でもオリキャラの団長にスポットを当てるのって、カレーを作る料理番組でらっきょう漬けや福神漬けについて延々と語るような物。料理と組み合わせてどう食べるかならともかく、これはいけない。何事もさじ加減だ大事ですな。
とりあえず、謎の多いリンゴ団長の経歴を、各国分をやってシリーズ化しようと思っています。
今回はベルガモットバレー編ですね。
公式生放送が始まるまでもうすぐですが、それまでの暇つぶしになれば幸いです。
これは、リンゴ団長がリンゴ団長になる以前の話である。
「ぎゃふん」
と、花騎士ローレンティアは宿敵キンレンカに叩きのめされていた。
ローレンティアが挑み、キンレンカが叩きのめす。
ベルガモットバレーの訓練所ではもう見慣れた光景だった。
「ぐぬぬ、今日は勝てると思ったのに!!」
拳を地面に叩きつけ、悔しがるローレンティアにキンレンカは不思議そうに小首を傾げた。
「ええと、確かあなたは昨日も私に挑んできましたよね?
まさか昨日今日で超えられる差だとでも思っていたのですか?」
彼女の純粋な疑問が、ローレンティアの心を抉る。
「私も暇ではありません。勿論どのような勝負も私は受けて立ちますが、自身の力量も分からない程度なら勝負する以前の問題では?」
「ぐはッ」
敗者の傷口を抉る言葉に、ローレンティアは沈黙した。
「そう言えば、最近新しい元団長の教官がやってきたらしいですね。
なんでも、彼の手に掛かればどんな花騎士も一流になるとか。
彼は花騎士を募集しているそうです。あなたも彼の元で訓練を積んだらどうですか?」
「うぐぐ、敵に塩を送られるなんて……いいわ、一流の花騎士になって絶対に見返してやるんだから!!」
そう言って自らを奮起させるローレンティア。
「まあ、私も彼の所に行く予定なのですが」
と言うキンレンカの言葉に、がくりとなるローレンティアだった。
§§§
「ねぇ、知ってる? 新しい教官ってさ、なんだかヤバイ噂多いらしいよ」
「聞いた聞いた。なんでも、査問委員会に呼ばれたらしいわよ」
「あれって事実上死刑宣告でしょう? よくまだこの業界に居られるわよね」
と、当日になって数多の花騎士たちはそんなことを言い合っている。
「あなた達、まだ会ったこともないのにそういう事言うのはよくないと思うわ」
ローレンティアはそんな彼女らに正面からにそう言った。
彼女が余りにも堂々としていたからか、噂話をしていた花騎士たちも自らを恥じて縮こまった。
「よし、スッキリ。やっぱり陰でこそこそ何かを言うのは気持ちよくないものね」
こんな感じで正々堂々、公正がモットーのローレンティアに、ある意味最大の試練が訪れようとしていた。
「ほーい、俺が先日付けでこの訓練所の教官に就任した者だ。
本当は教官なんてやるつもりはなかったんだが、枠がいっぱいだって言うからな。
上からも頼まれちまって仕方なく、お前たちと新任団長の面倒を見ることとなった、よろしくな」
彼はそんな軽い感じでみんなの前でそう言った。
あまりやる気を感じられない態度に皆は眉を
「さて、新任の団長は新しく花騎士になった准騎士上がりを
そう言うわけで俺にお声が掛かり、彼の元にそこそこの戦歴を積んだお前たちを募集したわけだ」
新任団長のあいさつが終わると、教官は事の経緯を語った。
「と言うわけで、まず補佐官を任命しようと思う。
団長殿、補佐官をこの中から選べ」
「はい、ええと、じゃあエキナセアさん、お願いしても良いでしょうか」
新任団長は、最前列で堂々と立っているエキナセアを指名した。
「団長のご使命とあらば、その責務を全うしよう」
彼女は小さく笑みを浮かべて頷いた。
「うーん、七十点」
しかし、教官はそのやり取りを微妙そうに見ていた。
「えッ、ダメですか?」
「ダメではないが、無難すぎる選択だ。
補佐官は誰もがその役目をすることに納得する人選でなくてはならない。
その点彼女は十分満たしているが、俺だったら人望のある人物は補佐官の下に置く。
団長は全員の要望をいちいち聞いては居られないから、彼女を一旦通して部下の意見を言わせるようにするのだ。
そして補佐官はなるべく己の意見を汲んでくれる相手を選ぶとよい」
「なるほど、勉強になります」
新任団長はぺこりと素直に一礼した。
「それで、私の扱いはどうなるのだ?」
「俺に彼の決定を覆す権利は無い。経験を積ませるために口を出したりするだけだ。
君は彼が一人前になるまで、補佐官をやるがいい」
「了解した」
エキナセアは納得したように頷いた。
「では班割は追って通達する、本日は解散だ」
教官はそう宣言して、本日はお開きとなった。
「普通に有能そうな感じだったけど、敏腕な感じもしなかったなぁ」
と、ローレンティアは初めて会った男の印象を吐露した。
「あ、団長さんと教官さん」
自室に戻る途中、彼女は話しながら歩いている二人を見かけた。
「男ってのは肩身の狭い生き物でな。
十人以上の女に睨まれたらどんな嫌な事でもウンと頷いちまう。
だから、人望や地位の高いエキナセアのような花騎士を通すようにさせれば、いざと言う時に直接俺らではなく彼女に一度話を持っていく。
俺たちはその間に物事を判断する余裕が生まれるってわけだ」
「はぁぁ、勉強になります」
「団長ってのは亭主関白の親父みたいにどっしりと構えるのが肝要だ。
部下の提案は補佐官から受ける形にしておけば、不恰好でも案外様になる。
俺たちは彼女たちを女のくせに、と絶対に口にしてはいけないが、男のくせにと舐められても決していけないわけだ」
「なるほどです」
教官は新任団長に団長の心得に関する講釈を垂れながら歩いていた。
「教官殿は実績のある部隊を歴任しておいでですが、強い部隊をつくるコツとかあるのでしょうか」
「ああ、それは実に簡単だ」
思わずローレンティアもその話に聞き入っていた。
本当に簡単そうに彼は言うのだから。
「使えないやつをどんどん排していけばいい。
自分の言うことを聞く奴だけで固めるのさ。役立たずはフォス街道の警備でもさせとけばいい。
……代わりは幾らでもいるからな」
それは、ローレンティアにして耳を疑う言葉だった。
「…………」
彼女はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
自分の中に不信感が芽生えたのを自覚しながら。
§§§
翌日。
「みんな集まったようだな。
そいじゃ、軽く害虫討伐行ってみようか。ほら」
「あ、はい。それじゃあエキナセアさん。今回の任務を説明を」
教官に促されて、新任団長は姿勢を正してそう言った。
「了解した。今回の任務は最初と言うことで近場だ。
それぞれの連携を確認する為のものと思っていいだろう」
そう言ってエキナセアは地図を示した。
この部隊はベルガモットバレー出身者のみで構成されているので、この辺りは皆の庭みたいなものだった。
「俺は口を出さないが、この程度遠足みたいなもんだ。
こなせて当然だが、気楽にいけよ。もちろん、油断なんてしやがったら谷底に蹴飛ばすが」
「あは、ははははは……肝に銘じます」
笑えない冗談を朗らかに言う教官に、新任団長は引きつった表情のまま頷いた。
「ところで、それってなんですか?」
「うん? ああ、これはいつもしている備えだよ」
近場だというのに荷物が積まれた台車が置かれていることに、皆は不思議そうにしていた。
害虫討伐は、あっさりと終わった。
普段から騎士団が巡回し、害虫を狩り尽くしている地域の周辺に来ているのだから当然だったが。
「とりあえずノルマは達成だな」
規定数の害虫を討伐し、間引きを終えた騎士団は帰還しようとした時だった。
「団長さん、リンドウです。ただいま哨戒から帰りました!!」
「ど、どうしたんだい?」
ただならぬ様子で戻ってきたのは、単独で哨戒をしていたリンドウだった。
「ここから四時の方向の森の中に、害虫の巣穴を多数確認!! 総数は不明です」
彼女の報告に、部隊の面々はざわめいた。
こんな近場に害虫の巣ができているなど、あってはならないことだ。
「この周辺の担当の騎士団長は俺が蹴り飛ばしておく。
誰か、地図を持ってこい」
驚き動揺している新任団長にも蹴りを入れ、教官は指示を飛ばす。
「こちらに」
既に用意していたエキナセアが地図を広げ、上官たちに持ってきていた。
「いてて……ああ、この辺か。
この辺りの森って害虫の勢力圏のギリギリまで続いているから、見落としてたのかも」
「だからこそちゃんと見とかないとダメなとこじゃねーか。
この辺りで巣穴があったってことは、もうこの森のほとんど虫どもの住処だぞ。
おい、だれか偵察に行って来い。くれぐれも戦闘を避けろよ」
事の深刻さに皆の緊張も高まっていく。
そして三十分後、偵察班が戻ってきた。
「害虫は最低でも五十、大型は見かけなかったってことはまだこの辺に来たばかりか。
よし、余裕でぶち殺せるな」
「きょ、教官殿、幾らなんでも森の中の害虫五十匹をこの人数では無理です!!」
殺る気まんまんの教官に、新任団長は緊張に耐え切れず悲鳴みたいな声を上げた。
「確かにこちらの花騎士は三十程度。
確実に倍以上の相手だが、勝算は十分すぎるほどある。しゃんとしやがれ」
教官の容赦のない蹴りが新任団長の脛を襲う。
「しかし教官、この数で森の中の害虫と戦うのは無謀だ。
向こうの数の倍、我らの四倍は居なければ勝算があるとは言えないのでは?」
痛みに
「よし、丁度いい。新米花騎士でも出来る殺虫方法をレクチャーしてやろう」
教官がそう言ってにんまりを笑うのを見て、エキナセアは無意識に後ずさっていた。
「騎士団の人間ってのは、防衛任務が少ない関係上、思いのほか固定観念に囚われやすい。
自分の有利な場所で戦うのが兵法の基本であるにもかかわらず、だ」
ぎこぎこ、と糸鋸を押したり引いたりしながら、教官は言う。
「お前たちは森の中の害虫と戦うのはマズイと言ったな?
ならば奴らのテリトリーである森の中で戦わなければいい」
ぎこぎこ、と汗水垂らしながら教官は糸鋸を動かす。
きしゃああぁぁ、と縄で雁字搦めにされているカマキリ型の害虫が悲鳴を上げる。
自身の最大の武器である両手の鎌を、糸鋸で切断されようとしているのだから。
「よし、取れた」
一仕事終えたと額の汗を拭い、切り落とした害虫の鎌の根元を持って、拘束された害虫の目にその鎌の鋭利な先端を捩じり込む。
「ぎしゃあああぁぁぁぁぁあああ!!!」
「どうだ、自分の鎌の味は。もう二度と悪さできないように、お仕置きしてやろう」
彼は次に足の関節に糸鋸を掛け始めた。
その見る者を恐怖に陥れる凄惨な拷問の風景に、誰もが言葉を失い、多くは恐怖に震えていた。
「おっと、俺のバイオリンの音に釣られて観客がやってきたぞ」
仲間の悲鳴に釣られ、害虫の群れが森の中から次々と飛び出してきた。
「手筈通り、渓谷に誘い出すぞ」
「は、はい」
糸鋸を放り出し、護身用の魔導拳銃で用済みの害虫を撃ち殺すと、冷徹な指揮官の表情で彼は言った。
その後、渓谷に誘い出した害虫に別働隊が上から油瓶と火矢を投げ込み、谷底に閉じ込め、数十に及ぶ害虫を炎でのた打ち回らせて、十分弱ったところを花騎士たちに突撃させ、全滅させた。
後日、害虫が巣食っていた森に大規模部隊が投入され、災禍の芽は摘み取られることとなった。
「いやぁ、お手柄だったなリンドウちゃん」
「は、はい」
「お前も初任務で大手柄だ。こりゃあ箔がついたってもんだ。いつもの準備が役に立って良かったぜ。
お、そうだ、今夜桃源郷に飲みにいこうぜ、谷底で焼ける虫どもを見てたら壺焼きを食いたくなっちまった」
帰りの道中、ひたすらに教官は上機嫌だった。
初めての凄惨な戦いの後に新任団長は青い顔をしていたし、花騎士たちは通夜かなにかみたいな静けさの中、彼の楽しそうな声だけが響いていた。
「それじゃあ、予定外のこともあったが皆もよく休めよ。
俺の方から上に報告しておくから、気を落ち着かせておけ。
この世の中あんなのより酷い光景なんていくらでも有るからな」
町に戻ると、ぽんぽんと新任団長の肩を叩いて教官は騎士団本部へと去って行った。
新任団長も気分を悪そうにしながら、宿舎へと戻っていった。
「え、エキナセアさん!!」
上官が居なくなったところで、花騎士の一人が耐え切れないとばかりに声を上げた。
「私には、あんな恐ろしい人に付いて行くのは無理です!!
だって、だってあの人、火の海になった谷底で焼ける害虫を見て笑ってた……」
「私も、私も害虫は憎いです、でも、あんなの、あんなのって!!」
「害虫相手とはいえ平気で拷問するなんて、普通じゃないです!!」
一人が声を上げると、一人と、また一人と、彼女に縋り付くように声を上げる。
「まあ、落ち着くんだ、みんな」
彼女は恐れ戦く彼女たちを落ち着かせると、顔を顰めたままこう言った。
「私も、彼の戦いには決定的に誇りが欠けているとは思う。
異動を望むのなら私が取り成そう。付いて来れる者だけ来ると良い」
「……エキナセアさんは、何とも思わないんですか?」
「私とて言いたいことは幾らでもあるがな。
しかし彼は部下にとっては恐れられる人物だろうが、雇う側にとってはこれほど信用できる相手も居ない。
私が彼を雇うなら、決して失敗してはいけない、或いは負けてはいけない戦いを任せられるからな」
それは彼女にあるまじく、花騎士の立場としてではなく、貴族として彼を擁護していた。
「彼の凄惨な戦い方は、私も聞き及んでいた。
故に彼が先日こちらに着任した時、その真意を問いに行ったのだ」
「あなたのやり方はそれは凄惨極まりないと聞いた。
誇りの無い戦い、それを恥ずべきことだ。
あなたはそれについてどう御考えか」
エキナセアは鋭く教官を見据えてそう言った。
「誇り? 恥ずべき? お前は何を言っているんだ?」
彼はコーヒーを飲みながら、新しく割り当てられた部屋の椅子に座り笑みを浮かべてそう返した。
「私は貴族として、後に続く者たちの規範となるべくあろうとしている。
あなたの戦い方には誰も後には続かない。後ろにいる者たちの覚悟すら鈍らせるだろうからね」
「なるほど、そちらの言いたいことは分かった」
教官は頷き、そして表情を変えずにこう返した。
「だが、逆だろう。貴族だと言うのなら尚更にな」
「逆、だと?」
「誇りや体面は、結果の後についてくるものではないのかな?
どんなに人気のある貴族でも、戦いに出る度に負け戦を繰り返せば信用を失う。
人々が求めているのは、どれだけ貴族がご立派かではなく、自分たちの安心なのだからな。
貴族ならば、支配者として民たちの安全と安心を保証することが肝要だろう。
戦いに勝てさえすれば、体面やら誇りやらはどうとでもできる。人々はその正体になぞ、興味など持たないのだからな」
それは、ぐうの音も出ないほど正論だった。
「俺の背に続くのが嫌ならば、そうすればいい。
元々俺はベルガモットバレーに長居するつもりも無いしな。
君は俺のやり方が覚悟を鈍らせると言ったが、俺のやり方は
その程度で鈍る覚悟なら、そいつらは初めから花騎士なんぞになるべきではなかった。
俺は覚悟の代わりに、意志を問いかけ続けるぞ。戦うというのが、どういうことなのかをな」
「彼は私たちに最も重要なことを示した。
であれば、私が彼を正せることも、言うべきことも無い。
そして、彼に何を言ったところで、私の言葉は響かないだろう」
どこか悲しそうに、エキナセアはそう言った。
その後、昨日集まった花騎士の約三割が異動を求めた。
「ねえキンレンカ、あなたも別の部隊に行くの?」
ローレンティアは彼女もその一人だと聞いて、居てもたっても居られずそう言いに来た。
「あなたは、ええと、ローフィッシュさんでしたっけ?」
「ローレンティア!!
そんなことより異動するって聞いたわよ、どうして? 一緒に一流の花騎士になろうって誓ったじゃない!!」
「そんなこと誓った覚えは有りません。
私は顔と名前が一致しないだけで物覚えが悪い訳じゃありませんよ」
と、熱血おバカをけん制しつつ、いつものすまし顔でキンレンカはそう言った。
「私は常勝がモットーです、彼の部隊に居ればそれは達成され続けるのでしょう。
ですが、それは部隊の勝利であって私の勝利ではありません。
分かりますか? この部隊は私を必要としていないのです」
「……? つまり、どういうこと?」
「貴女が求める物もまた、ここには無いということですよ」
彼女には、キンレンカの言いたいことがよく分からなかった。
真正面から当たる事しか知らないローレンティアには、目標としている相手が背を向ける理由が分からない。
「迷いを抱えていると、弱くなりますよローストビーフさん」
「私の名前はローレンティアよーーッ!!」
ただ、自身の胸に棘が残ったのを彼女は自覚せざるを得なかった。
§§§
それから約ひと月後。
「教官殿、いえ、師匠!!
自分はこの国で最高の団長になって、故国の害虫を一匹残らず殺し尽くします!!」
「ああ、お前は立派に成長した。
今のお前ならどこの国に行ってもやっていけるだろう」
教官はこの度新しく部隊を任されることとなった新任団長、否、教官二号と抱き合っていた。
ワンツーマンの教育的指導の結果、第二の教官が誕生してしまっていた。
そんな感動的なのかそうではないのか分からない光景だったが、少なくとも一人の人間の門出には違いなかった。
「さて、とりあえず俺も団長としてこの国の末席を汚すことを許されたわけだが、半年ぐらいしか居るつもりないんだよな」
「せっかくこの国で騎士として
その功績と繰り上げで教官はこの国でも団長へと呼び名を変え、新たに補佐官をアイリスに定めて新しく活動を始めていた。
部隊の人員の殆どが新任団長の元へと行った為、これからしばらくは人員の補充の毎日だ。
「いやね、今俺って桃源郷近くの剣術道場に下宿してるのよ。
こっちでも騎士になったら指定の宿舎に住まないといけないだろう?
そこの師範がめっちゃ可愛い子で、惜しくて……」
「はあ、とりあえず女性関係は問題になる前に私にご報告くださいね」
「そういう魔導人形みたいに堅い言い回しするアイリスちゃんが好きだよ、耳が幸せだ」
「褒め言葉として受け取っておきます」
なんて楽しそうにしている団長の前には、数人程度の花騎士が横一列に並んでいた。
「それで、ローちゃん」
「えッ、私!?」
まさか自分が呼ばれるとは思わず、背筋を伸ばしてローレンティアは顔を上げる。
「お前がこれから短い間だが、俺の率いる部隊の花騎士たちのまとめ役になれ。
皆の意見をよく聞き、俺たちに意見するように」
「ええと私、意見、していいの?」
「ああ、そうでなくては困る」
「それじゃあ!!」
ローレンティアはパッと花が咲いたように笑ってこう言った。
「決闘よ、団長さん!!」
彼女は右手の手袋を彼に投げつける。
おや、と眼鏡の縁を押さえるアイリス以外、誰もがぽかんとした表情をしていた。
リンゴ団長の簡易経歴表。
ウインターローズに生まれる
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故国の騎士団長を引退し、教導部隊へ
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命令違反で、教導部隊の団長を解任される
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故郷にて騎士団長として復帰。
その間、デンドロビウムに師事する
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バナナオーシャンで騎士団長に就任
↓
その後、問題が起こり団長を辞任、部隊は解散
↓
数か月後、ベルガモットバレーの教官に就任
↓ 今回はこの前後の話
ベルガモットバレーで半年間、団長として活動
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ブロッサムヒル上層部に乞われ騎士団長に就任
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問題を起こし、リリィウッドへ左遷
↓
多国籍遊撃騎士団に部隊ごと移籍
この頃からリンゴ団長と呼ばれ始める
↓
機能不全の部隊を再生し、部隊名をブラックサレナと改める
↓
元気に害虫を抹殺中 ←今ここ