貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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二回連続で短編集でごめんなさい。
どうにもシリアスを書く気分にならなかったんです。

作者はウソツキではないんです、ただいい加減なだけなんです。

それでは、本編どうぞ。




短編集 交友編

『リンゴ団長VSマルメロ』

 

 

 その日、リンゴ団長率いる部隊は皆非番だった。

 

 持て余し気味の給料で贅沢したり、コンディションを整えて次の害虫討伐に備えていたり、仲間たちと遊興したり、と誰もが思い思いの休日を過ごしていた。

 そんなある日の出来事である。

 

「すみませーん。こちらにリンゴちゃんが居るって聞いたんですけどー」

 呼び鈴の音と共に若干間延びした声が宿舎の玄関の方から聞こえてきたのだ。

 

「はーい、どなたかしらー」

 それに対応したのはサクラだった。

 彼女が玄関の扉を開けると、酒気がむわっとやってきた。

 その酒気の主である訪問者はぽかんとしてサクラを見上げた。

 

「ええと、リンゴちゃんのお知り合いかしら?」

「さ、サクラさんですよね、お噂ははかねがねです~。

 聞きしにまさる可愛さで、むふぅ~~♪」

「あら、どういたしまして~」

 社交辞令ならともかく、相手が本気で笑みを浮かべてそう言ったのでサクラも満更ではない様子で微笑みを返した。

 

「あれ、その声はやっぱり、マルメロさんじゃないですか!!」

 ここに来て、訪問者の声を聞き届けたリンゴがやってきた。

 

「ああ、リンゴちゃん、ご無沙汰ですぅ」

「本当にお久しぶりですね!! ここの所あんまり会えませんでしたから」

「あら、やっぱり、リンゴちゃんの知り合いなのね」

「はい、サクラさん。こちらはマルメロさんと言いまして、まあとにかく立ち話もなんですから中へどうぞ」

 リンゴは友人であるマルメロが訪ねてきたことに喜び、中へと通すことにした。

 

 

「はい、これ、この間見つけた美味しいりんご酒です。

 ささ、一緒に飲みましょう」

「わあ、ありがとうございます!!」

 真昼間からお酒に誘われたと言うのに、リンゴは当たり前のように酒の席に着いた。

 

 昼間から酒を飲んでいるからか、見知らぬ来訪者が来たからか、好奇の目で遠巻きに彼女らを見る者が現れ始めた。

 

「最近はなかなか会えなくて私寂しかったんですよー、うへへ」

「私もですよ!! 最近はマルメロさんと可愛い談義が出来なくて物寂しかったんですから!!」

「えー、本当ですかー?」

 マルメロは酔いからかただでさえとろんとしいた目を細めた。

 

「ここに居るの、みんなリンゴちゃんの居る部隊の人たちですよね?

 こーんなかわいい人たちに囲まれていて、物悲しいなんてよく言えますねぇ~」

「えへへー」

「それに、聞きましたよー。

 私を差し置いて一緒に女の子ウォッチングしている人が居るって!!」

 マルメロのちょっと拗ねたような声に、周囲の面々はああリンゴちゃんの同類か、と一種の諦念の境地に達した。

 リムナンテスはぽわぽわと妄想に耽っていたが。

 

「それは、まあそうなんですけど……」

 とろんとした目で見られているリンゴは歯切れの悪い言葉を返した。

 

「これはもう、私に黙っていた罰としてリンゴちゃんは私の相棒になるしかないですね」

「ほう、それは聞き捨てならんな」

 マルメロの言葉に、満を持して我らが団長が現れた。

 

「旧友同士の語らいを邪魔するつもりはなかったんだが、この酔っ払い女め。

 俺からリンゴちゃんを奪うと言うなら黙ってはいられんな」

「むむむ、あなたがリンゴちゃんの団長さんですね!!

 むふっ、嫉妬ですか? かわいいですね」

 なぜか唐突に修羅場になった状況に、一番困惑しているのはリンゴだった。

 

「ふ、二人とも、私のことなんかで争っちゃダメですよ!!」

 女の子なら誰しも一度は言ってみたい台詞三位以内に入るだろう、私の為に争わないでという台詞を無意識に吐きながらリンゴはお互いに真っ直ぐ顔を向け合っている二人に言った。

 

「ふむ」

「では」

 しかし、マルメロがリンゴちゃんとほぼ同類ならば、この男ともまあ大体同類なのである。

 二人はリンゴを見て、示し合せたかのように頷くと、マルメロは席を立った。

 

「どちらがリンゴちゃんの相棒にふさわしいか、これから町に出てリンゴちゃんの可愛いところを洗い出しながら決めましょうか」

「望むところだ」

 マルメロの提案に団長は勝つのが当然とばかりで鼻で笑うと、二人は同時にリンゴちゃんの両脇をがしっと掴んだ。

 

「え、え?」

 どなどな、と二人に引きずられて連行されるリンゴだったが、当人は何が起こったのかと言わんばかりの表情だった。

 

「ちょ、だ、誰か、助けてくださーい!!」

 リンゴの叫びもむなしく、彼女を連れて二人は玄関の扉を開けて消えて行った。

 

「息ぴったりじゃない」

 呆れたようなキルタンサスの言葉に、皆が一斉に頷いたのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

『お約束!!』

 

 

「ふぁ~」

 その日、来客があると言うことで実験室の中を見られる程度には片付けた花騎士ローズマリーは一仕事終えて欠伸をした。

 

「おーい、ローズマリーちゃん。今日は起きてるかーい」

 ゴミ袋を片付けて、身だしなみを整え終えたところで丁度、此度の客人が来訪したようだった。

 

「失礼だな団長。私はいつも寝ているわけではないのだが」

 ローズマリーが寝泊まりしている研究所の玄関を開けると、知り合いのリンゴ団長のほかにもう一人。

 

「どうも、視察に来ました。ローズマリーさん」

 自分にこの研究所をぽんと与えた男、チューリップ団長がなにやらわくわくした様子でやってきていた。

 

 

 

「所望の品のリストに大釜はなかったから無いとは思ったけど、やっぱり無かったか」

 チューリップ団長は何を期待していたのか、研究所内を見回って勝手に落胆していた。

 

「一体お前は何を期待してたんだよ」

「いや、もっとこう、大きな鍋でぐーるぐーるってやっているものかと」

「それってどちらかって言うとイエローチューリップちゃんのイメージじゃねーの?」

「黄姉さんに大量生産の仕事なんてさせるわけないじゃないか。

 あの人の本分は自由な発想からの開発だよ。十を百個作るんじゃなくて、ゼロを一にするのが仕事さ」

 二人の団長は視察を終えて、そんなことを話していた。

 

「ねえねえローズマリーさん、研究が行き詰ったらホムンクルスとか作ってみない?

 研究費の捻出は惜しまないからさ!!」

 チューリップ団長を見てローズマリーは思う。最近マッドサイエンティストっぽいからと自分を慕う花騎士ウルシに言ってやりたい、研究者にあらぬこの男こそが本物のマッドだと。

 

「技術的には勿論、人道的観点から不可能だろうな、それは」

「なんだよそれ、そんなこと言っている余裕なんて人類には無いはずなのに。

 花騎士を量産できるかもしれないならやってみようと思わないのかな」

 と、このマッドは言った。自分をリリィウッドまで引っ張ってきたくせに、この国ではまず認められないようなことを平然と言うのである。

 

「あ、今のは別にあれだからね、俺の妄想だから。

 ロースマリーさんは気にしないで。のびのび研究してくれていいんだよ。幾らでも出資するから、納期とかも気にしないでね!!」

 そして何を思ったのか慌てて彼はそう言った。

 

「別に無理に出資をしてもらわなくても……。

 正直、そこまで私の研究など騎士団では役に立たないだろう?」

 ローズマリーは自分の研究がいかに荒唐無稽か理解している。

 目の前に居る二人を含め、多くの理解者に恵まれている幸運もだ。

 だが、自分勝手な動機の研究なのだから、自分勝手な研究に他人を巻き込むわけにもいかないとも思っていた。

 

 紆余曲折の果てに研究者でありながら花騎士となったローズマリーだが、結局研究資金を稼げるから花騎士をやっているだけなのである。

 それなのにこのマッドは偶に害虫などに対する見地を求めて出張を求めるくらいで、研究設備や資金を惜しげもなく彼女に注ぎ込むのである。

 無私で出資すると言うストレリチアとは違い、騎士団の為に研究を役立ててほしいからと言う利害一致の為引き受けたのだが、どちらかというとこの男と周りの趣味に活用されていることが多い気がしていた。

 

「俺が好きでやってることだから、ローズマリーさんは気にしないでいいよ」

 と、チューリップ団長は笑顔で言った。

 もっと大規模な研究に熱を入れているのは知っていたが、それでいてローズマリー個人に出資しているのか彼女には分からなかった。

 

「ハッキリと言わせてもらうが、錬金術など廃れていく一方の技術なのだがな」

「だからこそ、だよ。俺の故郷にも錬金術は有ったけど、科学技術の発展で完全に文献だけの存在に成り果てたから」

 ああ、とローズマリーは理解した。

 この男が出資する理由は、錬金術師だから、なのだ。

 つまり、失われていく伝統芸能を保護するようなものである。

 

 研究以外の煩わしい出来事の大半を引き受けてくれているので感謝しているのだが、その点だけ少し落胆した彼女だった。

 要するに彼はローズマリーに研究成果を求めていないのだ。

 

「前から思ってたんだけれどさ」

 そこで、二人の会話を見守っていたリンゴ団長が口を開いた。

 

「不老不死って実際の所可能なのか?」

 彼は己の疑問を二人に口にした。

 

「仮に不老不死の肉体を得たとしても、だ。

 害虫に食われても、害虫の腹の中で生き続けるのか?

 そんなのただの地獄だぜ。俺はローズマリーちゃんの気持ちは分かるが、その辺がよく分からんのだが」

 この研究所に身をやつす前にほそぼそと彼女を支援していたリンゴ団長は、リアリストの彼らしい疑問を投げかけた。

 

「私の目指している場所が不透明なのでまだこうとは言えないが、その意見は参考にさせてもらうよ」

 ロースマリーの研究の深淵はまだ遠く、そこすら見えない手さぐりの状態だ。

 不老不死の形がどのようになるかまでもまだ不透明。研究の終わりはまだまだ遠く果てしない。

 

「俺は、可能だと思うよ」

 しかし、ローズマリーも可能か不可能かすら見通せないと言うのに、チューリップ団長はそのような言葉をあっさりと口にした。

 

「本当かぁ?」

「リンゴ団長だって不老の実例を知っているだろ?

 不老が可能なら不死だって出来るはずさ」

「シロタエギクさんとかなぁ、彼女も長く一か所に留まれないらしいから大変だよな」

「先輩は本当に夢の無い事ばかり言うよね」

 懐疑的な視線を向けるリンゴ団長に、チューリップ団長はため息を吐いた。

 

「そもそも、俺の故郷じゃ錬金術は石ころを黄金に変えるみたいな技術だってだけじゃなくて、思想的な部分があったのさ」

「と言うと?」

「黄金に変えるのは人間の魂、それによる上位の存在への昇華ってな感じでね。

 要するに、ただの人間を精霊のような肉体を超越した上位存在に昇格させるみたいな感じなんだよ」

「なるほどな、精霊になれば害虫に食われることも無いわけか」

「これって、何かに似てると思わない?」

 彼のその言葉に、リンゴ団長もはたと表情を変えた。

 

「なるほど、花騎士か。

 彼女らは己の中の世界花の加護を窮めることによって、ある種の精霊に近づいていると解釈しているんだな、君は」

 代わりにロースマリーが答えを口にした。

 世界花という神格化されている存在に直接力を分け与えられている彼女らは、ある意味では神の使徒。人間より上位の存在に近しいという考えは妥当だった。

 

「その辺に関して、千年前の伝承についてマロニエさんと一緒に研究しているんだけれど。

 これがいつも盛り上がってさ、この間プロテアさんに仲が良いんですねって毎回―――」

 楽しそうに語り始めるチューリップ団長を見て、ローズマリーは思った。

 彼は本当に好きで自分に出資しているんだな、と。彼ののろけに彼女も思わず苦笑した。

 

「あ、そうだ。忘れるところだった」

 チューリップ団長は、外からそれを転がして持ってきた。

 

「さあ、ローズマリーさん。言え、言うんだ」

「なっ、私が言っても可愛くないぞ……」

「いいから言うんだ!! 言わないならもう出資はしないからね!!」

 彼は真剣な表情で、脅迫してきた。完全にパワハラである。

 

 くっ、とローズマリーは羞恥に耐え、彼が持ってきた円筒形の物体の前にしてこう言った。

 

「たーる!!」

 

 

 

 §§§

 

 

『怪盗一味と吸血鬼の館』

 

 

「ここが噂の吸血鬼の館ですか」

 その日、リリィウッドの一等地にある高級住宅街の隅っこにひっそりと存在する屋敷に名探偵こと花騎士ストレプトカーパスと彼女の助手を自認する花騎士メギがやってきていた。

 

「ここが次のワルナスビさんたちの標的らしいですが、予告状を送られたと言うには静か過ぎやしませんかね」

 事の発端はストレプトカーパスが怪盗を称するワルナスビたち一味がこの屋敷に予告状を送りつけてきたと言う情報を仕入れてきたからだった。

 これまでにいくつもの事件を解決してきた二人だったが、二人の経験上大抵の場合予告状を送られた屋敷などはそのことを理由に屋敷の主などが衛兵に警備を頼んだり、後ろ暗いことがあったりプライドの高い貴族が相手なら己の財力で人を雇い警備が物々しくなったりするのだが、この屋敷にはそう言った気配が微塵も無かった。

 

「メギ、この屋敷について調べておいてくれたかい?」

「ええ勿論」

 門番さえ居ないことを良い事にストレプトカーパスが敷地周辺を色々と物色しているのを視界に収めつつ、メギは調べ物の成果を記した手帳を開いた。

 

「どうやらこの屋敷の主はリリィウッド建国当初より存続している名門中の名門貴族らしく、何十人もの元老院議員を輩出している上級貴族らしいのですが……」

「こんな薄暗い隅っこに追いやられているのを見ると、かつての栄華は今はないようだね」

 こう見えていいとこのお嬢様であるストレプトカーパスは、日の当たりの悪さや立地の悪さからこの屋敷の住人が貴族社会からどのような扱いを受けているか大体察していた。

 

「ええ、何百年か昔に王家が腐敗した貴族を大粛清した事件の折に、当時の当主が住んでいた屋敷に踏み入った役人たちは相当ひどい物を見たらしく、その当主は火炙り、一族は名誉と財産を没収されています」

「血統だけ残して飼い殺し、か。

 血統や御家が重視されるリリィウッドらしいね。家や血の断絶の実例を作りたくなかったと言うわけか」

「はい、ですので現当主までも厳しい財産の制限を受けているようです。

 この家に盗みに入って価値のある物を得られるとは思えないのですが」

 メギの言葉にストレプトカーパスは、なるほどと頷いた。

 

「現在この屋敷に住んでいるのは当主とその血縁者が五人、代々この家に仕えている家系の使用人が数人。

 上級貴族には有り得ざる質素さですね」

「では、入り込むのは逆に困難と言うわけか」

 普通貴族と言うのは別邸を含めて何十人もの使用人を抱えているものだ。

 当然、全員が全員と顔見知りというわけではないし、入れ替わりも多い。

 ワルナスビ達の手口は、こう言った使用人に変装して屋敷に侵入するというパターンが多い。

 だがこうして全員が顔見知りの場合、変装して侵入するというのはリスクが高い。

 別の手を取るだろう、と名探偵は睨んでいた。

 

 一通りの情報を確認すると、二人は呼び鈴を鳴らした。

 からんからん、と乾いた音が鳴り響き、屋敷の中から陰気な年老いた家令が門の前まで出向いてきた。

 ストレプトカーパスは彼に話しかけた。

 

「見たところ花騎士とお見受けしますが、このような屋敷に何用でしょうか」

「この屋敷に怪盗の予告状が届いたと伝え聞いたのですが、名探偵の助力は必要でしょうか?

 ああ勿論、お代などは結構です。こちらは善意でやっているので」

 善意と言うより、趣味で、じゃないのかとメギは思ったが口にはしなかった。

 そもそも、自ら名探偵を名乗るのはどうなんだろうか。

 本物の探偵の本業は素行調査や失せ物探し等々。華々しい探偵小説の内容とは無縁だ。

 それに二人は探偵事務所を開いているわけでもない。歩いていれば殺人事件に当たり前のように出くわすわけでもない。

 

 花騎士の給料で食べてはいけているが、向こうが怪盗ごっこならこちらは名探偵ごっこである。

 無論、だからと言ってメギはストレプトカーパスの熱意や能力は否定しないが。

 ところが、である。

 

「そのようなことは有りません。お帰りください」

 年老いた家令はそれだけいうと、さっさと踵を返して屋敷の中へと戻ってしまった。

 

「だ、そうですが。カーパスさん」

 棘のある視線をメギは相棒に向けた。

 これまでいくつもの事件を解決してきた二人だが、その渦中の人物たちに歓迎されていたかと言えばそうではなかった。

 探偵なんて胡散臭い職業より、花騎士として戦力に数えられた方が多かった。

 そして今回はそれすらなかった。メギの態度も当然と言えた。

 

「ふむ、これは困ったね。予告状が来たこと自体を秘匿するパターンか。

 名探偵も舞台から締め出されては立つ瀬が無い」

「それより、予告状が来たという話の情報源を教えてくれませんか?」

「初歩的なことだよ、メギクン」

 有名な探偵小説の名台詞をキメ顏で言ったストレプトカーパスはこう続けた。

 

「妙に張り切っている様子のワルナスビ達に、どうしたのかと聞いたら教えてくれたのさ」

 その言葉に思わず脱力したメギを責められる者はどこに居ようか。

 

「さて、謎はいくつかあるが、目下一番気になるのは……彼女たちは一体何を盗み出そうとしているのかな?」

 名探偵の最良は、事件を未然に防ぐことである。

 殺人事件などは起こらない方がいいのだから。

 

 だが、こうなった以上、名探偵の取れる選択肢は限られてくる。

 例えば多くの名探偵が必要とされる状況……そう、事件が起こってから、とか。

 

 

 

 §§§

 

 

「ふっふっふー♪ 見た見たラークちゃん!!

 カーパスたちが成す術なく退散していったよ!!」

「もちろんですぱ、ワルナスビ様!!」

 屋敷の影から帰っていく二人の姿をこっそり盗み見ていたワルナスビとラークスパーの二人は、彼女らを出し抜いたとご機嫌だった。

 

「カーパスたちも、まさか予告状を出す前から屋敷に潜入しているとは思うまいですぱ」

 この二人も、さしもこの屋敷に変装して侵入するのは難しいと言えた。

 普通に潜入しようとも、各所に警報装置や警備用ゴーレムが配置しており、単純に変装して侵入は不可能だった。

 一見すれば警備も無く手薄に見えるが、内側に入れば二人が侵入したどの屋敷よりも防犯設備が充実していた。

 

 その事実を下調べの段階で知った二人は、どうやってこの屋敷を攻略すればいいか頭を悩ませた。

 そこで二人は考えた。真正面から堂々と調べればいいのだと。

 

「あ、ラークちゃん、そこに置いておいた雑草のゴミ出しといて」

「了解ですぱ、ワルナスビ様!!」

 と言うことで、二人はギルドから派遣されてきたハウスキーパー兼庭師として普通に働いている真っ最中だった。

 

「うーん、この辺をもうちょっと切った方がかっこいいかな……」

「ワルナスビ様、ゴミを捨てて来ましたですぱ」

「うん、感謝するぞ、我がスクワイアよ!!」

 普通に真面目に庭仕事をしていた……。

 

 とは言え、何日もかけて入念に屋敷の構造を調べた結果、案外あっさりと侵入経路を探る事が出来た。

 そして目的の代物の場所も。

 

 

 

 

 深夜、闇に蠢く漆黒の華が二輪。

 

 月明かりのみが窓から差し込む屋敷の中に怪盗ナイトシェードことワルナスビとラークスパーは忍び込んでいた。

 

「く~っくっく、昼間からこっそり警備システムに細工しておいたのだ~!!

 家人も当直以外は寝ている時間!! 予告状送ったのにね!!」

「怪盗ナイトシェードからの予告状を無視したことを目にもの見せてやるですぱ!!」

 薄暗い屋敷を進み、目的の場所へとやってきた二人。

 

 そこは書斎だった。

 二人が屋敷の中で仕事をしている時には鍵が掛かって一度も入れなかった所である。

 この部屋は掃除しなくていいのかと尋ねたら、決してこの部屋に近づくなと、と年老いた家令に言い含められた。

 

 他の場所に怪しいところは無かったので、目的のものはこの中にあると当たりをつけたのである。

 

「ふふふ、今回の一件に成功すれば、我が祖父に一人前として認めて頂けるのだ!!

 行くぞ、我がスクワイア、怪盗ナイトシェードのお出ましだー!!」

「了解ですぱー!!」

 書斎の鍵あけを終えると、二人は中へと突入していった。

 

 

 それから、約十五分ほど経った頃だった。

 

「ふむ、二人は思いのほか手こずっているようだね」

 月明かりが闇夜に潜む者たちの正体を暴く。

 即ち、先の二人をこっそりと尾行してきた名探偵コンビだった。

 

「カーパスさん、これってどう考えても不法侵入……」

「私たちはこの屋敷に侵入する不埒な怪盗を見つけたので追いかけてきた花騎士、違うかねメギクン?」

「はいはい……」

 色々な文句を飲み込みつつ、メギは書斎のドアを開けた。

 

 中には二人は居なかった。

 

「ふむふむ、先に入ったはずの二人は行方不明、と」

「隠し扉でもあるんでしょうか」

「もしくは地下室の入り口かな? 何だか実家の家宝の一件を思い出させられるね」

 持参したランタンに魔法で火を入れ、書斎を探索し始める二人。

 

「カーパスさん、これって……」

「なるほど、これが吸血鬼の正体か」

 書斎には様々な屋敷の主の血統についての記録などが残されていた。

 

「かの御仁は熱心な害虫の信奉者だったらしい」

 ストレプトカーパスが本棚の一つに灯りを近づける。

 どれもがリリィウッドで禁書指定された害虫信仰に関する書籍ばかりだ。

 異世界に対するアプローチや生贄の儀式、教義など等、単なる信奉者とは言えないレベルの研究や思想が存在していたようだった。

 

「まさしく、カルトの教主だったのだろうね」

「そしてこれがその当時のカルトのメンバー表ですか。

 見てくださいよ、何人もの貴族の家系らしき名前が有りますよ」

「何とも分かりやすい汚点だね。

 このことが表沙汰になるのを嫌う者も多いだろう」

 二人がそんなことを話していると。

 

 唐突に、本棚の二つがごごごごと左右に動いた。

 その奥には地下への階段が隠されていた。

 そして。

 

「わあああぁぁぁぁん!!!」

「ですぱぁぁぁぁぁぁ!!!」

 何やら血相を変えてワルナスビとラークスパーが地下の階段を駆け上ってきて、そのまま書斎のドアを開けて逃げて行った。

 あまりに慌てていたのか、二人に気付いてすらいなかったようだ。

 

「一体何が」

「危ない、メギ!!」

 地下への階段へ不用意に近づいたメギの襟をカーパスは引っ張った。

 

 暗闇に何かが飛来する。

 ランタンの明かりにきらりと光るそれは、ナイフだった。

 それも投擲によって飛来しているのではなく、魔法によって自在に空中を飛行する代物だった。

 

「魔法で動くナイフ!? 危ない!!」

「どれ、私が何とかしよう」

 一直線に向かってくるナイフの前にストレプトカーパスは躍り出た。

 

「名探偵のたしなみ、即ち、バリツ!!」

 マーシャルアーツ+キック=破壊力!!

 彼女の見事な回し蹴りによって、ナイフは撃墜され床に刺さった。

 

「カーパスさん、そんなキャラでしたっけ?」

「ふふっ、文句なら私を引けなかった作者のガチャ運に言いたまえ」

「は、はぁ」

「そんなことより、吸血鬼のお出ましだぞ」

 彼女が顎をしゃくると、地下室への階段から黒い影が現れる。

 

「よくも我の眠りを妨げたなぁ」

 おどろおどろしい格好の男が地の底から響くような声音で這い上がってきた。

 

「我々は演者ではないよ、キンギョソウ団長」

「ほう、予定にはない来客か」

 男は演技を辞めると、スッと立ち上がった。

 その背後からきゃぴきゃぴした声も聞こえた。

 

「あははは、見ましたかお兄様!!」

「ですぱー、ですって!!」

「おっかしーわ、きゃはは!!」

「もうちょっと脅かせばよかったのに!!」

 若い四人の少女たちが現れる。

 そのいずれも花騎士かそれに準ずる者たちだと二人は感じ取った。

 

「この騒動、あなたが仕組んだことなのだろう?

 どうやって焚き付けたかは分からないが、あの二人をこの屋敷に盗みに入らせたのはあなたの仕業と言うわけか」

「聞きしに勝る慧眼であるな、名探偵。

 左様、だが我が仕組んだと言うのは誤りだ。

 かの者も祖父と我が一族には親交があってな。散逸した我が祖先の負の遺産の収集に一役買って貰っていたのだ。

 この茶番は彼のたっての望みである」

「なるほど」

 謎は全て解けた。

 要するに、此度の一件はワルナスビの祖父が仕組んだ試練だったようだ。

 

「しかし、この有様では彼女に祖父の仕事を引き継いでもらうにはまだまだ早そうであるな」

 キンギョソウ団長は、やれやれと首を振った。

 すると、外からガッシャーン、と何かが割れるような音と悲鳴が聞こえてきた。

 

「最後の罠に掛かったようだわ、お兄さま」

 彼の妹の一人が、くすくすと意地悪くそう言った。

 

 

 

「あぐぐ……」

「ですぱー……」

 外に出ると、彼女らの侵入経路があった二階の部屋の壁に穴が開いており、なぜかベッドに押しつぶされて庭に倒れている二人が居た。

 

「これは、少々やり過ぎでは?」

 二人は花騎士だから目を回して気絶する程度ですんでいるが、一般人なら運が悪ければ即死していたかもしれない。

 そんな悪意ある仕掛けにメギは呆れていた。

 

「さて、演目も終わった。

 この二人は連れて帰ってもらおうか」

「ところで、あの地下への奥には?」

「研究成果が有るだけだ。世にもおぞましい吸血鬼のな」

 そう答えた団長の言葉には、憂いに似た何かがあった。

 

 その後、ワルナスビとラークスパーのコンビは次こそは成功させてやると彼の部隊にやってくることとなったのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マルメロさんのキャラクエがまんまリンゴ団長とリンゴちゃんがやってることで笑いましたww
リンゴちゃん枠かと思いきや既に知り合いだったと言う。
あの花見イベントで倒れた団長って絶対チューリップ団長だろうな、と思わずにいられないしだいです。

カーパスさん持ってないので、ちょっとだけはっちゃけさせましたが、まあご愛嬌ということで。
それでは、また。次は書きたいことを書こうと思います。

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