貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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コラボガチャ・・・今回は見送りかなぁ。
貧乳ロリだったら即課金したものの……残念だったな運営さん!!






ニシキギの火遊び

 その日の害虫討伐が終わり、クロユリは一人で野営地から離れた場所にある地図にない小さな川辺に来ていた。

 

 彼女がそこにいるのは、別に彼女が普段言っているように自分の周囲にはろくなことが起こらない、等の理由ではなかった。

 極めて切実な理由だ。

 

 

「……こんなものか」

 下着しか身に着けていない彼女が水面から黒い物体を引き上げる。

 それは彼女が害虫の返り血で染まったという自分の衣服だった。

 彼女はそれを洗濯しに来ていたのである。

 

 血染めの真っ黒な衣服から揉み出された新しい害虫の返り血が川の水を濁らす光景はいっそ呪物じみてすらいたが、あながち間違いでもないのだろう。

 それを洗濯当番に任せるわけにもいかず、気を使っていつも彼女は一人で処理していた。

 

「ああクソッ、下着までべっとり血が染み込んでいて気持ち悪い」

 彼女は下着だけでなく服越しにその柔肌も血で染まり、何も知らぬものが見れば腰を抜かすだろう恰好だった。

 ついでに体を清めようと下着に手を掛けた、そんな時だ。

 

 

「おッ、やっと下着を脱ぐぞ、いつまでチンタラ洗ってやがるんだ!!」

「しッ、しーですよ、団長さん!! 聞こえちゃえますって」

 下着をはぎ取ろうとした寸前で、聞き慣れた声が聞こえたクロユリだったが、慣れた様子で慌てず騒がず岩陰に移動した。

 あの二人が……そう、二人なのだ……が覗きに来るのは日常茶飯事なのだ。

 

 

「ちッ、ここからじゃ見えねーぞ!!」

「あ、でもでも、こういうのも想像力が掻き立てられて良いと思いませんか?」

「それは確かに、分かっているな同士リンゴちゃん。

 クロユリの奴、貧相な体のくせにメッチャエロい体してんだよなぁ、いや褒め言葉よ?

 俺の場合は、貧相な方が超好みだからな」

「腰のくびれとかホントもう、マジたまんないっすよねぇ。

 小さな女の子じゃ見れない、あの曲線は神秘が宿っていますよ。

 岩の陰での着替えを想像するだけで、むっはぁ!!」

「ほれ、鼻紙。それは凄く同意だな。

 どうする、位置を変えるか?」

 岩陰の向こうの草むらからこそこそとした話し声が聞こえる。

 

「いえ、これ以上の深入りはやめましょう。

 あまり野営地を留守にしてはいけませんし」

「そうだな。帽子を脱いだクロユリも見れたし、今日は退散するか。

 あいつ、食事中もずっと帽子被ったままなんだよなぁ」

「あ、そうだ。食事中は帽子被っちゃダメって規則作りましょうよ」

「おお、いいなそれ。

 この間、執務室で帽子被るなって規則作った途端にクロユリの奴め、執務室に来なくなったし」

「一緒に、食事は全員で取る事って規則も作りましょう。

 クロユリさんが一人どこかで食べに行ったりしたら全員食べられないよ、という良心に訴えかける感じで」

「おお、やるなリンゴちゃん……恐ろしい子!!」

「えへへ……リンゴちゃんは美しさの追求の為ならどんなことでもするのです」

 話し声が遠ざかる……途中から声を隠そうともせず二人は帰っていった。

 

 

「全く、裸を見るのが気まずいのなら、そもそも覗きに来るな」

 とは言え、単独行動を心配して様子を見に来ているのはクロユリもわかっていた。

 なぜか二人が彼女の帽子を脱がすことに情熱を傾けているのも。

 面と向かって、帽子を脱げ、と言えばいいのにそれをしようとはしないのだ。

 

 調子に乗らない程度にあの二人のバカに付き合ってやるくらいには、クロユリは気を許していた。

 諦めていると言い換えてもいい。

 

 

 そうして身を清め、下着を洗って替えの服を着込んで洗った服や下着が乾くのを待っていると、ふとクロユリは視線を感じた。

 またあのバカ二人かとそちらに視線を向けると、小さな人影がサッと物陰に姿を隠したのが見えた。

 

 バカはバカでも頭のネジが飛んでる方のバカだった。

 最近この部隊にやってきたニシキギである。

 こいつにも覗きの趣味があったのか、とクロユリが疑念を抱いていると。

 

 

「えへへ……ドキドキ……」

「……団長たちに頼まれてきたのか?」

「ひゃぃ!?」

 ずっと見られている趣味も無いので、クロユリは自分から声を掛けた。

 別に彼女は口下手でもコミュ症でも恥ずかしがり屋でもない。単に積極的に他人と関わろうとしていないだけである。

 

「あ、えへへ、どうもです、クロユリさん」

 見咎められて観念したのか、おずおずとニシキギは姿を現した。

 全く隠れていないが、身の丈程のスリングショットを前面に押し出していた。

 

「さっきそちらに団長さんたちが居ましたけど、それがどうかしたんですか?」

「いや、何でもない」

 どうやら彼女はあのバカ二人が居た時から既にここに居たようだった。

 

「私に用があるのならさっさと要件を言ってみろ」

「あ、いえ、別に、用とかそういうのじゃないんですけど……」

 ニシキギは恥ずかしそうにもじもじとしている。

 

「あッ、そうだ、戦ってるクロユリさんってモミジお姉ちゃんみたいに強くてかっこよくて、凄かったです!!」

 そして、そんな取ってつけたような言葉を口にした。

 当たり障りのないことを言ってお茶を濁そうとしているのは明らかだった。

 

「私に関わり過ぎると死ぬぞ。さっさと戻れ」

「それはつまり、死んじゃいそうな危険が来るってことですか!!」

 火に油を注いでしまった、とクロユリは言ってから気付いた。

 この娘のイカレ具合は既に周知だったのである。

 

「あ、私のことはお気になさらず、どうぞ続けてください」

 おずおずと物陰に隠れるニシキギ。

 もう何かに隠れるのは癖なのかもしれない。

 

 

「……お前は」

「はい、なんでしょうか?」

「命の危険があると分かっていても、そう例えば地獄へ続く黄泉路へと団長たちと踏み入れる覚悟はあるのか?

 ここはそういう部隊だぞ」

 クロユリは警告するようにそう告げたが、正直なところ、この娘ほどこの部隊にふさわしい花騎士は居ないだろうとも思っていた。

 実力の方は申し分無く、今日の初戦も問題なく付いてきた。

 彼女の気質も恐らく危険な戦場に向いているのだろう。

 と言うか彼女の場合、一人にしておくと勝手に虎の尾を踏んでコロッと死にそうだった。

 

 この部隊に来たのは正解だったのかもしれない。

 だが、どこか噛み合っていないのを、彼女は感じていた。

 

 

「ええと、私、死んじゃうのとか痛いのとかはすごく嫌ですけど、地獄がすごく危険な場所なら行ってみたいです!!

 えへへ、一体どれくらいのスリルがあるんでしょう……」

 勝手に危険を想像してぶるりと身震いするニシキギ。

 

 何だかんだで、団長は地獄へ行くのに躊躇いの無い精鋭を揃えつつあるのを、クロユリは感じていた。

 死神の群れと言うには少々華やかすぎるが、案外そういうものなのかもしれない。

 

 この少女の認識と部隊の噛み合わなさは、どうせすぐに露見し、修正されると彼女は確信していた。

 

「……痛い目に遭って人は痛みを覚えるものだ。

 火傷すると分かっていて火に手を突っ込む馬鹿が、それを分かるかどうかは知らないが」

 そしてクロユリの懸念はすぐに現実のものとなった。

 

 

 

 

 

 

「あー、諸君、これより成果報告を始めるので集合するように」

 日が傾く頃、野営地は食事の準備を終え、あとは配膳を残すところとなった時、団長がリンゴを伴ってやってきた。

 

 彼の声に、花騎士たちは急ぎ足で集合した。

 心なしか期待の熱が籠っていた。

 

「まず、新入りが居る為、改めてうちの戦功などの評価について説明する。

 我が隊は、部隊に貢献した個人、そして班に順位を付け、それに応じてボーナスや支給品などを供給することになっている。

 勘違いしないで欲しいが、これはどれだけ害虫を殺したかではなく、仲間との連携や援護に重きに置いたかで決める。

 まず個人部門だが……一位は隊員番号7番、流石だ」

 団長がそう告げると、仲間たちの拍手を受けながらサクラが一礼した。

 

「これで三十連続一位か。

 手加減してやれとは言わんが、お前一人で軽く数人分の援護をやる必要はない。

 もう少し力を抜いて当たれ、お前はそれで丁度いい。

 あとでリストから支給品を三つ選んでおけよ。

 次、隊員番号18番!!」

 そんな感じで、団長は五位までの活躍した隊員たちを労っていく。

 

 

「次は班ごとの評価だ。

 今回も第一位は第一班となる」

 団長の言葉に、一般の花騎士達がガッツポーズを取った。

 サクラさん居て一位逃すわけないだろ、という周囲の視線はガン無視である。

 

「だが、今回より第一班の班長である隊員番号7番は殿堂入りとなり、彼女の獲得する得点はこれから半分になることとなった」

 その直後、第一班の花騎士たちからブーイングが挙がった。

 

「仕方ないだろ。

 個人部門ならともかく、班ごとの評価で一人だけが突出してて全体に影響出ても俺が面白くない。

 半分だけくれてやるだけ俺の温情に感謝しろ。

 定期的に班員を入れ替えるのも面倒だしな。

 ……それとも一点も入らない方がいいか?」

 団長がそう言って目を細めると、ブーイングはぴたりと止まった。

 

「ほかの班もこれに胡坐をかくことなく向上心を持ってことに当たれ。

 さて、功績に関してはこれで以上だ」

 すると、部隊内の空気が硬くなった。

 団長はたっぷり数秒待つと、口を開いた。

 

 

「それでは、違反点の反映を行う。

 これは部隊規則に照らし合わせ、それに反した行動を取ったものに加算される。

 この合計が10点になった者は問答無用で除隊することとなる。

 具体的には、作戦行動中の命令違反などの軽いものは1点。

 当番などをすっぽかしたりした場合などは3点。

 戦闘中に独自行動を取った場合などは4点。

 加点がなかった場合、一日につきマイナス1点となる。

 ……さて、今回残念なことに合計9点になった者が現れてしまった。

 お前のことだ、隊員番号20番」

 団長の視線を受けて、番号を呼ばれた花騎士がひぃっと息を漏らした。

 

「自分がなぜ4点の加点を受けたか答えてみろ。

 ちゃんと自分の口で言えたら、1点だけ減点をしてやる」

「あ、あの、私は、その、違くてッ」

「誰が言い訳しろと言った?」

 気が動転して意味の成さない言葉しか出せない彼女は周囲に助けを求める視線を送るが、みんな一様に表情が強張ったままだった。

 

「あの、その、私は、手柄を、ええと、その、功を焦って!!」

「功を焦った挙句、突出して班全体に迷惑を掛けた、そうだな?」

「は、はいぃ!! す、すみませんでした!!」

「その言葉は俺ではなく仲間に言え」

 震え声で頭を下げる彼女にそう言って、団長は手元の点数表を書き直した。

 

 若い花騎士は手柄を求めて先行しがちになることが多い。

 たとえそれがこの部隊では意味のないことだとしても、体が思わず出てしまうというのはよくあることだった。

 

 

「サクラ、3度目が無いようにこいつを教育しろ。

 次こいつに加点する場合はお前も連帯責任とする」

「はい、わかりました」

 サクラはにこりと笑顔で応じたが、預けられた方はサクラに迷惑が掛かり絶望じみた表情になった。

 サクラは決して失敗を責めたりしないが、それが余計に心を抉るのだ。

 彼女がこの部隊の面々を掌握できている証拠である。

 

 この規律による徹底した飴と鞭が、彼女らが実力以上の力を発揮し、維持し続けられる理由でもあった。

 

 

「さて、嫌な時間が終わったところで、食事の時間としようか」

 ぱんぱん、と団長は手を叩くと、空気が弛緩した。

 

「(ど、ドキドキしました……)」

 恐ろしげな空気が去ったことで、ニシキギもほっと胸を撫で下ろした。

 こういうものは自分が怒られていなくても緊張するものなのだ。

 

 

「そうそう、今日より新たな部隊規則が追加される、

 食事は全員で必ず取る事、一人でも欠けていた場合、その一人が戻ってくるまで水ひとつ口を付けることは許さない。

 更にもう一つ、食事中は帽子を取る事!!

 1度目の注意の後になおも取らない場合、一点の違反点を加算する」

 団長の発表した規則に、ほぼ全員がなぜそんなことを今更、という表情になった。

 言われるまでも無く全員で食事を取っているし、食事中に帽子を取るのは一般的なマナーである。

 

 とは言え、野外での食事が多いこの部隊にはそれが疎かになっている者も居たので、比較的違和感なく受け入れられた。

 

 

「ところで、規則と言えば昔どこぞのボケナスがどのあたりが規則に抵触して加点されるか遊んでたなぁ」

「ボケナス……いったい何タナなんだ……」

「別に規則や規律で遊ぶこと自体は悪いことじゃない。

 厳しい規律の抜け道を探すのは醍醐味みたいなもんだ。

 規律は徹底すべきだがそれには愛と遊びが無ければ意味がない、というのが俺の師匠の方針だった。

 だけどな……」

 すぅ、とその視線がニシキギに向けられた。

 それだけで彼女は心臓を鷲掴みされたような気分になった。

 

「……ニシキギ。お前、今日の戦闘で害虫にトドメ刺す時に遊んだだろう?

 害虫が殺せるかどうかギリギリの威力の攻撃をした、違うか?」

 どうしてそれを、とニシキギは口にしようとして、思わず口に手をやった。

 鎌を掛けられたのだと悟ったが、もう遅かった。

 

「その反応、やっぱりそうだったか」

「あーあ、間抜けが見つかってしまったか」

「お前も普段はそんなことしないだろうが、あの状況はもし反撃されたとしても容易に周囲が制圧できる状況下だった。

 お前も素早く同じ目標に対して次への発射体勢に移っていたし、怪しいとは思ったが」

 はぁ、と溜息を吐く団長。それの真似をするランタナ。

 茶化されたので素早いチョップが彼女を襲った。

 

 周囲の視線がニシキギに集中する。

 危険なことは大好きでも、目立つことは苦手な彼女は己が好むものとは違う緊張感に二の句も継げずに真っ青な表情で硬直していた。

 

 

「お前の気持ちは分かるぞ。

 一方的にぶちのめすのはつまらないからな。適度に反撃してくれた方が見栄えもいい。

 しかし、たまたま今日の敵は雑魚だったが、もしもっと強い敵の時にそんな気が起きても困るから、わざわざこうしてみんなの前で言っているんだ。わかるな?」

 団長の声音は優しげで、理解に満ちていて、一切の許しも無かった。

 

 早くこの状況が終わってほしいと願うしかないニシキギは、こくこくと頷くことしかできなかった。

 

「別に仕損じることは珍しいことじゃない。

 だがそれを意図的に生じるかもしれない状況を作ったのは問題だ。

 お前はこの部隊の大原則である、害虫殺すべし慈悲は無い、を作戦行動中に反してしまった。

 これは別口の罰を与えねばならないなぁ」

「団長さん、では……」

「ああ、後はリンゴちゃんの好きにしていい」

「むっはぁ!! 流石団長さん、お話が分かるぅ!!

 それでは皆さん、やっちゃいましょー!!」

 リンゴの号令によって、一瞬でニシキギは全員に揉みくちゃにされた。

 

 

「ひーん!! ごめんなさーい!!」

 彼女に下った罰と言うのは、今日一日みんなのオモチャになる事だった。

 ニシキギはその日が終わるまで、皆の着せ替え人形となり、髪型は好き放題弄られ、くすぐられ、セクハラされ、額に肉と書かれたり、リンゴちゃんの抱き枕となった。

 

 そんな過程を経たりして、ニシキギは部隊の一員となっていくのだった。

 

 

 

 

『モミジお姉ちゃん、スズランノキお姉ちゃん、お元気ですか。

 私はとても楽しく、毎日ドキドキワクワクでたまりません。

 すごく危険な戦いばかりする部隊ですけど、皆さん強いのでいい感じにスリルがあって、この部隊で満足できなくなったらと思うと、ちょっと怖いです。

 だけど今のところ毎日新鮮な緊張感ばかりなので、そういう心配はなさそうです。

 特に団長さんは毎日あの手この手で私にいろんなドキドキをくれるので、ここに来て本当によかったです。

 団長さんは■■■■らしいので、これからはもうちょっとギリギリを攻めて行ってみようと思います。

 お二人も心配せずにお元気で。ニシキギ』

 

「あいつ、ぜんっぜん、懲りてないのな!!」

 形式ばかりの検閲をしていた団長は、初めて検閲を実行して彼女の手紙に封をした。

 

「まあいい、戦いで手を抜かないうちは見逃してやるか。

 だけど何かしでかしたら、ぐっへへへへへへ!!!」

 周囲に聞こえるようにわざとらしい声で笑うロリコン団長。

 

「えへへ、ドキドキですぅ」

 そんな彼をこっそりと陰から窺う筋金入りのニシキギ。

 

 

 世にも奇妙な、男女の駆け引きだった。

 

 

 

 

 




ちなみに、後日談として「ニシキギの大火傷」をR版にていずれ投稿予定です。
とりあえずクロユリとニシキギ、どちらを先に書くべきか……。

まだ一話だけで寂しいので次はあっちを書きますね。


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