貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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銅チケ十枚から同時に金三人でるという奇跡を見ました。
なお、好みの子は出なかった模様。
なぜヘナちゃん狙ってる時にその奇跡が出なかった!!



短編連作 追憶編その6

『金の亡者』

 

 

 その日、プロテアはいつものように団長のところに書類を持って行く最中だった。

 チューリップ団長のオフィスから罵声が聞こえたのだ。

 

「むううぅぅぅ!!!」

「アカシア、落ち着くんだ」

 乱雑にドアを開け放ったと思わしき音の後に、端正な顔立ちを怒りで歪ませ肩を張らせて歩いているのは、誰であろう輸送部隊アカシア隊隊長のアカシアその人だった。

 そして彼女をなだめながら追従しているのは副隊長のハリエンジュである。

 

 そんな二人を横目で見つつ、彼女はノックした後に団長のオフィスに入室した。

 

「こんにちは、団長さん。

 アカシアさん達と何かあったんですか? すごい怒ってたみたいですけど」

 挨拶もそこそこ、プロテアは先ほどの光景について尋ねてみた。

 

「ああ、今度の輸送計画からアカシア隊を外そうと思ってさ。

 そう言ったら怒って帰っちゃった」

「とてもそんな単純な話とは思えないんですけど」

 言うまでも無いことだが、アカシア隊は輸送任務をさせたら最も信頼のおける部隊である。

 それをわざわざ外すと言うのだから、彼にも理由があるのではないかと彼女も考えた。

 

「いやぁ実はね、難民の村への輸送任務をアカシア隊に一任していたんだけれど。

 貧困に喘ぐ難民に送るには物資の量が少なすぎるんじゃないかって、いちゃもんを付けられたんですよ」

「いちゃもんですか」

 プロテアは彼の物言いに思わず苦笑した。

 

「俺はちゃんと説明したわけですよ。

 彼らにはちゃんと人間の尊厳を失わない程度の最低限の物資を送っているって。

 そしたらあのお人好しの隊長さんは、そんなのは支援じゃなくて飼い殺しだって言うんです。

 失礼な話だと思いません? 俺はペットにはお腹いっぱいご飯を食べさせてやってるって言うのに」

「そう言う話じゃないと思うんですけど」

 本当に心外そうに言う団長に小さく笑いながらプロテアは続きを促す。

 

「だから俺は分かりやすく言ってあげたんですよ。

 犬は一度良い食事をすると、それより質が下がった食事を食べなくなる。

 それは人間も同じだからあんまり贅沢をさせちゃいけないよって」

「すごいですね、その場に居たら私も怒りそうな物言いです」

「ごほん!! 俺だって別に彼らに貧しい生活を強いたいわけじゃないんですよ?

 お祝いの日ぐらいは美味しい物を食べたって良いと思いますし。

 だけど不必要に彼らの生活に手を貸す必要は無いわけですよ。

 より良い生活がしたいのなら自ら自立して外貨を稼げばいい。それをできるようにするのが本当の支援ってものです。

 それとも一生彼らの面倒をみるつもりなのか? 他の全ての難民たちにも贔屓せず同じように接することが出来るのか?」

 団長の話は政治にもつながる話だった。

 

「だから彼らを私的に支援したいのなら、勝手に物資を送るのではなくこちらに資金を援助してくださいって話したんです。

 支援物資を増やしたいなら正々堂々と申請を出して、認可を受けてあなた達が運んでくださいって。

 そして仕事そのものに私情を挟まないでほしい、とね。

 それが出来ないのなら、アカシア隊は難民村への輸送計画から外れて貰うことになります、と」

 当然ながら、ここの騎士団とアカシア隊は全く別の組織だ。

 たとえアカシアが直接出向いて来ようと、彼女が支援物資を増やす権限など有るわけも無いし、団長が取り合う義理も無い。

 彼は輸送屋として仕事に私情を持ってこちらの仕事に口を挟むようなら、仕事から外れて貰うと真っ当なことを言ったにすぎない。

 どのような感情を抱こうとも、所詮両者は公僕に過ぎないのだから。

 

 しかしながらそれは、格式ばったことが嫌いなアカシアには相当神経を逆撫でされたことだったろう。

 

「それで、あの罵声ですか」

 事務的に徹しようとしている彼の様子を思い浮かべて、プロテアは笑っている。

 

 ――――団長さんのバカ、金の亡者!! もう知らない!!

 

 まるで子供の悪口である。

 まあアカシアが誰かを口汚く罵る姿など想像できないが。

 

「それで、本当にアカシア隊を外すつもりですか?」

「まさか。そのうち向こうの団長が何かしら反応が有るでしょ。

 彼は近い将来にうちの騎士団の規模拡大する際に必要な人材だから、こんなくだらない言い争いで契約を反故するわけにはいかないし」

 実際には言い争いにすらなっていないが、アカシアを言い負かせたのを彼はそれなりに罪悪感を抱いているようだった。

 

「この騎士団の人員も増えてきましたからね。

 規模が大きくなれば、もっと色々な事が出来るはずですし」

「まあ組織が拡大される事が必ずしも良い事とは言えないですけど」

 将来の展望に希望を見出しているプロテアとは真逆に、団長は少しばかり不安げだった。

 

 そんな時だった。

 室内に飾ってあった掛け軸が退けられ、奥の部屋から団長の『番犬』が現れたのは。

 

「ふーん、結果が出たんだ」

 彼女は書類を団長に渡すと、そのまま掛け軸の奥へと消えて行った。

 

「なんですか、それは?」

 しかしプロテアが尋ねるより早く、彼は立ち上がる。

 

「まあ、規模の拡大の弊害って奴ですね」

 そう言った団長の表情は、苦々しかった。

 そして彼はオフィスを出ると、足取り重く真っ直ぐ目的地に向かう。

 

 気になったプロテアが付いて行くと、彼の目的地は事務室だった。

 中には多くの女性たちが事務仕事に勤しんでいた。

 

 だが、チューリップ団長の登場で室内は緊張に包まれた。

 ここの経理のトップである彼が直接出向いてくるのは、大抵の場合書類の不備の指摘だからだ。

 しかし、今回はそれよりずっと悪い事態だった。

 

 

「この中に、騎士団の資金を横領した人間が居ることが内部監査により発覚した」

 そう告げられて、この場に動揺しない人間は居なかった。

 勿論プロテアもそうだったが、彼女は自分が付いてきていることにで、周りはこの事がより深刻に考えられているとは思ってもいないようだった。

 

「この書類にはそれが誰かで、その家族構成や交友関係、一体どれだけの金額を横領し、どのような用途で使用されたか、事細かに記載されている。

 だから敢えて俺はこの場で慈悲を示す。

 心当たりが有る者はこれより明日の終業時刻までに俺の事務室に出頭し、横領したカネを返金することを約束するなら告訴せずに内々に処理することをここに告げる」

 とは言え、泥棒に盗んだ物を返せと言って、はいそうですか、と返す泥棒は居ない。

 相手が困窮しているのなら尚更だ。

 

「そしてもし名乗り出なかった場合、必ず罪を清算してもらう。

 勿論、その後に改心したとしても、真っ当な働き口があると思わないことだ。

 犯罪者の家族として親類も路頭に迷うことになるだろうし、周囲から一生蔑まされながら生きていくことになるだろうね」

 事務机の前に座る一人の少女が青ざめた表情になっているのを敢えて無視しながら、団長は淡々とそう告げる。

 

「俺は、仲間を裏切る奴を絶対に許さないし、見て見ぬふりもしない。

 逃げようとしても草の根分けても探し出すし、このリリィウッドから出られると思わないことだ。以上だ」

 通夜のように静かになった事務室を出て、団長はため息を吐いた。

 

「組織は大きくなると必ず不正が出てくる。

 それを許すことは組織の信用にも関わり、組織の寿命を減らします」

「悲しい事ですよね」

 廊下側から見ていたプロテアは、団長の持っていた資料を目に通しながらそう答えた。

 

「こうして組織を運営する立場になると、悔しいですが元老院がいかに優れた組織か思い知らされますよ」

 自室に戻る道中、団長は現役の議員にそんなことをぼやいた。

 

「血筋による身分のハッキリした優秀な人材を安定供給でき、それぞれ何千年単位で蓄積されたノウハウも持っている。

 そんな多くの有識者と話し合って最善を模索し、この国を何千年も維持し続けてきた。

 実際、政治的手腕に関しては、冷酷ですが非の打ちどころが無い」

 元老院を否定的な彼にそのように言われると、プロテアの胸は誇らしさでいっぱいになる。

 悪いところも多く目立つが、それでも素晴らしいところが消えて無くなるわけではない。

 

「先日の慰霊碑の件もそうです。

 国家に従属する花騎士と桃源郷の面々を同じ扱いに出来るはずもない」

 団長会議で議題に上がった件を思いだし、彼は表情を曇らせる。

 結局あれも募金を募って桃源郷近くに新たな慰霊碑を設置することで話はまとまった。

 

「企業……ギルドの寿命ってどれぐらいだか分かりますか、プロテアさん」

「100年くらいですか?」

「およそ30年と言われています。それ以上は継続的成長が難しくなる。

 だからこそ、何千年と続く組織というのが恐ろしい。

 プロテアさん。だからどうか、元老院を中から変えるなんて言わないでください。

 あの組織は蛇ですよ、脱皮を繰り返し、永遠に生きる蛇のようで。

 誰かが何かを変えたところで、皮だけになって終わりでしょうから」

 彼の懇願するような言葉に、プロテアは何も言えなくなっていた。

 

 

 

「それで、横領の件はどうなったんですか?」

「無事解決したよ」

 後日、昼食の間際にプロテアは先日の顛末を尋ねた。

 

「あの後、昼休みにやって来て、ちゃんと謝ってくれたよ。

 俺としては見せしめとしてつるし上げても良かったんだけれど」

 そうならなくて良かった、と団長の表情は雄弁に語っていた。

 

「あれで十分だったと思いますよ。

 自分の姿勢を見せることは大事ですから」

「……俺は威厳が有りませんからね。

 ああやって舐められないようにするしかないんですよ」

 団長は若干気落ちした様子でそう言った。

 

「それにしても、横領したお金の使い道が実家への仕送りですか」

 プロテアは彼を気を使って話題を変えた。

 

「ええ、祖国で騎士学校を卒業するも花騎士になれず、うちの騎士団に来るも才能は花開かず。

 実家には騎士団に入って害虫と戦っていると嘘を吐いて」

「そして、妹が病気になったからお金が必要になって、仕方なく横領に手を染めた、と」

「それでお金も後からこっそり返すつもりだった、と」

 ふん、と馬鹿馬鹿しいとばかりに団長は鼻を鳴らした。

 経理として雇った人間が、後からこっそりお金を返すなんて都合の良い事を出来るわけないと分かっているだろうに。

 

「自分が花騎士だったならすぐにでも治療費を出せたのに、か」

 ここの騎士団は騎士学校の卒業生なら多くの人材を受け入れているが、それは決して花騎士としてではない。

 

 花騎士にも分類はあるが、彼女らに戦闘に秀でていない者がいる所からわかるように、花騎士の第一条件は戦闘能力ではない。

 花騎士が花騎士と呼ばれる所以は、どれだけ世界花から加護を引き出せるかなのだから。

 

 それは元々の才能であったり、鍛錬や継承などで後天的に得たりと様々だが、人間が永遠に成長できないように、それらには伸びしろが存在する。

 それによって花騎士として適格か不適格か判断することができる。

 彼女は才能は無いわけではなかったが、引き出せる魔力が少なく不適格だと判断されていた。

 

「どんなにその人間が正しくても、その行動が立派でも、その根底に嘘が存在するのならそれら全てを台無しにしてしまいます。

 俺は彼女を連れて彼女に実家に行き、親族に嘘を吐いていたことを謝らせました」

「そこまでしたんですか」

「ええ、彼女も両親に大分こってりと絞られたようで、後から泣きながら親御さんと一緒にもう一度謝ってくれましたよ。

 お蔭で俺としてもだいぶ溜飲を下げられました」

 まさに一仕事終えたという表情をしている団長に、プロテアは可笑しそうにしながらも疑問をぶつけた。

 

「それにしても団長さんは騎士団の経理と監査を担ってますけど、それってかなり不健全なことでは?」

 プロテアの疑問も尤もだった。

 なにせ、この男は騎士団のお金をやろうと思えば幾らでも好き勝手に出来るということなのだから。

 彼がそうするかどうかではなく、出来てしまうという状況が問題なのだ。

 実際彼は多くの予算を個人の裁量で開発費用に回している。

 

「ああ、それは俺としても耳が痛い案件でして。

 安心してどちらかを任せられるって人材が居ないっていうのが最大の問題でして」

「なるほど、規模の拡大を視野に入れている理由がそれですか」

 彼女の政治家らしい指摘に恐縮している団長に、プロテアは頷いて見せた。

 

「とは言え、騎士団の中核をなす仕事を皆の信頼で任されているのですから、団長さんは凄いですよ。

 お金の亡者なんて言われていても、それだけ仕事に対して実直だってことですから」

 と、プロテアは掛け値なしに本音を言ったのだが。

 

「いやぁ、そんなことはないですよ。

 それに金の亡者だなんて、見当違いですし。

 俺は大嫌いですよ、お金なんて。この世で最も」

 そこまで言ってから、彼は露骨に表情を歪めた。

 まるで苦々しい思い出を想起したかのようだった。

 

「この話は止めましょう。食事が不味くなる」

「いえ、続きを聞かせてください。団長さんがお金が嫌いな理由を」

 プロテアは躊躇わなかった。

 それがお互いのことを知るために必要だと思ったのだから。

 

「……これは、俺の友人の話ですが」

 そして、彼はプロテアの意志に促され、口を開いて話し出した。

 世にも浅ましく愚かな、嘘に塗れた馬鹿馬鹿しい話を。

 

 

 

 次回、『嘘吐きの1000ゴールド』に続く

 

 

 

 

『貴族の戯れ 後編』

 

 

「今日は酷い目にあったね……」

「全くですぱ……」

 本日の仕事を終えて帰ってきたワルスパ二人は、主に精神的な疲労でぐったりしながら自分たちに与えられた宿舎の二人部屋へと帰っていた。

 

 色んな意味で酷い目に遭った二人だったが、仮にも予告状を送った相手から手を引くなど怪盗の名折れである。

 次なる一手を打つべく作戦会議を始めた時だった。

 

 こんこん、と窓を叩く音が聞こえたのだ。

 二人の部屋は二階である。鳥でも当たったのかと、見て見ると案の定一匹のコウモリが夕焼け空に飛び去っていくのが見えた。

 

「あれ、ワルナスビ様。

 なにやら手紙のようなものがあるですぱ」

「えッ、なになにラークちゃん」

 ラークスパーが窓を開けて手紙らしき紙片を手に取ると、彼女が持ってくるのを待つことなくワルナスビが彼女に近寄ってそこに書かれていた文章を二人で読む。

 

 

『今夜、お前たちの探し物を手に商業区の広場にて待つ。

 来なければ、今宵の十二時に生贄にて我が喉を潤す。 呼び起こされし夜の王より』

 

 

「むむむ!! 悔しいけど格好いいですぱ」

「そんなこと言ってる場合じゃないよラークちゃん!!」

 そんな気取った文章だったが、二人にとっては冗談ではすまなかった。

 

「確かに、我ら相手にこんな手紙を送りつけてくるなんて、明らかに挑発ですぱ!!」

「ラークちゃん下の行を読めてる……?」

「も、勿論ですぱワルナスビ様!!」

 こんな文章を意趣返しのように送り返され、怪盗当人より興奮していたラークスパーだったが、彼女の視線を受けて慌てて頷いた。

 そう、来ないと誰かを襲うとも取れる内容が掛かれているからか、ワルナスビは怪盗ではなく花騎士モードだった。

 

「とりあえず、私達でやっつけて封印した後に団長さんの屋敷に叩き返してくれよう!!」

「了解ですぱ、ワルナスビ様!!」

 そんなこんなで、今夜の予定が決定した二人だった。

 

 

 

 ………

 …………

 ……………

 

 

 日付が変わる夜の十二時直前に、二人は商業区の主要な広場に来ていた。

 昼間は人でにぎわい活発な光景が見れるこの場所も、真夜中は不気味な静けさに満ちていた。

 そして、魔法で光る街灯の頼りない灯りが広場の中を包んでいる。

 

 二人が広場にやってくるのと同時に、無数のコウモリ逆巻く風のように広場の中心に集まり、ヒト型を形成する。

 そしてコウモリたちが一斉に飛び立つと、そこには一人の男が背を見せ立っていた。

 

「団長さん!!」

 先日は突然のことでその姿はよく見えなかったが、よくよく見えてみるとその姿はあの屋敷の主そのものだった。

 

「団長? 誰のことだ。我はこの男の意識に封じられし、夜の王である!!」

 ばさり、とマントを翻し、キンギョソウ団長と思しき男はそう名乗った。

 

「貴様らには感謝せねばなるまい。

 お前たちが封印を解いてくれたお蔭で我が力が復活し、昼間は出れぬこの我の意識を、この男が地下の鎖に繋ぐ前に表に出ることができたのだから」

 わざわざ彼はそんな設定を二人に語りながら、大仰な仕草を交える。

 

「くっくっく、しかしのこのことやってくるとは愚かな連中だ。

 お前たちが欲しているのはこの我が力が封じられし宝玉だろう。

 だが、これをお前たちが手にすることは出来ぬ。

 なぜなら、お前たちはここで我が糧となるのだから!!」

 彼がわざとらしく己の弱点っぽいものを見せびらかしながら、高笑いをしながら魔法を行使する。

 

 すると、闇夜の合間から数十匹のコウモリが呼び寄せられ、二人に襲い掛かった!!

 

「ええいッ!!」

「とりゃあぁですぱ!!」

 が、しかし、特に害虫とかではない普通のコウモリが何十匹束になろうと花騎士二人に相手になるはずもない。

 怪盗モードではなく、きっちり害虫討伐の時のように気を引き締めて武器まで持ってきていた二人にはただのコウモリなど鎧袖一触だった。

 

「あああああああ!!!」

 その様子に、団長扮する吸血鬼が悲鳴を上げた。

 

「お、お前たち、大丈夫か!!」

 地面にぱたりと落ちて気絶しているコウモリたちを抱き寄せ、団長は涙目になっていた。

 

「貴様らには血も涙も無いのか!!

 我が毎日毎日可愛がっているこの子たちにこんな惨い真似を!!」

 彼らをけしかけた当人とは思えない様子で取り乱しながら、そんなことをいうファッション吸血鬼だった。

 

「え、でも、血とか吸われたくないし……」

「この子たちは血を吸う種類ではない!!」

「あ、そうなんだ……」

 じゃあなんでけしかけたんだろう、という二人の疑問は、物凄く悲しんでいる団長を前に呑みこんでいた。

 

「こうなったら貴様らには我が家に伝わりし、暗黒黒魔術の秘奥義にて屠ってくれる!!」

「暗黒黒魔術ですぱ!!」

 普通にダサい名称だったが、約一名心惹かれているのを見て、団長扮する吸血鬼は優越感に満ちた笑みを向ける。

 

「そう、これは代々この男の家系が継いできた究極の召喚魔法!!

 その名も、異世界召喚だ!!」

「えッ、本当?」

「くくく、一説にはかの勇者も異世界より呼び寄せられた存在であるともされる。

 我が家はそれを研究する代々魔法使いの一族なのだ!!

 さあ、目に物を見せてやろう!!」

 そう言って団長は詠唱を始めた。

 

 身構える二人だったが、十秒くらい経っても何も起こらない。

 未だ彼は凄い集中力で詠唱を続けている。

 魔力の高まりは感じられるが、その呪文が完成されるのは何時間も先の気がした。

 

 二人は顔を見合わせると、おもむろに彼に近づいた。

 呪文の詠唱に集中しているのかそれに気付いた様子はない。

 そのまま二人はそれぞれ彼の肩を掴むと、押したり引いたりを繰り返して揺すり始めた。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!

 くッ、止めないか!! 魔法の発動に集中できない!!」

 始めからやり直しではないか、とぶつくさ言いながら距離を取って仕切り直そうとする団長。

 しかし。

 

「あのー」

 横合いからそんな声を掛けられ、三人は声の方を向く。

 そこには、何やら困惑気味の衛兵がいた。

 

「この辺りで不審者が魔法を使ってるって通報があったんですが」

 花騎士二人は、無言で団長を指差した。

 

「ああやっぱり、ちょっと詰所まで来てもらえません?」

「ま、待て、我のどこが不審者なのだ!!」

「どこがどう見ても不審者でしょう!!」

 ぐうの音も出ない反論だった。

 怪しげな吸血鬼ルックの不審者は、敢え無く御用と相成った。

 

「くッ、貴様ら覚えておけ!!

 我が眷属を呼んでおいてくれると嬉しいがな!!」

 衛兵にしょっ引かれる吸血鬼というシュールな光景がそこにはあった。

 

「帰ろうか」

「そうですぱね」

 かくして、平和な夜を乱す邪悪な存在が跋扈する前に食い止めた花騎士たちは帰還する。

 二人が目的の物を彼から奪うのを忘れていたのに気付くのは、部屋に戻ってからだった。

 

 しかし、安心するのはまだまだ早いぞ、怪盗ナイトシェード!!

 両者の対決は、まだまだ始まったばかりなのだから!!

 

 

 続く

 

 

 

 

 

 

 

 





チューリップ団長「アカシアさんは好みだから嫌われたらやだなぁ」
ちなみに彼の話の続きは半分くらい実体験な予定なので、書くのが気が重いです。
でも彼と言う人物を描写するには不可欠なのです。でもやっぱり気が重い。思い出すのも胸糞悪い話なので。

次辺りはハナモモ団長を進めたいですね。
追憶編は各々の団長たちを掘り下げるには便利です。
それではまた、次回!!

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