貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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今回もリンゴちゃん出ません、ごめんね。
昨日、何とか国家防衛戦のストーリー進めて一言。

これ、自分のリンゴちゃんの変態度足りなくね?
これからは彼女の変態度マシマシで頑張ろうと思います。




チューリップ姉妹の診断記録

 

「いやあ、今日はみんなお疲れ様でした」

 コミフェスが終了し、片づけが終わって診療所に戻ってくると、彼は戦利品を置いて居間へと戻ってきました。

 

「全く、害虫が本会場まで来るなんて思わなかったわ」

「私はスリリングでちょっと楽しかったわ。

 害虫が出てくるのもお祭りって感じじゃない?」

 黄姉さんと赤姉さんは食卓に着くと、そんなことを言った。

 私は仮設診療所で忙しかったからそれどころじゃなかったですけど。

 

「姉さんたち、今日はパスタでいいよね?

 味付けは何が良い?」

 厨房でフライパンを手に取り、鍋に火を沸かし始めた彼が夕食の要望を尋ねてきた。

 

「あ、私は和風きのこパスタがいいです」

「カルボナーラ、汁気が多めで」

 私の要望といつの間に食卓に座っていた紫姉さんの声が重なってしまった。

 彼は、はいはい、と苦笑して頷いた。

 

「私は任せる、今日は疲れたわ」

「私はトマトソースがいいわ」

「オッケー、すぐできるから待ってて」

 上の姉さんたちの要望を聞いて、材料を取り出し、彼は調理を開始した。

 こうして彼の後ろ姿を見ながら料理ができるのを待つのは見慣れた光景になってしまった。

 

 

「はい、出来上がったよ」

 程なくして、料理を終えた彼は流れるように配膳していく。

 

 彼も席について、頂きます、と私たちは口を揃えて食べ始めた。

 

「8点、全く駄目ね」

「紫姉ちゃん、それ百点中ってことだよね?

 姉ちゃんの求める味って未だ見当がつかないんだけれど」

「それでも初めの頃よりはずっとマシになったわ」

 そう言って紫姉さんは薄く微笑んだ。

 私は姉さんのようにカウンセラーじゃないけど、姉さんが彼を下手に褒めて向上心を失わせないようにしていることぐらいはわかった。

 それにしたって辛口すぎるとは思いますけど。

 

「白姉さんはどうかな、わざわざベルガモットバレーから高級醤油を取り寄せて作ったんだけど」

「ええと、ごめんなさい、違いが分からないわ」

「良いって、俺もわからないから」

 私にそこまで細かな味覚は無いので、残念ながら違いは分からなかった。

 だけど、彼の物言いに思わずクスリと笑ってしまった。

 

「私だけ作り置きのバジルソースって、これって手抜きよね?」

「黄姉さんにベーコンを多めに入れておいた俺の心配りはその一言で台無しになったね。

 って、ああ!! 赤姉さん、そんなに粉チーズ掛けたら風味が!!」

「悪いけど私、少し粉っぽい方が好きなの」

「冒涜だ……」

 がっくりと、彼はテーブルに手を付いた。

 赤姉さんに品を求める方が間違いだと思うの。

 

 

「我ながら、料理上手くなったなぁ」

 もしゃもしゃとスプーンでパスタを口に運び、彼はぼんやりとそう言った。

 

「こっちに来てもう三年か」

「ちょうど、あんな満月の日だったわねぇ」

 赤姉さんが窓の外から見れる満月を見上げて、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは、満月の夜にしか咲かないという幻の花から取れる花びらを黄姉さんが求め、私たち姉妹はそれに付き合わされていました。

 あっちこっちに連れまわされたので、場所は覚えていません。

 

「姉さん、本当に幻の花なんてあるの?」

 数時間も森の中を彷徨い続けたのだから、私にはこの言葉を言う権利が有ったはずです。

 

「有るのよ、そう簡単に見つかったら幻の花じゃないでしょ?」

 そして悪びれもせずに彼女は言うのです。

 その様子に最初は乗り気だった赤姉さんも溜息を吐きました。

 そろそろ赤姉さんも飽きて苦言を呈そうとした、その時、紫姉さんが口を開きました。

 

「おや、これは珍しい」

 紫姉さんの視線の先を追うと、私たちの目の前にキノコが環状になって生えていました。

 いわゆる、菌輪と言うものです。

 

 その中心に月明かりが差し込み、その幻想的な雰囲気に思わずため息が漏れました。

 

「これは縁起が良いわ、幻の花が近くにある証拠よ!!」

「菌輪の伝承に縁起が良いものは聞いたことがありませんが、これは……」

 意気込む黄姉さんを尻目に、紫姉さんはその中心へと向かっていく。

 

「赤姉さん、これって……」

「どうしたの? ……これは、踏み荒らされた跡、それも新しいわね」

 暗くて近づかなければわかりませんでしたが、二人が言うとおり踏み荒らされた跡でした。

 

「こんな時間に、こんな場所に人が居るっていうの?

 そんな馬鹿な奴、居るのかしら?」

 少なくともここに四人は居ますよ、姉さん。

 

 とは言え、それも当然の話です。

 害虫も出現する森の中に、人間が居ることなんて考えられませんから。

 

 私がそう思ったその時でした。

 

 ―――――悲鳴が聞こえたのは。

 

 

「姉さん」

「分かっているわ」

 普段いい加減な赤姉さんも、花騎士の顔になった。

 

 私たちは声の聞こえた方へと駆け出し、そして害虫に襲われている彼を見つけたのです。

 

 

「ば、化け物、化け物が……」

 害虫を一蹴し、彼を助け出した私たちですが、その時彼は酷く錯乱していました。

 

「落ち着いて、大丈夫ですよ。

 今手当てしますから」

 彼は必死に逃げた為か、体中に木の枝で出来た擦過傷などが見て取れました。

 私は彼に手早く治療を施し、周囲を警戒していた姉たちに言いました。

 

「この人を町まで送り届けましょう。

 どのみち、これ以上の探索は無理でしょうし」

「そうね、仕方がないか」

 遭難者が居たとあっては、流石に黄姉さんも食い下がるようなことは言いませんでした。

 

 こうして私たちは、彼を保護したのです。

 

 

 

 

 

 

 

 あの森から帰る道中、この人に色々な質問をしましたが、要領を得なかったので私にお鉢が回ってきましたわ。

 

 彼がどこの国の人間で、どこからどうやってあの害虫の住む森の奥に一人で来れたのか。

 最初は害虫に襲われた恐怖の余り、錯乱して記憶が混乱しているのかと思いました。

 

 しかし彼は己の置かれた状況を少しでも把握しようと積極的に質問をこちらに投げかけ、その内容は少なくとも貴族のように高度な教育を受けている印象を受けました。

 

 そうしてリリィウッドの街並みを見た時、私は彼が大病に掛かっているのを悟りました。

 その病名は、絶望。

 

 それは以前、前線で戦う花騎士が故郷が害虫に襲われ滅亡したという知らせを聞いた時に見た表情と似ていたのです。

 

 私は赤姉さんに要看護対象として彼の治療を申し出ました。

 赤姉さんは即座にそれを了承し、彼はうちの診療所に入院する事となったのです。

 

 

 私は彼の心の傷を癒すべく、毎日長時間話し相手となりました。

 当初、彼は完全に心を閉ざし、どうせ言っても信じない、答えたくない、と質問の回答を拒否していました。

 

 ですが、驚いたことに、彼は私たちの治療を医療行為と認識して検査などを受け入れたのです。

 巷で私たちの呼び名は言うまでもないでしょう。

 

 私たちの治療は魔女の呪術か何かと認識されており、姉たちの問題行動を差し引いても気味悪がられ、恐れられていました。

 私が彼を付きっ切りでカウンセリングできた理由の大半は、うちの診療所は閑古鳥が鳴いているからでしょうね。

 

 特に心療科は未だ一般的に認知度が非常に低い為、そもそも私が何を専門としているか患者が理解していない有様なのです。

 ところが、彼は私がカウンセリングをするというとばつが悪そうに首を逸らすのです。

 

 私は彼が高度な教育を受けた人間だと確信しました。

 

 

 根気強く、些細な話題から踏み入り、少しずつ彼の心に触れていく作業を数日も経った頃、彼は言いました。

 

「先生、俺の言うこと、本当に信じてくれますか?」

「あなたが私たちをあの呼び名で呼ばない以上、どんな荒唐無稽なことを話したとしても私だけは信じましょう」

 そうして、彼は語った。

 

 己の出自と、気が付くとあの場所に居たこと、害虫に襲われ一目散に逃げたこと、自分が全く知らない場所に来ているということを(せき)を切ったかのように話し始めました。

 話しながら感極まって涙を流し、言葉にならぬ感情を全て吐き出すまで私は彼の傍にいました。

 

 

 

 それから彼は自分の治療費を支払う為に、うちで住み込みで働くことになりました。

 私たちも無一文の患者から治療費を取るほど鬼ではありません。

 妹は断ろうとしましたが、私は赤姉さんに視線で治療継続を求め、彼女は軽く頷きました。

 

 このまま診療所の外に放り出してしまうのも、それはそれで残酷なことでしょう。

 彼に行く場所なんてないのですから。

 うちに人を雇う余裕なんてありませんが、アフターケアは重要なことです。

 

「何かできることはないですか?」

 と言う彼に、赤姉さんはとりあえず料理はできるかと尋ねると、自炊はしていました、と答えた。

 

 そうして任せたのは良いものの、どうやら彼の故郷と勝手がだいぶ違ったようで、初戦の結果は無残なものでした。

 彼はレシピ本を読むために、私に文字を教わることとなったのです。

 

 

 彼がうちで働くようになり一週間も経てば、うちがいかに患者が少ないか疑問に思うには十分な時間でしょう。

 彼は妹に家計簿を見せてほしいと言い出したのです。

 ある程度の単語を覚えた彼は、それを見て愕然としたようです。

 

「こ、これ、収入が殆ど無いんですけど……」

「えーと、うちは診療所の方が本業ですけど、副収入の方が主な収入源なんです」

「この特別利益ですか?

 こっちの相場は把握し切れてませんけど、これってかなりの額ですよね」

 彼と妹のそんな会話を、私はたまたま耳にしました。

 

「これって、どこから貰ってるんです?」

「国です。私たちは花騎士としても活動しているので、前線で医療に従事することもあるんです」

「あの害虫って化け物と戦うんですよね……。

 俺としては診療所の経営を安定させた方がずっと良いと思うんですけど」

「確かに経営も大事です。

 だけど、戦場で傷ついている人が居て、それを治療する人を求めているのも事実ですから」

 彼は妹にかける言葉が無かったのか、口を閉ざした。

 

 ただ、その日からうちの帳簿は彼が付けるようになった。

 

 

 

「姉ちゃん、聞いてくれよ」

 あくる日、暗い表情で彼が買い物から帰ってきた。

 

「何か言われたのですか」

「本当に姉ちゃんに敵わないな。

 今日ちょっとしたことがあって、ね」

 彼はいつの間にか私たち姉妹を姉と慕い、敬っていた。

 今は私の患者だから手は出させていないが、黄姉さんへの敬意がいつまで続くかは疑問だけれど。

 

 だからか、彼は私たちが魔女呼ばわりされていることを快く思っていないようだった。

 

 

「子供がさ、ちょっとしたはずみで転んで、階段から転げ落ちたんだ」

「その子は無事だったの?」

「一応、別のところで医者をしているらしい花騎士さんが偶然通りかかったんで診て貰ったら、命に別状はないってさ。

 だけど俺、気が動転しててさ、うちの診療所に運ぼうとしたんだ。

 そしたら親御さんが駆けつけてきて、それだけはやめてくれって言ったんだ。

 あそこに行ったら悪魔の生贄にされちまうってさ」

 さしずめ俺は姉さんたちに呼び出された悪魔か、と彼は力なく笑った。

 

「俺がうちに出入りしているのも近所じゃ噂になってるらしくてさ、その花騎士さんもここに近づくのはやめとけって。

 その人は良い人そうだったけど、勝手なこと言うなって思ったね。

 でも子供の親御さんはその花騎士さんも怖がってた」

 彼の表情には苦悩が浮かんでいた。

 

「こっちは科学が発展していないのに医療技術は体系化しているし、文明レベルの割にかなり高水準だ。

 なのになぜか市民にそれが浸透していない。

 衛生の概念はあるくせに、感染について殆ど解明されてない。

 こんなちぐはぐなことってあるのかよ」

「多少の傷なら治癒の魔法でどうにかなってしまうからかしら、ね」

「……そういや、魔法が発展した世界の考察のそういうのがあったな。

 魔法が発展した世界は生活水準は高くなるけど、科学と同じでそれの恩恵を受けた人たちは魔法を使いこなし、理解したことにならないって」

「不老長寿の秘薬と言って水銀を飲む、突拍子の無い民間療法がまかり通る田舎。

 それが医療なのよ。

 医療とはいかに発展しているかではなく、人々が受け入れてくれるかどうか。

 結局のところ、技術だけ先行しても意味は無いのかもね」

 それは私より妹や姉たちの方がよほど実感しているでしょうけど。

 

「だからって、何も知らないくせに姉さんたちを魔女呼ばわりなんて……」

「仕方がないわ。魔女が魔女と呼ばれて怒っても仕方ないもの」

「姉ちゃん!!」

「そもそも魔女とは医療従事者のこと。

 少なくとも私は何一つその異名に恥じるところなんてありませんよ」

「……」

 彼は何も言えずに口を閉ざした。

 

「人の心は移ろいゆくもの。

 それを待つしかできないのは歯痒いけれど、人々の心は常に変化していく。

 いつの日かその心が技術に追いつく日も来るのでしょう」

「だけどそれはずっと先だよ。

 俺の故郷でも、最新の治療を受けるのにいちいち許可を取ったり、少しでも説明されたことと違ったらすぐに医者を訴えたりする患者の家族もいる。

 本当にずっと、ずっと先だよ」

「それでも待つしか出来ないものなのよ」

 そう答えると、彼はやりきれないといった風に首を振った。

 

 

 そんな私たちに騎士団からの出動要請が来るのは間もなくのことでした。

 

 

 

 

 

 

 

「俺も連れってください」

 戦支度を終えて、私たち姉妹が診療所を出ようとすると、そいつはそう言ったわ。

 

「ダメよ」

 パープルチューリップは端的に、しかし有無を言わせぬ態度で彼の申し出を拒絶した。

 

「きっと後悔します。

 あなたの心は戦場での惨状に耐えられない」

「そ、そうですよ!!

 それに、花騎士でもないあなたを戦場に連れて行けるわけが!!」

 ホワイトチューリップも慌てて援護に回った。

 

 この二人がこいつを気に入っているのは何となく知っている。

 一番下の妹は仕事が減って助かった、と喜んでいるし、上の妹は実の姉のように慕われている。

 二人とも弟ができた気分なのだろう。

 特にホワイトチューリップは昔、弟か妹を欲しがっていたものね。

 

「黄姉さん、赤姉さん、二人も同じ意見ですか?」

 彼は妹たちが敵に回ると見てとると、私たちにそう言ってきた。

 

「私は反対よ、足手まといにお荷物を増やしてもしょうがないでしょ」

 極めて善意から私はそう言った。

 実際こいつが居たところで、出来ることなんて無いでしょうし。

 

「うーん、今夜私と同じベッドに寝てくれるなら良いわよ」

「姉さん……」

 妹たちは呆れたように姉さんを見た。

 姉さんの悪癖が出たのかと思ったらそうではないようだった。

 

「多分、そうしないと眠れないわよ」

「……わかってる、つもりです」

「そう。ま、男の子だものねぇ」

 姉さんは訳知り顔でうんうんと頷いた。

 

「私たちの言うことに全部従うこと、良いわね?」

「姉さん!!」

「仕方ないじゃない、彼をここにひとり残しておくわけにもいかないじゃないし」

 身寄りもなければ知り合いも居ないこいつをここに置いていけないというのは分かるけれど、それはちょっと弱い気がする。

 

「そうですよ、知り合ってひと月くらいの男に家の留守を任せるなんてどうかしてますよ!!」

「そうね、もしかしたらこっそり下着とか拝借していろいろアレしちゃうかもしれないわ」

「恩人にそんなことしませんよ!!」

 流石に姉のその物言いには彼も涙目だった。

 

 

「多くのことを経験して私好みになってくれれば御の字。

 男の子は折れて立ち上がって成長するものよ」

「雑用でも何でもしますから」

 もう既に雑用から何までやっているこいつがいうと有難味は無いわね。

 

「じゃあ、まだ未検証の薬があるんだけど、被験者になってくれる?」

「え?」

「何でもするって言ったわよね?

 じゃあ文句ないわよね?」

 私は嬉々として彼に迫った。

 彼は助けを求めるように周囲を見渡したが、誰もが反応を窺っていた。

 

「ね、姉さんたちが立ち会ってくれるなら……」

 彼はプルプルと震えながらそう口にした。

 

「じゃあ、そういうことだから」

 多数決は姉二人の強権により、こいつの同行は決まった。

 姉さんは早速荷物を彼に押し付けると、意気揚々と馬車乗り場へと向かっていった。

 

 二人も溜息を吐いてそれに続く。

 勿論、荷物を押し付けることを忘れない。

 

 私の荷物も押しつけると、ひっくり返って中の薬品が漏れ出そうなので、私の場合自分の荷物は自分で管理しなければならない。

 

 ちょっと損した気分だった。

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、何もできなかったのはそいつだけじゃなかった。

 

 現在私たちが所属している騎士団の団長はリリィウッド出身の頭の固いお貴族様。

 私たちは姉妹揃って何度か所属を変えていて、その評判からその団長は純粋に戦力としてだけ私たちを求めたわけ。

 

 団長は色々と理由をこねくり回していたが、要するに何か問題があったら責任を取りたくない、という話だった。

 所属が変わった理由? 前は姉さんの痴情の(もつ)れ、その前は私の薬が予想外の効果が出ちゃったからだったかしら?

 

 

「姉さん、どうするつもりなんです?」

「命令なら仕方がない、と言いたいところだけどこれじゃあねぇ」

 ホワイトチューリップの不安を受けて、姉さんは視線を横に向けた。

 

 赴任した砦の一室は怪我や病気で苦しむ花騎士が十人以上いた。

 団長は順次町へと送っていくって言っていたけど、この様子じゃその前に死人が出るわね。

 

「赤姉さん、姉さんたちは命令で治療ができないんですよね。

 だけどそれって、騎士団所属じゃない俺は関係ないはず」

「……医者じゃないあなたができることは限られているわよ」

 そう主張する彼に、姉さんは鋭い視線を向けて言った。

 

「赤姉さん、だったらなんでそんなこと命令する奴なんかに従うんです!!」

「なら、あなたはどうすればいいと言うのかしら?」

 はっきり言って、もう既に姉さんはどうするか決めていたと思う。

 だから、あえて彼に試すようなことを言ったのが少しだけ気に掛かった。

 姉さんはこいつのこと、期待しているのかな。

 

 

「『私が成功できたのは決して弁明をしたり、弁明を受け入れなかったことです。』

 俺の故郷で最も偉大な看護婦の言葉です。

 姉さんはこれからも、これまでも自分のしたいように、好きに生きればいい」

 彼はそう言い切った。

 妹たちはたきつけないでくれ、と言った顔をしていたが、姉さんはとても満足そうに頷いた。

 

「そうね、私たちの看護はこれまで、誰かの話を聞きいれたりしてしたことなんて無かったし、どうこう言おうとしたことも無かったわね。

 命令なんて無視よ無視、さあ皆治療開始よ」

 姉さんが手を叩くと、肩を落としていた二人も背筋を伸ばした。

 

 

 こんなことがあったので、私たちは即日退去を命じられ、後日騎士団を除籍になった。

 とは言え彼女たちの治療は何とか間に合ったし、あんな男の元で働くなんて嫌だから清々したくらいだった。

 

 彼は私たちが除籍されたことを気にしていたが、花騎士はどこでも戦力不足。

 除籍されたとはいえすぐに新しい辞令が国からやってくるのだ。

 

 

 そうして一週間ぐらい経った、夕食での出来事だった。

 

 もうすっかり手馴れてきた夕食の支度を終え、テーブルに着いた私たち姉妹に配膳を終え、自分も席に着くと、彼はこう切り出した。

 

 

「姉さんたち、聞いてくれ。

 ――――俺、騎士団長になるよ」

 

 

 

 

 

 





自分は神様転生ものとか虫唾が走るほど嫌いですが、異世界転移ものとか結構好きです。
ただし、転移の理由がしっかり描写されてることが大前提ですが。
この話の場合、ちょっと匂わせる程度でしたが、そう言うのも無いっていうのはさすがにねぇ。
なんかご都合主義的不思議パワーとか大嫌いなんですよ、元型月信者の設定厨的に。

自分は人気キャラを勢揃いさせて派手なエピソードを書くより、今回のような舞台の後ろ側や本筋を補完するストーリーとかが書いていて楽しいです。
そう言うのを想像して形にするのが好きなんでしょうね。

そしてごめんねリンゴちゃん。
多分、次も君の出番ないんだ……。


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