午前十時、コミックフェスティバル開催時刻。
本会場に押し寄せる参加者の波から這い出るように四人の花騎士が逃げ出してきた。
「全く、なんなのよこのお祭りは……」
心底辟易したように溜息を吐くのは、花騎士アブラナだった。
「皆さん、元気いっぱいでぇ、私ぃ目が回りそうですぅ」
「セントポーリアさん、人混みに酔ったです?
少し人の密度が薄いところに行くべき?」
気分が悪そうなセントポーリアを気遣い、ワレモコウはそう提案した。
「そうですわね、これでは殿方との出会いも期待できませんし」
まだ始まって間もないというのに、大幅に体力を消耗したギンランはその提案に賛同した。
ナズナ団長の部隊に所属するこの四人は、団長と部隊の運営の大部分を補佐するナズナが作戦に参加しない以上、必然的に非番であった。
しかし、出店準備の手伝いの際に知った同僚の行うえぐい商売に良心を刺激されたのか、彼女らは自主的に警備に参加していたのである。
今回の売り上げは騎士団の運営資金としてもいいので、どの騎士団も本気で資金獲得に熱を上げている。
それこそ、本業を忘れるほどに……。
「ああ、ダメねこれは」
とりあえず不調のセントポーリアを気遣って仮設診療所に赴いた四人だったが、本会場側は既に治療を待つ熱中症患者で満杯だった。
「この有様じゃ城壁側の診療所もダメっぽいわね」
「あちらはこっちの倍以上の人で溢れかえっていましたものねぇ」
人の行列を避け、壁際を遠回りして歩いてきてこれなのだから落胆もしよう。
「大丈夫ですよぉ~、歩いたら少しよくなりましたからぁ。
それよりも城壁側に行ってみませんかぁ?
このままだと何もできそうにないですし……」
「モコウもそれに賛成?
それに城壁側の会場は非常に広いので人気のないブースならば人混みを避けられる?」
「オーケー、それで行きましょう」
人気のあるコンテンツもあれば、見向きもされない作品があるのも世の常である。
四人がやってきたのは、オリジナルの作品を販売するブースだった。
このブースに出展する個人及びサークルは無名の者ばかりで、クオリティが良いか、余程奇抜でなければ目を引くことは無いだろう。
人々はまばらで、別のブースへと移動する通行人の方が多いという有様だ。
しかし、それでも足を止める者はいた。
「おおぅ、まさかアマチュアでこのような名勝負が生まれていようとは……」
ワレモコウが見ているのは、ボードゲーム同好会の試合を記録した譜面を本に纏めたものだった。
若い子に関心を持ってもらって、同好会のおじさんたちもにっこりである。
「これを頂くです?
あと、後日同好会を訪ねさせて貰ってもいいです?」
「モコウは楽しそうでいいわよね……」
すっかり意気投合している両者を見て、アブラナは額に流れる汗を拭う。
「これほどの筆遣いで無名なんて信じられませんわ……」
「そうですよぉ、趣味でやるだけなんて勿体ないですよぉ」
別の方を見れば貴族二人が展示してある油絵について店主と語り合っていた。
妙に教養のある話になって、この時初めてアブラナはこの二人が本当に貴族だったんだなぁと実感するのだった。
長引きそうなのでアブラナは付近をぶらついていると、ブース同士の境目から先ほどから気になっているモノを覗き見た。
こちら側とまるで別世界の如き様相を呈するその境界の先は、人がひしめき合って蠢いていた。
彼らが熱中しているのは、専用のブースまで設けられている『魔法花騎士ナノハナ』の同人誌だった。
マンガに興味を持ったことの無いアブラナだったが、主人公の名前が
試しに彼女は人気の無いサークルの同人誌を手に取り、中を開いてみた。
そして彼女は固まった。
「なに、これ……」
その同人誌の内容は主人公らしき少女とライバルらしい少女が裸同然の格好で異様なほどに顔を近づけて顔を赤らめているといった耽美な――――要するに百合本だった。
本の内容もかくやと言わんばかりに赤面したアブラナは、逃げるようにその場を後にした。
「市井にあのようなアーティストが埋もれているとは、なかなか侮れないお祭りですわね」
「そうですねぇ……あらぁ、アブラナちゃん、どうしましたかぁ?」
「こっちは大収穫です?
そちらはどうです?」
俯いて戻ってくる彼女を、三人は心配して声を掛けた。
「なんでもない、なんでもないったら!!」
急に声を荒げるアブラナに、三人も顔を見合わせて困り顏になった。
「無理してはいけませんよ、熱中症はいつの間にか掛かっているものですから」
「物資の補給……飲み物を補充するべき?」
「食べ物も確保しましょー、この人の数だとお昼に行くのは大変そうですしぃ」
と、三人が彼女が来た方へと移動を開始しようとするが。
「そっちは行っちゃダメェエエエエ!!」
両手を広げて涙目になりながら必死に立ちふさがるアブラナに、再び三人は困惑したように顔を見合わせた。
気合が入っていれば客が入るかと言われればそうでもなく。
「……お客さん、来ないね」
「深淵の叡智を理解しようとせぬならば、それもまた仕方なし」
キンギョソウ団長はいつものポーズで自ら店番をしていたが、彼の発する異様な雰囲気或いは店内の様相に足を止める客は居るには居るのだ。
しかし、売り物である彼の詩集や小説を開くと、古文書か何かを見たような表情となってそっと商品を元の場所に戻していく。
キンギョソウ肝いりのドクログッズの売れ行きはそこそこだが、団長自ら執筆した商品の数々はまだ詩集が一部ほど売れただけだった。
「お店の場所が悪かったのかなぁ」
「深淵を覗く勇気無き者に、深淵に至る事は出来ぬ」
「そりゃあ団長は趣味の合う人にしか買って貰えないと思うけどさ、私の仕入れたこのドクログッズがまだ完売していないとかどういうことなの……」
キンギョソウは結局レジカウンターに置くことになったクリスタルスカルを撫でた。
「己を覚醒させよ、咢を開く者よ。
自らが常世の住人であるということを受け入れるのだ」
「ちょ、私は普通です、団長みたいな変人と一緒にしないでほしいな!!
ほら、このドクロのキーホルダーとか、センス良いじゃん!!」
「確かに、其方のもたらす魔具は鋭き魔性を放っている。
されど、その事象と其方の有する次元のズレはまた別の話だ」
「前々から思ってたけど、団長の付けてる半分の仮面、趣味悪いよ」
「きッ貴様!! 禁忌に触れたなぁ!!」
「大体、咢を開く者とか、私がいつもぽけーっと口を開けてるみたいじゃない。
前々から団長には色々もの申したかったんだけれど!!」
「良かろう、奈落の底に墜ちる用意はできたか!!」
二人はレジカウンターから通路側に躍り出ると、ファイティングポーズを取った。
またやってるよ、と店内に詰めている花騎士たちは呆れ顏である。
この二人、噛み合う時はとことん噛み合うのに噛み合わない時はとことん噛み合わないのだ。
彼女たちが他の客に迷惑を掛ける前に止めようとした時である。
「はうっ!?」
「時の女神の祝福があったのか?」
「た、大変だよ団長、が、害虫がこの会場にいっぱい、いっぱい!!」
「落ち着け!!」
団長が一喝すると、彼女は体を震わせてぺたりと床に崩れ落ちた。
「何が見えた?」
「害虫がたくさん、本会場の入り口から入り込んでくるのが見えたの」
キンギョソウは少し青ざめた表情でそう言った。
彼女には予知能力と言う稀有な力がある。
団長が彼女を重用する大きな理由でもあった。
日常生活では抽象的なものしか見えないらしいが、こと身近な人物や己の危機に関してはほぼ百発百中の的中率を誇っている。
それによって団長たちが命の危機を脱したのは一度や二度ではない。
「お前たちはどう思案する?」
団長は彼女をレジカウンター前の椅子に座らせると、部下に意見を求めた。
「害虫どもがここに押し寄せるということは、外に展開する騎士団、そしてブロッサムヒルの城壁が破られたということになる。
それは国家存亡の危機に関わる予知ではないのか?」
花騎士ハクモクレンはさすがに今回の予知について半信半疑だった。
外に展開している騎士団の規模は国家防衛時にも劣らない。
彼女にはそれが破られるというのが想像できなかったのだ。
だが、他の花騎士たちは不安な様子を隠しきれないようだった。
キンギョソウの予知は覆すのが非常に困難で、害虫の本会場襲撃はほぼ確定事項のようなものだったからだ。
「ちょっと待って、いま思い出すから」
キンギョソウは必死に己の見た光景を、一枚一枚区切って思い返す。
「害虫たちが本会場に来る前、前……そう、暗い場所、たくさんの足音、これは……水の音……」
「水の音…? 下水道か!!」
代々ブロッサムヒルにて騎士を輩出する名家出身のハクモクレンはよく知っていた。
この都市の地下には下水道が存在していることを。
いざと言うときはそれを通じて住人を逃がす為にも使われる予定となっている。
「あそこは害虫が侵入しないよう厳重に防備が固めてあるはずだが、突破される可能性があるとすればそこだ」
「ちょっと待って、害虫がここまで押し寄せてくるんでしょう?
何とか参加者を避難させないと相当な被害が出るわよ」
そこで花騎士バラが己の意見を述べて、団長の反応を窺う。
「……我に秘策あり」
キンギョソウ団長は仮面に隠れていない顔を手で押さえ、不敵に笑った。
「音声記録、花騎士レシュノルティアの記録、×月●日、午前十一時半頃。
私は今、コミフェスのどさくさに紛れて販売物を奪取した害虫の発生源を特定する為追跡中。
対象は現在、森の中を移動中」
花騎士レシュノルティア、通称レナは一人森の中を隠密行動していた。
その手には、音声を記録する魔法具がある。
ブロッサムヒルからほど近いこの森に逃げ込んだアリ型害虫を追って、奥へ奥へと慎重に進んでいく。
「販売物の薄めの本を抱え、害虫は更に森の奥へ……」
害虫の絵の腕を買われキンギョソウ団長の元で剣を取る彼女だったが、本日は外での警備に参加しており別行動中である。
勿論、彼女が本会場の方で大変なことが起ころうとしていることなど、露ほどにも知らない。
「害虫たちの謎の行動の理由の一端でも明かされるのならいいのですけど……っと、あれは!!」
レシュノルティアは戦慄した。
森の奥には“カマニシファン”と呼ばれる強力な害虫が待ち受けていた。
この個体は強力な害虫だが被害報告が少なく、非常に情報が少ない。
一説によると彼らは自分たちの歌い手を崇拝しているという。
その手にある色紙がその証である。
そんな強力な害虫にレナ一人で挑めば返り討ちに逢うことは必至だが、それどころではなかった。
販売物を持ってきたアリ型害虫が、その個体の前に近づくとぴょんぴょん飛び跳ね始めた。
一方、待ち受けていた方の害虫は二枚目の色紙を取り出した。
ごくり、と唾を飲んでレナが先を見守っていると。
「キシャーー!!!」
害虫の叫び声が聞こえ、見つかったのかと血の気が失せたレナだったが、どうやら違うようだった。
さらに奥の方から多くのカマニシファンが現れ、元いた個体を取り囲み始めたのだ。
その後、その個体は奥から来た個体たちに引きずられるように連れて行かれた。
無論、販売物を奪取したアリ型害虫も連れて奥へと消え去っていった。
「……害虫の謎は深まるばかり、記録を終えます、以上」
これ以上の深追いはマズイと、レナは撤退を開始した。
「いやぁ、害虫は強敵でしたね」
「どこが強敵だ、雑魚ばかりだっただろう」
ものの数分で害虫たちを蹴散らしてきたリンゴ団長旗下の花騎士たちは、その後も背後から害虫たちを強襲し続けていた。
「害虫たち、どうしてあんなにふらふらだったんでしょう」
「眠っている害虫も居たわよねぇ」
ペポとサクラは害虫たちの不可解な様子を思い出していた。
「昨日からコミフェスを待ってたんじゃない?」
「コミフェスに参加するためにか?
冗談じゃない。たとえ連中が人語を介し、対話を求めたとしても俺たちがするべきことはそいつらを斬り捨てることだけだ」
「わかってるって、だんちょ!!」
団長は背中に飛びついてきたランタナの重みを感じながら周囲の警戒を怠らない。
「ああ、見てください、あっちに害虫の大群が!!」
その時、ペポが害虫の群れに気付いた。
「うん、どれどれ……おいランタナ、ちょっとこいつで見てみろ」
「あいあいさー」
ランタナは団長の肩までよじ登ると、双眼鏡を受け取って害虫の群れを視認する。
「カマキリっぽいのと、ハチっぽいのと、イモムシっぽいのが居るね」
「あの周辺に向かっているということは、カマキリ型は“カケ×ザン”、ハチ型は“ビィーエル”、イモムシ型は“Oh・ムゥ”だろう」
「救援に行かないのか?」
乗り気ではなさそうな団長の様子を察してか、クロユリが問うた。
「必要ない、あの周辺には腐葉土砲って言うゴーレム式の砲台が配備されているんだ」
「腐葉土砲? 聞いたことの無い兵器ね」
「知らなくても無理はない、あれは欠陥兵器で一発撃つと自壊する。
その上、発射する為に必要なエネルギーは、極めて統一された志向性を持つ人々の思念なんだ。
そういうのが集まるのってコミフェスの会場ぐらいなもんだ」
「極めて統一された志向性の思念って?」
「…………」
疑念を上げるキルタンサスだが、団長は憮然とした表情で言葉にしなかった。
「あ、あれを見てください!!」
「あれが腐葉土砲だ」
害虫たちを向かう方を見てみれば、醜悪な外見の巨大な土くれ人形が這いつくばった格好のまま害虫たちに顔を向けていた。
その直後、その頭部から凄まじいエネルギーの光線が発射され、一瞬にして害虫たちを薙ぎ払っていった。
そのあまりの威力に、遠く離れた団長たちにも爆風の余波が突風となってやってくるほどだった。
「す、すごい威力……。
なんで量産されないんでしょう」
一瞬にして害虫の群れは壊滅してしまった。
そして役割を終えた腐葉土砲は、腐れ落ちるようにその体が崩壊していった。
「腐ってやがる、早すぎたんだ……」
「あんな兵器、使いにくいままの方がいいのさ。
スプリングガーデンが焦土と化する未来しか見えないしな」
団長は双眼鏡をランタナから受け取ると、腐葉土砲のエネルギーを込めた人たちが疲労の余り崩れ落ちているのを見やった。
団長は決して口にしたくなかった。
あのエネルギーが彼女たちが脳内で掛け算しまくった結果だということを。
彼はそっと、BLブースから目を逸らした。
「む、あれは……」
団長が視線を逸らした先に、巨大なイモムシ型害虫を発見した。
「あれは、見つけたぞ、“テン・ヤイバー”だ!!
総員、戦闘態勢に入れ、敵の親玉を叩くぞ!!」
団長の呼びかけに、花騎士たちは応じた。
その声に反応したのか、“テン・ヤイバー”は彼女らの方へと向かってきた。
「テェェェンバアアァァイイイ!!!」
おぞましい鳴き声を放つ大型害虫。
害虫と花騎士の戦いの火ぶたが切って落とされた。
ブロッサムヒルの地下に張り巡らされる下水道。
狭く暗いその場所は無数の害虫が蠢き進む通路となっていた。
一列になってすべての害虫が同じ方向に進む姿は、まるで救いを求める亡者の群れを
やがて、彼らは地上への道を見つけた。
用水路への鉄格子を破ると、害虫たちは雪崩れ込むように町の中へと侵入し出した。
しかし彼らは街中へと興味を示さず、一直線にある場所へと向かっていった。
即ち、コミフェスの本会場へと。
目的地は目と鼻の先だった。
ここから無秩序に散り散りになれば大惨事になったことだろうが、彼らは何かに駆りたてられるかのようにそこへ向かっていった。
彼らは途中通りを一つ抜けていったが、不気味なほど無人だった。
そしてコミフェス本会場への扉を数に任せ開け放つ。
―――――そこには、彼らを駆り立てているものが山積みになって置いてあった。
同人誌、フィギュア、コスプレ衣装、絵画、ポスター、小物、写真集、色紙、エトセトラエトセトラ――。
即席の資材で作られた柵のバリケード越しに、それらはあった。
彼らは歓喜の声を挙げて、それに群がった。
「掛かれ、花咲く使徒たちよ」
その直後、攻撃性に彩られた魔法が豪雨のように降り注いだ。
キンギョソウの予知は大量の害虫が本会場に押し寄せる光景だった。
それは確定した未来であり、回避することはほぼ不可能だ。
しかし、それに伴う犠牲までは不確定であった為、キンギョソウ団長は即座に避難勧告を近辺に発令させ、周辺を無人にさせた。
そして害虫の出現が予想される場所に戦力を配置、餌に掛からなければすぐに駆けつけられるよう連絡も密にした。
害虫たちは案の定、本会場から一番近い用水路から出現し、餌に向かって飛びついたところ魔法で滅多打ちにし、そのまま撃滅するという作戦だったのだ。
「よし、みんなの作品に指一本触れさせるな!!」
「あのさ、そういうのは私から離れてから言ってくれない?
このままじゃ私、戦えないんだけど」
イエローチューリップは呆れた顔で、ガクブルと震えながら自分の腰に抱き着く上司にそう言った。
「前衛、前へ!! 今だ、切り崩せ!!」
魔法の連打の次は、前衛組による逆襲だ。
害虫たちが数に任せるように、こちらも数に任せた花騎士たちが一斉に飛び掛かっていった。
最早これは戦闘ではなく、一方的な蹂躙だった。
ほどなくして、戦闘の音は鳴り止んだ。
「周辺の害虫の殲滅完了、これより下水道へと残党掃討に入る!!!」
一人の団長がそう宣言し、皆はひとまず危機が去ったことに安堵したのだった。
「止めてよね、本気でやったら緊急任務のラスボスが進化カンスト済み騎士団に勝てるわけないでしょ」
「うん? 何か言った、ランタナちゃん?」
「ううん、何でもない」
ランタナは無残に打ち倒された“テン・ヤイバー”を見下ろし、哀愁に浸るのだった。
「お、伝令だ。なになに、下水道から害虫が侵入しただと!?」
リンゴ団長は自動筆記の魔法の応用で勝手に動くペンを手に取り、その内容を紙に写していく。
「なんですって、町は大丈夫なんですか!?」
「落ち着けサクラ、まだ全文が書き終わってない」
普段滅多に取り乱さないサクラも、故郷の危機に気が気ではないようだった。
「ああ、大丈夫のようだ。
出てきた害虫は駆除済み。
先ほど害虫の侵入口を発見し、今現在挟み撃ちにして掃討している最中らしい」
「良かった……」
それを聞いてサクラもほっと胸を撫で下ろした。
「こちら、多国籍遊撃騎士団、害虫の親玉を討伐せり、と。
これで散発的な害虫の襲撃も終わるだろう。
害虫の襲撃によりコミフェスも一時中断したようだが、すぐに再開されるだろうな。
俺たちも、戻ったら今日は早引きだ!!」
それを聞いた花騎士たちは歓喜の声を挙げたのだった。
コミフェスを襲った事態は次々と収束していき、各店の再開もすぐに行われるだろう。
参加者たちは毎年恒例の害虫襲撃に、またか、と思いつつも戦利品の確保に勤しむ。
各々が熱を上げる物を手に入れ、或いは売り切れて手に入らず悔しがりつつも、今日と言う日を楽しんでいったのだ。
ブロッサムヒルからほど近い森の奥。
そこに住まう無数の巨大なイモムシ型の害虫が栄華の都を赤い目で見ていた。
仲間が蹴散らされていたのを見ていた。
その目に宿るのは怒りか憎しみか、窺い知ることはできない。
だが彼らは猛然と動き出そうとしていた。
それだけは事実だった。
そんな彼らの前に、少女が一人立ちはだかっていた。
レシュノルティアだった。
彼らが彼女ひとりをひき潰すことなど造作も無いことだったが、彼らの足は止まっていた。
彼女が両手に怪我をしたイモムシ型害虫“Oh・ムゥ”を抱えていたからだ。
その姿には明らかに手当てを受けた形跡があった。
彼女は己の両手にある害虫の成長した姿が彼らであると見抜いていたのだ。
レナはそっと害虫を地面に下した。
「害虫さん、森に帰ってください。
ここから先はあなた達の住む世界じゃないんです」
悲しそうにそう告げる彼女の気持ちの一端が伝わったのだろうか。
彼らの瞳は赤い色を失うと、もぞもぞと方向転換して森の奥地へと去って行った。
その姿が見えなくなるまで、レシュノルティアはずっと立ち尽くしていた。
書き終えてから気づいたこと。
今回、リンゴちゃん出てねぇ!!
そして、この小説を書いていて思ったのですが、花騎士たちにどうセクハラするか考えるのメッチャ楽しいです。