貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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ログインできねぇええええ!!
だから短編書けちゃいましたよ、もう!!

まだ小ネタはいくつかあるけど、優先度の高い奴を書きました。
今日の小ネタは三話。三話目にこの間のクイズの答えが有るよ!!



小ネタ集 裏話編

『悪い男と幼馴染』

 

 

「気付かれてないわよね」

 花騎士ピラカンサはその日、幼馴染であるリンゴの後をつけていた。

 彼女が何でそんなことをしているのかと言うと、勿論理由が有った。

 最近、リンゴが悪い男に引っかかっているという話をピラカンサは同僚から聞いたのだ。

 

 二人の実家はこのリリィウッドでも近所で、自国の騎士団に出勤する時も大体顔を合わせる。

 花騎士は各国を転属したり任務で向かったりするので、大抵専用の宿舎が有るのだが、それは勿論外国の花騎士の為に利用される。

 だと言うのに、ここ最近リンゴは転属を機に自国の騎士団の宿舎に引っ越し、利用しているのである。

 それからだった、彼女の周囲にその悪い男の話が出てくるようになったのは。

 

 リンゴの部隊は余程忙しいのか、せわしなくあちらこちらに討伐に向かっており、ピラカンサの都合もあり噂の真偽を把握することもできずに一年以上も経過していた。

 決して、彼女が実装されてから半年以上経ってリンゴの幼馴染と言う設定に作者が気付いたというまぬけな話ではない。無いったらない。でも幼馴染とかいう重要な設定はちゃんとイベントで明言してほしかったです。

 

 こうして彼女をつけているのも偶々町でリンゴを見かけたからだった。

 直接噂の真偽を確かめても良かったのかもしれないが、流石にいきなりプライベートに踏み込むのは気心の知れた幼馴染が相手でも躊躇われた。

 ここしばらく会うことすらできず、距離を感じていたピラカンサには余計に。

 

 最近のリンゴは優秀な騎士団長の元で副団長をしているらしく、己をリンゴ団長と称するぐらいに可愛がっているという話だった。

 それだけ目を掛けられていながら悪い男に引っかかるリンゴもリンゴだが、それについてずっと対処をしていないと思われるその騎士団長に怒りすら覚えた。

 

 花騎士の給料なら男に貢ぐくらい十分可能だ。

 その上リンゴは中位騎士だ。一般人の十倍くらいの収入は有るし、討伐の頻度からしてもっと手当を貰っているはずだ。

 

 リンゴは休暇になると大抵その男と一緒になって城下町で遊んでいるそうだが、あろうことかその男はその最中に他の女の子に声を掛けてリンゴをそっちのけにすると言う。

 これで義憤を抱かぬピラカンサではなかった。

 それ故に彼女は、おせっかいを承知でその現場を押さえ、その男を糾弾する算段だった。

 

 リンゴが待ち合わせ場所らしきリリィウッドの広場で待っていると、件の男らしき人物と合流し、そのまま二人は商業区へと向かって行った。

 

「何だか、変ね……」

 二人の様子を見て、ピラカンサは呟く。

 そう、変だった。

 

 この二人、商業区に居るのに特にショッピングを楽しむでもなく時々立ち止まって何やら会話を交わすぐらいで、何を目的にしているのか傍から理解できなかった。

 

「それにしても、リンゴの奴、男の人と一緒でもあんな顔するんだ」

 彼と一緒に過ごしているリンゴは、それはもう楽しそうに笑っている。

 単にデートをしているだけにしか見えないのに、ピラカンサは幼馴染の知らない一面を見た気がした。

 

 そうして観察を続けていると、二人は二手に分かれた。

 リンゴはベンチに座ってひざ掛けを掛けて本を開いて読書を始め、男は近くに居た別の女性に話しかけ始めたのである。

 

「あ、あの男、リンゴを蔑ろにして!!」

 どう見ても可愛い女の子を見つけたのでリンゴに待たせてナンパをしに行ったの図だった。

 しかし、ここでピラカンサは違和感に気付いた。

 

「うん?」

 読書をしていると思われたリンゴが、男と話しかけている女性を凝視していたのである。

 それはもう穴が開くほど。ひざ掛けにはだらだらと鼻血が零れているが、顔の位置に本を持ってきているからか特に騒ぎにはなっていなかった。

 

 真相を確かめる為、ピラカンサはさり気なく接近すると、男がリンゴの元へと帰ってきた。

 

「なあリンゴちゃん、今の子どう思う?」

「リンゴちゃん的にはなかなか。そちらはどう思いました?」

「七十点かなぁ。普段からうちの連中を見てると目が肥えて仕方がないぜ」

「じゃあ次は訓練所近くに寄りましょうか?」

「ああ、こうしてキャッチ&リリースを繰り返すと、うちがどれだけレベル高いか思い知らされるな」

「美人は三日で飽きる、なんて言葉ありますけどサクラさんとか私、未だ近くに居るとドキドキしますしね!!」

「あいつの場合、俺も直視できんから三日分カウントするにはまだまだ掛かりそうだ」

「分かります、キラッキラしてますもんね!!」

「ああ、キラッキラしてるなぁ」

 ピラカンサがその会話の内容にぽかんとしていると、不意に背後を振り返った彼と目が合った。

 

「じゃあ今回はリンゴちゃん好みの子だったから、次は俺好みのロリっ子を探すか……お?」

「げッ」

 ピラカンサは慌ててウインドウショッピングをしている風を装った。

 

「おいリンゴちゃん、次はあの子にしようぜ!!」

「むむッ、このリンゴちゃんの美少女センサーに引っかからずにいるのはどこの女の子でしょう!!」

 さささっとリンゴちゃんブラッド塗れの腰掛を畳んでしまうと、リンゴはとうとう彼女を発見した。

 

「あれッ、ピラカンサちゃんじゃないですか!!」

「うん? 知り合いか?」

「私とピラカンサちゃんはご近所同士で、幼馴染なんですよ」

「ええッ、リンゴちゃんに幼馴染なんて居たの!? マジかよ!!」

 作者が実装後半年経って初めてピラカンサの設定を知った時のようなリアクションを取りながら、彼は二人を見比べた。

 

「ピラカンサちゃーん!!」

 リンゴは無邪気に笑ってピラカンサに駆け寄った。

 

「あ、あれ、リンゴじゃない、き、奇遇ね」

 どこか目を泳がせながらピラカンサはそう答えた。

 

「ふむふーむ、流石リンゴちゃんの幼馴染、レベル高いな」

 値踏みするような視線を隠そうともせず、彼は彼女を上から下まで観察する。

 

「ピラカンサちゃん!!

 紹介しますね、この人が私の所属している騎士団の団長さんなんです!!」

 それを聞いた瞬間、ピラカンサは一瞬眩暈を覚えた。

 

「こ、この人が、リンゴの団長……?」

 信じられないようなモノを見るような目つきで、ピラカンサは彼を見た。

 

「おう、今日は休日で私服だけどな」

 ピラカンサが動揺するのも無理は無かった。

 この男の悪評はあくまで団長たちの間で有名であって、花騎士たちには命知らずのヤバイ奴ぐらいしか思われていないのだった。

 

「ど、どうも、あたいはピラカンサです。リンゴがお世話になっています」

 一応目上の人物なので、ピラカンサは礼儀正しく一礼した。

 

「そ、それで、今日は何をしてたの? で、デートかな?」

「まあ、そんなところかな。

 それにしてもリンゴちゃんも水臭いぞ、こんな可愛い子が幼馴染に居るなんて」

「ごめんなさい団長さん、何と言うかピラカンサちゃんを紹介するって発想が無くて。

 何と言うか、昔から一緒に居るからか、むっはーしないと言いますか」

 そこまで言ってから、ハッとなってリンゴは団長にこう言った。

 

「団長さん、ピラカンサちゃんだけはダメですからね!!」

「おッ、リンゴちゃんからダメだしとな?

 この俺的に86点の美少女に手を出すなと?」

「ダメなものはダメなんですー!!」

「はっはっは、可愛いなリンゴちゃん」

 何やら慌てた様子のリンゴに団長はにやにやと笑ってうんうんと頷く。

 

「ささ、ほら、ピラカンサちゃんも!!」

 リンゴに押しやられ、団長と引き離されるピラカンサ。

 

「え、どうしたの、リンゴ」

「ピラカンサちゃん、団長さんはどうしようもない変態ロリコンドスケベエロ魔神なんですから、近づいちゃダメです!!」

「あ、うん」

「それじゃあ、またそのうちお手紙出しますんで、一緒に食事とかしましょうね!!」

 それだけ言って、リンゴは彼の元へと戻ってしまった。

 

「あたいっ子か、花騎士じゃなかなか居ないタイプだな。ポイント高いな」

「団長さん、私は団長さんが誰と何人関係を持とうとお近くでむっはーできればそれでいいですけど!!

 断じて、ピラカンサちゃんだけはダメですからねー!!」

「はははは、幼馴染と比べられるのだけは我慢ならんとな。

 よーし、今夜はいっぱい比べまくってやるぞー」

「やめてくださいー!!」

 ピラカンサは、賑やかに去っていく二人をぽかんと見送る事しかできなかった。

 

「……もう、リンゴが楽しそうだから良いか」

 言いたいことは沢山あったが、結局何も言えずに終わってしまった。

 ただ、一つだけ分かったことが有った。

 

「やっぱり、リンゴがおっさんだったらアウトね、うん」

 86点かぁ、とピラカンサはちょっとにやにやしながら帰路についた。

 

 

 

 

『さようなら、リンゴ団長 “馬車の中の悪だくみ”編』

 

 

 がたごと、と揺れる馬車の中で五人の男女が向かい合って座っていた。

 

「計画のおさらいをしましょう。

 急に仲間に引き入れた者も居ることですし」

 団長と二人で座るアイリスが、対面側に座るロータスレイクの面々にそう切り出した。

 

「まず、この度俺がロータスレイクに戸籍ごと移籍し、新しい祖国の騎士団長たちをまとめる立場をハス様から頂いた。

 ハス様曰く、花騎士の質はともかく現在幾つかある騎士団そのものは他国に劣るものらしい。

 俺の仕事はそれをどうにかすることになるわけだ」

「団長さん、おめでとだおー!!」

 無邪気に笑顔で拍手を送るのは、リシマキアに続いて現地の協力者の一人、ミズバコパだった。

 

「ミズちゃんも聞いているだろうが、大人しく俺は仕事をして余生を過ごすつもりはない。

 無論、ロータスレイクにこの魂は捧げることはそちらで信仰されている眠り姫に誓っても良い。

 王家と臣民たちに忠誠を誓うし、この血肉の一遍まで害虫を殺すことに使わせてもらうことをまず理解しておいてほしい」

 静かにそう語る団長は、目の前に座る三人にそう言った。

 リシマキアは早く本題に行けと言う表情をしている。

 ミズバコパはにこにこしている。

 そしてもう一人は険しい表情で彼を見ていた。

 

「君らはもう既に他国の花騎士と共闘したことがあるだろう?

 彼女らと共に戦うことが我が新しい祖国に必要なことだ。

 だが、ハッキリと言おう。彼女らは消耗品だ」

 怒りを滲ませた声で、団長は言い切った。

 

「害虫を殺す為の道具だ。現状を維持する為だけの道具だ。

 千年後に害虫を滅ぼせたとして、必要な犠牲だったと言われるだけの存在だ。

 これまで千年身を賭して戦い続けてきた花騎士たちと一緒にな」

 そこまで言ってから、息を整えた。

 その言葉を言うだけでどれだけ彼が荒々しかったか窺えるものだった。

 

「今の上層部は、各国はそれを良しとしている。

 終わりなき消耗戦を受け入れている。俺は、それが許せない!!」

 現状打つ手が少ないのもまた事実だが、もし仮に害虫に有効な画期的な手段が出来たとして、これまでに死んでいった者たちの奮闘は無駄ではなかった、と言われて終わりなのだ。

 そして記念碑などの石ころに名前を刻まれて、悲しみは時間と共に消えて行く。

 

「その為に、上層部の改革が必要だ。

 別に連中の全員の首を差し替えたいわけじゃない。

 あいつらは受け入れている、犠牲を強いるこの現状に。

 何か画期的な改革の案が有るわけじゃない。俺は彼らの意識を改めたいのだ」

「つまり、何かが劇的に変わるわけではない、と?

 その為にあなたはこんなことをしでかそうと言うわけですか~?」

「強力な手札を持っていても、持ち主が弱気ならば勝てる勝負も勝てないのは道理だろう?」

「確かに」

「俺はその負けを減らしたいのだ」

 その答えに、リシマキアは楽しそうに頷いた。

 彼女のお気に召す答えだったようだ。

 

「これを実行するに辺り、俺は強力な後ろ盾と発言力が必要だと判断した。

 その為に我が君は実に都合のいい相手だった。色々と変わる必要のある新しい祖国と言う状況も利用できると思った。

 できる、と思ってしまった。なら、やるしかないだろう?」

「その為に、ハス様の御心を踏みにじると言うのですか?」

 己が忠誠を誓うと言ったその口でその相手を利用しようとしていることを、三人目の協力者として呼ばれてきたハスの側近たる花騎士カキツバタには許容できない事だった。

 

「ああ、全てにおいてハス様は都合が良かった。

 彼女の婚約者となり、一国の騎士団全てを統括する存在となれば、公僕でしかない他国の上層部の連中相手に主導権を取りやすくなるからな」

「ゲームに勝利するのに重要なのはいかに盤面を支配するか、ですからね」

「ああ、それは実戦に通ずるからな」

 団長は腕を組んでリシマキアに頷いてみせた。

 

「……私は、やはり賛同できません」

 黙考の末にカキツバタはそう答えた。

 

「私の幸せはハス様の幸せです。

 私はハス様の幸せを切に願ってきましたから。

 団長さん、どうしてもそれはしないといけないのですか?」

 そう言った彼女の表情は悲痛なものだった。

 団長の主張も正義が有り、その内容も分からなくないのだろうことはその顔が物語っていた。

 

 

 沈黙が舞い降りた。

 

 

「おや、ここに来て仲間割れですか?」

 リシマキアの笑みにサディスティックさが宿った。

 この状況を楽しんでいるようだった。

 

「えっと、団長さんごめんなさい、ミズがこの話にカキツバタが必要だと思ったから」

 どうする? とアイリスと目で会話をしている団長を見て、不穏な空気を悟ったのかミズパコバがおずおずとそう口にした。

 

「うん? 良いんだよミズちゃん!!

 ミズちゃんは可愛いからね、全部モーマンタイ!!

 可愛いは正義、ロリっ子はジャスティスだからね!!」

 すると団長がそんな冗談とも取れないようなことを言い出した。

 

「ごほん、私が最後の不安要素を解消する為にあと一人協力者が欲しいと言ってしまったのが悪いのでしょう」

 そしてアイリスが大人の対応をした。出来る女である。

 

「どうしてもしなくてはいけないのか、だったか。カキツバタちゃん。

 その質問に答えよう。俺に何もしないと言う選択肢は無いのだ」

 それを聞いて、俯いていたカキツバタは顔を上げた。

 

「俺はかつて、指揮官として最もしてはいけない選択をした。

 その結果、多くの同胞を失った。これは俺の償いであり、宿業なのだ」

「その選択とは?」

「何もしない、という選択だ。

 俺の師匠も言っていた。考えることを止めてはいけない、と。

 俺は考えた結果、悪い勝負ではないと思った。不可能ではないと思ってしまった。

 なら、俺はやるのだ。やるしかないのだ。俺にはその機会があるのだから」

 団長は笑っていた。

 その笑みから得体の知れない凄みを感じたカキツバタは口が思うように動かなかった。

 

「私は目の前の勝負から逃げない姿勢は好きですよ」

 リシマキアも、団長を見てにやにやと笑っている。

 

「さて、改めて計画のおさらいだ。

 まず、俺が向こうで実力を示す必要があるだろう。

 そこで俺と他の騎士団長たち全員と演習をしようと思う。

 これをどんな手を使ってでも勝利する。勿論、実力でな。買収とかは無しだ。

 リシマキアちゃんは向こう側の花騎士として工作をして欲しいんだが、これは君にわざと負けて貰うことになるが、良いのか?」

 団長はどことなく信用しきれていない協力者に問うた。

 

「今回の私はプレイヤーではなく駒ですからね。

 全体の勝利に徹したいと思いますよ」

「そうか、すまない。

 そして、なるべく早く実績を挙げたい。なるべく周囲の信用も稼ぎたいな。

 俺は先頭に立って騎士団長たちに自らの姿勢を示す為に、戦いやすい地形で確実な勝利を積み重ねたい。

 ミズちゃんには適当な害虫の巣を突っついて、俺たちの方に誘き寄せてほしい。

 俺たちが手引きしていると悟られないように、かつ周囲に被害が出ないように迅速にこれらを撃滅する。頼めるかい?」

「もっちろん!! ミズ、がんばるおー!!」

 うんうん可愛い、と元気な彼女に顔を緩める団長だった。

 

「次に、功績を挙げ続ければ国王陛下から報奨を貰える機会があるだろう。

 こういうのは最初に王者の器を示すもんだからな。

 その時に俺は陛下にハス様の婚約者にして欲しいと願い出る。

 アイリスちゃん、事前調査は大丈夫なんだな?」

「ええ、ナズナ団長の元に送られてきた縁談の手紙から相手をこちらにリストアップしておきました。

 ロータスレイクの現国王は能力があれば身分は問わない御方でしょう」

 アイリスはそう言って何十人もの名前が羅列された資料を提示した。

 その人数の多さにドン引きしている面々だった。

 

「更にダメ押しで宮中で団長さんとハス様が密かに恋仲同士であると噂を流します。

 団長さんはハス様に戸籍ごとこちらに直接引き抜かれてきたわけですから、説得力もあります。

 貴女が女好きだったという話も国王の耳に届くでしょうが、真面目にしていれば問題になるとは思えません」

「ちぇ、しばらく女断ちか」

「さて、ここで最後の不安要素であるハス様になりますが」

 アイリスは団長の言葉をスルーしてそう言った。

 

 そう、ここまで色々手を尽くしても、土壇場でハスが嫌と言えばそれで全てご破算になるのだ。

 カキツバタの協力が必要だった理由がここにある。

 

「あの方が婚約を受け入れるか、我を通すか、正直半々なんだよな」

「ハス様に直接話して協力を仰ぐのはダメなんですか?」

「いや、あの方の性格からして自分の結婚を利用しようと知られれば意固地になるだろう。それだけは無しだ」

 そんなことを話す団長とリシマキアだったが、付き合いの長いカキツバタにはその光景が目に浮かぶようだった。

 

 

「うーむ、よし、カキツバタちゃん、こうしよう。

 君に頼む予定だったハス様に婚約をするようさり気なく促す役目なんだが、それは無しにしよう。

 その代わり、この話は口外しないでほしい」

「では、ハス様の婚約はどうするのですか?」

「彼女自身が決めればいい。それくらいの博打は有ってもいいはずだ。

 これは彼女の人生を弄ぼうとするクソ野郎のせめてもの誠意ってことで」

「それではプランBが必要ですね」

「よろしく頼む」

 団長は予備プランをアイリスに一任した。

 本命のプランが失敗したらそれまでだろう、という表情をしていた。

 

「団長、もし仮にハス様と婚約が成った場合、やはりあなたは祖国の王となるつもりなのですか?」

「それは俺の提案に乗るってことで良いのか?」

「良いでしょう、手も貸しませんが口外もしません。

 納得はできませんが、あなたの覚悟は認めます」

 団長は下手すれば処刑もありうる選択をしたのだ。

 それを誰に誇る事も無く、誰に知られる事も無く、世界中の花騎士の為に。

 いっそ私欲に走ってくれれば反発できたのに、とカキツバタは中途半端な己を呪った。

 

「俺は王にはならないよ、カキツバタちゃん」

 団長は、ただ一言そう告げた。

 

「ことが終わったら適当に不祥事を起こして、婚約は解消だ。

 その後に役目を退く必要があるかどうかは向こうが判断するだろう」

「そう、ですか」

「ハス様にかける迷惑もなるだけ最小限にするつもりだ」

 そこまで考えているのなら、カキツバタに言うことは無かった。

 

「えー、団長さん、王様になって皆で害虫デストロイしないのかおー?」

「私もその方が面白いと思いますよ、我が王よ」

 しかし、他の二人は違ったようだ。

 

「いや、俺が国王ってのもなぁ。

 リシマキアちゃんは今の王様は不満なのかい?」

「いいえ、今の陛下も名君であらせられますよ?

 ですけど、団長さんが王になれば刺激が絶えないだろうなぁ、と」

「君もとんでもない女だなぁ」

「団長さん、あなたは自分の命をベットしました。

 ならば、賭けに勝ったらそれ相応の報酬が支払われるものですよ。否が応でも」

 リシマキアはにこにこと笑って団長を見ていた。

 

 

 その後。

 

「団長さん、いえ、次期国王。どこへ行かれるのですか?」

 カキツバタはこっそりと自室から逃げ出そうとする団長を発見した。

 

「今はハス様に政務の勉強を申し付けられた時間では?」

「げッ、ヤバっ、見つかった!!」

 脱兎の如く逃亡を開始する団長。それを追うカキツバタ。

 

 もはや日常になりつつあるこの光景に、なんだかなぁ、と思う彼女だった。

 

 

 

 

『正解発表!!』

 ※この話は前々回の後書きのクイズの正解発表を兼ねています。

 

 雪合戦大会の後、リンゴ団長が挑んだ雪合戦が阿鼻叫喚の様相を呈している中で、こっそりと団長に近づく二つの影が有った。

 

「ふっふっふ、どさくさに紛れてあっちが使った雪迷彩をゲットしたうさ」

 団長の部下が使っていた雪迷彩の為の布を被ってこっそり大将に接近しようとしているのは花騎士ウサギノオとススキだった。

 

「でも、大丈夫なの?」

 妙に自信を持っているウサギノオに、ススキは不安げにそう言った。

 

「大丈夫うさ。昔、ハロウィンでリンゴ団長は私を見るなりすんごく驚いて逃げて行ったうさ。

 あれはもう、わたしにビビってる証拠うさ」

「だからこうやって近づいて、ウサギノオがまず飛び出す、そしてその隙に私が団長を倒すんだね」

 それなりに勝算が有りそうな作戦なので、ススキはウサギノオの作戦に賛成した。

 特に、驚かしてやっつけると言う辺りが。

 

「どりゃー!!」

 そんないたずらっ子二人が雪玉投擲の射程範囲に団長が収まると、ばっと迷彩布を捨てて作戦通りウサギノオが飛び出した。

 

「うおっ」

 お面を被った団長は確かにウサギノオの言った通り、身を反らして慄いた。

 

「今うさ!!」

 ウサギノオの渾身の雪玉攻撃!!

 しかし、彼女は飛び出すなり団長を守る面々に集中攻撃を受けた。

 だがそれは作戦通り、囮だった。

 

 

「どうした? 投げてこないのか?」

「そ、そんな……」

 団長と対峙し、なぜか動けなくなるススキに雪玉が殺到する。

 

「ススキ、どうして!!」

 なぜ攻撃できなかったのか、ウサギノオはすぐに理解した。

 

「だーんちょう、今は起きてるから別に持ち上げなくてもいいし」

 彼女の名は花騎士ツキトジ。

 小柄な彼女を盾にするかのように団長の両手が持ち上げられていたのだ。

 

「人質とは卑怯うさ!!」

 彼女は二人の先輩にあたるのだから、雪玉を投げるのを躊躇うというものだった。

 

「人質? 違うな、ツキトジは初めからこちら側だったのだよ」

 愕然とする二人に勝ち誇るように、団長はそう言った。

 

「そもそも、二人は気付かなかったのか?

 ツキトジが居ながら、俺たちの有利な場所で奇襲を受けたと言う事実に」

 その団長の言葉に二人はあっとなった。

 

「えーと、ごめんね、二人とも。

 団長にさ、何もするなってあらかじめ言われてたし。

 だからどこに誰が何人くらい隠れてるか言えなかったし」

 ツキトジは起きている時間は非常に高い集中力や感覚を発揮できる代わりに、大半の時間を睡眠に充てなければならないという欠点があった。

 つまり、ツキトジが起きている限り、絶対に奇襲など通用しないのである。

 

「奇襲は来ると分かっていれば対処できる。

 だが、来ると分かっていても来てほしくないタイミングと言うものが存在する。

 凍らせた地面に誘い込む前に奇襲が見破られればこちらの作戦は台無しだからな」

 まあそれはそれでやり様は有ったがな、と団長はツキトジを下してウサギのぬいぐるみのラバンをもふりながらそう言った。

 

「なんて、大人げない……」

 内通者を用意するという徹底ぶりに、ススキも唖然としていた。

 

「これはひどい」

 団長の卑劣な手段に、新入りのデルフィニウムもそんな率直な感想を漏らした。

 

「戦いの肝要とはいかに負ける要因を排除するかだ。

 そして、いかに相手の嫌がることをするかにある。

 わかったか? 勝負とは、始めた時点でもう決まっているのだ」

 むっはっはっは、と笑う団長の声が雪原に響くのだった。

 

「と言うわけで、クイズの正解はツキトジちゃんでした!!」

「いきなりどうしたの、ランタナちゃん!?」

「私はまだ、諦めてはおらん!! まえがきとあとがきを占拠することを!!」

「もう、全然反響無かったんだから諦めようよー」

 

 

 

「団長さん」

 大会の後片づけをしている団長たちの元に、一人の花騎士がやってきた。

 

「おや、君は同郷と思いきやバナナオーシャン出身のビバーナムちゃんじゃないか」

「なんでわざわざそれを言うの!?」

「まあまあ、それで、何か用かな?」

 団長の掴みどころのない態度にムッとするビバーナムだったが、彼女は彼を指差した。

 

「次は本気で勝負よ。雪合戦王の称号は頂くわ!!」

「お、今回は本気じゃなかったって負け惜しみか?」

「いいえ、本気じゃなかったのはそっちよ」

「俺が本気じゃなかったと?」

「それも違う、あなたはいい加減にやったわけじゃなかった」

 ビバーナムは首を振ってから、こう言った。

 

「ただ、あなたは私たちと遊んでなんてなかった。

 真剣で遊ばないとつまらないと言ったくせに、あなたはちっとも遊ばなかったわ!!」

 彼女の真理のついた言葉に、団長も思わず面を喰らった。

 

「なるほど、君の言うとおりだ。

 君が正しい、確かに俺は遊びに誘っておいて、全然遊ばなかった」

「でしょう!! だから、次はちゃんと本気で遊びましょうね!!

 勿論、雪合戦王の称号を賭けて!!」

「ああ、防衛戦は王者の義務だからな。いつでも掛かってこい」

「うん!!」

 笑顔でそう言って去っていくビバーナムの背に、これは俺の負けだなと団長はそっと小さくつぶやいた。

 

 

 

 




次こそはちゃんとこの間の続き行きますからね!!
投稿時に入れるか試したら入れました。金チケ誰にしようかなぁー。

追記

プロテアさん以外に元老院所属の花騎士が居るなんて聞いてないんですけど(涙目
そのあたりの設定後で直しておきます。

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