お待たせしました、皆さん!!
とりあえず、更新が遅れた理由は活動報告で。
早速一本どうぞ!!
「この地に足を踏み入れるのはもう三度目になるな……。
…………ここって、この地って言って良いのだろうか」
リンゴ団長は、分厚いハスの葉の地面を何度も確かめるように踏みしめる。
彼を初めとしたブラックサレナ部隊は、ロータスレイクの水上都市へとやってきていた。
この国は開国して以来、積極的に他国との交流をし始めていた。
開国して日が浅いというのに、団長たちは任務などですでに三度目の来訪となる。
「本当に、色々ありましたね」
そう応じるリンゴの言葉には、しみじみとしたものがあった。
それだけ一回目と二回目、そして此度の三度目の仕事は色々と有ったのだ。
「ブロッサムヒルの親善大使として遣わされることになったサクラたちの護衛で、アクアシャドウとかいう偽物と戦ったよな……」
団長が一度目の来訪に想いを馳せる。
§§§
「よっしゃー!! 合法的にロータスレイクに行けるぞー!!」
その任務が届いた時、団長は大喜びした。
「やりましたね、団長さん!!
これでロータスレイクの女の子たちを見に行けます!!」
「おうともよ!! いやぁ、楽しみだなぁ。
どんな可愛い子がいるのかなぁ、名物は何だろうな!!」
すっかり旅行気分の団長とリンゴ。
基本的にこういった国の仕事はナズナ団長の仕事なのだが、今回はサクラ当人が所属している部隊ということで、自分たちにお鉢が回ってきた形だった。
「もう、二人ともったら。大事なお仕事で行くんですから、そんな旅行気分はダメですよ」
と、サクラも諌めていたが、内心彼女も未知なる国に行くことに少しだけ高揚していた。
実際、親善大使としての仕事はロータスレイクの城下町を見て回る為、公的な観光旅行みたいなものだった。
無論、彼女が別の意味で街中を駆けずり回ることになるのは、諸兄たちも知るところである。
「よかったぁ、旅行同然の任務って最高だよねぇ」
そんな風に、彼の所属する部隊の花騎士には似つかわしくない言葉を吐いたのは花騎士エピデンドラムだった。
労働意欲というものが欠片もない彼女がこの部隊にやってくる羽目になったのは、実に単純だった。
彼女が元いた部隊の団長が、いつもたるんでいる彼女の様子にこれでは周囲に示しがつかないと、一計を案じた。
「色々なところに観光に行けて、いっぱい給料を貰える部隊が有るぞ。
しばらく見聞を広げる為に行ってみないか? エピデンドラム」
という団長の言葉に、彼女は飛びついた。
「騙されたぁ!!」
と、彼女が叫んだのは、数十匹の害虫に囲まれてからだったという。
「だいたい、聞いてないよぉ、こんな部隊。
どこが色々なところに観光に行けて、給料いっぱい貰える部隊だよぉ」
「色々なところに観光に行ける時間を作ってくれますし、いっぱいお給料をもらえる部隊ですよ?」
そのように嘆くエピデンドラムに、彼女のお目付け役となったプルメリアがその頭をなでなでしながらそう言った。
「でも死ぬほど働くじゃん!!
野宿ばっかりだし、時間守らないと皆怖い顔するし……」
団長は容赦なく連帯責任にする為、彼女がだらけて何かを怠ると同じ班員たちが凄い形相で睨んでくるのだ。
お蔭で彼女は以前とは考えられないくらい規則的な生活をしていた。
多くの騎士団は花騎士の自主性を重んじるところが多く、彼女の元いた場所もそうだったがここは違う。
ただひたすら、部隊という装置を動かす歯車に徹することを求められる。
それがエピデンドラムには耐え難かった。
早く自分を甘やかしてくれる団長の所に帰りたい、とブラックサレナ部隊に異動して一日でそう思う彼女だった。
「だいたい、なんでこう、あっさりと異動が通るのさぁ。
花騎士の所属部隊が変わるのって滅多にないはずじゃん」
「部隊員をあっちこっち異動させる団長さんって、あまり上からいい印象抱かれませんからね。
でも、ここは別ですよ。何でも、閉塞した騎士団の枠組みを超える為に作られた部隊ですから。
団長さんが五人居るのもそうですし、異動があっさりと受理されるのもここだけですね」
プルメリアは不満げに口を尖らすエピデンドラムにそう解説した。
複数の団長による分業制、適材適所の花騎士の配置。
後者でさえ、どの国でもなかなか出来ていない事であった。
騎士団の慣例に囚われているのはどこの国でも一緒だった。
「分業は社会の発展には必要不可欠だからね。
農家が野菜を作って料理にして提供するのも効率が悪すぎるだろう?
一人一人が一つの過程に専念する方が専業化もできて効率もいいのさ」
「あら、チューリップ団長さん」
「こんにちは。代表国はブロッサムヒルだけど、うちの国やよその国も人員を送るからその打ち合わせに来たよ」
そういうことでしたら、とプルメリアは彼をリンゴ団長の元に通した。
道中、元の部隊に戻してとエピデンドラムが駄々をこねたが、俺は管轄外です、と彼は笑みを浮かべて返した。
………
…………
……………
「国賓を牢屋にぶち込むのが、この国の流儀なのかね」
意気揚々とロータスレイクにやってきた使節団に待っていたのは、サクラたちの牢屋行きという状況だった。
サクラは話せばわかるから、とウメたちと一緒に抵抗せず連行されていった。
護衛の自分たちも別室で監視下に置かれている有様だ。
「でも何だか、危機的状況みたいでわくわくしませんか!!」
「そりゃあお前だけだ」
団長は目をキラキラさせてるニシキギに軽く頭に拳を落とすと、ふぎゃ、っと変な声を出して目をバッテンにさせる。
「なにか、内密な会談の口実でしょうか」
「それでは我々が連れて行かれていない理由が分からないだろう。
それに親善大使と言えど、所詮何かを決める権限があるわけでもない」
同行しているプロテアとカサブランカがそんな会話を交わす。
親善大使と聞こえはいいが、要するにやることは国元から手紙を届けてこちらから手紙を貰ってくる遣いっ走りである。
何かを決めたいなら、そもそも花騎士をメインに据えたりはしないのだ。
「とりあえず、いざと言う時は脱出の手引きをさせます。
取り越し苦労だと思うけど、一応逃げる算段はしときます」
チューリップ団長は部下と何らかの連絡を取っているらしく、小声でそう言った。
皆が頷き、待機していると状況が改善したらしく、監視が解かれてサクラたちがやってきた。
「一体どういう状況だ、サクラ」
「私もよく分かりません。
私とウメちゃんの偽物が、町で暴れているらしくて」
「なんだって?」
リンゴ団長は困惑は、皆も同じだった。
何かしらの意図が有ったとしても、それをする理由が思い当たらないのだ。
「我々も一度遭遇したが、とにかく説明するよりも見て貰った方が早い」
そう言うウメに連れられ、団長たちは追跡をさせているというアイビーたちとの合流に急いだ。
………
…………
……………
「信じられん、何だありゃあ」
まるで水で出来たサクラとウメを見た一行は、驚きを露わにしていた。
「親善大使……偽物……うッ、頭が……
この水上都市が沈んだりしないだろうな」
チューリップ団長は何だか嫌な予感に襲われていた。
「ロータスレイクの開国を良く思っていない者も多いと聞きました。
その方々の妨害でしょうか……?」
「今更こんな直接的な行動を取るかな? 政治屋が?
時間が今まであったのに、今更こんな国際問題になるようなことするかな」
「ですよねぇ」
プロテアも、それはあり得ないと分かっていても口にせざるを得なかった。
それくらい理解しがたい状況なのだ。
「ちッ、逃げられたか」
リンゴ団長が、二人の偽物がけしかけてきた害虫を撃滅すると追跡を命じて戻ってきた。
「なんなんですかね、あのサクラさんとウメさんの偽物。
俺もナズナさんほどじゃないっすけど、魔法工学には覚えがあります。
けどあんなの見たことも無い。この国特有の魔法っすかねぇ……」
「お前はあれがサクラとウメちゃんに見えるってのか?」
あの偽物に対して怒りを滲ませながら、リンゴ団長はそう言った。
チューリップ団長はその怒りの矛先が自分に向けられていないというのに、冷や汗を禁じ得ない。
「お前ら、寄生型に取り付かれた場合の誓約書を覚えているな」
彼は部下たちにそう問いかけると、誰もが頷く。
「俺の部隊では、寄生型に寄生された場合、他者に危害を加える前に即座に斬り捨てることになっている。それが仲間だろうとな」
「寄生型、ですか」
目撃例の少ない希少種ではあるが、人間に寄生する害虫が存在しない訳ではない。
その場合、かつての仲間だった者を躊躇わず斬れる花騎士は少ない。
「俺は斬れるぞ、そいつがサクラでも、ウメちゃんでも、クロユリでもペポでもランタナでも――――」
リンゴ団長は隊員全員の名を挙げて、鬼気迫る表情でそう言った。
「我が半身であろうとも、だ!!」
最後にリンゴに顔を向け、声を張り上げた。
誰もがその悲壮な覚悟に言葉も無かった。
「然るに、あれは何だ!!」
彼は先ほど二人の偽物と戦っていた場所を指差す。
「サクラが、ウメちゃんが、二人であることとはなんだ?
容姿か? 実力か? 声か? それとも人気が有る事か? 違う、魂の輝きだ!!」
二人が二人足る理由、リンゴ団長はそう断言する。
「他の何が同じでも、サクラは害虫をけしかけたりはしない。
ウメちゃんが害虫と
姿かたちが似ているだけで偽物扱いとは、虫唾が走るとはこのことだ!!
あれのどこがサクラとウメちゃんだ。笑わせる」
そう皆に説くリンゴ団長を見て、ああとチューリップ団長は納得した。
彼の部隊の士気が常に高く、なぜ任務をほぼ確実に遂行するのかと。
常に部下たちにその姿勢を示し続けているからだ。
戦うに足る理由を示し続けているからだ。
「その通りよ、本物のサクラさんに比べればあんなの不出来な失敗作だわ!!
サクラさんがヴィーナスの如く美しいのは当然として、サクラさんの素晴らしさはその尊い行いにあるのだもの!!」
と、アイビーも彼の言葉に賛同を示した。
「団長さん……」
「教官殿……」
サクラもウメも、彼の言葉にじーんとしていたのだが。
「と言うわけで、だ。
あの不可解な代物を生け捕りにして調べるべきだろう。
どちらか片方でいいだろうが、俺はウメちゃんっぽいのがいいな。
ぐふふ、どうやって取調べしてやろうか。あ、サクラっぽい方は切り刻んでいいぞ」
二人が二人足る所以は、その魂の輝きである。
が、それはそれとして、別物として姿かたちが似てることは別なのだ。
「一体どんな感触なのかな。
よし、次の戦闘は俺も参加してどさくさにまぎれて――――」
団長の背後にいつもの四人組が位置取り、一斉に団長を水辺に蹴り飛ばした。
「おぼぼ、な、なんてことしやがる!!
誰か、だれか助けて!!」
「さ、皆行きましょう」
「そうだな」
サクラとウメがさっさと先に進むと、彼の部下たちも後に続いていく。
「団長さん、大丈夫ですか?」
「おお、リンゴちゃん、我が天使よ……助かった」
最後に残ったリンゴが、団長を助け出した。
別に彼とて泳げない訳ではないが、水泳の達人とて厚着で突然水に突き落とされればおぼれたりもするだろう。
「生け捕り、頑張りましょうね!!
……わたしはどちらも欲しいです!!」
「ああ!! 流石はリンゴちゃんだ!!」
勿論、この後どうなったかは言うまでもないことである。
§§§
「あの後、ハス様に御目通りが
「ああ、なかなか好みの容姿だった。
でも相手は一国の女王……残念だ」
「私はもっと長くお目に掛かりたかったです」
街中を歩く先頭二人の話題は尽きない。
「この間のイースターの祭りも楽しかったですよね!!」
「ああ、そうだな。……ふひッ、バニー姿のヘレニウムちゃん、素晴らしかったよなぁ」
「ふへへ、あれは堪りませんでしたねぇ」
町の人たちからは変な顔をされているのも気にせず語り合う二人。
後ろの部下たちは精一杯他人のふりをしていた。
「ああ、だが、あれはやばかった」
「ええ、やばかったですね」
二人はその光景を思い起こす。
………
…………
……………
「ほ、ほげぇ!?」
イースター祭りの警備をやっていたブラックサレナ部隊。
最近、先日の独断先行の所為かこういった警備任務を増やされたと不満を言っていた団長だったが、イースター祭りに来てからは気分が一転、楽しんでいた。
そんな彼は、この世の物とは思えぬ者に遭遇した。
「? どうかなさったんですか?」
胸のバルーンを振り向いただけでバインと揺らしながら、団長の奇声に反応したのは花騎士バルーンバイン。
こんな色々けしからん格好を制服としている業の深いこのお祭りで、卵を配っていた。
「あなたは、確か警備を担当している団長さんですよね。今日はよろしくお願いしますね」
「お、おう……」
柔和な笑みを浮かべて挨拶してくる彼女に、かくかくと頷く団長。
「リンゴちゃん……」
彼は横に棒立ちしているリンゴちゃんの肩を揺する。
「むっはぁーーー!!」
すると、堰を切ったようにリンゴジュースが噴き出した。
「ああ、ダメだったか、リンゴちゃん」
「どどど、どうしたんですか?」
「ああ、うん、大丈夫、発作みたいなもんだから」
団長は驚いているバルーンバインにそう言いながら、常備している鼻紙でリンゴちゃんの顔のジュースを拭った。
「な、な、な、なんなんですか、あの衣装は!!
エロティックでありながらスタイリッシュさも持ち合わせている扇情的お姿は!!
うさぎのヘアバンドも絶妙にマッチしてて、膝まで届くポニーテールも素晴らしぃいい!!
そして何より、ネクタイが挟まっているあの超絶的な胸の膨らみ!!」
「あれはもう巨乳ではない、魔乳だ!!」
遠目で彼女を見ながら二人は戦慄していた。
下手すれば自分の顔よりも大きなものを二つ抱えてよく平気で居られるのか、と。
「だ、団長さんは平気なんですか?」
「ふッ、貧乳も過ぎれば壁の如し。巨乳も過ぎたればそれは胸を超えた何かよ」
と、団長は悟りを得た僧侶のようにリンゴにそう言った。
「では」
「うむ」
二人はおもむろにバルーンバインの正面へと向かった。
「あれ、お二人ともどうしたんですか?
と言うか鼻血吹いてたけどもう大丈夫ですか?」
と、純粋に心配そうにしている彼女に、団長はリンゴの背中を突き飛ばした。
「え、ッ、きゃ!?」
ばふん、と彼女のバルーンにリンゴの顔が埋まった。
バルーンバインは卵の入ったバスケットを落とすわけもいかず、リンゴをその胸で受け入れることしかできなかった。
「いきなりどうしたんですか!?」
困惑するバルーンバイン。
無理も無い。彼女はセクハラの被害者なのだから。
「ああ、悪い悪い、リンゴちゃんが君とお話したいって言ってたんだがテレちゃってな。
背中を押したんだが、思いのほか力が入っちゃったんだ。悪い悪い」
「あ、そうなんですか」
と、あっさり団長のそんなウソを信じるバルーンバイン。
その純粋さに罪悪感が芽生える団長だった。
その後、バルーンバインとお話するという至福の時間を過ごしているリンゴを眺めていると、ぽわぽわしながらその姿を見ている者がいるのに気付いた。
深窓の令嬢と言われても疑いすら抱かないだろう容姿に不釣り合いなバズーカ砲を背負う花騎士だった。
彼女はこのロータスレイクの花騎士、リムナンテスだ。
「ふむ」
容姿〇
胸部〇
実力〇
「そこの君」
団長は即座に行動に移した。
「はッ、あなたは団長さん!!」
「あの二人がどうかしたのか?」
「あ、いえ、ただ花騎士同士がこう、仲良くしているのを見ていると、こう、胸がドキドキしませんか?」
「するする」
団長はうんうん頷いた。
実際けっこう好きだった。
「君とは仲良くなれそうだ。
どれどれ、お近づきの印に君にはスイギョク×ガザニア本(当人無許可)をあげよう。
どうだね、うちの部隊に来ないか?」
「うわーい、ありがとうですぅ!!
そう言えば、団長さんの部隊には向こうでは有名人のサクラさんが居るとか。
是非とも入隊させてくださいですぅ!!」
「うちの部隊はキツイがいいかな?」
「バッチ来いですぅ、害虫なんてかたっぱしから爆発ですぅ!!」
丁度、エピデンドラムのバディにプルメリアを宛がった為に、ランタナ分隊に欠員が生じた。
彼女の得物は彼女らに不足していた遠隔武器。
気質的にもランタナでも率いられそうだった。
「よし、採用」
こうして賑やかな仲間がまた増えたのだった。
§§§
「リムちゃんのお蔭で、ロータスレイクのことが結構わかりましたよねぇ」
「そうだな。
さて、俺たちも仕事をするか」
三度、此度彼らが用が有るのは、前回までの水上都市ではなく、水中都市の方だった。
「本当にすごいよな、これ」
水中都市から揺れる太陽光を見上げる団長。
団長だけなく、その年の美しさに誰もがため息を吐く。
「やっぱり、どちらの町に住むのかは家柄とかで決まってんのかね」
「いえ、一応人口調整とかで移住を求められることはありますですけど、基本的にどちらに住むかは自分たちで決められるですぅ」
「へぇ、そうなのか。普通決まってるもんだと思ってたが」
そんなリムナンテスの解説を聞きながら、一行は目的の広場にやって来た。
そこには舞台が設置されており、簡易ながらも劇場となっていた。
看板には、【花祭り 国籍遊撃騎士団 演劇会場】と書かれていた。
「まさか、俺たちが演劇をする羽目になるとはねぇ」
それが三度目、彼らがこの地にやってきた目的だった。
活動報告でも書きましたが、まさか本当に虹ランタナ引けるとは思いませんでした。
これもこれまで書いてきたお蔭なのでしょう。
ペポ&ランタナ団長冥利に尽きます。
ランタナ可愛い!! 面白い!! 娘にしたい!! でもそんな甲斐性ない……。
これからも、二人の愛を胸に、書き続けたいと思います。
それでは!!