貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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アンケートの回答をしてくださった方はありがとうございます。
もうしばらく設置してるので票の配分については控えますが、個人的に意外な結果でした。



師匠と弟子

『 RO-NANNTOKA 疾風伝 ~ネオ桃源郷炎上~ 』

 

 

「ぶおほほほほほほッ、おほごほほほほほ!! 

 うひひひひ、ふひッ、ふひッ、いひひひひひひ!!! 

 あひゃひゃひゃひゃ!!! ひー、ひーッ、誰か、助けて!!」

「なんでそんなに笑うのよ!!」

 リンゴ団長は死ぬほど笑い転げていた。

 

 何故彼が息継ぎができないほど笑い転げているのか、時はナイドホグルとの決戦から数か月経って落ち着いてきた。

 そんな折、ベルガモットバレーのマフル高原にカラクリ式の移動要塞が出現したのである。

 害虫の巣窟となっていた内部を制圧した騎士団から内部の調査やその移動要塞の保守の為に送り込まれたのが、リンゴ団長とハナモモ団長の部隊だった。

 

 そうして警備を引き継いだ際に、リンゴ団長は何やら似合わない(格好のことではない)コスプレをした知り合いに遭遇し、その理由を聞いた彼は大爆笑*1し始めたのである。

 

「ひー、ひー、だってお前、お前、よりにもよってお前が忍びの格好って、一発ギャグかなにかかよ!!」

「むー!!」

 腹を抱えて涙を拭うを程笑いまくっている団長に、ローレンティアはムッとなった。

 

「団長さん、そんな言い方は可哀そうですよ!!」

 と、そんな知り合いとはいえ失礼極まりない様子の彼に物申す者が居た。

 リンゴである。

 

「ローレンティアさんめちゃくちゃ可愛いじゃないですか!! 

 こう、着物風でありながら露出度がそれなりにあって、全体的に可愛いのにスタイリッシュな感じが実に忍者っぽくて最高じゃないですか!!」

 今にも鼻血を噴出さんばかりに興奮してまくし立てるリンゴに、団長もうんうんと頷いた。

 

「わかってる、格好はいいよな」

「むぎー!!」

 笑いが落ち着いてたのか、生暖かい目でローレンティアをみやる団長。

 当然彼女はその態度が気に入らないようだった。

 

「団長さん、私はね、この格好をしている以上ちゃんと忍びの道を窮めるつもりよ!! 

 そうじゃなきゃ本職の忍びに失礼でしょう」

「ほーん。そこまで言うからにはお前は本気なんだろう。

 俺も何人か忍びの者とは知り合いがいる。修行を付けて貰えるよう話してやろうか?」

 団長は彼女の性格をよく知っている。

 なのでおふざけでこのようなことを言っているのではないのはわかったので、そのように提案してみたのだが。

 

 流派はオリジナルで行く。

 他の忍びと技を競い合うこともあるかもだから、他の流派の忍びの修業を盗みたくないと言われた瞬間、団長は再び大爆笑するのだった。

 

 

「いやー、笑った笑った。人生で一番笑ったかもしれん。

 おーい、デルちゃん、この天然ボケ相方にどうだ?」

「だ、ダメだよ団長、こんな強烈なキャラ、デルちゃんが食われちゃう!!」

「うん? よくわからないけどいつの間にか勝ってたってことで良いの?」

 団長と悔しそうな感じを見せていたデルフィニウムは、顔を合わせて肩を竦めた。

 

「どうせしばらくは暇だ。

 この頭ローちゃんにこの俺が修業を付けてやろう」

「頭ローちゃんってなによ!! 

 それに私、他の流派の忍びの修業はしないって言ったじゃない」

「俺、忍者じゃないからいいんだよ」

「ああ、それもそうね!!」

 単純なローレンティアはあっさりと納得し、団長に向き直った。

 

「修行ってことは、それを終えたら秘伝の術を授けてもらえるってことでいいのかしら!!」

「当然だ、波乗り岩砕きに居合切り、他にも」

「って、それは別の秘伝技やないかい!!」

 横からデルちゃんの鋭いツッコミが入った。

 

「ごほん、秘伝の術など、期待しているからお前はダメなのだ。

 忍びの技の奥義とは、基礎を極めることにある。今日からみっちり俺が仕込んでやるから、覚悟しろよ」

「はい、団長さん!!」

「俺のことは師匠と呼べ!!」

「はいッ、師匠!!」

 

「……なんだこのノリは……」

 何やらテンションの高い団長たちを、クロユリは遠目に見てため息を吐くのだった。

 こうして? 団長指導による忍者修行が始まるのだった。

 

 

 §§§

 

 

 団長たちの今回の任務はカラクリ城周辺の保全だった。

 チューリップ団長が「行きたい行きたい見に行きたい!!」と駄々こねていたが彼には彼の仕事があるので、それが終わるまで再び害虫の手に渡してはいけないのだ。

 

「行けッ、ローちゃん!! 微塵がくれだ!!」

「わかったわ、師匠!!」

 ローレンティアが害虫の群れに突っ込む!! 

 そして至近距離から害虫に大砲をぶっ放すッ!! 

 

 これぞローレンティア流微塵がくれである!! 

 

「よし、お前ら、害虫どもが混乱しているぞ。

 左右から挟撃して速やかに叩け」

「忍、術?」

「ただの特攻では……」

「あのアホはあれぐらいの扱いでちょうどいいんだよ。

 ほら、行った行った」

 雑に扱われているローレンティアを援護すべく、団長の部下たちが動き出した。

 

 

「ねえねえ、師匠!! どうだった? 忍びっぽく戦えたでしょう?」

「おう、流石ローちゃん。見事な忍び働きだった」

 子犬のように駆け寄ってくるローレンティアに、団長は笑みを浮かべてそう答えた。

 そのやり取りに忍びの闇を見た気がした彼の部下たちだった。

 

 それから数日、団長の伝手でベルガモットバレーの知り合いを呼んだりしながらローレンティアの忍び修業が行われたわけなのだが。

 

「ねぇ、師匠」

「どうした?」

「これって本当に忍びの修業なの? 

 正直、師匠がうちの国に居た頃と変わらないっていうか」

 ローレンティアが鉤縄で崖を上る訓練をしている団長の部下たちをみやる。

 

「これじゃあみんなと同じことしているも同然じゃない!! 

 どうせなら一番になりたいのよ、私は!! みんなと同じことをしていたって一番の忍びには成れないわ!!」

「そこまで言うなら、特別な修業を付けてやろうじゃないか」

 ローレンティアの主張に、団長はにやりと笑った。

 

 

 

 §§§

 

 

 リンゴ団長は実際の任務形式の修行として、ある仕事を言いつけられた。

 城内警備をしていたハナモモ団長の護衛として、周辺住民への説明に赴くことだった。

 

「ねぇ、主様、これのどこが修業なの?」

「いやぁ、僕に言われても……」

 どういうわけだか二人で仕事に送り出された彼らだったが、無事近くの村に此度の一件について説明をして帰ってくる道中のことである。

 行きと同じ話題を振られたハナモモ団長は困り顔でローレンティアにそう言った。

 

「僕も突然、お前がこいつの主な、って急に言われて戸惑ってるんですよ」

 害虫掃討が済んだ道を歩くとはいえ、護衛の花騎士が一人と言うのはいささか不用心と言えた。

 

「リンゴ団長の考えることはよくわかりませんし」

 そう彼が呟いた時だった。

 

「くっくっく……」

「はッ、何奴!!」

 怪しげな笑い声にいち早くローレンティアが反応した。

 

「悪いですけど、ハナモモ団長は貰い受けにきました」

 現れたのは、忍者っぽい覆面をしたナデシコだった。

 彼女はリンゴ団長に頼まれてここ最近の訓練に付き合っていたのである。

 

「えぇ、何してるんですかナデシコさん……」

「なるほど、これが忍びの任務なのね!!」

 頭ローなんとかなローレンティアは忍びっぽいイベントに目を輝かせていたが。

 

「えーい」

「うえッ、ごふッ」!? 

 後ろから不意打ちしてきたオトギリソウの一撃に、地面に這いつくばる結果となった。

 

「卑怯とは言いませんよね?」

「言うわよ、卑怯じゃない!!」

 しかしナデシコはローレンティアの非難などに耳を貸さず、ハナモモ団長を連れて行ってしまった。

 

「えーと、こうして、ローレンティアはベルガモットバレーを揺るがす巨大な陰謀に巻き込まれた主を救うべく、カラクリ城へと向かうのだった」

 オトギリソウがそんなナレーションを入れて、待って―、とナデシコたちを追いかけて行った。

 

「な、なるほど、これが忍びの任務……修業なのね!! 

 流石師匠だわ、見てなさい!! この私が必ず主様を助け出して見せるわ!!」

 

 そのように意気込むローレンティアに、数々の苦難が襲い掛かるのだった。(ナレーション)

 

 

「マイ、ネームイズ、リムちゃんですぅぅぅ!!!!」

「ぎゃあああ!!!」

 巨大ヒヨコにまたがるリムナンテスに襲撃を受けたりしたのを何とか切り抜けたり。

 

 

「あなた!! さっき私を後ろから不意打ちした忍びね!!」

「ええと、こういう時は……明かせぬ」

 今回の茶番もとい任務の台本である最近流行の小説「隻腕の狼」をチラ見しながらそう嘯く大根役者ならぬ大根忍者オトギリソウ。

 団長のアドリブとその場のノリで何かローレンティアに協力することになった彼女だったが。

 

 

「ぎゃっふーん!?」

「くッ、オトギリソウさん!!」

 待ち受けていたナデシコと対峙する二人。

 ここは私に任せて先に行け、をやったオトギリソウだったが、割とマジモードのナデシコに瞬殺される大根忍者。

 

「あなたなど、まだまだ蕾です」

「……こんなの試験に出ないよぉ」

 黒子に扮したリンゴが死体役になったオトギリソウを回収していく。

 

「くッ、二対一は気が引けたけど、これで心置きなくあなたを倒せるわ!! 

 見ていてオトギリソウさん、必ず仇は取るわ!!」

「来なさいッ」

 居合の構えをしたままナデシコがローレンティアを見据える。

 激闘が始まった。

 

 

「はぁはぁ、ようやく最上階にたどり着いたわ……」

 城から両手で数えきれないくらいナデシコに叩き出されたローレンティアは、辛くも彼女を撃退し城内を正面突破。

 最上階に到達した彼女はついに事件の黒幕と相対する。

 

「師匠、あなたが黒幕だったのね!!」

「謀よ」

 リンゴ団長は背を向けながら、小説「隻腕の狼」を広げながら次のセリフを確認しながらそう答えた。

 

「ローちゃんよ、師として命ずる。俺と共に来い」

「断るわ!! 一度主と仰いだ相手を裏切るなんてことはしないわよ!!」

 ゆっくりと彼女に向かって振り返った団長にローレンティアはそう堂々と宣言した。

 

「そうか、俺を裏切ると言うのだな?」

「私が従う忍道は私が決めるわ。主様は奥に居るのよね?」

 彼女は団長の横を素通りし、奥の障子を開けようとしたが。

 

「くぅぅ、何と薄情な弟子か!! せっかく手塩にかけて育ててやったというのに!!」

 団長は大声でそのように嘆きながら剣を鞘から抜く際の金属音を隠し、ローレンティアの背に向け音も無く突出しを繰り出した。

 

 キンッ、と金属音が鳴り響いた。

 

「……少しは成長したようだな」

「私にあらゆる卑怯なことを教えたのは師匠でしょう?」

 ローレンティアは苦無で団長の剣と鍔迫り合いをしながらそう答えた。

 

「やろうか、ローちゃん」

 団長は笑みを浮かべて、容赦なく次の一撃を繰り出した。

 

 

 

「あの、止めなくていいんですか?」

 障子の奥で囚われの姫役にされていたハナモモ団長が、あまりにも長く戦いの音が続くので待機している他の面々に尋ねた。

 リンゴ団長の茶番に付き合った面々は城の防衛訓練ということでそれなりにいたが、シナリオは既に最終局面に移っている。

 忍びの任務の修業ということで、団長が本気でローレンティアと相対する必要は無いのだが。

 

「あれ、たぶん殺す気でやってますよ」

 彼が障子を少し開いて、激闘の様子を見やる。

 リンゴ団長は本気だった。確実に急所を狙っているし、あらゆる小手先の技を駆使してローレンティアとほぼ互角に渡り合っている。

 それは勿論、彼女が不用意に反撃したら団長もただでは済まないからではあるのだが。

 

「教えたはずだ、迷えば敗れる、とな!!」

「くッ、う!?」

 剣戟を弾いた隙を狙うように足を狙った蹴りが飛んでくる。

 態勢を崩した彼女の体の中心を捕え、団長の魔力を帯びた剣の切っ先が光る。

 

 咄嗟に魔力で障壁を張ったローレンティアだったが、衝撃は殺し切れず部屋の隅まで転がる羽目になった。

 

「ひとつ、師匠(団長)の命令は絶対、逆らうことは許されない。……守れてないぞ?」

 どこか挑発するように、団長はローレンティアに向けてそう言い放った。

 

「くぅ!! まだまだ、よ!!」

 消極的な攻勢にしか出ていなかった彼女が、自身のリミッターを一つ外す決心をした。

 人間の出せる速度を遥かに凌駕した踏込からの加速に、団長は見慣れているとでもいうように次に来る一撃を受け流してみせた。

 それどころか。

 

「きゃあ!? 師匠、今胸触ったで──」

 距離を取ってそのように非難するローレンティアが咄嗟に胸を隠すと、見知らぬ感触に背筋が凍った。

 筒状の爆弾が自分の胸元に刺さっていたのだ。

 

 ボン!! 

 

「ふたーつ。任務は絶対。命を賭して遂行し、一度失敗しても必ずどんな手を使ってでも挽回しろ。

 ……このままだと、それも守れないぞ?」

 それらは、まだ団長がローレンティアの教官だった時代に叩き込んだ花騎士の心得だった。

 

 

「見守りましょう」

 障子の奥で行われている師弟の戦いを直接見ることなく、サクラがそう口にする。

 

「たとえば、私がウメちゃんと試合している時に害虫に邪魔されたら、ちょっと許せないと思うもの」

「試合ってレベルじゃない気もしますけどね……」

 リシアンサスが向こうのやり取りに少しハラハラしながらそう言った。

 

「でも、このままではどちらかが大怪我しますわよ?」

「好きにさせておけばいいさ。……あいつも自覚があるようだしな」

 心配そうにしているハナモモに、クロユリは少しだけ憂いを帯びた表情を向けた。

 それを見て、ハナモモは何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 迷えば敗れる。

 

 昔からそうだった。

 彼は、団長は昔から、ローレンティアにしているアドバイスは一つだけだった。

 何も考えるな、と。

 

「ああああ!!!」

 煙の中から、ローレンティアは飛び出した。

 爆弾と言っても煙を大量に出すことを目的としたもので、火薬の量だけ言えば大したことはなかった。

 彼女は煙で真っ黒になりながらも、思考の全てを闘争心で満たして団長に襲い掛かった。

 

「みーっつ。恐怖は絶対!! 

 恐怖に負けた者は二度と敵の前に立てない!! 恐怖を我が物とし、必ず復讐しろ!! 

 ──さあ、やってみせろ!!」

 団長の言葉など、ローレンティアには聞こえていなかった。

 両手に持った苦無を次々と繰り出し、最速、最適な動きで確実に団長を追い詰める!! 

 

 ここで初めて団長の余裕が崩れ始めた。

 もはや小手先の勝負ができない段階まで来てしまったからだ。

 だが、団長は笑っていた。彼女の動きは、自分より巨大な害虫に相対した時に必要な戦い方だったからだ。

 正々堂々、目の前の強敵を叩き潰す為に必要な余計な物をすべてそぎ落とした戦い方の一つの極致だった。

 

 魔力の乗った一撃がさく裂する。

 団長は人形のように吹っ飛ばされた。

 そのまま障子に激突しようとしたその時、障子が開いて待機していたリンゴが彼を受け止めた。

 

「か、勝った……」

 極限の集中力を発揮していたローレンティアは脱力したように膝を突いた。

 

「はッ、弟子に敗れる、か。本当に心地い物なんだな」

 団長はそう呟くと、リンゴの腕の中でくたりと気を失った。

 

 

 

 §§§

 

 

「じゃあね、師匠!! また稽古を付けてね!!」

「ふざけるな、もう二度とするか!!」

 リンゴ団長はチューリップ団長とその調査隊がやってくると、入れ替わるように帰ることとなった。

 いや、別の任務に行くというのが正しいか。

 

「疲れた!! 面白そうだからあのバカの忍者ごっこに付き合ってやったが、あんなんじゃ体が幾らあってもたらないっての」

「めっちゃノリノリだったくせに……私もなんかの役をやりたかったなぁ!!」

 団長はそんなキウイの言葉をスルーした。

 

「私はランタナちゃんが乱入しないようにするので大変でした……」

「実は今回、このランタナも忍術を会得しました。

 見るがいい!! ペポをかじるの術!!」

「オーノー!!」

「オー、イエス!!」

 がじがじがじがじ。

 ペポとランタナはいつも通りだった。

 

「ところでオトギリソウ」

「どうしたの、ナデシコちゃん」

 たまたま道中が同じなので団長たちに同行しているナデシコとオトギリソウ。

 

「今回で、あなたがどの程度腕を上げたのかよくわかりました」

「え……」

「しばらく、任務が無い時はうちの道場に来なさい」

「そこは、腕を上げたね、オトギリソウって言ってくれる場面じゃないのぉ!?」

 師匠の言葉に涙目になるオトギリソウ。

 同じ師弟でも、やり方は違うようであった。

 

 今日も花騎士たちの道中も賑やかだ。

 

 

 

 

 

『 唸る拳!! バレンタインに咲く赤い花 』

 

 

 今年のバレンタイン、たまたまデンドロビウムに遭遇した団長が彼女を見て出た一言。

 

「うわ、きつ──」

「ふん!!」

 団長の鼻血がリリィウッドの地面に咲いた。

 

 

 

 

 

『 騎士学校に忍び寄る影 』

 

 

 つい最近、ベルガモットバレーの騎士学校に特別講師に招かれたデンドロビウムに遭遇した団長が彼女を見て出た一言。

 

「うわ、き──」

「ふん!!」

 団長の鼻血が以下略。

 

 

「きゃー!! 団長さーん!!」

「やはり覗き魔はあなたでしたか。師として、あなたの心まで導けなかったことが悔やまれます」

 地面に倒れ付し「でんどろ」と指で文字を残している団長に駆け寄るリンゴ。

 そして、そんな憐れな弟子の姿を見て、ほろりと涙を浮かべるデンドロビウム。

 

「誤解です!! 私たちは敷地の外からどの女の子が将来有望か観察して盛り上がって興奮してただけです!!」

「やっぱりギルティー!?」

 デンドロビウムに取材中で同行していたバーゼリアが声を上げた。

 

「さて、さっそく衛兵の詰所に引き渡しに行きましょうか」

「師匠……最近俺に冷たくね?」

「半年ぶりに会って、最初の一言がそれでですか?」

「いや、正直普段の格好も割と──ぐふッ」

 それは言ってはいけないことだったのか、団長の背中に容赦ない踏みつけが落とされた。

 団長は潰れたカエルのような声を出して沈黙した。

 

「本当に誤解なんですぅ、私たちは覗きなんてしてません~」

「念のために聞きますが、お二人がベルガモットバレーに来たのはいつですか?」

「え? 今日のお昼ですけど」

「ふむ、残念ながらここ最近の覗きの犯人ではないようですね」

「ええッ、どういうことですか!?」

 靴の裏をぐりぐりしながら割とに残念そうにため息を吐くデンドロビウムだった。

 

「いったい何の騒ぎじゃ」

 デンドロビウムがリンゴに事情を説明していると、シュウメイギク達が現れた。

 

「はッ、これは女王陛下。ご機嫌麗しゅう」

 彼女の気配を察した瞬間、団長はすぐさま跳ね起きて跪いた。

 

「苦しゅうない、面を上げよ。今はお忍びぞ。

 ……ふむ、そなたとは叙勲の時以来であるな」

「この不忠の身のことを御心に留めていただき感激の至りでございます」

 団長が鼻血まみれの顔を上げると、シュウメイギクはぷっと噴出して顔を逸らした。

 

「はわぁ、お美しい……」

 ちなみにリンゴはシュウメイギクに見とれていた。

 

 

「あれ、よく見たらバーゼリアさんじゃないですか!! 

 花騎士の情報誌、いつも読んでます!!」

「ええー、本当!? ありがとうー!!」

 誤解が解けたところで、リンゴはバーゼリアのことを知っているらしく興奮気味に話しかけていた。

 むっはぁーするのも時間の問題とも思われる。団長も自分の鼻の周りを拭きつつ備えていた。

 

「騎士団長にも色々居るんですね……」

 ステラが遠い目になってそう呟いた。

 団長はリンゴのフォローをしつつバーゼリアを口説き始めていた。

 

「不肖の弟子です」

「そうなのかえ? 花騎士が騎士団長の師とは実に珍しい」

 げんなりしているデンドロビウムを見て、シュウメイギクは面白そうに微笑んだ。

 

「シュウメイギク様こそ、昔一度会っただけなのによくあれのことを覚えていましたね」

 と言う彼女に、シュウメイギクはふむとどこか遠い場所を見やった。

 

「そなたもあの男を指導したのならばわかるであろう? 

 わらわはあの男の背に鬼を見た」

「……ええ」

「随分とその気が薄まったように思えるのは幸いじゃった。少しばかり気にかかっておったのじゃ」

「そうだったんですか……」

 それはデンドロビウムも同感だった。

 彼女が以前バレンタインの時に久々に会った時、随分と穏やかな様子だったのだから。

 

「ステラちゃんだっけ? 今度リンゴちゃんと一緒に食事でもどうかなー?」

「遠慮するです」

 まだ話している二人の方からやってきた団長がステラにそう言うと、彼女はデンドロビウムの後ろに隠れた。

 

「うーん、まあいいや。

 師匠、何やら覗き魔が居るらしいですね。俺もとっ掴まえるの協力しますよ。ちょうどうちの連中が周辺の害虫の出現情報を探ってるところで何日か暇なんですよ」

「いいでしょう、あなたが覗きをしないように見張らないといけませんし」

「ははは、俺が女の裸を見るのに隠れ潜んだりしませんよ」

「なるほど、つまり普通に変質者と言うわけですね」

「なんでそうなるんですかぁ!?」

 デンドロビウムの容赦のない言葉に涙目になる団長だった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
爆笑は複数人が大笑いする様のことだが、あえてそう表現した。




水影編の続きはもう少々お待ちを。
今回のテーマは師匠と弟子。忍者ローちゃんの話は一度書きたかったんです。
勿論、あの時でガチャで出なかった恨みも覚えてますがね!!(理不尽)
シチュエーション思いついたのでそのうちR版で書こうと思います。

カレー石55連でようやく制服師匠だしました。
石が半分になった時、諦めようかと思いましたが、泣きの一回が通用することなんてあるんですねー。

ところで花騎士も随分息の長いコンテンツとなりました。
お隣のアイギスももうすぐ6周年。この手のゲームは五年続けばいい方だと何かで読んだ気もします。
それだけ長い分、キャラも増えてきて私も各々の詳細を把握するのは半ば諦めているのですが、そこで新しいアンケートを実施します。
お手数ですが回答いただければ嬉しいです。

最近のキャラや、未登場のキャラをもっと出した方がいいですか?

  • もっといっぱいどんどん出すべき
  • 登場回数の少ない子をもっと出してほしい
  • IF編の先とかも気になる

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