骸骨と得体の知れない何か   作:クリマタクト

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第2話

「どうかなさいましたか?」

 

兵士はこちらを向き、跪きながら声をかけてくる。

放心しているモモンガさんの代わりに、俺がなんとか取り繕いながら話す。

 

「いや、少し違和感を感じただけだから、問題ないですよ」

「違和感ですか?まさか、おニ方の身になにか!?」

 

兵士が顔を上げながらそう叫ぶと、玉座の間の重圧が一気に上がった。

今階段の下で跪いてるNPCたちの顔が上がったからだ。

 

何回コンソールを出そうと思っても出てこないし、強制ログアウトもされない?ユグドラシル2でも始まったのか?

いや、今はそれどころじゃないな、とりあえず、いまは波風立たないようにして、円卓に行くのが得策だろう。

そう思っていたら、隣で座っていたモモンガさんが話し始める。

 

「いや、いや、私たちには何も問題はない」

 

モモンガさんのいつもとは違う、魔王のような声で、兵士に問題はないと告げる。

すると、玉座の間の重圧が下がった。

 

「だが、そうだな……セバス」

「はっ、御身の前に」

 

執事服を着たナイスミドルが一歩前に出てきて、跪く。

 

「周囲の状況を、そうだな……パルパルさんの兵士を連れていけ」

「……パルパル様の兵士をお借りしてもよろしいのでしょうか?」

 

セバスは少し困惑したような表情で、こちらのことを見てくる。

いや、それは俺のしたい顔だ。

 

「ええ、まだ出せるのでいいですよ」

「だ、そうだ。問題ないな?」

「はっ、差し出がましい質問をしてしまい、申し訳ございません」

「良い、周囲に生物がいた場合、襲ってこない場合は交渉をして、襲ってきた場合は兵士にその場を任せ、全力で撤退しろ。行け」

 

モモンガさんがそう命じると、兵士とともに一礼をした後、ドアから出て行った。

 

「私はこれから、パルパルさんと円卓の間で確認したいことがある。お前たちはガルガンチュアが起動するか実験をして来い」

 

眼窩の中の赤い光を揺らしながら、有無を言わさないような声で言い切る。

だが、横にいたアルべドが、モモンガと俺両方から見やすい位置まで歩き跪く。

 

「お待ちください、モモンガ様、パルパル様」

「なんだ、アルべド?」

「どうか供をお付けください、お二方だけで行かせるなど、我々しもべの恥です」

 

頭を下げながら、懇願をするアルべド。

周りを見渡しても、みんながそれを同意するように、こちらのことを見ていた。

いや、見ていたというより、思っているが正しいのだろう。

実際、全員さっき上げていた顔をすでに伏せている。

 

俺そんなに空気読めるやつだったっけか?

 

もしや、これはゲーム内に閉じ込められたとかではなく本当にこの体になったのではないだろうか?

確証はないが、確か俺のとっている種族の常時発動技術(パッシブ・スキル)にそんな感じのがあったはずだし……。

なかなかにゲーム脳な発想ではあるが、それでもそれが正しいように思えてくる。

 

「悪いが、今はすぐに確認したいことがあって、供を連れる余裕はない。だが、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあるから、お前たちの心配するようなことにはならない。だがどうしてもというなら、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を部屋の前で待機させておけ、良いというまで入れるなよ。――パルパルさん、行きましょう」

「え、ええ」

 

行き方はわからないが、とりあえず念じてみればいけるだろう。

そう思い、念じたらちゃんと円卓の間に飛べた。

 

―――

 

「ちゃんとつきましたね、パルパルさん」

「ええ、少しひやひやしましたよ」

「ははは、それは同じです。とりあえず座りましょう。その体で立ってるのも面倒でしょう」

「これが本来の体と認識でもしてるのか、別に面倒感はわきませんよ」

 

そういいながら、二人少し離れたところに座る。

 

「え~、ほんとですか?そんなタコみたいな形してるのに?」

「これはタコじゃないですー、異形の使役者(アンノウン・テイマー)ですー」

 

そう、俺の今の見た目はタコとイカを足して2で割ったようなものが8本あるうちの二本の触手を使って歩いているようなものだ。のだ。

異形の使役者(アンノウン・テイマー)、神羅万象すべてのものを生み出す恐るべき異形の者。それがユグドラシルでのフレーバーテキストである。

使役、召喚系に特化している癖のある種族の一つで、召喚したモンスターを並べていると、周りからは「どうあがいても、魔王と配下」なんてよくからかわれていたものだ。

 

「いや、見た目に変わりはないじゃないですか」

「ふんだ、そんなこと言ったらモモンガさんだって、ただの骨じゃないですか」

「あっ、言いましたね。パルパルさん。タコのくせに」

「なんだとぉ!」

「お、おこですか」

「ええ、私にとっての禁句をよくもぉー、てあれ?」

 

何かイタズラ系アイテムでも、使ってやろうかと思っていると、さっきまでのテンションが燃えつきたかのように消える。

賢者モードに入った時のような感覚に少し混乱をする。

 

「ああ、パルパルさんもやっぱり発動しましたか。精神作用無効」

「え、これスキルのせいなんですか?」

「今のところ、そう断定するほかないですね。――状況を一旦整理しましょうか」

 

モモンガは、少し居住まいを正すように、身じろぎをした後話しだす。

 

「まず前提として、ここはおそらく異世界です。そしてNPCは生きています」

「やっぱりそうですよね」

「はい、あそこまで生き生きとしてればそうとしか思えませんし、この体であそこまでリアルな触感、現代の技術をもってしても難しいですよ」

 

やはりそうだろう。俺も今八本の足の感覚がもろあるし、兵士との繋がりのようなものが、意識するとわかる。

これはお互いに予想しているように、異世界に来たことは間違いないだろう。

 

「そしてここまで確認できたら、後心配なのは周囲の環境です」

「ですねぇ、セバスから何かあるまで報告待ちですね」

「はい、ここが昔の小説のようなゲーム内に転移する感じだと、周囲の把握ができる分安心できますが、それが違う場合、少し厄介なことになりますね」

「レベル100が大量発生とかはあったら困りますもんね。ところでNPCについて一ついいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「今のところ、従順な感じですが、襲ってくるってことはあると思いますか?」

 

そう、一番心配してることはこれだ。

たっち・みーさんやウルベルトさんと言ったガチ勢がいない今、ナザリックで襲われることになったら、無傷で逃げることは難しいし、ワールドアイテムなんか使われたら下手したら死んでしまう。

生き返る保証がない今、死ぬのは絶対避けたい。

モモンガさんも同じようなことを考えていたようで、先ほどよりも、少し真剣な声色になっていた。

 

「ええ、私もそれが一番不安です。ですので、この後まず逃げれるかどうか試すために、魔法とスキルの使用実験をしてみたいと思っています。パルパルさんも一緒にしましょう?」

「そうですね。では何処で実験をしますか?」

 

実験をするにしても、この円卓でやるには少し狭いし、攻撃系魔法は使えない。

 

円形劇場(アンフイテアトルム)でします。あそこなら開けてるので奇襲を受けにくいですので、でも何かあった場合は指輪の力で宝物殿に逃げ込みますよ」

「あそこなら指輪がないと入れないから、逃げ込むのに適任でしょう。でもとりあえず《メッセージ/伝言》くらい、今しちゃいません?」

「それもそうですね。《メッセージ/伝言》」

『聞こえますか?パルパルさん』

『ちくわ大明神』

「何言ってるのですか!?」

「いや、面白そうだなって」

 

とりあえず、《メッセージ/伝言》が使えるのならスキルや魔法も全部おそらく使えると思うが、もしもの為にも、これ以上の実験はやはりあっちでやった方がいいだろう。

 

「じゃあ、問題なさそうですし、行きましょうモモンガさん」

「そうですね」




パルパルさんの歩き方は、でっかいイカタコもどきが二本の足を他のよりも長く突き出して足に見立てた感じで、ねっちょねっちょ歩きます。
そんなの迫ってきたらSANチェック物ですわ

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