貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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今回のイベントを大騒ぎにしてみました。
長くなったので次回にも続きます。




ストレリチアと下僕

 ブロッサムヒルの中心街における人々の憩いの場となる中心的な大広場が存在する。

 その一角に設置されている舞台には毎週のように劇団や大道芸、歌劇などが繰り広げられていた。

 その為、毎日のように賑わいを見せる、ブロッサムヒルの栄華を象徴する場所の一つである。

 

 だが、その為会場の予約がずっと先までびっちり埋まっているということでもあり、またトラブルも尽きなかった。

 

 今回招致された劇団も舞台衣装が遅れたり、主演達が高熱で寝込んだりと準備が滞っているようで、住人達は公演を楽しみにしながらもいつものことか、と遠巻きにその様子を見守っていた。

 

 そんな遅々として進まない現状を打破すべく、お金持ちのお嬢様にして花騎士たるストレリチアは、お金、マネー、キャッシュのごり押しで問題を突破していっているのだが、またまたトラブルが発生した。

 

「今度は機材のトラブルですって?

 現場が混乱していて管理が杜撰だったなんて言い訳にならないわ!!」

 もうすっかり大口のスポンサーと化した彼女に、劇団員たちは恐縮したように頭を下げるばかりである。

 

「仕方がないわね、このストレリチア様の人脈に任せなさい!!」

 そう言って彼女は一筆したためて、それをリリィウッドに向けて超特急で配達させた。

 

 

 

 

「ストレリチア様の一の下僕、ここに推参いたしました」

 呼びつけられたのは、リンゴ団長だった。

 手紙が届いて二日という驚異的なスピードでやってきたのである。

 

「よくぞ来たわね、下僕。ちょっと手が足りなかったの。手伝いなさい」

「お嬢様の仰せのままに」

 片膝を突いて恭しく頭を垂れる団長に、ストレリチアは満足げに頷いた。

 

「我が全知全能はお嬢様の為にあります。

 俺の部下たちも手足のようにこき使ってくださいませ」

「と、そう言うわけだからあなた達もよろしくお願いするわ」

 ストレリチアは団長越しに、彼を不満げに見ている部下たちにそう告げた。

 

 

「何だお前たち、ストレリチアお嬢様に奉仕出来るんだぞ、それだけで至上の喜びだろう」

 その視線を察してか、振り返ってそんなことをのたまうリンゴ団長。

 数分後、部下たちにタコ殴りにされたロリコンがその辺に放置された。

 二日にわたる強行軍の末にこの物言いなのだから、当然と言えた。

 

「まあまあ、皆さんそれくらいに。

 丁度緊急性の高い仕事が無かったんですから、人助けだと思って協力しましょう」

 鬱憤を晴らした彼女たちに頃合を見てリンゴが割って入った。

 

 団員たちは各種トラブルの対応に追われて、舞台装置の設置も殆ど終わっていないようだった。

 リンゴの見込みでは、公演まで滞りなく進めるには三倍の人員が必要そうだと試算した。

 それでは団員たちも練習する時間が取れなくなる。

 それは余りにも不憫だった。

 

「私は良いと思うわ。

 実は私、この公演を前々から見たかったのだけど、討伐の都合でダメかもしれないと思っていたから」

 と、サクラは乗り気のようだった。

 それを聞いて、他の面々も顔を合わせる。

 大々的に宣伝されていたのもあり、このことを知っていた者も多く、行けないことを惜しんでいた者は他にも居たのである。

 

 

「あなた達にはこのストレリチア様の演技を最前列で見る栄誉を上げるわ。

 勿論、作業に参加したモノには日当を払いましょう。そうね、一人当たりこれでいいかしら」

 そう言って、お嬢様はスッとお札の束を提示した。

 それをササっとランタナがいち早く受け取った。

 

「幾ら貰ったの?」

「十万ゴールド、ポンとくれたぜ!!」

 早速彼女はそれを扇状に広げて皆に見せびらかした。

 ごくり、と唾を飲む音が聞こえる。

 バンバン害虫を殺しまくってけっこう羽振りのいい部類に入る彼女たちでも、日当でこれだけをくれるというのは破格の報酬だった。

 

「申し訳ございませんお嬢様。

 お嬢様のお手を煩わせてしまい……お前ら、俺にこれ以上恥をかかせるつもりか?」

 あっさりと復活した団長は、妙に凄みのある表情で部下たちを睨んだ。

 

 これ以上は冗談で済まないと察した部下たちは、各々手伝いに向かった。

 何だかんだで長い付き合いの者も多いし、手伝うのが嫌なわけでもない。給料も出るし。

 

「あの、サクラさん、私思ったんですけど」

「どうかしたの、キルタンサスちゃん」

 知らない現場だというのにあっさりと統括指揮官に収まった彼女に、キルタンサスは疑問を口にする。

 

「依頼によって害虫を討伐し、それ以外の時は不定期に休んだり……これって騎士団っていうより、傭兵団……」

「……そうかしらねぇ?」

 サクラははぐらかしたが、空気が雄弁に事実を語っていた。

 

 

 

 

 

「ところで下僕、例の件はどうなのかしら?」

 大きなパラソルの付いたテーブルセットにて優雅にお茶を飲むストレリチアは、作業の様子を眺めながらそう言った。

 

「はい、お嬢様。

 同士……いえ、ローズマリー女史には自分からの個人的な援助としての資金提供と疑ってはおりません。

 資金は潤沢であればあるほどよろしいでしょうが、それでは彼女が萎縮してしまいますので、自分の給料でも疑問に持たれない額を順次提供し続けています。

 その他にもうちの騎士団の設備を自由に使えるよう、配慮をさせています」

「そう。まあ、その件は任せるわ。

 私が支援者になるって言っても受けてはくれないし」

 と、彼女は少し不満げに口を尖らせてそう言った。

 その仕草を愛しそうに眺めながら、下僕は口を開く。

 

「僭越ながらお嬢様におかれましては、大量の金銭などありふれたものでございましょうが、我々からすればそれは時として身を破滅させる刃となりうるのです。

 それが努力に見合わず得た物なら尚更です。

 先ほど俺の部下に出した程度の金銭でさえ、人は容易に魔が差すものなのです」

「理解できないわ。あの程度のお金って、庶民がひと月働けば誰でも得られるくらいのものでしょう?

 このストレリチア様の為に働くのなら相応の報酬があって然るべきなのに、たったあれだけしか提示しなかったなんて、我ながら恥ずかしかったくらいなのに」

「相場や正当な報酬は、相手の階級や環境によっても異なりますから」

 彼は口ではそう言ったが、花騎士を一人私的に護衛に雇うのなら十万ゴールドは日当としては割高だが、それは雇い主の気前の良さの範囲である。

 そう言うわけで今回は、建前としては護衛の依頼ということにしている。

 

 彼女の場合、欲しいものはいくらでも出す、なんてしょっちゅう言わなくなっただけ、金銭感覚が身に付いた方なのである。

 

「そう言えば、人が増えたわね」

「自分が出立する前に、方々に声を掛けておきました。

 同僚の騎士団長や知り合いの花騎士たちにも多数手紙を送り、ストレリチア様の役に立つためにやってきているのです」

 彼女の視線を追えば、舞台装置の故障をナズナが点検し、必要な部品の調達を手が空いた者に指示している。

 

 指示を受けた者は予算の確認をすべく、経理業務の一括管理を指揮していたチューリップ団長に伺いを立てにいく。

 掛かる費用を聞いた彼は激怒してナズナに詰め寄ったが、ナズナは涼しい顔をして理由を述べていた。

 

 別の方を見てみれば、ハナモモ団長たちが劇で使う大道具である背景のベニヤ板を補強したパネルに色を塗っていた。

 野暮ったい作業服を絵具塗れにして不満そうにしながらも黙々と絵具を塗るハナモモが可愛らしい。

 その横ではアカンサスが切り出した木で小道具を作っていた。

 

 それらをどう組み立てるかを相談しているナズナ団長と団員たち。

 小道具を勝手に身に着けて遊び回っているランタナに、組み立てに使うクレーンのフックに乗ってギリギリの高さを楽しんでいるニシキギは後でげんこつだ、と彼は思った。

 

 王子役の代役が決まらず、キンギョソウ団長が自ら立候補するも女性が演じる予定なので、とやんわり断られ、それならばとカルセオラリアに台本を自作して詰め寄っているところを、邪魔をするなと自分の補佐官にぶん殴られていた。

 

 シロタエギクをはじめとした女子力が高い面々は、炊き出しの準備をしたり、移動式の石窯まで持ってきて一から小麦粉を挽いてパンを焼いていたりしている。

 

 呼んでもいないのに駆けつけてきたオンシジュームが公演のチラシの原画を勝手に作成しては周囲に見せびらかしていた。

 腕前は子供の落書き程度だと追記しておく。

 

「慕われているのね、あなたは。

 声を掛けただけで、こんなにも人が集まってくるなんて」

「わたくしめを下僕にしてくださったお嬢様は実に良い買い物をなされました」

「あら、あなたにお金を払うと言っても、要らないの一点張りじゃないの。

 このストレリチア様が使用人にお金を払っていないなんて思われるじゃない」

「自分はストレリチア様の名誉下僕ですから」

「そう、確かにこのストレリチア様の下僕に成れるなんてこれ以上の名誉は無いわね。

 ならお金は必要ないわね」

「仰せの通りで」

 ドヤ顏のストレリチアが映えるようにセンスで風を送る名誉下僕。

 

 

「あのぉ、ストレリチア様。予算の件で少しよろしいでしょうか」

 そこに揉み手で現れたのはチューリップ団長だった。

 

「少々予定外の出費が発生しましてですね……」

「わかったわ、私が払うから幾らでも言いなさい!!」

「おおう、うちの出資者たちもこれくらい思い切りがよかったならなぁ」

 と、愚痴なんかこぼしつつ小切手に数字を書いていく。

 

「いやぁ、急に呼んで悪かったな」

「偶にはこんなノリも悪くないでしょ。

 俺は楽しいよ、きっと学芸会ってこんな感じだと思うし」

 彼は笑いながらそう言って軽く手を振ると踵を返して現場に戻った。

 

「あなたも、いつまでも私にかまけている必要はないわ。

 現場に行ってきなさい」

「ではその前に、紅茶を入れさせてください」

「必要ないわ。あなたの入れる紅茶は美味しくないもの。

 これじゃあ下僕失格ね、出直してらっしゃい」

「お嬢様の仰せのままに」

 下僕は恭しく一礼すると、顔を上げる頃には団長に戻っていた。

 

 

「サクラ、進捗はどうだ」

「あ、団長さん。この調子なら何とかなりそうね。

 劇団員さん達も練習時間を取れるだろうって、喜んでいたわ」

「彼女らも動員しての作業だから、彼女ら公演終わったらぶっ倒れるんじゃなかろうか」

 団長がそんな不安を抱いていると、サクラは大丈夫だと首を振った。

 

「ちゃんとその前に休憩時間を取れるように調整しているわ。

 主演の二人みたいに倒れられても困りますし」

「高熱出しても次の日には復活している誰かさんとは違うからな。

 怪我しても翌日にはけろりとしてるし。なんだ、花騎士ってのは光合成でも出来るのか? 再生能力でも持ってるんだろ、お前」

 団長はサクラが葬式の次の日にひょっこり顔を出しても全く驚かない自信があった。

 彼女の超人っぷりは後世でも創作とされるに違いない。

 

「もう、そんなんじゃないわ~。

 それより、団長さんのあんな姿、初めて見たわ」

「意外か?」

「いえ、そう言うわけでは。ただ、やっぱり小さいから」

「今回ばかりは邪推だよ。いや、それが全くないかって言われたらそうじゃないけどな」

 サクラはやっぱり、という表情をしているが、団長は無視して続けた。

 

「お前と同じだよ、サクラ。

 流石にお前のように不特定多数じゃないが、俺も年を取って誰かの為に尽くしたいという気持ちになったんだ。

 お嬢様は見ていて危なっかしいからな。それに我ながら、ああしてお金に物を言わせる割に見返りを殆ど求めない姿勢に惚れたんだ。

 周りは飽きたら関心が無くなっているように見えるかもしれないが、お嬢様はお嬢様なりに高潔な理念がある。

 だから近くにいる時や、困った時にはいつでも力になると願い出た」

 そう語る団長に、確かにサクラは無償の愛を感じた。

 

 あのお嬢様にそういう人を引き付ける不思議な魅力があるのは、サクラも同意だった。

 給料に釣られた部下たちも、今ではそんなことを忘れて準備に取り掛かっている。皆が楽しんで己のできることをしていた。

 

「それに彼女の親父さんには少しばかり恩があってな。

 彼女に手を出したら覚悟しろ、と釘も刺されている。

 あれは手を出したら許さないっていうより、手を出すなら後継者なって表情だったが」

「うふふ、無粋ですけど、どういう馴れ初めだったのかしら?

 あ、いいえ、こんなこと聞くの失礼よね」

「いいや、気にするなよ。お前の女の子らしいところを見ると安心する。

 うん? 女の子……? あ、いや、何でもない」

 いつもの笑顔のままサクラの周囲の温度が落ちていくのを感じて、団長は慌てて訂正した。

 

「……ったく、綺麗に年取れるくせに。

 あとはよぼよぼのジジイになるだけの俺の気も知らないで」

「ほうほう、それは羨ましいことじゃ」

 彼が顔を横にして愚痴ると、その先には童女のような白い花騎士が焼きたてのパンをトレイに山盛りにして立っていた。

 

「そなた様の話は聞いておるぞ、団長殿。

 勇猛果敢であるが、童のような女性しか好めぬと。

 わっちのような見た目だけ若い花騎士なんぞはどうなのかの?」

 くすくす、と童女のようで妖艶さすらも感じる笑みを浮かべて、シロタエギクは挑戦的に話しかけてきた。

 

「ああ、あなたが。お話には伺っております。

 ずっと年を取らない花騎士だと。成長や老化が遅くなったりするのは時々ありますが、完全に止まるのは珍しい例だとか」

「うむ、そうらしいのう。ブロッサムヒルにも似たような事例の花騎士がおるらしいが。

 まあ、巡りあわせがよければそのうち話す機会も有ろう」

 と、彼女がサクラとそんな話をしていると、団長の姿が忽然と消えていた。

 

 気配を追うと、彼はリンゴとチューリップ団長と顔を突き合わせて何やら話をしていた。

 

 

「やっべぇよ、のじゃロリだよ、本物だよ。

 まさかキンギョソウ団長のところのボタンさんを見る前に彼女に会えるとかやっべぇよ。

 超好みだよ、まさか話しかけてきてくれるとか。

 こっちから話しかけると引かれそうだから遠慮してたのに。あれだね、本物は格が違うな」

「のじゃロリBBA……そんなファンタジーみたいな存在が実在するなんて、やっぱりスプリングガーデンはパナいなぁ。

 しかも一人称はわっちとか、これってあれじゃない、オオカミの耳と尻尾が付いているとかじゃないの?」

「なにそれ最強じゃないですか。

 チューリップさんとこの団長さんも発想がぱねぇっすね。

 私も同郷なんですけどずっとお会いしたかったんですよ。

 聞いていた以上に儚い外見で、ふわふわしてて……物理的に。これが永久保存されてるとか世界花は分かってらっしゃる」

「ああ、世界花はきっと俺たちの同志に違いない」

「驚愕、リリィウッドの世界花はロリコン説?」

「ううむ、実際どうなんでしょう」

「どうせ同じロリコンなら全員ロリのままにしとけばいいのに」

 と、バカな会話をしていた。

 

 そんな馬鹿三人を見て何か思ったのか、シロタエギクはおもむろに近くにあった小道具入れからケモノ耳の付いたカチューシャを取り出すと、かぽんと頭に取りつけた。

 

「……かはッ」

「あ、団長さん、団長さん!!

 医療班、医療班はどこに!? あれ、何だか私も頭がくらくらしてきて」

「ああ、ちょっと待って、白姉さん呼んでくるから」

 失神したロリコンと鼻血がヤバイことになっているリンゴを見かねたチューリップ団長が、慌ててホワイトチューリップを呼んできた。

 

 

「くすくす、愉快な人たちじゃなぁ」

「あはは、そうですね~」

 サクラは苦笑いしながら、これが余裕か、とどこか遠いものを見る目で彼女を見ていた。

 

 

 

 

 

 





今回のイベントはここ最近でも屈指の良さでした。
裏側ではこんなにわちゃわちゃしてたら面白いですよね。

次が終わったらそろそろR版のネタ結構たまってきたからそっちの消化をせねば


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