貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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夏バテと風邪のダブルパンチを食らいました。
お蔭でしばらくぶりの投稿です。

ひとまず、この作品はここで完結とさせてもらいます。
その辺は一番上の活動報告に書いてあります。

これまで、この「貧乳派団長とリンゴちゃん」をご愛読くださり、本当にありがとうございます。



ひとまずのエピローグ

 リリィウッド外円部にて、花騎士ロベリアの怒声が響く。

 鬼教官と恐れられる彼女の指導に、夏季休暇明けの騎士学校の生徒たちは涙目になって走らされている。

 

「向こうは大変そうだな」

 そしてこちらは我らがリンゴ団長。

 彼とその部隊も、補習授業の依頼に駆り出されていた。

 こちらはいつもにこにこ優しいサクラのオーラにあてられ、あこがれの視線を向けたり、あっち側と対比して安堵していたりしている学生たち。

 

「基礎はしっかり。まあ、向こうのやり方に口を出すつもりはないが、自分の限界を知るってのはとても重要なことだ。

 少なくとも俺は物理的に無理なことをさせたりはしないさ」

 穏やかな口調でそう語る団長に、ホッとなる生徒たち。

 そんな彼女たちを奈落のどん底に突き落とすかのような言葉を、次に彼は吐いた。

 

「だからとりあえず、五人組になれ。

 状況は極めて強力な害虫の小集団に奇襲を受けたと想定する。

 俺たちはお前らを追い立てるから、屋外ならどこにでも逃げて構わない。

 日没まで逃げ切れた班は今夜の夕飯に一品追加してやる。捕まったら夕飯まで走り込みな。

 勿論、武器を手にして抵抗してもいい。いやそれを推奨する。死ぬ気で抵抗しろ」

 それは明らかに無理ゲーだった。

 学生たちの表情が絶望に染まっていく。

 

「俺は向こうと違って無理なことはさせない。

 だが見込みがないと判断したら即座に家に帰らせる。そいつの補習は終わりだ。嬉しいだろう?」

 冷徹な視線を向けられた学生たちは、涙目になって震えるのだった。

 

 

 

 学生たちは、どこへ逃げても良いと言われたので、とりあえず森の中へと逃げ出した。

 流石に街中に逃げるという選択肢を取る者は居なかった。居たら団長は即座にその班を家に帰しただろう。

 守るべき市民に紛れ、盾にするように逃げると言うのなら、その者に花騎士たる資格はない。

 

 誰もが憧れる花騎士の中の花騎士たるサクラの前で失望を受けるわけにはいかない学生たちは、死ぬ気になって容赦なく攻撃を仕掛けてくる団長たちから逃げ惑った。

 

「C班、脱落者一名を見捨てて他四名は逃亡を継続したようです」

「ならそいつらは一度家に帰せ。恐怖に先立たれると己の本性が垣間見えるものだ。

 それを知れただけでいい勉強になっただろう。後日、自分たちから補習に戻るようそれとなく促せ」

「分かりました、そうさせますね」

 実戦に()いて仲間意識の重要性をよく理解しているサクラは、団長の容赦のないやり方に首肯(しゅこう)した。

 その表情に若干の不満を、長い付き合いの団長は感じ取っていたが。

 

「あのー、こんな風にふるいを掛けるようなやり方で良いんでしょうか」

 そう言ったのは、先日騎士学校を卒業したばかりの新人花騎士フリージアだった。

 憧れの同郷の星たるサクラが在籍する部隊で間近に教導を見れると言うことで、団長が後進育成の為に数名外部から募集したうちの一人だった。

 そして、めっちゃ団長の好みのタイプだった為、襲撃をしている各班とは違い傍に置いていた。

 

「では君は時間も稼ごうと足掻くことなく仲間に逃げられてもいいのかい?」

「それは、嫌ですけど……」

「相手が害虫だったら、君は死んでしまうな。

 仲間も、君を見捨てた罪悪感に打ちひしがれる。それを実戦でやってしまえば、一生の傷になる。

 だから、今のうちにそう言うことをしそうな者にお前はいざと言う時に仲間を見捨てるぞ、と教えてやっているんだ。

 最初に我先にと見捨てる者、それに釣られて仕方がないと一緒に逃げる者、足を引っ張った者。全員同罪さ」

「でも、でもですよ? そうなったら、見捨てられた女の子は他の人たちに責められちゃうんじゃないんですか?

 もしかしたら、それが原因でイジメになるかもですし」

「ふむ、なるほど、それは考慮してなかったな」

 フリージアの指摘に、団長は一理あると頷いた。

 

「そのあたりは男の俺には分からん感情だ、サクラ、悪いがフォローを頼む」

「はい、任せてください!!」

 このコミュ力お化けのサクラも、フリージアと同じことを思っていたのだろう。

 団長が言わなくても自分でやっていただろうが、改めて指示を受けて嬉しそうに彼女は頷いた。

 

「ありがとうフリージアちゃん。

 俺も色々な花騎士に指導してきたが、その度に学ばされることばかりだ」

「そんな、私こそ生意気なこと言ってごめんなさいです」

「いいんだよ、弟子は師に学び、師は弟子に学ぶものだ。

 思ったことがあったら、どんどん言うと良い。一緒により良い補習にしようじゃないか」

「はい、頑張ります!!」

 にぱっと無邪気であどけない笑顔で笑うフリージア。かわいい。

 団長が普段より五割増しで優しいのは、もちろん彼女に良い格好をしたいからである。

 

 

「ふへ、ふへへ、やべぇ、マジやべぇ、フリージアちゃんマジかわいい、襲いたい」

「団長さんってば、ああいう子ドストライクですもんね!!」

 一通り、学生たちを蹴散らして走らせ終えると、団長とリンゴは宿舎に戻りながらそんな話をしていた。

 ちなみに、学生たちは容赦のない奇襲挟撃トラップ誘導待ち伏せのコンボで、一時間もせず全滅した。

 あまりにもあっけなかったからもう一回やらせたほどだった。

 

「やっぱり可愛いは正義だよな」

「もしかしてですけど、団長さんってばツインテール好きなのでは?」

「おう? おお、おお!! 確かに、そうかもしれん!!」

「あ、やっぱり無自覚だったんですね、前々からそうだと思ってたんですよ!!」

「でもツインテは似合う似合わないが個人差大きいからな。

 サクラとかは見慣れたからか三つ編み以外考えられんし、そう考えたら師匠がツインテ似合うのは奇跡だよな」

 さり気なく酷いことを言う団長だった。夜空に良い笑顔を浮かべたデンドロビウムが浮かび上がりそうな雰囲気である。

 

「あの、少しよろしいですか」

 へとへとな様子で宿舎に帰る一団の中から、一人団長たちの元へとやってくる学生が居た。

 

「おお君は、パープルパンジーちゃんじゃないか」

 キラーン、と将来の獲物をロックオンしたような擬音が聞こえそうなほどの笑顔で団長は彼女の方を向いた。

 

「少しお話が有るので、いいですか?」

 どうしようもねぇ変態野郎ですね、という表情を隠そうともせず、正直もう帰ろうかな、と考え始めているパープルパンジーは相談事を打ち明けた。

 

 

「姉たちが戦果を挙げるにはどうしたらいいか?」

 彼女の相談とは、要するに花騎士としてそんなに強い方じゃない姉二人を活躍させたいとのことだった。

 

「俺は彼女たちと話したことがあるが、この上なく活躍していると思うが?」

「どこがですか。ここ最近、姉たちは三十回連続で勝利無しと、順調にアホな記録を伸ばしています。

 害虫を倒せない花騎士に何の意味が有りますか。

 このままでは二人とも戦力外通告されてしまいます」

 割かし切実な内容の話に、団長は腕を組んで頷いた。

 

「じゃあ俺の部隊に引っ張って来てやろうか?

 俺なら確実にあの二人を活躍させてやるよ」

「ほ、本当ですか!!」

 それを聞いたパープルパンジーは驚いたようにそう言った。

 だが、

 

「その代わり、一か月で二人は使い物に成らなくなると思え。

 大丈夫だ、一生食っていけるような手当を貰えるようにしてやるから」

「そ、そう言うことを言ってるんじゃないです!!」

「じゃあ、どういうことだ?」

 声を荒げるパープルパンジーの目を、団長は見下ろす。

 

「実力に見合わない相手と戦わせて勝たせることを、俺は戦果とは言わない。

 一度の戦いで百匹の害虫を殺して死ぬ花騎士と、百度の戦いで一匹の害虫を殺せずとも生き残る花騎士、どちらが優れているのかわからないほど君は愚かじゃないだろう?」

「でも、それじゃあ勝ったとは言わないです」

「その為の仲間で、その為の騎士団だ。

 君も准騎士になって戦いの場に出れば、自分の考えがいかに浅はかか思い知るようになるさ。

 個人の勝利より集団の勝利、戦術的勝利より戦略的勝利、要するにそう言うことだ」

「では、全体の勝利の為にあなたは姉たちを切り捨てることを(いと)わないと?」

 その鋭い切り返しに、団長は彼女の優秀さに笑みを深めた。

 

「そうならないように、指揮官は思考するのだ。

 思考を止めた時、人間は死ぬ。常に思考しろ、とは俺の師の教えだ」

「わかりました。とりあえずはそれで納得してやるです」

 質問を終えて踵を返す彼女のその小柄な背を見送り、団長は思う。

 将来が楽しみだな、と。

 

 そんな時だった。

 

「うわーん、リンゴちゃんのところのだっさ~ん!!」

 ロベリアの割り当ての所で学生たちと一緒に訓練させられていた花騎士カウスリップが、自慢の胸をばるんばるんさせながら団長に抱き着いてきた。

 

「アタシ、こっちの方がいいよ~!! あっちの訓練厳しすぎ~!! って、あれ?」

 今どき系女子の彼女は、抱き着いた相手が思いのほか小さいことに小首をかしげた。

 

「む……はぁ……」

「あれぇ、リンゴちゃん!? どうして!?」

「くくく、君が抱き着いた相手は俺の残像よ。

 これぞ、忍法・変わリンゴちゃんの術……」

 豊満なおっぱいに埋もれて半死半生状態のリンゴに驚く彼女を見て、いつの間にか背後に回り込んでいた団長が怪しげに笑った。

 

「むむむ~、アタシ抱き着きをこうも何度も避けるなんてー。もしかして、だっさん、アタシのこと嫌い?」

「いや、そう言うわけじゃないんだが、な?

 もうちょっと胸部を薄くしてから近づいてほしい、なんて」

「それ私の存在意義無くなってるじゃーん!!」

「そこまでいうなら、掛かってこいや!!」

 力士のように膝を曲げ、構えを取る団長。

 そんな彼にスキンシップを取ろうとするおっぱい花騎士。

 

 

「ふ、君のおっぱいはまだまだだな。

 この世には、ゼラニウム神という上には上がいるのさ」

「マジで!?」

 

「何やってるんだ、あのバカどもは」

 リンゴと一緒に往来のど真ん中で倒れ伏しているバカ二人をクロユリはいつものように呆れた視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 ……

 ………

 …………

 

 

 

「わきゅーーーう!!」

 ずだだだだだ、と銃座に固定されたフリージアのガトリングガンが放つ魔力弾の掃射に、害虫たちがバラバラに引き裂かれる。

 

「そーれ、どっかーんですぅ!!」

 出鼻を挫かれた害虫の群れに、リムナンテスの砲撃が飛んでくる。

 おびき出された害虫たちは既に壊滅状態だ。

 

「残るモノが~なくても~、信じたロードを~突き進め~♪」

 ランタナが歌ってられるくらい余裕の戦いだった。

 

「このように待ち伏せを行うのだ。

 戦いとは一度の攻撃でなるべく決着をつけるのが理想的だ。

 だが現実はそうもいかないことが多い。索敵や陽動、そして機を見る目を養えば、少ない戦力で多勢を圧倒できる」

 翌日、団長たちの受け持ちの学生は実地訓練をしていた。

 

 各々、比較的弱い害虫を捕まえては、どういった能力を持っているかや、危険性について解説している。

 まだまだ新人のフリージアも、少し先の先輩として現場での驚きや苦労などを後輩たちに教えているようだ。

 

「ふひ、ふひひ。フリージアちゃんかわゆい……」

 そんな光景を、見ているロリコンが一人。

 

「これで何人目の理想の美少女ですか?」

 大抵のことは受け入れられる器の大きなペポも、すっかりこの団長相手には疑心全開だった。

 

「どうせ可愛い子なら誰でも良いんですよね」

「違うな、胸が小さくて可愛いければ誰でもいいのだ」

 そこまで言ってから、団長はハッとした。

 

「今の無し」

「ちょっとラベンダーちゃん呼んできますね」

「ちょ、おま、あれは別ジャンル、違う次元の存在だって」

 真顔でクズ発言を無かったことにしようとするクソ野郎は、容赦のない行動をしようとするペポの背を引き留めようと悪あがきしはじめた。

 

「団長さんってばいつもそうですよね、この間だってそうですし」

「この間?」

「私とランタナちゃんのアクアシャドウが出た時の話です!!」

「ああ、あれか」

 言われて、団長は当時のことを思い出す。

 

 

 

 

「結局、アクアシャドウって連中は何がしたいんだ?」

 団長の疑問はそれに尽きた。

 

「どういうことです?」

「いやな、連中はこのロータスレイクを滅ぼしたいと言う。

 だが俺なら計画を実行に移すその瞬間まで、自分たちの存在を明かしたりしない。

 一気果敢は作戦行動の大原則だからな」

「それもそうですよねぇ」

 リンゴは散発的に出現するアクアシャドウたちの出現ポイントを現した地図を見下ろす。

 戦力の逐次投入は愚策だというのに、出現位置もバラバラだ。

 

「同時多発的と言うには間が有り、ゲリラ戦というにはお粗末だ」

 完全な奇襲で一か所にこれまでのアクアシャドウをすべて投入すれば、ロータスレイクの水中都市を最低でも半壊に追い込むぐらいは可能だったはずだ。

 

「どうにも連中の意思統一にも問題があるみたいだしな」

「恐らく、一度に出現させられる数には限界があるのではないですかね」

「あれほど精巧で高度な偽物だものな、その線は濃厚か」

 仮にそれらの欠点を覆す存在ならば、それは最低でも世界花級の相手となる。

 そんなもの、人間にどうにかなるとは思えない。

 

「アイツらは頭に声が聞こえるとも言っていた。

 もしかしたら、相手は本当に怨霊なのかもしれんな」

「と言うと?」

「害虫をこの世に(もたら)したクソどものことさ」

「ああ、未だ魂になって彷徨っているって言う……でも、それこそ、おとぎ話の世界ですね」

「だな」

 団長とリンゴがそんな他愛も無い会話を繰り広げていると、指揮所の周辺が騒がしくなった。

 

「どうやら、また現れたらしいな」

「そうみたいですね、私たちも現場に行きましょう」

「ああ、そうしよう。

 次はいい加減俺好みのロリっ子だといいなぁ」

 これまで登場した面々を思い返し、そろそろモチベーションが下がってきた団長だった。

 

 

 

「ロリっ子美少女だぞ、喜べよ」

 先行したサクラたちを追って水都ロータスルートにやってきた二人は、ランタナのアクアシャドウと遭遇した。

 

「ちッ」

「ちょ、露骨に舌打ちしたよこのロリコン!!」

「よりにもよってランタナかよ。

 リンゴちゃんに、クロユリ、ペポ、ニシキギ、サクラ、早くこの偽物をぶっ潰せ」

「うわ、ガチパだ、ガチパーティだ!!

 このロリコン、ガチで私をやっつけようとしてるー!!

 引くわー、マジ引くわー」

 ちっとも躊躇いも無く滅ぼそうとする団長に、水影ランタナもドン引きだ。

 

「うん、待てよ、ランタナが居るってことは……」

「そんなことさせないよ。ランタナちゃんは私が守るから」

「うっひょーーー!!!」

 水影ペポの登場に、団長のテンションはダダ上がりだ!!

 

「あーあ、出会っちまったか」

「とりあえず、ここは様式美をやらない?」

「そだね、そーしよ」

 妙に息の合っている本物と偽物のランタナは、距離を空けて対峙する。

 

「ランタナぁ!! 貴様何ものだぁ」

「ふっふっふ、ホントは分かってるくせに」

「違うね、お前は私じゃなーい!!」

「くっくっく、そうさ、もうお前じゃないのさー!!

 私は水影、真なる私……」

 何やら寸劇を始めた両者に、何やってんだこいつら、みたいな視線を送る周囲だった。

 

「と言うわけで、私は自分の心の闇を超えるから、手だし無用だぁー!!」

「そう言うわけで、ペポデレラ、そっちはよろしくー!!」

「え、ちょっと、ランタナちゃん、勝手な事しないで!!」

 偽物でも本物でも、ペポはランタナに振り回される定めのようだった。

 

 

「いいか、お前ら、絶対、絶対、ぜぇーったい、あの偽ペポを捕まえるんだぞ!!

 むは、むははは、そしてそのあとはお楽しみの尋問タイムだ!!」

「どちらが悪役か分からんな……」

「ああもう、これだから教官殿は……」

 すっかり楽しげな様子の団長に、ハスもウメも額を押さえている。

 

「お前たち、待て」

 両陣営、寸劇を挟みつつ戦闘を継続していたのだが、頃合を見て団長がそう言った。

 

「団長さん、どうしましたか!?」

「お前ら、下がれ。俺に考えが有る」

 そう言って団長は戦うリンゴたちの前に出た。

 

「なあお前、楽しいか?」

「何が? この国を滅ぼすこと?」

 水影ペポは警戒したまま、団長を見据える。

 

「違う、あの偽ランタナと一緒にいることさ」

「なに言ってるの、ランタナちゃんと一緒にいるのは楽しいに決まってるじゃない」

「本当か? 本物のペポは何だかんだでランタナの奴と一緒にいると楽しそうだぞ。

 だけどお前はちっとも楽しそうじゃないな。どうしてだ?」

「あなたには関係の無い事だってば!!」

 その返答に、団長は笑った。

 

「ペポ姫、ペポリーヌ姫、それに、ペポデレラだったか?

 そっちのランタナがお前をそう呼んだな」

「それがどうしたの?」

「お前はそっちのランタナを守ると言ってるが、向こうの認識はまるで逆と言うのが笑えてな。

 向こうのナイトはお前を守ってるつもりみたいだぞ、プリンセス?」

 団長の煽り文句に、水影ペポは肩を震わした。

 

「うるさい、うるさいウルサイ、煩い!!

 私の気も知らないくせに、あなたみたいな弱虫でウソツキが、知った風に言わないでよ!!」

「ははは、それだ、それが見たかった!!

 可愛いな、お前、可愛い可愛い、可愛い、ははは!!」

 指を指して笑う団長に、水影ペポの怒りは頂点に達し、カバンを振りかぶって襲い掛かってきた。

 

「注意力散漫だぞ、だからお前は隊長に出来ないんだ、ペポ」

 その瞬間だった。

 光の球が予測不可能な物理法則を無視した動きで飛来し、ペポに体当たりを仕掛けたのだ。

 

「きゃう!?」

 地面に叩きつけられる水影ペポ。

 

「よくやった、イヌタデの本体」

「ちょ、それはないんじゃないの、ご主人!?」

 光の球の正体とは、イヌタデの妹だった。

 彼女の強襲に初見で対応できる相手はまず居ない。

 

「ほーれ、つっかまえたー!!」

「ちょ、止めて、放して!!」

「うほ、なんだこれ、ひんやりしてて触り心地最高だ!!」

 武器のカバンを取り上げ、後ろから水影ペポを羽交い絞めにする団長。

 

「ちょ、団長、危ないですよ!! でももっと詳しく感触を教えてください!!」

「ゼリーよりは柔らかいが、触ると波打って絶妙な弾力だ。抱き枕にして寝たい!!」

「う、羨ましいです!!」

「その為にわざわざ近づいたんですか!!」

 羨ましそうにしているリンゴをよそに、リシアンサスがツッコミを入れた。

 

「はむ、ごくごく、っぷはぁ、ペポ水うめぇ」

「な、なに飲んでいるんですか、止めてぇ~」

 水影ペポの首筋に口を付けてドレイン攻撃を仕掛ける団長。

 これにはたまらず悲鳴を上げる水影ペポ。ついでに本物のペポもダメージを受けている!!

 

「ああこら、ペポを(かじ)っていいのはランタナだけだぞ、っとと、あぶね!!」

「よそ見とはよゆーだな、あっはっは!!」

 変態行為の横ではランタナ達が激戦を繰り広げている。

 

「こ、これ以上変な事するなら、自爆しますよ!!」

「おう、やってみろよ。お前と一緒に心中なら本望だ。

 だが、そのあとそっちのランタナを誰が守るのか、よく考えてからやるんだな」

「~~~~~~~!!」

 水影ペポの脅しもまるで恐れていない団長に、彼女も声にならない声を上げた。

 振り払おうと思えばいつでも振り払えるが、既に射撃体勢を整えた花騎士たちが何人も居るため、その一瞬の隙に総攻撃を喰らうのは目に見えていた。

 

「そーれ、次はスカートの中をだな」

「もう止めてください!!」

 羞恥で顔を真っ赤にした本物のペポがカバンを投げつけた。

 

「へぶら!?」

 それが団長の頭にクリーンヒット。

 彼は大の字になって倒れた。

 

「このバカ、変態、嫌い、キライ嫌い!!」

「へへ、罵倒の語録が少なさが微笑ましいな」

 がしがしと足蹴にされても全く堪えない団長だった。

 

 

 

「ランタナ、お前、消えるのか?」

 二人のランタナ同士の決着がつき、残りの力を水影ペポに譲渡した水影ランタナは消えようとしていた。

 

「ふふふ、我が人生に一片の悔いなし。

 あ、でも、正直自爆とかしてみたかったわ」

「自爆できるなんて、羨ましいじょ!!」

 しんみりするシーンなのに、何だかいつも通りのランタナ達だった。

 

「これで少しは持つか?」

 団長は腰に付けてた水筒の蓋を開け、中身を水影ランタナにぶちまけた。

 

「ロータスレイク産世界花の加護たっぷりの美味しいお水だ」

「へへ、ありがとよだんちょ……正直もう意味ないけど。

 それでも、ランタナは最後までランタナでした」

「そうか。リンゴちゃん」

「はい」

 団長の声に応じ、リンゴは特徴的な短剣を彼に差し出した。

 先端が尖がった細長いそれは、スティレット。或いはミセリコルデとも呼ばれる。

 

「言い残すことはあるか?」

「ぶっちゃけ、この先の展開知らないから意味深な事しか言えなくてゴメンね.

 出番を終えたランタナはクールに去るのだ」

「ふん、それじゃあ、あばよ」

 そして、団長は部下に対する最後の仕事をした。

 

「不出来な偽物だったな」

 手についた水を舐めながら、彼は吐き捨てるようにそう言った。

 

 

 ……

 ………

 …………

 

 

「いやぁ、やっぱり体温が有った方がいいわな。

 俺の中でペポがナンバーワンよ」

「でもあの子のスカートの中に手を入れようとしましたよね」

「あれはほら、あれだよ、学術的興味だって!!」

 必死に弁解する団長だったが、ペポは白い目を向けたままだった。

 

「それに、あの子、ランタナちゃんと同じ姿をしてても、トドメを刺せるんですね」

 それは彼女にしてはどこか、咎めるような言葉だった。

 

「あれがペポでも、俺はやれたぞ」

 冗談を言うのと変わらぬ笑みで、彼は言った。

 それが、少しだけペポは恐ろしいのだ。

 

「言っておくが、俺がトドメを刺せるのは本当に幸運な方だ。

 害虫にやられたら大抵が即死か、出血死してるのが大半だからな」

「…………」

「だが、流石にあれは俺も堪えた」

 仲間たちと楽しそうに笑っているランタナを見ながら、彼は呟いた。

 

「俺が狂ってる自覚はあったが、あの時、自分の中で吐いてた嘘に大きなヒビが入った気がしたよ」

「確かにあれ以来、団長さん少しおかしかったですもんね」

「破綻はもう目前だったんだ。

 だからこそ、サクラには悪いことをさせちまった」

 そう言って肩を落とす団長に、ペポは何も言えないのだった。

 

 

「ランタナ……良い奴だったよ」

「あの、勝手にランタナちゃんを殺さないでくれませんか!!」

「ちッ、このまま本物を死んだ流れに出来ると思ったのに」

「私だって怒りますよ!!」

「ははは、ジョークだって、ジョークジョーク、団長ジョーク」

 ぷんぷんしているペポをなだめて、団長は訓練中の学生たちを見やった。

 

「こうして花騎士を教官をしていると、俺は時々あいつらを死地に追いやってるんじゃないかって思う時が有る。

 この中の何人かは、卒業して一年もたたずに死ぬだろうからな」

「そんな悲しいことを言わないでくださいよ。

 そうならない為に、こうして皆に教えているんですから」

「ああ、そうだな」

 そうして話していると、キルタンサスが二人の前にやってきた。

 何やら慌てた様子だ。

 

「報告よ、向こうでトラブルが有ったみたい」

「どうせ害虫だろう?」

「恐らくは」

 教官として来ていても、団長のやることは変わらない。

 今日も、明日も、その先も。

 

 

 

 §§§

 

 

「今日の議題は、どうやったらプロテアさんの機嫌を取れるかです!!」

 団長の定例会議で、チューリップ団長が開口一番にそう叫んだ。

 

「どうしたんですか、彼」

「どうやらいい加減、愛想を尽かされたらしい。何でも、別れようって言われたらしいぞ」

「栄枯盛衰、一時の儚い夢だったな」

 団長たちは好き好きに勝手なことを言う。

 

「ふ、振られてないし、ちょっと距離を置こうって言われただけだし!!」

「まあまあ、そう荒れるな。今日はみんなで飲みに行こうぜ、な?」

 今日も団長たちは楽しそうだった。

 

 そこで、ちゃっかり居ついてお茶菓子をもぐもぐ食べているランタナが、ごくりと口の中の物を飲み込み、カメラ目線で一言。

 

「そうそう。今回は最終回だぞ、泣けよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……こんな感じか。やっと書き終わった」

「ほう、売れ筋の作品の原稿が終わったか?」

「うるさい。好きに書いた奴より自叙伝の方が売れてるのは分かってるっての。

 って言うか、その売れてる理由ってどうせサクラが登場人物にいるからだろ。

 こうなったら大幅に盛ってやる。心臓止まって死んだと思ったら三日後欠伸しながら棺桶から起き上がった話なんてどうだろうか」

「それ、実話じゃないか」

「うーむ、あいつの話はいくら盛っても脚色できてる気がしないな」

「それより、いい加減うちの子たちに構ってやったらどうだ」

「いやぁ、この後リシアンサスの奴との打ち合わせが有ってよ。

 毎回毎回、最後の展開で揉めるんだ。何度も何度も、これでいいのかって、何時間も話し合う羽目になる。だから家族サービスはまた今度な。

 お隣のタマネギ頭とカボチャに遊んでもらえ。うちよりオモチャ沢山あるし」

「そうだな。

 それで、お前の物語はこれで良かったのか?」

 

「何言ってやがる、俺たちの戦いはハッピーエンドになっても終わらない。そうだろう?

 今はそう、次の戦いの為の準備期間ってヤツよ」

「ああ、本当に、お前は変わらないな」

「お前こそ、剣の腕が鈍ったなんて言うなよ」

 

「だんちょだんちょ!! あ、違った、元だんちょ!!

 大変大変、国家防衛戦だって!! 害虫が来てる、めっちゃいっぱい来てるよ!!」

「ったく、今はもう空挺騎士団の時代だってのに、なんで俺たち歩兵にまでお呼びが掛かるのかね」

「仕方ないだろう、どこだって手が足りてない筈だ。いくぞ」

「ああ、全く。――いつの時代も、楽にハッピーエンドにさせて貰えんようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、あとがきと言っても、前書きで全て言いたいことを言ってしまってます。
私はゲームでラスボス直前になって、ゲームが終わるのが嫌になって進めるのを止めるタイプの人間で、この話を書くモチベーションがしばらく湧かなかったのも事実です。
まあ、夏バテと風邪も本当でしたけど。

ひとまず区切りができた、と言うことで、リンゴ団長のお話はこれでおしまい。
これで完結ですが、この後も何事も無かったかのように投稿は致します。
二次創作の良いところは、好きに初められて、無責任に止められるところです。
つまり、一応完結したという体で、あとは番外編としていつでも更新を止められるというわけです!!
これからも書きたい話だけを書いて、好き勝手に投稿したいと思います。
べ、別に、同好の士の皆さんと感想でやり取りできなくなるのが寂しいとかじゃないんだからね!!

まあ、他の団長たちの話とかも残ってますし、本編で影が薄かったキャラとかにも昇天当てたいですし。
つまり、えーとですね、俺たちの戦いはこれからだ、ってことで!! 以上!!


ところで、私の作品を読んでスペチケで虹ランタナを交換した方が居て、あの寝室をみて「くっそwww」ってなっても、私は謝りません。

次の作品は、ガルシンの短編でも挑戦してみようかなぁ。

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