貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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前回までのあらすじ

去年の夏頃、プロテアの依頼でコダイバナへと向かうこととなったリンゴ団長たち。
しかしかつて苦汁を舐めたことかの地に行くのに、彼は非常に乗り気ではなく……。


今回も何だか雑談ばっかりです。
と言うか、次回も雑談ばっかりな気が。
あれ、雑談ばっかりだぞ、この小説……。
書きたいことが雑談ばかりって大丈夫なのかこれ。



栄華の残影 前篇

「ここがブレーメン跡地ですか」

 キエフ交易路跡に敷かれている警戒線を超え、この荒野の玄関口とも言えるブレーメン跡地へと一行は辿りついた。

 

 十数年前までは賑わっていたブレーメンの街並みは見るも無残に廃墟と化していた。

 何年か前にこの周辺に強力な害虫が発生したのを掃討して以来、現在この地に簡単な防衛拠点が置かれていた。

 とは言え、防衛拠点と言うのも名ばかりなプレハブ小屋が補修された比較的無事な家屋を中心に幾つかある程度だった。

 無事な家屋はそれなりに見受けられるが、それらを使用したくない気持ちも彼女には理解できた。

 

 駐屯しているのは監視や調査の為の小規模な騎士団一部隊のみで、害虫の襲撃にいつでも対応し、武器に肌身ひとつで逃げられるように物資や食料の備蓄も最低限しか置かれていなかった。

 

「害虫の襲撃の頻度などはどうなっているんですか?」

「襲撃と言うほどのものはあまり。

 害虫側もこちらが戦力を集めなければ大挙してくるようなことも無いですから。

 我々は連中を刺激しない程度に監視や、たまにこの先の防衛跡地近くまで害虫の発生状況の調査などを請け負っています」

 プロテアがこの地に赴任している生真面目そうな騎士団長に問うと、彼はそう返した。

 

「事前にご来訪を通達されてなお大したおもてなしを出来ないことをお許しください。

 報告書の類は即日本国に輸送し、物資も即座に廃棄し逃げ帰れるように最低限の物しかないもので」

「安心してください、私も花騎士です。戦場で無理を言ったりしません」

「お気遣い痛み入ります」

 貴族が来ることなんてなかったのか、少々恐縮した様子で彼は頭を下げた。

 

「プロテア様におかれましては、早めにこの地を去るべきだと申し上げます。

 この地は、あまりにも不吉ですから」

「忠告感謝します」

 プロテアも、彼の気遣いに一礼した。

 

 

 

 ………

 …………

 ……………

 

 

 

 プロテアは駐屯中の団長と花騎士たち一人一人に労いの言葉を掛けた後、野営の準備をしているリンゴ団長たちの元へと戻った。

 

 彼女らは使えそうな家屋に布を張って即席の天幕などの準備をしていた。

 こんな場所でも、屋根や壁が有る方が心強いのかもしれなかった。

 

「はあ」

 廃墟の一つにあった(かまど)を拝借して火を灯し、夕食の準備を指示したリンゴ団長は軽く清掃された室内に居た。

 

「お疲れ様です、団長さん」

「それで、今後の予定についてお聞きしたいのですが」

 物憂げな団長は、どこか諦念(ていねん)染みた質問を投げかけた。

 

「勿論、防衛基地跡までは行ってみたいと思っています」

「でしょうね」

 貴女ならそう言うだろうと思ってましたよ、と言わんばかりの表情で団長は肩を竦めた。

 

「思い出しますか? 昔のことを」

「思い出さぬ日など有りません。そのように努めていましたから」

 かつてこの地で何があったのか、討伐隊がどのようにして敗れ去ったのか、それをプロテアは聞かなければならないと思っていた。

 だが、それを聞くタイミングをことごとく(いっ)していた。

 

 元老院では空気の読めないことに定評のあったプロテアだったが、勿論それは意図してのことである。

 今ではもっと上手いやり方を覚えたので最近は大人しくなったとか言われているが。

 

「この地でかつて、何が起こったか教えてはくれませんか?」

 だが、あえてプロテアはそう言った。

 これが己の好奇心や知識欲の為に訊くなら流石に控えただろうが、今回の彼女は政治家として来ているのだから。

 

「申し訳ありませんが、これは各国の騎士団上層部からみだりに口に出すなと申しつけられてましてね。

 補佐官のリンゴちゃんにすら、話してはいないことなのです」

 そう答えた彼には諦念が入り混じった表情が滲み出ていた。

 それはプロテアの知る上層部の人間が時折見せる表情に似ていた。

 

「……まさか、騎士団上層部に不手際や不祥事が有ったのですか?」

「不手際と言えばそうなのでしょう。

 ですが、貴女の想像する悪意ある内容じゃありませんよ」

 やんわりと、彼はプロテアの邪推を否定した。

 

「それを聞いて安心しました」

 本心から少しホッとしながら彼女はそう応じた。

 しかし各国と来ましたか、とプロテアは内心かつての戦いの詳細な内容が把握できなかったのに得心がいった。

 意図的に情報操作があったのだと、容易に想像が出来た。

 

 世間一般的に騎士団上層部と言うのは、それぞれの国が自国の騎士団を管理統括し、国やギルドなどの任務を円滑に伝達する公的な組織のことだ。

 主に引退した地位や実績のある騎士団長で構成され、現役騎士団長の出世とはこれらの組織に籍を置く事とされる。

 各国のこれらの組織はお互いに綿密なやり取りがあり、全体での意思統一はなされている。

 規格化の不可能なほど個性的すぎる能力と性格の花騎士たちの所属国家がバラバラでもまとまりのある行動ができるのは、こう言った組織が有るからである。

 その上層部から口止めされている。どう考えても国絡みだった。

 彼の口が堅いのも当然だろう。

 

 リンゴが彼を心配そうに見ている様子にプロテアは()(たま)れなくなり、失礼しますと言ってその場を去った。

 そしてプロテアが頭の中で、今度の視察を終えた後の資料請求の文言をどうすべきか思考をまとめ始めたその時だった。

 

「あの、水なら備蓄が有るのでそちらを飲んだ方が……」

「ああ大丈夫大丈夫。これ研究用に持ち帰るだけだから」

 と言って駐在の花騎士に応じている人物に見覚えが有り、プロテアの思考が停止した。

 

「イエローチューリップさん?」

「あら~? プロテア様じゃない。こんなところで奇遇ねー」

 ロープ付き木バケツを井戸に放って水をくみ上げているイエローチューリップは何が楽しいのかニヤニヤしながらそう棒読みで言った。

 

 プロテアは咄嗟に周囲を見回した。

 しかし、目的の人物は見当たらない。

 彼女はキリンソウに目配せすると、彼女はマスクの下から聞こえる溜息の後にとある二階建ての廃墟を指差す。

 そこにプロテアが視線を向けると、サッと何かの人影が姿を隠した。

 

「まさか、私が心配で付いてきたんですか?」

「一応、私の研究材料の採取の為ってことにしてあるけど」

 険しい表情で詰め寄るプロテアなど気にもせず、イエローチューリップは井戸からくみ上げた黒い水を瓶に移し替えながらそう言った。

 

「まあ、あいつにしては変だったとは思うわよ。

 いつもは事前に準備があるのに、急にコダイバナの方に行くなんて言いだすんだから。

 私は別に採取ができればそれでいいけれど」

 彼女の話を聞いて、プロテアは背筋がゾッとした。

 彼女の上司が計画も何も立てずに自分の部隊を動かすことなど、有り得ないと言って良いからだ。

 

 その有り得ないことが起こった。

 プロテアの直感が、それが予知を覆した反動だと悟ったのだ。

 無性に胸を掻きむしりたくなるような嫌な予感が過る。

 

 プロテアは即座に踵を返して、団長の元に戻った。

 

 

 

「なんで付いて来たんだ!!」

 数分後、リンゴ団長の怒声がブレーメン跡に響いた。

 

 チューリップ団長と十名ほどの彼の部下はあっさりと彼の部隊に連行され、こうして彼の怒りを買っていた。

 

「付いてきてませーん、黄姉さんの採取の付き合いです」

 チューリップ団長はそっぽを向いていけしゃあしゃあとそう言った。

 

「お前、ここがどういう所だか分かってるんだろうな!!」

 リンゴ団長の激怒はかつての彼が害虫に燃やした憎悪とはまた別で、彼の部下たちも肝を冷やしてその様子を見ていることしかできなかった。

 というか、彼がここまで純粋に怒っている姿など滅多になかったのだ。

 

「帰れ、今すぐにだ!!」

「リンゴ団長、これは勘ですがそれは止めた方が良いと思います」

 怒れる団長にプロテアはそう言った。

 そんな彼女に、怒りの視線が向けられる。

 

「予知するまでもありません。

 彼らの一番安全な場所は、貴方の元です」

 そう言ってから、そもそも、彼女は前置きして。

 

「私は団長さんに今回の視察のことを伝えていませんでした。

 言ったら多分大げさに護衛を付けられると思ったので、あの会議の日に団長さんたちと親衛隊の皆に初めて視察に赴きたいと話したのです。

 今回の件は殆ど私の思いつきで、それ以外に誰にも話しませんでした。行き先もです。

 彼らが付いて来たのは恐らく、貴方がこの地に来たくないあまりに色々根回しをした結果かと」

 これは予知を覆した結果である、と彼女は迂遠(うえん)に彼に伝えた。

 

「…………わかった」

 それを聞いたリンゴ団長は、苦い顔になって矛を収めた。

 

「これは貸しだからな」

「貸し? リンゴ団長、貴方は俺にもっと凄まじい借りがあるでしょう」

「何だ。借金の件は一応の決着が付いただろう?」

 しかし、チューリップ団長は首を横に振ると、淀んだ視線をリンゴ団長に向けた。

 

「聞きましたよ、プロテアさんにセクハラしたそうじゃないですか」

 その直後だった。

 リンゴ団長は踵を返して逃げ出した。

 

「追えッ、五体バラバラにしてリリィウッドの広場にその首晒してやる!!」

 攻守逆転とばかりにチューリップ団長が激を飛ばした。

 彼の部下は面倒そうにしながらリンゴ団長を追った。

 

「ほどほどにしておいてくださいね」

「あ、はい……うん」

 プロテアがそう言うと、チューリップ団長の勢いは尻すぼみになって頷いた。

 どったんばったん大騒ぎを横目に、採取した黒い水の瓶を荷馬車に詰め込んだイエローチューリップがやってくると。

 

「明日はもっとコダイバナの中心部に行きましょう。

 ここともっと近くの水の違いを調べたいわ」

「姉さんがそう言うなら」

 チューリップ団長は姉貴分の頼みに頷くと、荷馬車に乗せられた黒い水を見やった。

 

「それにしても、世界花の加護が及ばなくなるだけで水がこんなになっちゃうんだね。俺からすると信じられないんだけど」

「害虫の影響もあるとは思うけれどね。

 この黒い水を浄化する研究もあるけど、なかなかこの辺りは危険だものね。

 今回は丁度良かったわ。私もまさかコダイバナくんだりまで来ることになるとは思わなかったけれど」

「やっぱり、害虫は自然の生命エネルギー的なものを貪ってるんだろうなぁ」

 二人がそんなことを話しているが、プロテアは以前に彼と交わした会話を思い出していた。

 

 

 

 

「はあ、やっと帰ってこれた」

「ご苦労様です、団長さん」

 つい先日の話である。

 挨拶回りに行っていたチューリップ団長が己のオフィスに帰ってきたところ、書類を持ってきたプロテアは彼がもうすぐ帰ってくるというので室内で待っていたのだ。

 

「プロテアさん!? 来てたんだ!!」

 彼女が来ていると知るや、疲れ気味だった団長は一瞬で元気になった。

 

「いやもうね、貴族になったらスポンサーがバンバン増えてさ。

 元老院傘下の貴族の方とも毎日話し合いや商談ばっかりで」

「団長さん、元老院の皆さんに評判いいですよ。

 話が分かるとか、通すべき筋を通しているとか」

「そうでしょうそうでしょう。

 町の人たちにも頼られてさ、もう自分の職業が騎士団長なのかコンサル業の社長なのか分からないよ」

 団長は可笑しそうに笑ってそう言った。

 

「ベルガモットバレーがさ、スワン艇なんてモノ作ったでしょう?

 あれにはやられたよ。十年先には航空機の時代になるって言ったけど、五年先かもしれない。

 元老院にもそのあたりが分かっている人が結構いてさ、とりあえず色々とパイプを繋げているところなんだ」

「私ももう少し団長さんのように要領が良かったら上手くやれてたんでしょうか。

 言葉で誰かを動かすのは難しいですから」

 そう呟くプロテアは少しだけ羨ましそうだった。

 

「プロテアさん、言葉だけで人を動かすなんて簡単だよ。

 危機感を煽ればいいんだ。例えばね」

 無自覚にちょっと拗ねてる彼女の様子に団長は嬉しそうにこんなことを言い始めた。

 

「プロテアさん、世界花の機能で最も優れているものは何だと思います?」

「それは、勿論害虫を遠ざけ、彼らの病毒を浄化する力ではないですか?」

 プロテアは一般的な答えを口にした。

 害虫の体液が毒であることは多々あり、それを浄化するには花騎士の持つ世界花の加護の力が必要であるのだから。

 

「確かにそれは大事だね。花騎士としては満点の答えだと俺は思うよ。

 だけど俺はこう思う。世界花の最も優れた機能は、この大地に自然を満たし、木々や植物の実りを(もたら)す力だと」

「確かに、それも重要な事柄ですよね」

 リリィウッドでは世界花の齎す豊穣に感謝を捧げる儀式祭もある。

 政治家としてなら、そちらをまず重要視するべきだったかもしれない、とプロテアは思ったのだが。

 

「俺の故郷はね、プロテアさん。数百年前までずっと内戦ばかりしてたんだ。どうしてだと思う?」

「……まさか、食料がなかったからですか?」

 害虫と言う外憂があれど、千年以上安定している国に住んでいるプロテアにもそれは簡単に察することができた。

 

「そう、俺の故郷は国土の七割以上が山ばかりでね。

 農耕に適さない場所ばかりで数少ない食料を奪い合っていたんだ。

 要するに、食べ物が無ければ人は当然のように争い合うってことさ」

 そこで団長は棚から黒い水が入った小瓶を取ってきた。

 暗闇のような、透明性のない水がプロテアの目の前に置かれた。

 

「これは?」

「コダイバナ地方で採取された湧き水だ。

 飲料には勿論、農業にも薬の媒体にも適さない。

 害虫の勢力が拡大すれば、この無価値な毒水が自然を枯らす。

 これを何とか食い止めるには、プロテアさんの力が必要なんです。

 どうか協力してくれませんか?」

「ええ、それは勿論です」

 さり気なく彼女の手を掴んで真摯な表情で訴える団長に、プロテアは強く頷いた。

 

「ほらね? 簡単でしょう?」

 そして彼がおどけるように笑うと、彼女はまるで詐欺師の手管を見たかのような表情になった。

 

「貴族って人種は本当にやりやすいよ。

 俺たちにお金を出せば高貴な者の義務を満たせるんだからね」

「何だかあんまり腑に落ちません……」

「まあ、プロテアさんはやりたい事をやればいいさ。

 お金のことなら全部任せてよ!!」

 何やら思い悩むプロテアに、ぐっとサムズアップする団長。

 

「あ、でも、これだけは分かっていて欲しいっていうか」

「何がですか?」

「俺が昔見た演劇(ドラマ)に、悪徳政治家と正義感溢れる若い弁護士のやり取りがあったんだよね。

 貴方のような政治家に国の要職についてほしくないと言った若い弁護士に、悪徳政治家はこう言ったんだ。

 世の中には“先生”と呼ばれる職業が幾つかある。教師、医者、弁護士、そして政治家。

 なぜ人は自分たちを先生と呼ぶんだろうか、ってね」

 団長の話に、プロテアは無言で先を促した。

 

「その悪徳政治家はこう続けた。

 人は何かをしてもらう相手には“先生”と言ってへりくだるんだ、と」

「教師には勉強を教わり、医者には怪我や病気を治してもらい、弁護士は自らの利益を守るために助けてもらう、ですか?

 では政治家は何をしてもらうでしょう」

「稼がせてもらうんだそうだ」

 いまいちピンとこなかったプロテアは、そのまさしく悪徳政治家と言わんばかりの答えに閉口した。

 

「でもこれは真理だよ。

 その次のシーンで、お金と権力は同じで、お金のあるところに人が集まるんだと。

 お金無い清廉潔白な政治家を民衆は好むけど、それは何も出来ない力の無い政治家だって、その演劇の主人公である悪徳弁護士は言ってたからね」

「なかなか容認しがたい事実ですね」

 プロテアが彼と出会った当初、彼が辛辣だった理由の全てがそこにあった。

 お金が無いのは人を動かすことができないのと同じで、それは実行力が無いのと同義だからだ。

 

「そう言えば、寄付を募ったりするチャリティーの演劇で、出演する主演の俳優に多額の出演料が払わられていることが批判の的になったことがあったりしたことがあったなぁ。

 バカな話だよね、人道支援の為の組織だってスタッフには給料を払うのに、タダ働きしろってか。

 じゃあそれを批判した奴らはタダで誰かに何かをしてくれるのかな?」

 彼は嘲っていた。他人に清廉を求めるくせに、自分たちは何もしない民衆を。

 

「だから俺も、魔法学会から名誉教授なんて称号を受け取りたくなかったんだよね。

 名ばかりで実を伴わない教職なんて、俺が最も嫌悪する対象だってのに。

 でも肩書きとか実績が出来た途端、向こうから次々と俺たちを支援したいって人たちが出てきた。

 それを期待してたとはいえ、本当やんなっちゃうよ」

 そこまで言ってから、団長はハッとなった。

 

「あ、ごめんなさいプロテアさん、愚痴になっちゃいましたよね!!」

「いえ、団長さんのお話はいつも参考になっていますよ」

 勝手に焦り出す団長に苦笑し、プロテアは笑みを浮かべて首を振った。

 

「ですが団長さん、名誉教授は仰る通り称号で、教職を伴うものじゃないですよ」

「え、そうだったの!? 講義とかしてくれって頼まれたからてっきり教職なのかと」

 変な勘違いをしていた団長は恥ずかしそうに俯き、その様子を見て彼女はくすくす笑った。

 

「それにしても、教職の方が嫌いだと言うのによくリンゴ団長と仲良くなれましたね」

 プロテアは思わずそんなことを口にした。

 リンゴ団長は教官時代に目立った実績は無かったはずだった。

 それに加えて各国を短期間で転々としていた人間だ、彼の印象が良かったとは思えない。

 

「ああ、うん、まあ、俺も正直あの人には期待して無かったんだけれどさ」

 団長は少し言い辛そうにそう答えた。

 

「俺の周りってさ、尊敬できる年上の人間なんて居なかったんだ。

 もしかしたら居たのかもしれないけど、そんな人に関わったことはなかったんだよね。

 始めてだったよ、人のこと散々打ちのめした後に軽い感じで酒飲みに行こうぜって言う人」

 その時のことを思い出しているのか、彼は苦笑していた。

 

「年も十歳近く離れてるのに、俺なんて騎士団長に向いてないから辞めろって言ったくせに、俺のこと戦友だって言ってくれたんだ。

 後方支援の大事さをちゃんと理解してくれていて、他の先輩方は俺のこと軽く見るのに他の同僚と対等に評価してくれる。

 たったそれだけのことをしてくれる大人に、俺は初めて出会ったんだ」

 はにかむ様に笑みを浮かべて語る彼の言葉から万感の思いをプロテアは感じ取っていた。

 

「女癖は悪いですけどね」

 彼の語るリンゴ団長像が少し可笑しくて、プロテアは笑いながらちゃちゃを入れた。

 

「まあ、欠点のない人間なんて居ないしね。

 あれはあれで人間性だって笑って流すように俺はしてるよ」

 団長はそう言って、肩を竦めた。

 

 プロテアも今回の会話で思うところが有り、彼と多少距離を取る事を選ぶのはこの数日後のことだった。

 

 

 

 

「なあ待ってくれ、謝るから、謝るから、な?

 俺はプロテア様なんて微塵も興味ないのは知ってるだろ!!

 俺はもっとこう、色々面倒じゃない女の子が好みなんだって!!」

 チューリップ団長の部下たちに追い詰められ、リンゴ団長は見苦しいことを言い始めた。

 

「ホント、もうしないって!! 俺たち友達だろ!!」

「謝るべきは俺じゃなくてプロテアさんじゃないのかな?」

 女関係の前に男の友情なんて紙屑と言わんばかりの表情のチューリップ団長は、回想に(ふけ)っていたプロテアに目を向けた。

 

「ええと、それじゃあ、先ほどの私の頼みごとを聞いてくれるのなら許します」

 なんでいつもこの人は奇麗に墓穴を掘れるんだろうか、と思いながら彼女は言った。

 

 それを聞いたリンゴ団長は目を見開き、やがて諦めたように肩を落とした。

 

「かつてこの地で何があったか、でしたっけ。

 良いでしょう。いい加減俺も、整理を付けるべきだろうしな」

 ため息交じりに、彼はそう応じた。

 

 

 

 

 




トリカブトちゃん、強くなったなぁ。
でも昇華石足らぬ……。

皆さんはどれくらい石貰いましたか?
私は378個来ました。まあチケット以外無課金ならこんなもんでしょう。

多少長くなっても、次回でコダイバナ視察編は終わらせたいです。
それではまた、次回。

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