貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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前回で上げたり下げたりした株をまた下げるリンゴ団長の回です。
殆どシリアス展開だったのに反響多くて驚きました。
自分でも少々重すぎて書くの躊躇ったくらいでしたのに。

これからも程よいシリアル展開を提供させていただきますね!!
それでは、本編どうぞ。



短編連作 追憶編その3

『ハナモモの追憶 決闘編』

 

 

「決闘をすると聞いて飛んできたわ、団長さん!!」

 ローレンティアが団長の元にやってきたのは、彼がハナモモ団長から決闘を受けたその日の午後だった。

 二人は自分たちの決闘の介添え人として、一人の花騎士を指名した。

 

「私を介添え人にするとはいい度胸ね!!

 二人には正々堂々と、真っ向勝負をしてもらうわよ!!」

 ズビシッ、とでも効果音と集中線のエフェクトが掛かりそうな勢いで、リンゴ団長を指差すローレンティア。

 

「もとよりそのつもりだ、ローテンティア」

「ローレンティアぁ!! 絶対わざとでしょ!!」

「お前それ、ネタにもされずに修正されてたオリービちゃんの前でも言えるの?」

「ごめんなさい……」

 出鼻を挫かれたローレンティアだったが、すぐにハッとなってリンゴ団長を睨んだ。

 

「私の目が黒いうちは、ズルい手を使って勝たせたりはさせないんだからね!!」

「それはつまり、向こうを贔屓するってことか?

 俺はお前なら私情抜きで公平に審判してくれると思ったから、介添え人に指名したんだが」

「う、うぐぐ……そんなことはしないわ」

 この光景を見れば誰もがこう思うだろう、このおバカに決闘でどちらかに加担させることなど不可能だと。

 

「良いんですか、この人で」

 しかしあからさまにリンゴ団長に敵意を持つ、不公平な人材にハナモモ団長は不信感を持って同僚に尋ねる。

 

「その為に、もう一人の介添え人を呼ぶんじゃないか」

 普通決闘とは、決闘する者同士が互いに介添え人を指定するのだ。

 そしてお互いに公平だと思える人物を指名し、こうして決闘の介添え人になってもらうのである。

 

「ほら、来たぞ」

 リンゴ団長がそう言うと、もう一人の介添え人が到着した。

 

「全く二人とも、決闘なんて何考えているのさ」

 チューリップ団長である。

 双方ともに交流があって、なおかつ中立な人間だった。

 

「それがな、聞いてくれよ。

 こいつは、俺がハナモモちゃんに粉掛けたのが気に食わないんだとさ」

 リンゴ団長は勘違いを特に訂正したりはせずに客観的事実を肯定し、それを可笑しそうにしながら彼にそう答えた。

 

「呆れた。まあ俺は市民の皆様に提供するネタが増えるから別にいいんだけどさ」

 新聞記者たちの編集者を編集するこの男は、騎士団のイメージ操作の一環でこうして娯楽も提供するのだ。

 

「それじゃあ、双方決闘には合意ってことで良いんだね?」

「待って、とりあえずその前にお互いに要求することを決めましょう」

 ローレンティアは面倒くさそうにさっさとことを進めようとするチューリップ団長を制してそう言った。

 

「決闘するかどうか決めるのは、それからでも遅くは無いわ」

 主に誰かさんを睨みながら、彼女は以前の手痛い失敗から学んだ教訓からそう言った。

 

「ああ、そうだったね。それで、君たちはどうしたいんだい?」

「勿論、ハナモモちゃんに今後一切手を出さないで貰います!!」

 まあそうだろうな、とハナモモ団長の主張に誰もが頷く。

 

「素晴らしいな、つまり俺が勝てば俺は堂々とハナモモちゃんを口説けるわけか。

 そしてそれを決める権限がお前にあると。笑えるな」

 この決闘はこの場に居ない当事者の意志を無視していることを揶揄しながら、リンゴ団長は皮肉っぽく笑った。

 

「ハナモモちゃんは、僕の補佐官ですから」

「じゃあお前が勝ったらリンゴちゃんを口説いて良いぞ。

 その結果お前がリンゴちゃんをどこに連れ込もうが全く持って俺は気にしない」

 言外に、お前と違ってな、と言われているような気がして、ハナモモ団長は己の中の敵愾心を強めていた。

 

「とは言えリンゴちゃんは俺以外に靡かないだろうし、俺に勝ったらこれをお前に進呈しよう」

 リンゴ団長はそう言って、懐から何やら書面を取り出した。

 

「ちょ、それって!!」

 それは以前、リンゴ団長がローレンティアとの決闘に勝利して獲得した証書だった。

 当人はそれの存在を今更思い出して、顔を真っ赤にしていた。

 

「良いじゃないかローちゃん、こいつを男にしてやれって、な?」

「うぐ、うぐぐ」

 傍目には全く分からない会話だったが、その証書を確認したチューリップ団長は心底呆れた様子で彼を見やった。

 心情的にはハナモモ団長に味方したいのに彼に勝ってほしくないと言う板挟みの矛盾に悶えるローレンティアを見て愉悦しているリンゴ団長を。

 

 さて、忍者版が出なかったことに対する作者の憂さ晴らしはこの辺りにして、チューリップ団長は問う。

 

「これをチップにするなら、ハナモモ団長側の掛け金が釣り合わないのだけれど?」

「仮にお前が俺に挑んだとして、俺に勝った対価がお互いに同等だったら割に合わないだろう?

 これは然るべき報酬なのだよ」

 上から目線のリンゴ団長に報酬扱いされたローレンティアは悔しそうに歯噛みしている。

 決してこれは彼女に石400個溶かされたた腹いせとかでは全くない。無いったら無い。

 

「ところで、私の時は介添え人は一人だったけど、なんでチューリップ団長も呼んだのかしら」

「そりゃあ勿論、お前が一人で決闘の申請とか手続きとかできると思わなかったからよ」

「あッ、そうか、そういうことね!! って、失礼しちゃうわね、手続きぐらい出来るわよ!!」

 ぷりぷり、と憤慨するローレンティアだった。

 

 

「で、先輩的にはどういう落としどころにするつもりなんですか?」

「まあ待て、まずは事情を聞けって」

 そんなこんなで各々解散した後、申し合わせたように男二人は密会していた。

 

「話は理解しました。流石にあなたもうちの人間関係をぶっ壊すほど浅はかではないとは思ってましたけど」

「いやぁ、面目ない、マジで」

 こうして歯に衣着せぬ物言いを出来る友人をリンゴ団長はありがたく思っていた。

 

「適当にヒール役を演出してから、感動的な場面で勝たせてやるつもりさ。

 そうすればハナモモちゃんもあれを見直すだろう」

「そう上手く行きますかねぇー」

 文字通り花を持たせてやろうと言う彼に、チューリップ団長は懐疑的な視線を送るのだった。

 

 勿論、そう上手く行くはずもなく。

 

 

 

 §§§

 

 

「はぁはぁはぁ、着きましたわ」

 ハナモモは人混みをかき分け、最前列へと出た。

 広場の中央には、自分の上司を嬲り者にし、衆目に晒しているリンゴ団長の姿が有った。

 

「リンゴ団長さま、どうしてこんなことを……」

 思わず彼女はそう言葉にすると、虫けらを見るような目でハナモモ団長を見下ろしていた彼の視線が彼女へと向けられ、ハナモモは背筋が寒くなって身震いした。

 そんな彼女を認めて、リンゴ団長は言った。

 

「やっと来たか」

 と。

 

 

 リンゴ団長の誤算は、決闘を開始する時間にハナモモが来ていないことだった。

 

 場所はリリィウッドの主要な広場。

 観衆はチューリップ団長が宣伝しただけあって、既に野次馬でごった返している。

 商魂たくましい商人たちが出店を出したり、売り子が飲み物を売り歩いている。

 治安維持の為に衛兵たちまで動員されているのだから、いかに大事になったか分かると言うものだ。

 

「それじゃあ、得物を手放して地面に落とした方が負けよ。

 恨みっこなしの一本勝負だからね!!」

 介添え人のローレンティアがルールを伝える。

 貴族同士の決闘でも一般的なものだった。

 

「双方、主張をどうぞ」

 もう一人の介添え人のチューリップ団長が言った。

 

「では俺から。俺は人生で五度の決闘に勝利してきた。そしてこれで六度目だ。

 そのうち一度は恨みを買い闇討ちしてきたところを返り討ちにした!!

 更に、そのうち一人は花騎士で、そこにいるローレンティアだ!!

 その度に俺は女を奪い、そして捨ててきた!!

 今度もただ、そうするだけのことだ!!」

 ゲスの極みみたいなリンゴ団長の言葉に、多種多様の罵声や歓声が投げ込まれる。

 そのうちの一人であるローレンティアが、勝手に捨てたことにしないで、と叫んでいたが誰の耳にも届かなかった。

 

「リンゴ団長!! 僕が勝ったら、ハナモモちゃんに手を出すのを止めてください!!

 彼女は僕の、僕の部隊に必要な人だから!!」

 そこは自分の大切な人だから、ぐらい言えばいいのにと周囲は思ったが、とりあえず民衆は痴情の縺れと言ったゴシップが大好きなので、思い思いに歓声を上げる。

 

「見たところ、その当人は来ていないみたいだが、それを彼女に言わなくても良いのか?」

 とりあえずまだ来ていないのなら時間を稼ぐために、リンゴ団長はそう茶々を入れる。

 

「ハナモモちゃんには、この決闘のことを伝えていません。

 部隊の皆にも黙ってもらうようにお願いしました」

「うん?」

「この決闘は、ハナモモちゃんのことは口実に過ぎません。

 僕は、僕はあなたに挑みたかった」

「ほう」

 何だか意外な展開になって来たぞ、とリンゴ団長だけでなく観客も思い始めた。

 

「僕は、見ての通りひょろいし、背もあまり伸びなかった。

 皆が頼りなさそうに僕を見るし、討伐に参加するたびに不安そうにしているのを知ってました」

 それを聞いた彼の部下たちは、どこかばつが悪そうに視線を逸らしていた。

 

「だから僕は、僕に見合った仕事を探して、皆に認められるように努めました。

 だけどやっぱり、騎士団長なのに前線の参加が消極的なのは意気地も度胸も無いからだって」

 そんな陰口を、彼はよく耳にしていたようだった。

 

「僕だって、僕だって、あなたみたいに最前線で害虫討伐の指揮をしたい!!

 でも僕も分かっているんです、そんな切ったり張ったりは僕に向いていないって」

 この決闘を観戦に来ている他の同僚の団長たちも、彼の言葉に耳を傾けていた。

 

「だからせめて、僕はあなたに挑んで、男らしくない自分を見切りたかったんです」

 それが、ハナモモ団長の主張だった。

 

 

「くだらん」

 だが。

 

「興醒めだ」

 その言葉を真っ向から受け止めたリンゴ団長は、それをどうでも良さそうにそう口にした。

 

「えッ」

「おい、介添え人。決闘の開始を宣言しろ。

 少しは成長しているとは思ったが、とんだ見込み違いだった」

 リンゴ団長は、今の主張の何がおかしいのか分かっていないローレンティアと、顔を顰めているチューリップ団長にそう言った。

 

「え、でも」

「いいから始めろ」

「う、うん、それじゃあ、双方始め!!」

 リンゴ団長に睨まれて、ローレンティアは押され気味にそう宣言した。

 

「さて」

 二人の団長はお互いに木刀を手に持っている。

 なのに、リンゴ団長はてくてくと構えもせずにハナモモ団長に近づいて行く。

 

 二人の体格差は一目瞭然だったが、この時彼には己に近づいてくるリンゴ団長が巨人か何かに見えた。

 やぁ、と咄嗟に木刀を打ち込んだハナモモ団長だったが、リンゴ団長は防具すらない左腕でそれを受けた。

 

「お前にとって男らしいとはこういうことか? ええ?」

 そうしてあっさりと彼の至近距離に入ったリンゴ団長は、とても笑顔とは思えない笑みでそう言った。

 

 ハナモモ団長は言葉も無く後ずさるしかできなかった。

 

「どうした、引け腰なんて男らしくないぞ。

 遠慮しないで打ち込んで来いよ」

 怯えたハナモモ団長が木刀を振り上げた瞬間、最小限の動きでくりだされたリンゴ団長の木刀の突きが彼の腹部を襲った。

 

「あぐ、ぁ」

 無防備なところを攻撃された彼は呻き、怯んだ。

 

「ちょっと、それは」

 ローレンティアが止めに入ろうとしたが、チューリップ団長が止めた。

 彼女が止めようとしたのは、幾ら非殺傷の木刀とは言え、突きは例外だからだ。

 当たり所が悪ければ、突きはあっさりと人を殺せる。

 事実ハナモモ団長はいまのたった一撃で、ほとんど戦闘能力を奪われていた。

 

「おい、どうした。たった一撃で動けなくなるとか男らしくないなぁ。

 ほら、もっと打ち込んで来いよ、ほら」

 リンゴ団長は彼の木刀を持つ手をがっしりと掴むと、インファイトの距離のまま膝蹴りを繰り出した。

 鈍い打撃音と呻き声が広場に響いた。

 

 それは既に、決闘ですらないただの暴行でしかなかった。

 だがそれを止められる者は居なかった。

 どちらも敗北の条件を満たしてなどいないのだから。

 

「お前は男らしくないとか言う理由で敵に挑むのか?」

 蹴る。蹴る。蹴る。

 

「なるほど、現状の戦力で対処できない害虫に遭遇しても、男らしくないとか言う理由で逃げないわけか!!

 素晴らしいなおい!! なんて格好いいんだ!!

 流石騎士団長!! お前こそ、男の中の男だ!! 別にお前以外何人部下が死んでも、必要な犠牲だったとか言って男泣きすれば格好も付くもんな!!」

「ち、が」

 何とか否定しようとしたハナモモ団長を地面に引きずり倒し、黙らせられる。

 

「違う、何が違うって?

 それってお前の責任で誰かが犠牲になった時に言う台詞じゃねーのかよ、なあ!!」

 彼を石畳の広場を引きずり回しながら、リンゴ団長は嘲り笑う。

 

「お前の言う男らしさってのはなぁ、結局お前だけのもんじゃねか。

 自分の為だけの男らしさだ。俺の知る最も男らしい英雄は、自らの命を盾にすることを厭わなかったぞ。

 恐怖に怯え、死を恐れながらも、仲間の為に全てを投げ打った、真の男だった」

 リンゴ団長はそう言うと、持っていた木刀を放り出して、ズタボロになったハナモモ団長の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 その時点で彼の敗北は確定したのだが、既にこれが決闘だと言うことを覚えている人間はいなかった。

 それくらい、彼の暴行は凄惨だった。

 

 この時、唖然としている観衆を掻き分け、ハナモモがやってきた。

 彼女の同僚が見てられなくなり、急いで彼女を呼びに行ったのだ。

 

「やっと来たか……。お前の男らしさは、他人の目を気にして、自分を守るための男らしさなんだよ。

 よーく考えてみろよ。お前に男らしさは必要だったか?

 この無様さが、その無思慮の結果だ」

 ぼろ雑巾のように広場の石畳にハナモモ団長を投げ捨て、リンゴ団長はもう用は済んだとばかりに踵を返した。

 

「待ってください!!」

 泣きそうになりながら己の団長に駆け寄ったハナモモが、悲鳴のような声でそう言った。

 

「なんで、どうして、こんなに酷いことを!!」

「なんでって、分からないのかい、ハナモモちゃん」

 振り返ったリンゴ団長は、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「君が言ったんだろう? そいつを男らしくないって」

 その言葉に、ハナモモはびくりと反応した。

 

「古来より、戦いに向かう男が女を抱くのはもう一度戦場から帰ってくる勇気を貰う為だ。

 では逆に、男を戦いに追い立て、破滅に追いやる女をなんて言うか知っているかい?」

 ハナモモは耳を塞ぎたかった。

 だがその不気味なほど感情の無い声を、不協和音として受け付けないということはできなかった。

 

「――毒婦、と言うんだ。

 俺はそんな女など要らん。毒の満ちた勝利の杯などくれてやる。

 よく覚えておくんだな、ハナモモちゃん。

 どんな真面目な男でも、女は簡単に狂わせられるってことをな」

 リンゴ団長は胃とか色々な物が痛む胸を抑えて、己の役目を果たしきった。

 

 ぽたり、ぽたり、と少女の涙が少年の頬に落ちる。

 散々痛め付けられ意識が朦朧としていた少年は、泣かないで、と口に出せぬまま気を失った。

 

 

 続く

 

 次回、リンゴ団長の愛の鞭により失意の若い少年と少女にキンギョソウ団長が有る提案をする。

 それは、ある部隊への出向を促すものだった。

 尚、愛の鞭は振るった当人もダメージが行きしばらく落ち込んだ模様。

 

 

 

 

『貴族の戯れ 中編』

 

 

 

「はぁはぁ」

「な、何なんですぱか、あの部屋は!!」

 怪盗行為を働きに行った二人だったが、二人が目にしたのは予想を超えるものだった。

 

「お、女の子がどろどろの、べちょべちょに……」

「触手が、触手が……」

 しばらく夢に見そうな光景に、身震いする二人だったが。

 

「あ、ワルナスビ様、そ、それ!!」

「ああッ、つい癖でもってきちゃったぁ!?」

 彼女が持ってきたのは、団長の書き掛けのエロ小説だった。

 しかもかなりマニアックな代物だった。

 

「あら、二人ともどうしたの?」

「どうかしたのか? 何やら様子がおかしいが」

 そこに偶々通りかかったバラとヤマユリ、そしてカサブランカが廊下でぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を見つけたのだった。

 

「あ、ああ、皆、ええと、ええと!?」

「お、お、落ち着くですぱ、ワルナスビ様!!」

 悪事を働こうとした先から逃げ出した二人は、逃げた先に仲間にであってテンパっていた。

 

「そう言えば、団長宛の書類を持って行ってくれたのかしら?」

 バラが何やら書類らしきものを持っているワルナスビを見て、ラークスパーにそう尋ねたのだが。

 

「あ、ええと、そう、そうですぱ!!

 ワルナスビ様と一緒に書類を届けに行ったら、それが団長の部屋に!!」

「そ、そうそう、それで私達、びっくりしちゃって」

 見事に責任転嫁を果たす怪盗たちだった。

 

「どれどれ」

「あ、あー、二人とも、他人の物を勝手に見るのは良くないのでは?」

「しかしカサブランカ様、この二人の慌てよう、相当なものですよ」

 ワルナスビから受け取った原稿を見ようとするヤマユリとバラだったが、その時点で察したカサブランカがやんわりと制止に入ったのだが、彼女の腹心がそんな否定しにくいことを言う。

 

「う、うーむ」

 どうやってこの場を収めようかと悩むカサブランカだったが、その間にも二人は原稿を読み進めていく。

 

「な、なんだこれは……」

「うわ、うわぁ……」

 その内容に怒り震えるヤマユリと、普通に引いているバラは対照的だった。

 

「おのれ団長、許せん!!」

「あ、ちょっと、待ちなさいって」

「落ち着かないか、ヤマユリ!!」

「いいえ、こんなこと許せません、カサブランカ様!!」

 今にも殴り込みに行かんという様子のヤマユリに二人は止めようとするが、当人は怒り心頭らしく聞く耳を持たない。

 

 

「団長!!」

 そうして、団長の執務室にたどり着いた面々は、先頭のヤマユリがドアを開け放って中に入り込んだ。

 

「おや、どうしたのかね、皆揃って」

 中では団長が待ち構えていた。勿論キンギョソウも居た。

 

「団長、これはどういうことだ!!」

 バン、とヤマユリが彼の書き掛けの原稿を叩きつけてそう言った。

 

「どうもこうもあるまい。これは我の作品だ」

 弁解するつもりなどないのか、彼は堂々とした様子だった。

 ええぇ、と何とも言えない表情をバラはしていたが。

 ちなみに、怪盗コンビは入り口のドアから顔だけだして中の修羅場をぶるぶる震えながら見ていた。

 

「いかに団長と言えど、この所業を私は許すことはできない!!」

「ヤマユリ、少し落ち着くのだ……」

「この場面に登場する婦女暴行を働く触手生物など、我が祖国バナナオーシャンには存在しないのだから!!」

「そうそう、だから……えッ、そこ!?」

 ヤマユリの指摘する点に驚くカサブランカ。

 バラも彼女と全く同じ表情をしていた。

 

「それに何だ、このバナナオーシャン原産の卑猥に振動するバナナとは!!」

「光るバナナが有るのだから、卑猥に振動するバナナが有っても良いではないか」

「未開の森林の奥地に存在する謎の両性具有の原住民も、普通に考えているわけないだろう!!」

「なぜ居ないと決めつける!? 居るかもしれないではないか!?」

「それにこのシーン、なぜ人間が触手生物と交配できる。常識的に考えてオカシイだろう!!」

「人間と生殖能力の無い触手なんてただのヌメヌメした卑猥なツタではないか!!」

 ついには団長も激怒して立ち上がった。

 え、そこ怒るとこなの、と蚊帳の外になった面々は思った。怒る所なんですよ(熱弁

 

「この人間の着衣だけ溶かす粘体生物も、どう考えてもオカシイぞ!!」

「じゃあ人間の肉体も溶かせと!? それを好む人間は限られるのだッ!!」

「なぜこの二人の同性愛を皆が祝福している!? 偏見を言うつもりはないが普通は誰かしら反対するものだろう!!」

「貴様、百合の名を持つくせにこの尊い展開が理解できないだと!? そもそもスプリングガーデンで同性カップルは珍しくないだろうが!!」

 じゃあ私は何なのよ、という表情をしているバラと、何言っているんだ貴公らは、という表情のカサブランカ。

 二人ともヒートアップして論点が当初とは違ってきていた。

 そして、巡り巡って。

 

「この、バナナオーシャンの住人の誰もが性に寛容とも取れる描写は撤回して貰おう!!

 この凄惨な凌辱を受けて悦ぶ女主人公のような人物は祖国でも稀だ!!」

「性に開放的なのは事実だろう!! だが、国民性の表現は慎重にすべきと言う主張は受け入れよう」

 最終的に、そう言う落としどころになった。

 

「はぁ、はぁ、カサブランカ様。祖国の名誉は守りました」

「そ、そうか、済まぬなヤマユリ」

 こう見えて初心なヤマユリが決死になって祖国の名誉を守ったことを、カサブランカは一応褒めておくことにした。

 部下の意外な一面を見たカサブランカだった。

 

「団長さん、その、今まで隠してたのは分かるけど、こういう趣味あったのね」

「悪いか?」

「あ、いえ、別に、ただ、ちょっと意外って言うか」

 開き直る団長に、言葉を選ぶバラだった。

 実際花騎士にはかわいい顔をして色々な趣味嗜好の持ち主が居るので、そっち側だったのかと言うだけだった。

 

「よかったね、団長さん」

 棒読みでキンギョソウがそう言った。

 特に大騒ぎにならないことを予知していての発言である。

 

「うむ、正直今までひた隠しにしていたが、やはりばらしてしまうとスッキリするな。

 何と言うか、同好の士以外に隠すのはしんどかったのだ」

 と、思わず本音を漏らす団長だった。

 

「うむ、やはり騎士団長になった甲斐があった。

 これからは堂々とモデルにして良いか聞ける」

「それは止めて」

 そこはキッチリ拒否しておくバラだった。

 

 

 続く

 

 次回、恐るべき吸血鬼の正体を暴いた怪盗ナイトシェード!!

 追い詰められた闇の一族の末裔の魔の手が、二人に迫る!?

 負けるなナイトシェード!! この男はくっ殺展開が大好きだぞ!!

 

 

 

 

 

 




ヤマユリさんはこんなにポンコツじゃない、と思う人が居れば(居ないと思うけど)彼女を開花させてキャラクエを最後までやるべき。
原作プレイしててこれを見ないのは損ですww

それと偶にそんな調子で処女捨てていいの!? って子いますよね。
いえ、ババナオーシャンに限らず。新キャラ取ったらすぐに好感度アイテム連打するからでしょうか。
いやまあ、それくらい肉食系じゃないと男女比偏った世界は生きてけないのでしょうけど。

あとローちゃん、お前R版で覚えてろよな!!
げっへっへ、ガチャで出ないのが悪いんだぜ……。

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