貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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個人的にアルテミシアはゴスロリ黒髪美少女だと予想してましたが、合ってたの黒髪だけでした。
銅チケことプレミアムガチャチケットから金ミントちゃんが出てご満悦です。
でもイベント中の△サボテンは出なかった!!無念です。


セクハラ、ダメ絶対

「ふぁー……皆と夜通しお話しちゃった」

 朝、眠気眼を擦りながらペポが廊下に出ると、彼女は衝撃的な光景を目にした。

 

「ねぇねぇだんちょー、お風呂連れてってー、ついでに一緒に入ろうよー」

「冷めて温いお湯で良ければぶち込んでやるよ」

「今からでも沸かしてよー」

「燃料の無駄だ、ボケ」

「あ、そうだ、背中流してあげる!! どうどう? 興奮するでしょ?

 一緒に昨日の熱い夜の汗を流そうよ!!」

「汗を掻いたのは手だけだろう……」

 ランタナを小脇に抱えた団長が彼の部屋から出てきてそんな会話をしていたのだ。

 

「だ、団長さんのケダモノー!!」

 だからペポが気が動転して勘違いしてもおかしくはなかった。

 

 

 

 

「落ち着け、みんな。話し合おう」

 そして即行でペポの叫び声を聞いた部下たちによって、彼は連行された。

 

「俺がこんなまな板に興奮するわけないだろう?」

「ギルティ」

 裁判長サクラの判決は無情だった。

 

「いでででで!!」

 彼の左右の腕を掴んでいた二人の部下が引っ張り出した。

 恐るべき簡易八つ裂きの刑だった。

 

「ランタナァ!! お前誤解を解け!! 裂ける、身体が裂ける!!」

「そんな、だんちょ……昨日のランタナとの熱い夜を無かったことにするつもりなのね」

 よよよ、と泣き崩れる真似をするランタナ。

 

「お、ま、え!! ふざけんなよ!!」

「団長さん、私も正直なところ、あなたがランタナちゃんに手を出したなんて思っていません」

 無情な判決をした割に、サクラの声音や態度は彼への理解に満ちていた。

 

「じゃ、じゃあ……」

「ですが、前々から思っていたんですよ。

 女性の身体的特徴を挙げてそれを当人に直接侮蔑的な表現を突き付けるのは、男性として如何なものかと」

 まさかのド正論だった。

 心当たりが有りまくる団長の額に嫌な脂汗が浮かび始めた。

 

「ハッキリ言ってセクハラです。どうか改めてくれませんか?」

「謝罪するようなことなどした覚えがない」

 団長は真顔でそう言った。

 これには他の隊員たちも激怒した。

 

「あ、嘘です、冗談です、アアァッーー!!」

「団長さん、おいたわしや……」

 隊員たちの日頃の怒りによる制裁が加えられ、その凄惨な光景からリンゴは目を逸らした。

 

 

 

「全く、今どき暴力系女子は支持を得られないぞ」

「でもそれって男子の方に全く非が無い場合に限りますよね」

 リシアンサスにつっこまれつつも、団長はまったく堪えた様子も無く立ち上がった。

 

「思ったんだがな、セクハラセクハラ言うが、俺にはその境界が良くわからん。

 いや、各々の主観によって変化するものだと言うのは理解しているが、俺には女心の機微は分からない。分かってたらこんなに苦労していない」

 腕を組んで己の心情を語る団長。

 

「とりあえず、具体的にどんなのがNGなんだ?」

 何事も理屈や具体例を求める彼の良くも悪いところだった。

 

「では、まずは私から」

「サクラが? 俺ってサクラにセクハラしたことあったっけ?」

 礼儀正しく挙手したサクラに、団長は疑念を向けた。

 

「有りますよ」

 サクラはいつもの柔和な笑みを消してそう言った。

 

 

 

「なぁなぁサクラ」

「どうかしましたか、団長さん」

 何やらニヤニヤしながらサクラに話しかけた団長。

 彼女は彼がこういう表情の時にろくな話をされた覚えがない事を思い返していた。

 

「あのな、一緒に二人で俺の故郷で修行でもしないか? 一か月くらい」

「修行ですか?」

「ああ、勿論真冬な。生と死の狭間を彷徨う極限の状況下での鍛錬は身も心も引き締めてくれるはずだ」

 それは、団長にしては珍しくまともな内容だった。

 修行内容の過酷さに目を(つむ)れば、己を高めるにはもってこいだろう。

 

「それは魅力的な提案ですが、私たちにそんな時間が無いのが問題ですよね~」

「うむ、まったくだ」

 彼もほんの冗談だったのか、話題を引っ込めた。

 ここまでなら、取り留めのない会話で終わったのだが。

 

「団長さん、確かにサクラさんなら可能かもしれませんけど、やっぱりやめた方が良いですよー」

「いやいや、俺だって本気じゃないってば」

 その会話を聞いていたリンゴが団長に訴えかける。

 

「そもそも、人間の脂肪は胸から燃焼されるって本当かどうかも分からないのに」

「だがやってみる価値はあるだろう?

 俺はともかくサクラなら何も食べられない状況だって光合成でもしながら生きてられるだろ。

 そうして無駄な脂肪を削ぎ落してくれればきっと俺好みの身体になるはず!!」

「サクラさんに失礼ですよ、それ」

 

 

 

「…………」

 サクラの語った具体例に、団長は無言で目を逸らした。

 団員たちの冷たい視線が突き刺さる。まごうことなきセクハラだった。

 

「その後も、絶海の孤島だとか、リリィウッドの奥地だとか、無駄にバリエーションを変えて似たような話題を何度か振ってきたでしょう?」

「…………」

「正直、鬱陶しかったです」

「悪かった……本当に悪かった」

 嫌悪感の滲み出るその言葉に、団長は涙目になって頭を下げた。

 まず誰かを嫌ったりしなさそうなサクラのこの言い方に、思わず同情的な視線が混じった。それくらい強烈な光景だった。

 

「まだまだ幾つか有りますけれど、とりあえず団長さんが反省してくださるようなので水に流しましょう」

「う、うむ、やはり相互理解は大事だな。言葉にしないと伝わらないことはあるもんな。

 それで、他にはいるか?」

「じゃあ私から」

 そう言って手を挙げたのはリシアンサスだった。

 

「あれ、俺ってお前に何かしたっけ?」

「そう言う無神経なところがダメなんですってば!!」

 冗談でも何でもなく記憶にないらしい団長に、彼女も憤慨(ふんがい)した。

 

 

 

「団長さーん、書類を預かって来たのでもってきましたよー」

 その日、彼の執務室に書類を届けにやってきたリシアンサスがドアを開けると、とんでもない光景を目にした。

 

「やー、もー、団長さーん、返してくださいよー」

「むっはははは!! 良いではないか良いではないか、取り返してみろーい」

 団長とリンゴがイチャついていた。

 ただイチャついてただけならいいが、団長はリンゴの物と思しきパンツを頭に被って彼女の羽衣を悪代官みたいに引っ張って大笑いしていた。

 

 硬直するリシアンサス。

 突然の来客に硬直する二人。

 

 リシアンサスはドアを閉めると、両目を擦ってからドアを開けた。

 

「やあ、リシアンサスじゃないか。どうかしたのか?」

 キリッとした表情で執務机に座りながら団長は彼女を出迎えた。

 リシアンサスは先ほどの光景は見なかったことにした。

 

 

 

「ノックもせずに入った私も悪いと思いますけど!!

 公務の最中に風紀の乱れるようないかがわしいことをしているのはどうかと思うんですよ!!

 そりゃあ団長さんがどうしようもないドスケベド変態なのは承知してますけれど!!

 それにしたって昼間からあんなアホみたいなことをしてて恥ずかしくないんですか!!

 ちょっとばかし騎士団長としての自覚という物が足りないんじゃないんですかね!!

 この辺に関してずっと物申したかったんですけど、これでも私だって団長さんのメンツやら何やらに配慮してたんですよ!!

 それでも許容範囲ってもんがあるんです!! 女所帯だから肩身が狭いのは分かりますけど、羽目を外す時と場合くらい弁えてほしいんですよ!!

 正直、団長さんだって親しい知り合いがパンツ被って公共の施設でバカ騒ぎしてたら幻滅するでしょう!? しませんか? しますでしょう!?」

「……はい」

「はぁはぁ、私から言いたいことは以上です」

 一息に言いたいことを言いきったリシアンサスは大声を出したからか肩で息をしながら、興奮からか顔を赤らめていた。

 団長はと言うと、今にも土下座でもしそうなくらい恥じ入っていた。

 ついでにリンゴも顔を真っ赤にしながら両手で顔を隠していた。

 

 パンツを被って遊んでるアホに対する呆れも、リシアンサスが皆の言いたい事を代わりに怒涛の勢いで言ったので、宙ぶらりんになっていた。

 それは他人がものすごく怒ってると自分は冷静になってしまう状況に似ていた。

 

「そこまで言いたいことが有ったのなら、もっと早く言えばよかったのに」

「いや、だって、私、聞いちゃいましたよ、あの話」

「あの話?」

 リシアンサスの憮然(ぶぜん)とした態度に団長が首を傾げていると、何か思い当たる節があるのか、ああ、とサクラが手を叩いた。

 

「団長さん、あのことじゃないですか、ほら、以前の下着泥棒騒ぎの」

「…………ッ、ああ!! あれか!!」

 団長も印象深い出来事だったので、すぐに思い出した。

 

 

 

 今から一年半ほど前のことである。

 この部隊の環境改善に団長たちが努めており、大よその隊員たちが原隊に復帰し、補充要員を集めていた頃のことだった。

 

「はあ? 干していた下着が無くなってるって?」

 その日、団長たちの部隊は害虫討伐の際に遠出をしており、それを終えて野営の最中にその出来事は起こった。

 

「風に飛ばされたってわけじゃないよな?」

 彼女たちの下着は普段、衣服とは別に団長の目につかないように配慮して干されている。

 それが根こそぎ無くなっているとのことだった。

 

「今日は風は有りませんし、気付いたら全部……」

 サクラは困ったようにそう報告をしていた。

 

「お前ら、見張りとか立てなかったのか?」

「そんな人員的余裕あるわけないじゃない!!」

「と言うか団長が一番怪しいわよ!!」

「そう考えるのが自然じゃない!!」

「そうそう!!」

 まだまだ入隊したばかりで全然親しくなかった頃のかっしー達四人は、当然のように団長を疑った。

 というか、真っ先に疑われて然るべきだった。男とは悲しい生き物である。

 

「俺が? なんでだ?」

 しかし疑われている当人はと言うと、何食わぬ顔をしていた。

 この時、彼にはアリバイが無かった。普段一緒にいるリンゴも人員不足から皆を手伝っていた。

 

「俺が興味があるのは下着より中身よ。

 むしろ下着の必要のないくらいの中身な。大体、下着が欲しけりゃ当人にねだるし、そもそもこんな犯人が限定される状況下で俺がすぐ発覚するような犯行を行うわけないだろう?

 そんなことをしてせっかく築いた皆との信頼関係を壊すような真似をするかよ」

 団長の物言いは至極正論だったモノの、正論で納得しないのが集団における女性という生き物である。

 とにかくこの男は、女性関係に関してはちっとも信用できないのだから尚更だ。

 

「うーん、私も団長さんがこんなことするとは思えませんけれど、とりあえず皆を信用させるために一応荷物を改めてもよろしいですか?」

 まさかサクラも団長が下着泥棒なんて馬鹿な真似をしているとは思っていなかったので、妥協点として当面の信用を得る為そのような提案をしたのだが。

 

「え、あ、待て、その必要はないだろう?」

 ここに来てこの男、なぜか露骨に怪しい態度を取り始めたのである。

 どう見てもやましい事のある様子にしか見えない。

 

 我が意を得たり、と団長を拘束する面々。

 無実だと叫ぶ団長の前に、彼の荷物が運ばれてくる。

 サクラが困り顏で団長の荷物を改めていくと、妙な物を発見した。

 

 それは本のように装丁された物だったが、妙に分厚い。

 表紙を開いてみると、サクラはギョッとした。

 ページの代わりに二十枚以上のパンツが丁寧に並べられ、連なって縫い付けられていた。

 まるでバインダーに紙の代わりにパンツを閉じたような代物だった。

 無論、そのすべてが新品ではなく洗濯されているが使用済みであるのは明白だった。

 

「団長さん、何ですか、これ」

 こんなものが出てきた以上、サクラも問い詰めなければならなかった。

 

「それは……」

 言葉にしにくそうに、団長は言いよどんだ。

 それ見たことか、と周囲は彼を糾弾し始めたのだが。

 

「フガフガ」

 という害虫の鳴き声らしきものが聞こえた。

 常在戦場のこの部隊の面々はそれに釣られて身構えると、なんとアリ型害虫が干してあった衣服を漁っていたのある。

 その害虫はまぬけにもシャツが頭に被さって前が見えずにおろおろしていた。

 

「服の繊維を好む害虫が居るとは聞いたことはあるが……」

 その様子を唖然と見ていた団長が呟いた。

 その後、下手人をタコ殴りにして、衣服を奪い返すと、一応団長は解放された。

 

「だから言っただろう、俺じゃないって」

「じゃあこれは何ですか?」

 サクラが手元にあるパンツコレクションに目を落とす。

 

「それはほら、あれだよ、恋人の衣服の一部をお守りにするみたいなあれだって」

「こんなに、ですか?」

「悪いかよ。ちゃんと当人から貰ったモノばかりだぞ」

 まさしく彼が言った通り、欲しければ当人にねだって手に入れた代物だと言う。

 この時から既に、サクラは彼の狂気の片鱗を目の当たりにしていた。

 

「とりあえず、盗られた下着を取り返さなきゃ」

「どうせまだまだ居るわ、一匹じゃない筈よ」

「そうだ、それを餌にしましょう」

「いいんじゃない」

 そしてサクラからそのパンツコレクションを取って、そんなことを言い始めるかっしー達。

 それで行こう、という空気になりかけた時だった。

 

 ゾッとするような殺気が放たれたのは、

 

「団長さん、どうしたんですか?」

 サクラはさり気なく彼の前に移動しながらそう言った。

 彼女には見えていた。彼の腕が腰の剣の柄に添えられていたのを。

 

「いや、人の物を勝手に害虫の餌にしようとするとかヒドイな、と思ってさ」

 その口調は軽かったが、その言葉の端々に明確な怒気が含まれていた。

 

「もう下着しか遺ってないのに、それを害虫に食わせるだなんて、それってもう害虫の所業じゃないのかな。

 もしかして、寄生型に頭でもやられたんじゃないのかって」

 その殺意を受けて、彼女たちは察した。

 世の中には、人の皮で装丁された魔導書などが実在するが、このパンツコレクションはそれと同等のおぞましい狂気の産物であると理解してしてしまったのだ。

 

「返してくれるよな、お前たちが正気なら。

 お前たちだって、下着だけになった後にそれを害虫の餌にするなんて言われるのは嫌だろう?」

 

 

 

 

 その話を始めて聞いた面々は呆然とした。

 この部隊の中でも古参の部類しか知らない為に、初めて聞いた者も多かったのだ。

 

「そんな話聞いたら、パンツ被ってても何も言えないじゃないですか」

 リシアンサスの言葉に、多くが()もありなんという表情になった。

 

「結局、あれはまだ持っているんですか?」

「あー、いや、正直燃やして供養しようとも思ったんだが」

 ポリポリと頭を掻きながら、団長はばつの悪そうに答えた。

 

「俺にとっちゃ遺骨みたいなもんだし捨てるには忍びなくてな、今は他の人に預けている」

「他人に預けるようなものでしょうか……」

 思わずサクラもそんな風にぼやいた。

 

「あの、私からもいいかしら」

「え、キルタンサスもか?」

 彼女には紳士的に接しているつもりだった団長は思わず顔を上げて彼女を見た。

 

「私、というより、これはどうなのかって事なんですけど」

 そうしてキルタンサスは話し始めた。

 

 

 

 それは、ある休日の話である。

 

「あ、団長さん、こんにちわ」

 たまたま公園を歩いていたキルタンサスが、団長と遭遇した。

 

「ようキルタン、散歩か?」

「ちょっとした用事があったの。団長さんは……」

 キルタンサスは足元を見た。

 彼は二匹の大型犬を連れていた。

 

「誰かから預かったんですか?」

「まあ、預かってるっちゃ預かってるな」

「ふーん、ほら、おいで」

 キルタンサスがしゃがんで両手を広げるが、その二匹の犬は団長の足元から離れない。

 

「ああ、そいつらは人見知りでな。悪く思わないでくれ」

「へぇ、随分と懐かれてるんですね」

「何度も散歩に連れてってやってるしな」

「どうせならイヌタデちゃんの妹も一緒に散歩してあげればいいのに」

「あの子はあいつがいつも一緒に運動しているからな」

 そんなとりとめのない会話をしていた二人なのだが、ふと団長は悪戯っぽく笑った。

 

「キルタン、君がこいつらを散歩させてみるか?」

「え? いいの?」

 ちょっと嬉しそうにするキルタンサスだったが、足元の犬たちは不安そうな鳴き声を上げ始めた。

 

「ほれ」

「ありがとうございます」

 彼女にリードを手渡されると、犬たちは力なく項垂れた。

 

「そう言えば、この子たちの名前ってなんて言うんですか?」

「え?」

 キルタンサスの問いに、なぜか団長は意表を突かれたような表情になった。

 

「あ、いや、ただ預かってるだけだから俺も聞いてないんだ」

「何回も散歩してあげてるのにですか?」

「イヌタデの奴も妹ちゃんに名前を付けてないだろう?

 俺も多分それに慣れちまったんだろう」

 どこか取り繕う様な言い訳だったが、キルタンサスは深くは追及しなかった。

 

「じゃあ、少しの間よろしくね」

 そう言ってキルタンサスは片方の犬の胴体を撫でた。

 突然の接触に、その子は驚いたようにのけ反った。

 

「…………団長さん」

「どうかしたのか?」

「いえ、何でもないです」

 何やら呆れたような表情になって、キルタンサスは二匹の散歩を開始した。

 

 

 

「率直に言いますけど、ああいうのは良くないと思います」

「わんちゃんのお散歩してあげるのが?」

 まだ察していないキウイがそう言うと、キルタンサスは首を振った。

 

「あの感触はどう考えても人間の素肌でしたから」

 最初に犬と言う単語が出てきた時点であらかた察していた面々以外も、あっ、となった。

 

「しょうがないだろ、飼い犬を散歩に連れてくのは飼い主の務めだし」

 ちら、ちら、と当事者ならぬ当時犬だろう人物を見ながら彼はそう言った。

 

「だからって白昼堂々と……ばれたらどうするつもりだったんです? また左遷ですか?」

「うぐ……いや、だってさ、夜にやるとより変態っぽいじゃないか」

「同じことです!! 団長さんたちがどんなプレイをしようがどうでもいいですけど、皆に迷惑を掛けるようなことは慎んでください!!」

 ちらちら、と当時自分が散歩に連れてっただろう相手を見ながらキルタンサスはそう言った。

 彼女の顔が赤いのは、彼女が照れ屋だからというだけではないだろう。

 彼らのプレイに付き合わされたのだから当然だ。

 

「で、イヌタデちゃん以外のもう一匹って誰なの?」

 あえて誰も具体的な名前を言わなかったのに、その上突っ込もうとしなかったことにまで話を伸ばすこの空気の読めないロリは誰であろう、ランタナである。

 

「ぎゃぴッ」

 この話題に入ってからずっと脂汗がだらだらで挙動不審のロリが変な声を挙げたが、誰もが聞かなかったことにした。

 もう片方のワン子はなぜかぶるりと体を震わせていた。

 

「あのな、ランタナ。世の中には解放感を求めて衣服をポイしたいって性癖の人間が居るんだ。

 汚いおっさんならともかく、可愛い女の子なんだから許してやれよ」

「難儀だなぁ」

 ランタナのくせに難しい物言いをしながら、うんうんと頷く彼女だった。

 

 

「ごほん、さて、私達だけで一方的に言うのはフェアじゃありませんし、団長さんから何か私たちに言いたいことはありますか?」

 さっさと話題を変えるためかサクラがそんなことを言った。

 何が楽しくて同僚の露出癖を暴かなければならないのか。

 

「ああうん、俺はお前たちに不満なんてないぜ?

 俺はお前たちを部下として愛しているつもりだ」

 迷いなく団長はそう言いきった。

 

「それでも我慢できないこととか有ったりはしませんか?」

「あ、でも、これは違うしなぁ」

「参考までに仰って下さい」

「んじゃあ、まあ、そうだな」

 サクラに促され、団長は意を決した風に口を開く。

 

「これは分かりやすさを重視する為、サクラ(仮)とウメちゃん(仮)という二人のことなんだが」

「なんで私とウメちゃんなんですか」

「その二人の関係がお前らそっくりなんだよ!!

 でだな、そのサクラ(仮)は才色兼備で文武両道、キレイな女の子で胸も大きく性格も良い素晴らしい女性だ。

 対してウメちゃん(仮)も彼女の幼馴染で武芸に優れた素晴らしい女性なんだが」

 団長が語るその二人は、まさしくサクラとウメそっくりだった。

 むしろ当人たちに配慮してわざとそうしているのかと思うくらいである。

 

「そのウメちゃん(仮)はコンプレックスが有った。彼女はサクラ(仮)に女性として勝てないと思っているのだ」

「本当に私たちのことじゃないですよね? ウメちゃんがそんなこと思っているんですか?」

「だから違うと言っとろーが!!

 それでだな、当然ウメちゃん(仮)もサクラ(仮)に対して己の胸が控えめなことに劣等感を抱いているわけだ」

 おいまたセクハラか、という視線が団長に集中する中で、彼は構わず話を続ける。

 

「だがそのウメちゃん(仮)がこんな風に胸を強調する仕草をするとどうだろう。

 …………こう、下乳が腕にずっしりと乗るのだ」

 団長は腕を胸部の下で組んで、女性なら胸が強調されるポーズを真似した。

 ここに来て全員、ああ二人とは別の人物の話なんだなと分かった。

 悲しきかな、この場にいないのに出しにされるウメちゃん。

 

「二人の同僚には、そうだな、ハナモモちゃん(仮)やカタバミちゃん(仮)が居るってのに、この子は何言ってんだって俺は思ったわけよ。

 お前らも自分より胸がでっかい子が、私自分より大きい胸の子と比べて胸が小さいのがコンプレックスなんですって言ったらムカつくだろう?」

 それを想像してみて、イラッとしたという表情の面々が多数いたようだったのを確認して、団長は大きく頷く。

 

「俺もイラッとした。

 胸が小さいことにコンプレックスを抱くのは客観的に見て胸の小さい子であるべきなのだ。

 おっぱいがでっかいくせに胸が小さいことを気にしてても萌えないんだよぉ!!」

 貧乳派団長の、魂の叫びだった。

 くっそどうでもいい話だった。

 

「だからなサクラ、ゼラニウムちゃんとか見ても自分の胸が小さいとか思うなよ。お前は十分すぎるほどデカい。不十分なほどにな」

「団長さん、セクハラです」

「おっと、悪い悪い」

 笑ってごまかす団長に、サクラは仕方がないなぁと彼を見て微笑んだ。

 

 

「それで、結局ランタナちゃんと何をしていたんですか?」

 終始ずっと静かにしていたペポがそう言った。

 

「うん? ああ、そうだった、もうこんな時間だし、丁度いいか」

 団長は時計を見ながらそう言った。

 

 

 

 

 §§§

 

 

 仮宿舎の多目的室で部下達はいくつかのグループを作り、お互いに頭を突き合わせてダイスを一心不乱に振っている。

 

「全員、第二波は凌いだか? では第三フェイズ開始時に状況推移表を振るぞ。

 ……出た目は3、内容は【上層部の対処が遅く、援軍が遅延】だ」

 団長が手元の用紙とダイスの出た目を照らし合わせてそう言った。

 各グループから舌打ちや悪態が聞こえた。

 

 彼女らは現在、『花騎士卓上演習2.0版』の追加ルールブックにおけるレギュレーションのひとつ、国家防衛戦シナリオをプレイしていた。

 団長とランタナは一晩かけて新しく作ったシナリオを調整をしていたらしかった。

 

「もう、二人で遊んでたんだなんてズルいよ……」

「まあまあ、どうせそんなことだろうと思ってたんでしょう?」

 唇を尖らすペポを見てサクラは苦笑していた。

 

「こんなことだったら、私が団長さんから受けた数々のセクハラを超えた何かをさっき言っちゃえば良かった」

「例えば?」

「この間、部隊の慰安旅行でビーチに行ったじゃないですか?

 ランタナちゃんと一緒に海の中に浮き輪で泳いでたら、海の下からぷくぷくと泡が湧いてたので下を見てみると、潜水メガネを付けた団長さんが居たんです!!」

「うわぁ」

「他にも、この間、皆で遊びに行く日の朝、遅いから起こしに行くことになって部屋に入ったら、私の二頭身人形を顔にうずめて眠ってたんですよ!!」

「ああ、それって私が上げたペポちゃん人形2号か!!」

 なかなかに酷いその内容に、ペポと卓を囲んでるメンバーも呆れ顔だった。

 

「団長さん、よく捕まりませんよね……」

 リシアンサスの呟きが、皆の全ての心境を代弁していた。

 

「ペポさんも嫌なら嫌ってスッパリ口に出した方が良いですよ。

 団長さんのアプローチはちょっとズレてますから」

 と、ダメージ処理の計算をしているリンゴがそう言った。

 

「団長さんはペポさんにゾッコンですから、明確に意志表示しないと何も伝わらないと思いますよ」

「そうは言いますけど、皆さんにも同じようなことしているじゃないですか。

 団長さんは好みの子なら誰でも良いみたいですし」

「その気持ちは分かりますよ、でも私は団長さんがペポさん以外に理想の美少女だって表現をするのは聞いたことないですよ?

 ここ最近のイメプレの定番だってまず……」

「そこでなんで黙るんですか!!」

 リンゴは危うく失言を仕掛けたので目を逸らしたが、割と遅かった。

 

「でもさ、ペポもなかなかに罪な女よね」

 すると、自分の手番でダイスを振っているランタナがこんなことを言い始めた。

 

「だんちょと初めて会った時、雷に打たれたような顔してたじゃない?

 あれって絶対一目惚れっしょ? 人が恋をする瞬間を見てしまった、ってヤツ?

 それなのにまだ進展ないみたいだし。

 この部隊に来るのだって、ペポがどうしてもって頼むからだし、私もだんちょのところなら楽しそーだなって」

「――――ランタナちゃん」

 普段ならまず聞かないだろうペポの鋭い声に、ランタナは思わず手にしていたダイスを取り落した。

 

「その話は、しないでって約束したよね?」

 ペポはいつものように笑っていたが、目は据わっていた。

 

「あ、えーと、うん? そだっけ?」

「誤魔化さないで。ランタナちゃん、今度買ってあげるおやつは無しね」

「ちょ、それが人間のやる事かよぉおお!!」

 ランタナの騒がしさも、その場を取りつくうような無駄な勢いがあった。

 二人はあからさまに何かを隠していた。

 

「ペポちゃん、あなたまさか」

「さ、サクラさんの手番ですよ」

 共用しているダイスを差し出され、サクラは言葉を飲み込んだ。

 

「そう言えば、もうすぐハロウィンですね」

 去年と違い、今年は当日この部隊は休暇なので皆でパーティをする予定だ。

 

「待ち遠しいなぁ」

 そう呟くペポは、少し寂しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 





先日はお見苦しい文章を晒して大変失礼しました。
最近仕事疲れで執筆意欲が薄いとは言え、あんな駄文を書いてしまうとは我ながら重症ですね。

しばらくはランタナでも愛でて癒されたいです。
それでは、また次回で。



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