか?」
俺の言葉を聞いて聞いてもう一度すまないと呟くと、扉の方を向いて合図を出した。すると部室に城廻先輩と亜麻色のセミロング女子生徒が入ってきた。先輩は相変わらずほんわかしている。で、このもう一人誰だっけ、どっかで見たことあるような気がするんだけど。
「あ、いろはちゃん」
「結衣先輩、こんにちは~」
「やっはろー」
「あれ、お知り合い? じゃあ一色さんの紹介はいいかな?」
一色いろはというらしい。待って、名前だけわかっても無理だって。見たことはあるんだって、たぶん。あれだな、結衣先輩っていったからこいつ一年だよな。そうなると一年と関わるようなことがあったとき…。文化祭? でもなにも引っ掛からんぞ。うんうん悩んでいると由比ヶ浜が教えてくれた。
「一色いろはちゃん、サッカー部のマネージャーやってる子だよ。柔道大会の時に見かけてると思うんだけど」
「……あ、あんときのか」
「やっと思い出したのね」
俺の反応を見て一色は驚いた顔をしている。え、有名人だった? ま、俺だし知らなくてもおかしくないよな。
「たまにうちのクラスにも来てたけど」
「え、まじで、さっぱりだわ、すまん」
「あはは、私ってあんまり目立ちませんからいいですよ~」
「ヒ、ヒッキーはクラスメイトもあんまり覚えてないから落ち込むことないよ!」
「おい、失礼だな、クラスメイトくらい」
「じゃあみんなの名前言える?」
「……気にするな一色」
「あははは…」
なんかすいませんね。さっさと本題に入ろう。
「で、城廻先輩何の依頼ですか?」
「あ、うん。もうすぐ生徒会選挙があるのは知ってる?」
「ええ、既に公示まですんでいますね」
「本当はもっと早くにやるはずだったんだけど立候補者が集まらなくておしちゃったの」
「で、何が問題なんですか?」
「その会長の立候補者が一色さんなんだけど、当選しないようにしたいの」
「え、こいつが?」
「あ、今向いてないとか思いました? よく言われるんですよー、とろいとかー鈍いとかー」
つい、言葉に出てしまった。こいつがって言っちゃったよ。そして一色さん、一瞬顔ひきつりましたね。なんとか取り繕ったみたいだけど。いや、実際上手いとは思うよ、ただ俺はもっと神がかった奴と一緒にいるからな。
「で、なんで落選させることに?」
「そこからは私が説明しよう」
そう言って平塚先生が説明を始める。一色は勝手に立候補されたこと、委員会が本人確認し忘れたこと、担任はよくわからんサクセスストーリーを描いているため話を聞かないということなどを述べた。複雑そうだ。
「こいつら推薦名簿に本名書いてんすか」
「ああ、そいつらには指導をいれる」
「アホっすね。公示まで済んでるってことは一色の名はもう出てるってことですよね」
「ああ、そうなる」
「取り下げってできないんですか?」
「あの担任がな、それに…」
「どうやって取り下げようって話で……」
「どういうことですか?」
俺の疑問に雪ノ下が答える。
「規約に取り下げについて明記されていないのよ」
「ゆきのん、一年生だからって理由じゃダメなの?」
「それも同じく書かれていないわ」
なにこの依頼、難しすぎんだろ。
「てか先生、これ結構大きな問題じゃありません?」
「ああ、わかっている。しかし誰も深刻に考えないんだ。私一人では限界でな、君達の力を貸してもらいたい。どうなっても責任はしっかり私がとる」
「まあ、そうならいいですけど、ぶっちゃけ先生が責任とるのも変な話ですよね。担任なんとかできませんかね」
「なんとも言えん。私も説得を続けてみるがどうなるか…」
「まあ、ひとまず案を出しますか。なんかあるか?」
「やはり他の誰かをたてるしかないのではないかしら。取り下げができない以上一色さんは選挙に出るのは確定だもの」
「でもそんなことするやついるか? いないからここまでのびたわけだし」
かなり難しいだろう。しかも一色と戦って勝たなくてはいけない。一色は男には人気そうだしそこら辺のやつなら無理だろう。本気でやる気のあるやつが出てきたら一色を取り下げる説得をしやすくなりそうだが。
それぞれ悩んでいると雪ノ下が予想外の事を言い出した。
「なら私が立候補しましょう」
「は、正気か?」
「本気かね? 部活はどうする?」
「別に会長をやりながらでも問題はないかと。今もほとんど依頼はありませんし」
「ゆきのん、ほんとにやるの?」
「ええ、別にやってもいいと思っているし」
「待て、俺は反対だ」
俺はストップをかける。
「なぜかしら。一番いい方々だと思うのだけれど。効率だっていいじゃない」
「確かに手っ取り早いし簡単だ。しかし生徒会長なんて大役をそんなんで認めるわけにはいかないだろ。学校の顔でもあるし、多くの行事を引っ張っていかないといけない。それをやってもいい程度の奴に任せたくはない」
「う、けれど他に手はないでしょう。やりたいという人間が居ないのが現実よ」
「まあ、そこが問題なんだ。今ぱっと思い付かないし、時間がほしいんだが」
「先生この問題の期限は?」
「来週の火曜日が予備日になっている。そこで立候補できるからそれまでだな。私もなんとかできないか考える。本当にすまないな」
「じゃあ、私たちはどうするかまた明日確認しましょう。一応私は準備を始めるわ」
「ああ、じゃあ今日は解散で」
俺の一言で皆帰る支度を始め、俺は部室を出て靴箱へ向かう。靴をはきかえて校舎から出ようとしたところで由比ヶ浜がが追っかけてきた。
「ヒッキー待って」
「なんだ?」
「あの、ちょっと一緒に帰れる?」
「わり、今から用事あるんだが」
「そこまででいいからちょっと待ってて」
そう言って慌てて靴を履き替え俺の隣に並んだ。
「あの、ゆきのんのことなんだけど」
「生徒会長になるってやつか」
「そう。もしゆきのんが会長になったらさ、部活なくなっちゃうよね」
「どうだろうな」
「だってゆきのん一つに集中するとそればっかりになっちゃうし。文化祭の時みたいに…」
「まあな、あのまま会長になっても文化祭の二の舞になるだろうから止めたんだ」
「私さ、奉仕部が好きなんだ。三人でいることが好き、なくしたくない。だから、私が生徒会長になる。私なら適当に仕事こなして部活に行けるし、そうすればなくならないよね」
「それはダメだって言ってるだろ。そんな適当にやっていい役職じゃないんだよ。生徒会がしくじれば最悪学校のイメージに影響してくる。そうなると多くの人間に迷惑がかかるし、被害ははかりしれない。それをわかっていて覚悟と意欲のあるやつじゃないとダメなんだ」
「でもそれじゃ…」
「はぁ、そう言えばさっき言いそびれたけどよ、修学旅行の件俺がもっとしっかり止めればよかったってのもあるけど、お前が海老名さんの気持ち考えて戸部の依頼を拒否すればあんなにこじれなかったんだ。本当は海老名さんの一番近くにいたお前が気づかないといけなかったんだ」
「うん…」
「別に戸部を応援するなとか、部がなくなるのは諦めろとか言っているんじゃない。自分の望みは持っていてはいいが、それに基づいて行動したときの他人の気持ちや及ぶ影響を考えるべきだ。修学旅行でお前が俺に言ったようにお前も人の気持ちを考えた方がいい」
「…そうだ、私全然姫菜のこと考えてなかった。私自分のことばっかりだったんだ」
「まあ、自分の感情に素直すぎるのがお前のいいところであり悪いところだ」
こいつは基本的に優しいから素直にそういうところが出るのはいい。ただ独りよがりな望みを持ったとき暴走してしまうのが問題だ。まあ、その優しさとの相性が俺は良くない。あいつは些細なことでも心配してくれるが、その分俺は気にせざるおえなくなる。両者とも苦い思いしかしない。
「ヒッキーごめん、私ひどいこといっちゃった。ほんとごめん」
「別にいい、事実だったしな。実際お前に偉そうなこと言える立場じゃない」
「でも、やっぱりあんなのはもう見たくないかな」
「ああ、なるべく気を付ける」
ちょっとした沈黙が流れる。これどこまで一緒なの?
「ゆきのんのこと、どうしよう」
「それは今から考える。お前も考えとけ」
「うん、頑張ってみる。じゃあね」
「おう」
そう言って由比ヶ浜は帰っていった。さて、俺も行きますかね、ドーナツショップまで。陽乃待たせるのも悪いし急ごう。俺は歩みを早める。
少し期間が開きました。先の方まで考えてたんですか話を作るって改めて難しいですね。
ここからはゆっくりめのペースで更新していきます。もちろん書けるときにはいっきに書いて投稿しますが。
早く八幡と陽乃をくっつけたくて仕方ないです。
では、また次回。
くっつけた後の話は思い付いてないんだよね…。