骸骨と得体の知れない何か   作:クリマタクト

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後半モモンガ視点あります。


第4話

「ふぅ」

 

いままでに作り上げた、召喚MOBたちがビルドどおりに動いてくれることがわかり、まずは一安心だ。これなら、大体のやつと戦うことができる。

しかし、召喚MOB達全員が、あそこまで忠誠を誓っているのはさすがに予想外だ。謀反がないから安心なのはわかるが、個人的にはもうちょっと柔らかい、というよりもフランクな態度を取って欲しいものだ、あそこまで敬われると、戦闘中の捨て駒にするのも罪悪感が湧いてしまう。

 

――もっとも、変えられる気はしないのだが。

 

 

一人ため息をついていると、アウラとマーレが走りながら近寄ってくる。

 

「カッコよかったです!パルパル様!!」

「ぼ、ぼくもそう思いました。えっと、その、すごくカッコよかったです!」

「そうですか?なら頑張った甲斐もあったものです」

 

目の前で目を輝かせている二人の頭を撫でる。

やはりこのくらいの子供は、撫でやすくて可愛いものだ。

 

何も言わずに撫でたから怖がられるか不安なところだったが、そんな心配はいらなかったらしく、見るからに嬉しそうな顔をしていた。

 

二人を撫でていたら、頭の中に電話がなるような感覚が生まれた。

俺は撫でるのをやめて、意識を集中させる。

 

『パルパル様、お時間よろしいでしょうか?』

 

相手は兵士だった。

 

『ええ、問題ありませんよ。どうですか周囲は?』

『どうやら、ナザリック大墳墓はいままでの沼地から、かなり離れているであろう平原に場所が移されています』

 

少し意外だった。

流石にゲームみたいな世界に来たのだから、全部ユグドラシルと同じ場所だと思ってたのだが……しかし、これはこれで異世界に来た。という事を確信できたとも言えるのだろう。

この事をモモンガさんに言ったら、どんな反応をするんだろうか?

 

俺はチラリと、モモンガさんの方を見れば、顎骨に手を置きつつ、何かを考えているような雰囲気を出している。ここで俺は兵士が二人いた事を思い出す。

同じように兵士から、連絡を受けているのだろう。

 

とりあえず、相談がしたいのでモモンガさんの方に行く。

 

「モモンガさん、どうしますか?」

「とりあえず、帰ってきて貰うのはどうでしょうか?安全第一です」

 

右も左もわからない今は、安全重視で行った方が確かに良いだろう。

いくら平原だと言っても、ドラゴンの巣が近くにある。なんてことは十分に考えられる。というより、実体験だ。

 

そう思っていると、兵士から追加の連絡が入る。

 

『パルパル様、今感知範囲内にて、村を発見しました』

「なに?」

「どうしたんですか?」

「村が見つかったみたいですよ」

「マジで!?」

「マジです」

 

モモンガさんは、目を少し光らせながら驚いている。

俺は、その物理的に輝きを増した目に驚いている。

 

「それで、どうしますか?個人的には接触しときたいですが」

 

今の状況で、この場所についての情報源になるだろうし、せめて会うことで顔を覚えておいてもらいたい。

流石に変装でもして行く気だが。

 

異形種=悪は、どうせどこだろうと変わりはしないだろう。

てか、普通に考えて現実で目の前に化け物出てきたら、誰でも怖いと思う。

まぁ、攻撃してきたら仕返すだけだが。

 

「私もそう思うんですが、相手がもし全員レベル100以上とかだったら、危なくないですか?」

 

モモンガさんは行きたい気持ちもあるが、それでも危険性を考えると、少し悩むところなのだろう。

個人的には考えすぎにも思えるが、今はそれぐらいの堅実さで行ってたほうが良いのだろうか?

 

だが、ここで情報源を逃すのはそれはそれで惜しいから、どうにか接触をしたい。

 

―NPCたちをこのまま接触させるか?

 

セバスはユグドラシルプレーヤーに顔が割れているから、うちのギルドに恨みを持った奴が滞在していれば、それこそ面倒なことになるが、俺の兵士だけで行かせれば、いいんじゃないか?

あいつらは人に近い異形種を、俺が性能をいじった奴らだし、鎧で全身を隠してるから、鎧を脱がない限りバレることは、そう無いだろう。

 

しかし、今先行している奴らが果たして友好的に話を聞きだす。ということが出来るのだろうか?フレーバー通りだったら、あいつらのカルマ値−50だから少し危ないかもしれない。

 

それに、そもそも俺たち全員がそいつらと会話ができるか?

そのまま村に行かせたとしても、言葉が通じなきゃ意味が無いし、話術が無ければ必要な情報を聞き出せずに終わる。

やはり、現状況を整理して明日以降、状況を整えてから向かうのが得策なのだろうか?

 

そこでモモンガさんは妙案を思いついた。

 

「パルパルさんの精神連結で兵士を動かしてやれば、安全じゃないですか?」

 

俺のスキルの一つで召喚MOBを手動操作するスキル、精神連結があった。

デメリットとして本体が無防備になるが、今そうなったところで問題はない。それに、召喚MOBに憑依する形になるから俺が会話をすることが出来る。

 

「あぁ、その手がありましたか。では、旅の者といった感じで、行きますか?」

「そうですね、遠くから来たとかなら、周りに疎くとも大丈夫だろうし」

 

『今から、私が精神連結でそちらに乗り移ります。いいですね?』

『はっ、了解しました』

 

そこで、兵士からの連絡が切れる。

そしてタイミングを見計らったように、アウラが話しかけてくる。

 

「お出かけになるのですか?」

「はい、精神連結で心だけですが」

「なら、私の魔獣で先に偵察をしますか?」

「いえ、そんなに心配しなくていいですよ」

「そうですか?じゃあ、もし何かあれば私に言ってください!」

「なら、その時はお願いします」

「はい!」

 

アウラは嬉しいのか、少女らしい活発な印象を受けるような笑顔を浮かべる。

俺は、話が済んだらすぐに踵を返す。

 

急がなければそろそろ来てしまう。

 

「じゃあモモンガさん、セバスは返しておきます。あと、用があったら、俺の自室に来てください」

「あっ、はいわかりました、てあれ?パルパルさんこれから階層守護者がくるんじゃ?」

「じゃあ任せました!何かあったら連絡します!!」

「あっ!?ちょ!?まっ!?」

 

最後まで聞くことなく、俺は無事転移した。

 

―――

 

「ってください……てもう行っちゃったか」

 

モモンガは一人、友人が逃げたことにため息を出す。

あそこで自分が提案しなかったなら、あの人は逃げずに付き合ってくれたのだろう。そう思うと、自分の口と変なところで回る頭が恨めしく思う。

だがまあ、後でやることが今日やることになっただけだ。

それに、今自分までこの場所を離れたら、それこそ変に心配をさせてしまうかもしれない。

 

骸骨は一人そうあきらめをつけて、きらきらとした目でさっきの戦闘について話し合っている姉弟を見る。

 

「やっぱり、ここは現実なのかなぁ」

 

モモンガは聞こえない程度の声が漏れる。

NPCに思考ルーチンを入れ、齟齬の出ない会話をさせるようなプログラムを作る。

いくら本職のプログラマーであるヘロヘロさんにも、そんなことは不可能だろう。

 

これは紛れもない現実だ。

 

もうそれは間違いない。

 

そしてそうなると、また問題が出てくる。

――元の世界への帰還だ。

 

見たところ、資源を掘りつくされ、荒れ果てた現代よりはよっぽどいい環境に見えるし、この二人やパルパルさんの召喚MOB見てる限り、謀反の心配はほぼないだろう。それに飲食無用のマジックアイテムもあるから、あり得ない話だが、このギルドを捨てて気ままに二人旅をすることだってできる。

そんな最高の環境に今自分たちはいる。

 

普通なら、このままがいいと思うだろう。

 

だが、そこに一つだけ問題が生まれる。

 

自分たちの今の体だ。

 

正確には今の自分の種族だ。

自分は死の支配者(オーバーロード)でパルパルさんは異形の支配者(アンノウン・テイマー)――そう、二人とも人間ではなく、それどころか大きくかけ離れた異形種だ。

 

普通に考えて、こんなわけのわからない体など捨てて、人の体に戻りたい。

 

おそらくそう思うだろう。

 

最もモモンガは思ってないのだが。

 

モモンガ、いや鈴木悟という小卒のサラリーマンには帰りたい。そう思わせてくれるだけの人物なんて現実にはいない。むしろ、仲間で作り上げたこのナザリックにいられるのであれば、その方がいい。そう思っている。

女々しい話だが、ここにいた方が思い出に浸れて――仲間を思い出せていい。だからここにいたい。それが鈴木悟の考えだ。

 

だがそれは、鈴木悟の考えであってパルパルの考えはない。

 

自分のような変わり者でない限り、普通なら帰りたいと思うだろう。

 

それはどう考えても正しいことで、むしろ自分の方がおかしい考えなのはわかっている。わかってはいるのだ。

 

だが、理解はしていても納得はできない。

 

どうしてここを捨てられる!?

 

あんなに二人で頑張ったのに何で!?

 

――俺と一緒で捨てられないから残ったんじゃないのか!?

 

何回考えても頭の中にはそんな言葉ばかりが出てくるし、そのたびに感情が強制的に沈静化させられる。

なんでと思う感情は、どんなに鎮静化しようと湧き上がってくる。

 

こんな時ばかりは、妥協出来てもあまり好きではないこの体に感謝ができた。

この調子で際限なくテンションが下がって行ってたら、次からパルパルさんにどんな顔で話しかけたらいいかわからなくなる。

 

少し頭を振り、感情の整理を無理やりつける。

 

とりあえずこれは保留だ。

今は目の前のことを考えていこう。

 

そんな先の話、今一人で考えたところで無駄でしかない。

 

だからこの話は、あとで考えよう。

 

願わくば、掛け替えのない親友と共に。


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