ドシリアス注意報です。独自設定、独自解釈が多分に含まれていますので、ご了承ください。
それにしてもシンビの奴、金チケで取った途端にダブりやがりました。
結局ローちゃん欲しさに全部石注ぎ込むもルドベキアちゃん三人出ると言う結果に終わりました。
え、卍解しそうな人? 出るわけないじゃないですかそんなの。
場所はコダイバナ・ブレーメン防衛基地跡。
「はぁ……なんで私こんなことしてんだろう」
エピデンドラムは両手から弾けるような白い光を出して瓦礫に近づける。
するとそれは重さを無視してふわりと引き寄せられ、空中で停止した。
ナズナがよく使っている牽引用の魔法だった。
「私、楽する為に魔法の資格取ったのに、何だか肉体労働させられてばっかりな気が」
「ほらそこ、サボらなーい!!」
黄色いヘルメットをかぶったランタナが、手ごろな本を丸めてメガホンを作りダラダラと働いている彼女に激を飛ばした。
現在ランタナ分隊・チューリップ団長リニューアル版は害虫の行動範囲を制限するべく瓦礫でバリケードを作っていた。
その為に魔法技能持ちとその護衛が周囲を警戒しつつ作業をしていた。
「ニシキギちゃーん、危険とかなーい!!」
「えー? 危険ですかー?」
ランタナは続いて建物の上で警戒をしているニシキギに声を掛ける。
常に危険を求めてるはずのニシキギが、何やら反応が鈍い。
「ニシキギちゃん、どうしたの!?」
「え、いやもう、危険とかもういいかなって、そういうの、良くないですし」
「賢者モードになってるぅ!?」
悟りを開いたかのような表情で語るニシキギに、驚愕するランタナ。
人類屈指の危険地域に結構な時間を身を置いているからか、彼女の中の危険を求める何かが飽和しているらしかった。
「何事も安全に行った方がいいですよね。
危ないことが無いように、ちゃんと確認しないと」
「お、おう……」
これがキャラ崩壊か、と戦慄するランタナだった。
「あ、そだ。そろそろだんちょに頼まれてた仕事しないと。
現場監督は多忙なのです」
ランタナは指示書を取り出すと、ふむふむと内容を確認する。
「それじゃあ、始めるとしますか。
かもーん、動物たちー!!」
ランタナの呼びかけに応じ、アライグマやウサギ、小鳥やリス、ネズミが登場した。
「うっひょー、これは楽だわー」
「ちょ、皆!? 私のオトモ取られた!?」
作業中のエピデンドラムは自分の友達を取られたことに気づき、混乱していた。
「ふっふっふ、実は密かに仲良くなっていたのだぁ!!
みんな、ランタナの方が軽くて運びやすいってさ、じゃねー!!」
「裏切りものー!!」
自分の五匹のオトモたちに運ばれていくランタナに向かって、批難を浴びせるエピデンドラムだった。
「平静に、落ち着け、平静に……」
時間は進み、ランタナが百匹を超える害虫が出たと報告し、サクラが部隊を招集しに行った後である。
チューリップ団長はせわしなく右往左往し、何とか冷静になろうとしていた。
「害虫が襲ってくるのは当然の事態なんだ。
まずリンゴ団長と合流して、お互いのすべきことを確認しないと」
「何だか騒がしいけど、どうしたの?」
恐らく騒ぎを聞きつけとんぼ返りしてきたらしいイエローチューリップ達が、怪訝そうに自分所の団長を見た。
「ああ姉さん!! 良かった、呼びに行く手間が省けた!!
てっきり害虫が来ても採取を続けるとばかり……」
「落ち着きなさいよ、私たちだってコダイバナの害虫が来たって時に安全を優先しないほど自惚れてないわよ」
血走った目をしている弟分に、彼女も呆れ顔だった。
程なくしてサクラが部隊を招集して戻ってきた。
その中にリンゴ団長と彼について行った面々は居なかった。
「サクラさん!! リンゴ団長は!?」
「それが、誰も見ていないらしく……」
「そんなっ」
「しょうがないなー、もう。私がちょっと探しに行ってくるよ」
「ちょっと、待って!!」
ランタナは団長の静止を無視して、一人駆けだして行った。
「ああもう、こういう時に単独行動は死亡フラグだってなんで分からないのかなぁ!!」
「あのー……」
「今度は何!?」
「害虫がそこまで来てるみたいなんですけど」
哨戒に行っていたイヌタデが、何だか申し訳なさそうにそう報告した。
「ええッ、もうこんなに近くに!?」
この場に流れている微妙な空気に気が動転して気付いていないチューリップ団長は、顔色がさーっと青ざめていく。
そして。
「きしゃー!!」
「きしゃーー!!」
「きしゃしゃーー!!」
「はぁ……」
害虫の被り物をしたリンゴ団長とリンゴ、ランタナ、そしてクロユリが『×25』という立札を持ってやってきた。
「………」
「……」
「…………」
「団長さん、害虫です。どうしますか?」
花騎士たちが、まあそうだろうな、という表情になった。何せ誰も害虫の気配を感じ取っていなかったのだから、
そして、へなへなと膝から崩れ落ちるチューリップ団長に、空気を読んだサクラがそう言った。
「え、は、え?」
「害虫百匹の対処です。いかがしましょう」
「ええと、どうすればいいかな……」
「百匹ぐらいならどうにか出来るとは思いますが」
少し彼が不憫に思ったのか、そんな助言をしてしまうサクラ。
それに不満を抱いたのか、リンゴ団長が各々の立札の数字にゼロを付け足した。
即ち『×250』が四組。千匹の害虫の群れである。
「団長さん、千匹の害虫です。どうしますか?」
「あの害虫の首魁をぼこぼこにしてくれって言ったらしてくれます?」
きしゃーきしゃー言っているリンゴ団長を指差し憮然とした表情でそんなことをのたまうチューリップ団長。
その危機感の無い態度にイラッとしたのか、リンゴ団長扮する害虫は誰もが予想外の行動を取った。
彼は、護身用の拳銃を抜くと、その銃口を真っ直ぐ成り行きを見守っていたプロテアに向けた。
その行動に誰もがギョッとする中、彼は銃口をやや下してから引き金を引いた。
銃弾が、地面を抉った。
銃口を向けられた時点でキリンソウに庇われていたプロテアは、まさか撃つとは思ってなかったのか唖然としていた。
「きしゃー!!」
そして、これは悪ふざけではないとでも言うように、真っ直ぐプロテアに銃口を向ける団長。
「団長さん、千匹の害虫が来ています」
噛んで含めるようにゆっくりと、真剣な表情でサクラが言った。
「どうしますか?」
「……撤退だ」
その問いが、指揮官としての回答を求められていると理解させられたチューリップ団長は、彼の凶行に衝撃を受けつつも応えた。
「現時点でのリンゴ団長以下数名の捜索は不可能だ。
護衛対象のプロテアさんを最優先にしつつ撤退、遅延戦術で害虫を足止めしながら速やかに本領域から離脱する」
彼は自分でも驚くほど冷静に言葉を発していた。
「上出来だ、よく決断した」
立札を下ろし、害虫の被り物を取ってリンゴ団長はそう言った。
「り、リンゴ団長ぉ!!」
その直後だった。チューリップ団長の胸中にみるみる怒りが湧きあがってきたのは。
「よくもプロテアさんに銃口を向けたな!!」
「うるせえ!! まだわからないのかお前は!!」
リンゴ団長に怒りのまま飛びついた彼は、いともたやすく殴られて、地面にたたき落とされていた。
「お前が彼女を危険に晒したのだ。
お前がチンタラしているから害虫が十倍に増え、先制攻撃を受けたんだよ!!」
「ぐ、っぅ」
胸ぐらを掴まれ、起き上がらさせられ、理不尽に怒鳴られる。
そう、理不尽だった。
それが、敵なのだと理解させられ、チューリップ団長は己の落ち度が悔しくて歯を食いしばった。
「だが」
そして唐突に、リンゴ団長は手を放した。
「お前は俺より早く撤退を決断できた。その点は褒めてやる。
当時の俺は更に敵に囲まれ、疲弊するまで決断できなかった」
溜息と共に、彼は肩を落とす。
「指揮官の真価は、敗戦にこそある。
負けた時にどのような行動を取れるかで、その指揮官の価値が決まる。
全戦全勝? 生涯無敗? そう言う輩こそ、最初で最後の敗北で死ぬのだ」
適当な瓦礫に腰を下ろし、そんな聞いたこともない相手のことを話す。
この世界で負けたことの無い団長など、居るはずもないのに。
「……数年前、俺は初めて同年代の友人と言うものが出来た」
すると唐突に、彼は話題を変えた。
「同年代の女の子ってのは居ても、同年代の男ってのはなかなか居ないもんだ。
同じ戦場に身を置く者同士、俺とアイツは打ち解けていた」
スプリングガーデンにおいて男女比は偏っている。
少なくともカルセオラリアが親の意向で、花騎士に成り部隊に配属されるまで一度も男性に会わずに過ごす、と言うことが可能になる程度には。
だから意図せずとも同年代の男友達が出来ないくらい、珍しくないのだろう。
「俺は騎士団長で、あいつは衛兵隊隊長だった。
何でお互いにその職業に就いたかと語れば、お互いに女の子にモテたいからだってなってな。
やれ衛兵隊は意外に出会いが少ないだの、やれ危険の割には薄給だの、やれ隊員たちは露出が少ないだの、やっぱり騎士団長になればよかっただの、色んな話をし合った」
当時を懐かしむように、リンゴ団長は語った。
「俺はやりがいがあるし、女の子ともいっぱい出会えるから騎士団長に転向してみろと冗談めかして言ったもんだ。
あいつはそれも良いかもな、と笑っていたが」
そして、その人物とこの場に居る誰もが出会ったことが無いどころか、初めて聞く話と言う時点で、その後の彼がどうなったか察していた。
「討伐と調査に向かった主力部隊が帰ってこない。
それについてどうするか話し合うため居残り組の団長たちの会議に、空間の歪みを開けて乱入してきた害虫たちに、俺以外の同胞たちは全て殺された。
俺は基地にいる数百人の人間の命を預かる羽目になった」
今まさに、状況だけなら彼が演出した通りだったので、チューリップ団長は無意識に胸を抑えた。
そんな状況に陥ったら、と想像して顔を青くする者も多かった。
「だが俺は、何もしなかった」
リンゴ団長は虚ろな視線を虚空へと向けた。
その当時の己の状況を思い出しているのだろうか。
「主力部隊を探しに行くと言って勝手に出ていった連中を止めなかった。
撤退すべきだと進言する者たちの言葉を聞き入れなかった。
害虫に包囲されていると報告する部下たちに、耐えろとだけしか言わなかった」
誰もがなぜとは言わなかった。
そんな状況に陥ったたった一人の指揮官が、もしかしたら生きているかもしれない味方を見捨てて逃げるなんて真似が出来るはずも無かった。
「この基地跡は突破されたこともあるとはいえ、唯一の補給地点だ。
それを俺一人の判断で放棄するなど、出来るわけが無かった。
ここで俺が逃げれば、前線での生き残りを見捨てた臆病者と謗られる。
俺は生き残りとして責任を背負わされ生きていくことになるだろう。周囲から笑われ、謗られ、罵倒されながら生きるより、死んだ方がマシだと思った。
そんな俺の胸中を察したんだろう、あいつは俺に言った」
救援を呼んできてほしい、と。
「あいつが何を思ってそう俺に言ったのか、俺は尋ねた。
俺には無理だからだ、とあいつは言った。
騎士団長なんて、俺には無理だ、ってな。
そう言ったあいつの目には、昨晩の殺戮の光景が恐怖で滲み出ていた。
だから、だから……」
団長は拳を膝の上で握りしめ、怒りか、恐怖か、憎しみか、血を吐くように言葉を続けた。
「――――お前は生きて、俺たちの分まで害虫を殺してくれ。
それは、そこで散って行った騎士団長全員の言葉を代弁しているように聞こえた。
俺は、救援を呼びに行く為に希望者を募った。
非戦闘参加者も一緒に逃がすと言う名目で多くの人数を連れて行こうとしたが、一部の花騎士や兵士たちは残った。あいつも意外に慕われてたらしくてな。
そして俺は、無様にも多くの落伍者を出しながら、害虫の包囲を突破し、この地から逃げ遂せた」
友との約束、友情。多く犠牲が、彼を呪縛する。
「最終的に生き残ったのは、五十人にも満たなかった。
千人以上で挑んで、この様だ。もっと早く俺が決断できていれば、この二倍か三倍かは生き残れていただろう。
俺は最後まで自分のことしか考えていなかった。そのツケがこれだ。
だが俺はそのあまりにも多くの犠牲の果てに、多くの教訓を得た。
つまり、仲間や部下を殺すのは害虫ではなく、すぐ上の指揮官だと言うことだ」
それはあまりにも平凡で、当たり前の結論だった。
「全ての責任は俺に有ったのだ」
彼の部下たちは思い起こす。
ジョルン戦線の際に、彼が他の団長たちに言った言葉を。
――俺の部下は、俺の判断で、俺が殺すと決めた時に殺す!!
それが、彼の責任。やり通さねばならぬ“覚悟”なのだ。
「……援軍は」
誰もが彼の真に迫る言葉に聞き入っている中で、プロテアがぽつりと言った。
「援軍はどうなったんですか?」
それが、彼女の聞きたかった話に繋がると確信して、彼に問うた。
「各国上層部の判断はこうだ。
多くの犠牲を出したが、コダイバナの脅威は押し留めることは成功した。
よって、これ以上の戦力を投じるのは無意味だ」
「はぁ?」
誰かが、何をバカなことを、というニュアンスがこもった声を上げた。
一体彼の今までの話しで、誰が、何を成し遂げたと言うのだ。
「上層部は彼らを見殺しにしたんですね」
「それは少し違うな」
目を伏せてそう言ったプロテアに、リンゴ団長は何か笑い話でも思い出したかのような笑みを浮かべて訂正した。
「あの戦いで出す戦力は、あらかじめ決まっていたんだ。
上はそれ以上は一兵たりとも戦いに出すつもりは無かったんだよ」
それを聞いて、誰もが脳裏に恐ろしい考えが過った。
「お、おかしいですねー。それじゃまるで、上層部は千人以上を捨て駒にしたって風に聞こえるんですけど……」
震えた声でそう言ったのは、リシアンサスだった。
この空気の中で無理やり笑おうとしておかしな表情をしていた。
「上層部は初めから、あの戦いで戦果なんて期待してなかった」
だが、それを裏付けるようにリンゴ団長は笑いをこらえるような声を漏らしながら言った。
「上層部の大幹部だった騎士総長も、それを承知で自ら犠牲になったのだと、俺は報告の場で聞かされた。
……そうさ、全ては茶番だっただよ」
「なぜっ、なぜ上層部はそんなことを!?」
プロテアは感情のままに問わずには居られなかった。
彼女にとっても、この場に居る誰にとっても、上層部は尊敬すべき先達なのだから。
「なあキルタンサス、お前が事故で以前ここに来たそうだが、一体どこに空間の歪みが現れたんだ?」
「……ブロッサムヒルの城下町よ」
可笑しくてたまらないと言った様子のリンゴ団長の問いに、キルタンサスは目を伏せてそう答えた。
「そうさ!! 俺たち人類は、ただ害虫どもの気まぐれで、まだ滅ぼされていないだけに過ぎないんだよ!!」
誰もが目を逸らしていた事実だった。
口にしたくも無い事実だった。
耳を塞ぎ、聞きたくも無い事実だった。
「なんで上層部が戦果も期待できない派兵を繰り返すかって?
そんなの決まってるだろう、希望はまだ潰えていないと示すためだ!!
分かるか!! お前たちは人々の希望なのだ。人々はお前たちが華々しく戦い、害虫と戦い対抗できていると信じているから平穏に、心穏やかに過ごせるのだ!!
そうでなければ、俺たちは戦うことすら出来なくなるのだからな!!」
そんな滑稽な事実に笑いながら、リンゴ団長は全てを吐き出した。
「上層部はそれを幾度となく繰り返してきた!!
千年間、飽きること無くなぁ!!
そんな、そんな、そんな下らない理由の為になぁ!! 俺の同胞たちは散って行ったんだ、今も、こうしている今もまさに!!」
花騎士とはよく言ったものだ。
どんな花も、散って肥料として土へと還るのだから。
「上層部の誰一人として、いや、事情の知らぬ連中も俺を責めなかった!!
多くの人間の命を無駄にした無能な指揮官として笑われ、蔑まれ、憎まれ、呪われるつもりだった俺に、誰もが良く生き残ったと、誰もが辛かったねと。
そう、祖国の女王さえも、優しく俺を労ってくれた!!」
笑いながら、滂沱の涙を流しながら、その道化師は己の滑稽さを示した。
「だから俺は、感情のままにその尊い御方を罵った。
そうするぐらいしか、俺は現実に対抗する術を持たなかった。
今では純粋なあの御方にそんなことをしでかしたことを後悔しているがね……」
がくりと首を前に倒して、彼は仲間たちに懺悔を漏らした。
「俺は、俺は、許せなかった。
諦念に支配された上層部も、偽りだらけの平穏も、あのおぞましい虫どもも!!
だが、無力な俺は敗戦の恐怖でどうする事も出来なかった。
結局、戦うことは失うことでしかないのだから。
そうして無為に日々を過ごしていると、俺と行き残った部下達が俺を心配して教導部隊に転向しないかと話を持ちかけてきた。
一人でも戦いで亡くなる仲間を減らそうってな」
彼は何かをする度に何かを得て、そして失って行く。
「だが、だがなぁ、結局、戦うことが失うことでしかないのなら、戦わない事はただ奪われるだけだと言うことなのだと思い知っただけだった」
見るに堪えないとはこの事だった。
矢継ぎ早に言葉を繰り出すリンゴ団長を、誰もが見ていられなかった。
痛々しい傷跡を見せつけられるかの如く誰もがその痛みを想像でき、誰もが無関係ではなく、誰もが明日は我が身なのだから。
リンゴなどはしくしくとすすり泣いてさえいる。
上層部が彼に対する処分が甘い理由を、誰もが理解した。
こんな“もの”を、見ていられない。
まるで、妖怪変化だった。
正常な人間が、全身を化け物に置き換わる様子を逐一言葉にされているような、正気では居られない様な、そんなざまだった。
誰が好んで段々と彼が壊れ、狂って行く姿を知りたいと言うのか。
「仕方ないよなぁ、逃げても追ってくるんだからよ。
ケツに火を点けてでも、振り返ってぶっ殺すしかないよなぁ」
こうして、この男ができた。
この世と言う地獄で、その業火で己に火を点け、燃え尽きるまで走るしかないと悟り、破滅へとまっしぐらと突き進む、狂った復讐の鬼が。
「コダイバナを脱出する道中、害虫どもの追撃を受ける中で俺は誰かの視線を感じて振り返った。
そしたら誰もいない筈の虚空から、笑い声が聞こえてきたんだ。
無様に殺されていく俺たちを嘲笑う、コダイバナの城に君臨する魔王の声が」
ついにはそんな妄言を漏らし、彼は立ち上がった。
「お喋りはここまでのようだ」
先ほどの銃声に釣られてか、外から害虫の群れがやってきたようだ。
「プロテア様」
一人、彼の古傷を抉った者として目を反らさずにいたプロテアに、彼は声を掛けた。
「どうせなら、コダイバナの城までお送りいたしましょうか?
俺の育てた最精鋭が、花騎士千人に匹敵するか否かお見せしましょうか?」
「それが本当なら頼もしいのですが……」
プロテアは冷静に言葉を続けた。
「貴方はまた引き時を間違えるつもりですか?」
「よし、お前ら、依頼人からの退却の許可が出たぞ、撤収撤収!!」
まさか本当にコダイバナの城に突撃させられるとは思ってはいなかった面々だったが、それを聞いてホッとした面々だった。
彼の鬼気迫る表情から、誰もそれが冗談とは心の底から思えなかったからだ。
「あの、団長さん」
撤収の準備を進める中、サクラがリンゴ団長にこっそり近づきぼそりと言った。
「いくら早く帰りたいからと言って、少々大仰だったのでは?」
亡くなったご友人まで出しにして、と彼女は横目はまだ泣いているリンゴを捉えていた。
それを見て、団長も演出過剰だったかと、少し反省した。
「だがサクラ、俺は本気だぞ。
いつか必ず、あの城を燃やして瓦礫の山にしてやるんだ」
すっかり先ほどまでの影を感じさせない笑みでニヤリとする団長に、サクラは仕方の無い人だとでも言うように苦笑を浮かべた。
「とは言え、もう暫くここには来たくないがな」
勿論、フラグである。
§§§
「またこの地に来てしまったか……」
そのリンゴ団長の呟きは、彼の部下全員の心境だった。
このコダイバナを取り巻く事態は急変していた。
何でも、世界花の加護が無くとも成長できる植物と言うのがベルガモットバレーで研究されていたらしく、リリィウッド主導でそれを試験的にコダイバナで運用してみようというのだ。
護衛の部隊が要る。
じゃあちょうどいい連中が居るじゃないか、と言うことで彼の部隊に白羽の矢が立った。
「上もいよいよ耄碌したのかね。
花騎士に庭師の真似事をさせるとか」
「なんでも、プロテア様がうちの上層部に殴り込んだらしいですよ。
どうやら団長さんの話が相当腹に据えかねたらしくて」
少し困ったようにサクラがそんなことを口にした。
「あの人の行動力はホントすごいよな。怖いもの無しかよ、若さかねぇ」
「何でも知り合いの伝手で王家の耳にも入ったらしく、こんなに早い段階での実施になったそうです」
「嵐かよ、あの女」
「それはほら、嵐の中心にあの人が居ますから」
皆の脳裏に、彼女にゾッコンな男の顔が浮かんだ。
きっと彼にも思う所が有ったのだろう。リンゴ団長が書いた自叙伝を売りさばいたりしていた。
「なら、しょうがないな……。
他国から追加の人員も来るんだろう? なら色々と準備しないとな」
嵐に巻き込まれる羽目になった者たちは、備えをするだけだった。
そして。
「はぁ……つらい、禁欲生活が辛い」
村づくりは後から来たナズナ団長に任せ、周囲の警戒に当たっているリンゴ団長はしばらく気の抜けない生活を送っていた。
「おや」
「あっ、どうも」
そしてよりにもよって、飢えた獣の前に餌が放り出されてしまった。
「おやおやおや、君は確か、新人のツツジちゃんだったね」
笑顔とは本来攻撃的なうんぬんかんぬんな笑みを浮かべながら、彼はツツジに近づいて行く。
「周囲の警戒をしている団長さんでしたよね?
ネモフィラさんがリリィウッドの凄い団長さんだって、自慢してました」
「ああ、ネモフィラちゃんね。
素直に尊敬されるのは嬉しいんだけどね、まあ」
あなたのような人が祖国に来てくれてよかった、とキラキラした視線を思いだし、団長はむず痒そうに頬を掻いた。
「ええと、団長さん。多くの花騎士を見て来てると聞きました。
私も、たくさんの大切な人たちを守れる花騎士に成れるでしょうか」
そう言ったツツジには、隠しきれない不安が入り混じっていた。
「大切な人たちを守れるようになりたい、か。なるほどな」
そんな正統派美少女に、団長も真面目に答えないわけにはいかなかった。
「一つ、将来の話をしよう。
君がもっと成長し、誰かと結婚して花騎士を引退し、子供が生まれたとしよう」
「け、結婚!? 子供もですか!?」
「ああ、想像してみな」
言われて想像を膨らませるツツジに、目の前のケダモノは得物を前にした舐めづりしていたが。
「そうして生まれた子供が成長した頃、君の住む町に害虫が大挙して押し寄せてきた。
町を守るだけでは駐在の花騎士だけでは足りない。君はどうする?」
「勿論、戦うと思います」
「そうだろうな。それが花騎士だ」
うんうん、と即答したツツジに満足そうにうなずく団長。
「そう、君は自分の子供を置いて戦いに行くわけだ」
意地悪くそう言った彼の言葉に、ツツジはハッとなった。
「で、でも、旦那さんとかに預けたりしたり」
「その旦那も騎士団長で招集されたりするかもしれない。
君も自分の子供を背負って戦うわけにもいかないだろう?
誰か、信頼できる人物に預けるかもしれない」
だが、と団長は彼女の矛盾を指摘する。
「その時、その君の子供は一番大切な人と一緒に居られないのだ」
「…………」
「それが、戦うと言うことを選ぶってことなんだよ」
団長は優しく、残酷なことを突き付ける。
「人間はね、一度でも暴力を振るうと二度目の躊躇いが無くなる。
戦えると分かってしまえば、また人は戦おうとする。
そしていつか、自分が大切なものを取りこぼしていることに気付くのだ。
例え将来に幸せが待っていたとしても、たった一度でも戦うことを選ぶと、それがどんなに正しくても、何かを失い始めるんだ」
それはまるで呪いのように、ツツジの心に沈殿していく。
そしてそれを振り払うように、彼女はこう言った。
「この任務が終わったら、一度実家に顔を出してみます。
パパとママに元気な姿を見せてあげたいと思います」
「それがいい、戦いにばかり身を置くと、何を取りこぼしたかすら、分からなくなるからね」
彼なりの助言に、ツツジは頭を下げてお礼を言って去って行った。
「うんうん、若人の道を間違えないように示すのは気分がいいな。
…………あっ、しまった、口説くの忘れてた」
失敗した、と嘆く団長の前をふよふよと何かを通り過ぎて行った。
「なんだ、お前か」
精霊ナーエ(第二段階)が何やらクロユリに近づいて甘えているようだった。
「なぁ、クロユリ」
「なんだ、お前かっ」
クロユリは即座にナーエを背中に隠した。
「どうしたクロユリ?
それより、後ろに隠したその子、ちょっとでいいから貸してくれよ」
「ダメだ」
警戒心を露わに、クロユリは拒否した。
「お前、何する気だ?」
「なにって、ナニ?」
「お前精霊を何だと思ってるんだ!!」
「精霊をボコォしてヒギィさせちゃダメだって法律がどこにあんだよ!!」
「こいつ!!」
ケダモノの本性を現したド変態から守るべく、クロユリは先制攻撃を加えた!!
「げふぅ!?」
「さ、早く逃げろ」
クロユリは怯えるナーエを逃がすと、地に伏した馬鹿をげしげしと踏みつける。
「このっ、このっ、少しは見境は無いのか貴様!!」
「お前、俺と付き合い長いくせに俺が見境が無いかどうかもわからないのかよ!!」
「そうだったな、お前には見境があったな!!」
「それにしてもお前」
くるりとクロユリの弱下段攻撃ハメを抜け出し、立ち上がった団長はにやにやと笑いだした。
「何だか懐かれてたな。ああいう赤ん坊は好きか? ええ?」
「うるさい!!」
「子供ができる確率って場合によるが、約18%らしいな。
六面ダイス二個振って四以下の出目が出る確率がそれくらいか。ガチャで金レアが出る確率の三倍だ。
お、こう考えると意外に出来るもんなんだな。
それを思うとお前ってなかなか運が悪――――」
その時、クロユリの鋭いキックが団長の股間に直撃した。
「ちょ、おま、それ、子供が出来なくなるやつ……」
「知るか、ふん!!」
機嫌を損ねたクロユリはずんずんと歩き去って行った。
勿論団長は地面で悶絶していた。
「こうなったら、精霊なら何でも……」
「そんなだんちょに、このコダイバナの特産品を持ってきました」
どこからともなく現れたランタナが、団長の目の前に霊獣を差し出す。
またも怯えている様子の、攻のアンプルゥだった。
「お前、お前ぇ……それは無いだろ、がくり」
力尽きて倒れた団長にはこれ以降、ナーエおよびツツジに近づいてはいけないと言う条例が部隊内で施行されたのだった。
とりあえずたくさんの戦友登録してくださった方々ありがとうございます。
ちなみに今回の話を通らなかったのが、IFルートになります。
短編連作の方も書きたかったのですが、この話書いてからじゃないとハロウィンの話書けないので。
これだけで作者がいかにいい加減か分かると言うもの。
所で皆さんはどのナーエちゃんが好きですか?
自分は青、次が赤ですね。運営さん、どうにかヒギィボコォさせてくれないかなぁ(←ド変態
それでは、また次回。