貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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ついこの間の15封印石で、15年度の金レアをコンプしました。
虹レアの方はさっぱりですけどね!!

あとこの間の忍者ローちゃんの復刻ピックアップで、一回の11連で二人でました。
おいこらなんで最初に出てこないんだお前!! 絶対許さねぇ!! 覚えてろよ!!(理不尽



短編連作 追憶編その14

『未来予知の方法』

 

 

「むぅ……」

 その日のキンギョソウは不機嫌だった。

 

「ふむ、南の赤星がやや強く、凶兆の前触れが強し、か」

 彼女が仰ぐ団長に、今日は天体観測をしよう(意訳)、と言われ、なんだこの男にもロマンチックなところがあるんじゃないか、と期待したキンギョソウが郊外の高台に連れてこられたのはつい先ほどのことだった。

 

 天体観測と言えば、男女が星空を見上げて星々の輝きに目を奪われ、良い雰囲気になりながらあの星の名前は何だとか謂れがどうとかと語り合って美しい思い出とする乙女のあこがれのシチュエーションである。

 

 ところがこの朴念仁は、目的地に到達するなり望遠鏡で星を見上げ、ぶつぶつ言いながら星図を書き始めたのである。

 そこでキンギョソウは思い当たった。

 

 これ、デートじゃなくて護衛だ、と。

 

 この辺りは町の外だが害虫の掃討はしっかりしている。それでも万が一が無いでもない。

 突然害虫が大挙してくる可能性もあるし、はぐれの害虫が抜けて来て出くわせばひとたまりもない。

 

「それってホロスコープだよね? 占星術の真似事なんかしてどうするのさ」

 それを悟ったキンギョソウは当てつけのようにそんなことを言った。

 

「占星術の真似事ではない、れっきとした占星術だ。

 これでも我が家は宮廷付きの星詠みを輩出したこともあるのだ」

「ふーん」

「まあ、当時の女王のパンツの色を毎日占って記録していたのがバレてクビになったらしいが」

「それって免職的な意味? それとも物理的に?」

「彼がクビになって数年で女王は政変や失策などで代替わりしているので、優秀ではあったようだ。

 彼の残した星図の解釈や記録、パンツの記録が残っている」

「なんで残したし」

 相変わらずツッコミどころしかない一族に、キンギョソウは呆れ顔だった。

 

「それにしても、なんで急に占星術なんて始めたのさ」

「急ではない。これでも我はお前と出会う前は小まめに星を詠み、この国の行く末や吉凶を占っていた。

 だが本物の予知能力者に出会って、我は己の努力がいかに矮小かを思い知らされた」

 そこで初めて、キンギョソウは彼が虚しそうしているのに気付いた。

 

「我は幼い頃、将来は星詠みになろうと思っていた。

 我が一族に伝わる魔術魔導は幾多とあるが、一番好きだったのは占星術だった。

 星を詠み、未来を予測して凶兆を遠ざける事に、ある種の全能感に陶酔していたのだ」

「うわ、すごく想像できる。

 団長の子供の頃って自尊心が高そうだし」

 古くからの貴族にしては団長はフランクだし多くに寛容な人物だが、キンギョソウは彼が人前に出さないだけで割とプライドが高いことを知っている。

 

「そんな我の思い上がりはすぐに砕かれた。

 後から産まれた妹たちが、次々と世界花の加護を受け、我の努力をあっさりと追い越して行ったのだ」

「それは……」

「我が騎士団長を志したのは、まあそんなみじめなコンプレックスが理由だった。

 結局妹たちは我が騎士団長に成るなら、と花騎士には成らず家で研鑽の日々だ。

 当主ともあろう者が何とも器が小さいものだ」

 自嘲を隠そうともせず、団長はそう語った。

 

「でもさ、占星術って要するにセンスの問題でしょう?

 そのまま星詠みとしてやってけば良かったのに」

 単に星詠みとして働くのなら、別に魔力の量だとか世界花の加護だとかは関係ない。

 そう思って、キンギョソウはそう言ったのだが。

 

「我もそう思っていた。

 我は騎士団長でなくとも、星詠みとしてやっていけた、と。お前と出会うまではな」

「私に?」

「未来を予知し凶兆を退けようなどと、人の身にはおこがましい身に余る行いなのだと悟ったのだよ」

「私はそうは思わないけどなぁ」

 そんな風に呟くキンギョソウを見て、団長はフッと笑った。

 

「お前に出会ったのは我が英知によってお前の予知をより正確に、より明確にする為なのだと昔は思ったものだ。

 我が家に伝わる精神修行にて魔法的感覚を養い、知識を身に付ければより鋭い感覚を会得することも可能だろう。

 だが、我は同時に今より鮮明で正確な予知が恐ろしくなった。

 予知の解釈の幅が狭まれば、それは回避不可能な確定事項になってしまう。

 そんなものはもはや未来予知ではない」

「私としては、皆が私の感を頼りにしたり有り難がったりするのがよく分からないんだよねー」

「手足を普通に動かすことを褒められてうれしい人間が居ないように、お前にとって予知とはその程度のもなのかもしれぬな」

 結局はその程度で丁度いい塩梅なのだろう、と団長は言った。

 

「ところでさ」

 一連の話の流れを変えるように、キンギョソウはそう前置きしてこう続けた。

 

「なんで今更、やらなくなった占星術を始めたの?

 そう聞いたのに、はぐらかしたよね」

「…………」

「今の話はさ、その質問の答えになってないし」

「ふむ」

 と、彼女の指摘に団長は頷き。

 

「あれは幾夜かを遡り、大いなる蓮と湖の女王に導かれ、運命の交わる試練を課された時のことだ」

「ああ、ハス様に仮面舞踏会に招待されたって言ってたやつね」

「舞踏会の片隅に、憂いに満ちた様子のご婦人が誰とも運命の交叉を求める舞踊どころか言の葉を交わそうともせず佇んでいた。

 慶事の輩にも明示されずにいた彼女に感興をそそられた我は、運命に導かれるように彼女と言葉を交わした」

「ふーん、それで」

「彼女は何やら星図を所持していてな、占星術を嗜むことが分かり、時を忘れ会話に勤しんでしまったのだ」

「で、好みだったの?」

「うむ、実に肉感的で我好みだった。

 家柄も良いようだし、ついつい口説いてしまった」

「へー」

 そのすぐ後だった、キンギョソウは背負っていたハンマーを振り上げた。

 

「この後団長がどうなるか、予知してあげようか……」

「いやこれは我としては貴族として家の方針として魔法的資質に恵まれた貴族の女性を正妻に据える必要性があってだな我は決してあのリンゴ団長のように目移りしたわけではなくて勿論我はお前のことも蔑ろにするつもりがあるわけではなくてだな――――」

 キンギョソウの未来予知(物理)は、見事団長に的中したのだった。

 

 

 

『幕間的CM ランタナが自身のキャラソンを紹介するようです』

 

 

「私の船のオモチャが!!」

 ある大雨の日、船のオモチャで遊んでいた黄色い雨合羽姿のペポは誤って手を放してしまった。

 オモチャは水流に流されるまま道路の溝を流れて行き、排水溝の中へと落ちて行った。

 流されるオモチャを追いかけペポは排水溝の前に屈むが、奥は真っ暗で何も見えなかった。

 

「はぁい、調子いい?」

 諦めて立ち上がろうとしたペポは排水溝から聞こえた声に再び暗闇の奥を覗き込む。

 すると、排水溝の闇の中からすうっとランタナが顔を出した。

 

「ランタナちゃんそんなところで何してるの!?」

「ペポは私たちのキャラソン買った? あとテンプレにないセリフ言うなし」

 ランタナの同調圧力に負けたペポは仕方なく無言で首を横に振った。

 

「えー、すごくいい曲なのに。

 今度のコミケ95でたった2000円払うだけであの素晴らしい曲が聞けるんだよ」

「自分も聞いてないのにそんなこと言って、どうせ電波ソングなんでしょ?

 私とランタナちゃんのキャラソンが電波じゃないわけないじゃない、騙されないよ!!」

 普段から色々とヒドイ目に遭わされているペポはランタナの誘惑に断固として拒否した。

 

「そりゃあ、電波かもしれないけどさー。

 花騎士の曲って結構気合い入ってるし、そこらへんはほら、イベントとかのBGMとか聞けば明らかじゃない?

 これはもう、買うっきゃないでしょ!!(ダイマ」

「確かにそうだね!! サントラ4買うわ」

「待って!!」

 ランタナはさっさと立ち去ろうとするペポを引きとめると、イタズラっぽい笑みを浮かべて先ほど彼女が落とした船のオモチャを見せつけるように取り出した。

 

「私のオモチャ!!」

「その通りでございます!! これ返すから聞いてってば。

 それだけの価値はあるんだって。行けば思い出にもなるし、私たちのキャラソン以外にも花騎士の公式ブースには魅力的な商品が色々あるしさ」

 ランタナはそのように素晴らしさを語るが、ペポの表情は晴れやかではなかった。

 

「おぉー、どうしたよペポ、そんな浮かない顔して」

「でもそもそもコミケに行かなきゃ買いに行けないんでしょ?

 流石にそれはちょっとハードル高いよ」

「そりゃあコミケに行くってだけでもハードル高いよ?

 作者も昔朝6時に現地入りして、近くのコンビニでペットボトル類全滅してたり、4時間待ち覚悟しても前に居る長蛇の列に大変な思いしたけどさ。

 絶対損にはならないよ。なお、これは個人の感想です」

 ランタナはペポの表情を伺いながら、興味を引けたことを悟りほくそ笑む。

 

「ペェポォー。コミケは深いぞぉ」

 そんなねっとりとした言葉を投げかけられるペポは、船のオモチャを取ろうと手を伸ばす。

 彼女の手が届こうとしたその時、ランタナはオモチャを引っ込ませて彼女を掴んだ。

 

「まあでも、売り切れてないとは言ってないけどね!!」

「やっぱりこうなったーー!!」

 八重歯をむき出しにしたランタナに、ペポは涙目でそう叫んだのだった。

 

(場面転換)

 

 ペポは齧られた。え、これがやりたかっただけだろうだって? なんでそんな当たり前のこと聞くの?

 

 皆はコミケに行くときはちゃんと準備してから行こうね。現地調達とか無理だから。

 行くなら欲しい物を事前にチェックし、マナーを守って楽しくコミケをエンジョイしよう。

 

 

 

『怪盗ナイトシェード最期の日!? さらば、ナイトシェードは永遠に!!』

 

 

「くくく、怪盗ナイトシェードよ、貴様らとの因縁も今日が最後だ」

 例によって例の如く、団長とワルナスビとラークスパーの怪盗コンビは郊外でいつものように対峙していた。

 

「我らは幾度となく刃を交えてきたが、今日で最後となると我も胸が痛むと言うものだ」

 と、団長は口上を述べているが、怪盗二人の視線はシラーッとしたものだった。

 

「…………なんだ、その目は」

「そのマントの膨らみは何ですぱ?」

 ラークスパーが指摘した通り、団長のマントは不自然に膨らんでいた。

 まるでヒト一人が隠れているかのようである。そして何やらもぞもぞと蠢いていた。

 

「くっくっく、よくぞ見破った。褒めて遣わそう」

「これって馬鹿にされてるですぱか?」

「さ、さあ?」

 ワルナスビは小首を傾げるしかなかったが、彼は大真面目だった。

 

「ねぇ、もう出てきて良い?」

 そこで、ひょこ、と団長のマントの中から可愛らしい獣の耳を頂く少女が顔だけ出した。

 

「うむ、では本日の特別ゲストのお出ましだ!!」

 彼はバサッとマントを翻して、その少女の姿が露わになる。

 

「あー!! お前はキツネノボタンですぱ!!」

 ラークスパーが指差し名前を呼ぶ少女の名は、キツネノボタン。

 先日団長が参加したロータスレイクで行われた仮面舞踏会でたまたま一緒に参加したワルナスビと一緒に居るのを見られて、わざわざ異動してきた花騎士であった。

 

「おお~、団長がお二人と対決しているって本当だったんだ」

 何を隠そうこの狐耳ロリはこの怪盗コンビのファンで、弟子入りの為に押しかけてきたのである。

 

「これは私が団長を倒せば、お二人に弟子入りさせてもらえる流れでは?」

「うぉっほん!!」

「ああ、そうだった、私今日は人質だった。

 きゃー、助けて、怪盗ナイトシェードさま~~」

 割と棒読みのまま、二人に助けを求めるキツネノボタン。

 

「で、何で買収されたの?」

「高級いなり寿司五個1500ゴールド」

「随分安上がりですぱね……」

 以前との落差に驚きつつも、二人は彼女を盾にする団長を批難する。

 

「人質なんて卑怯だぞ!!」

「怪盗は盗みをするように、吸血鬼は美女を攫うものなのだ」

「美女……むふー」

 ワルナスビの批難を涼しげにそう返す団長の横で、美女扱いされたキツネノボタンはご満悦だった。

 

「さて、今日はお前たちナイトシェードの最期の日となるこの催しは、ある趣向を凝らそうと思う」

「趣向ですぱ?」

「そう、ナイトシェード、貴様に今から我がある呪いを掛ける。

 これを退けることができれば、貴様の勝ち。できずに呪われたら我の勝ち。

 負けた方は何でも相手に言うことを聞かせることができる、と言うのはどうだ?」

「えッ、そんな簡単なのでいいの?

 おっと、ふーっふっふ、この私に呪いなんて効くはずがない、やれるものならやってみるが良い!!」

 団長の出した条件が余裕であると判断したワルナスビは、ドヤ顏で胸を張ってそう答えた。

 

「わ、ワルナスビ様、私も呪いなんてワルナスビ様に効かないと思うですぱ。

 けどそんな危ない条件をあっさり呑むのは……」

「でもラークちゃん、いつまでも団長とこうやってこう着状態を続けてもだし」

「それはそうですぱが」

「ふふん、どうやら相棒の方は怖気づいたようだな」

「怖気づいてないですぱ!! ワルナスビ様は無敵ですぱ!!

 呪えるものならやってみるですぱ!!」

 そして団長の挑発にあっさりと流されるラークスパーだった。

 

 とは言え常識的に考えて普通の呪いでは花騎士を呪うのはかなり難しい。

 通常の呪いの成功率から言って、彼が呪いを掛けられる可能性は砂浜の砂の一粒に等しい。

 

「確かに我が魔力で世界花の加護を突破するのは不可能だ。

 だが忘れてはいないか? 古来より呪術は生け贄を扱うものだと」

「ッ!?」

 自身の魔力を急激に吸い取られている感覚に、キツネノボタンは目を白黒させる。

 

「ははははは、喰らえナイトシェード!!」

 団長が掲げた右手から黒い靄のようなモノが発生し、ワルナスビを包み込む。

 

「わ、わわ、なにこれ!?」

 その恐ろしげなエフェクトにたじろぐワルナスビだったが、何事も起こった様子は無かった。

 

「所詮見かけ倒しですぱ、マイスターに呪いなんて通用しないですぱ!!」

「果たしてそうかな?」

 団長が彼女の方を示すと、ワルナスビは何やらみるみると表情が青くなり、挙動不審気味に周囲をきょろきょろし始めたのだ。

 

「ま、マイスター、どうしたですぱ!?」

 ラークスパーが彼女に声を掛けたその直後だった。

 

「い、いやぁーーーー!!」

「ワルナスビ様!? どうしたですぱ、ワルナスビ様ーー!!」

 彼女は顔を両手で押さえて一目散に逃げだし、それに驚いたラークスパーが慌てて追いかける。

 

「わ、ワルナスビ様、どうしちゃったの?」

「くくく、明日になればわかる」

 自身の呪いの会心の成功を確信し、団長はほくそ笑むのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 その翌日の早朝、キンギョソウは騎士団支部に出勤して早々に奇妙な光景を発見した。

 

「う”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」

「戻して、戻して、早く、早く!!」

 ラークスパーとキツネノボタンがマウントポジションで団長をぼかすか叩いているという光景だった。

 団長はキツネノボタンの二本の尻尾に顔をびしばしとしばかれ、息苦しそうにしていた。

 

「わ、我が眷属よ、た、助け」

「どうしたの? 手伝おうか?」

 助けを求める上司の声を無視して、ハンマーを手に近寄るキンギョソウ。

 

「キンギョソウさん!! ワルナスビ様が、ワルナスビ様がぁ!!」

「ワルナスビさんがどうしたの?」

 キンギョソウは視線を横にずらす。

 そこにはこの場にいる最後の人物であるワルナスビが困ったような表情をしていた。

 

「ラークちゃん、キツネノボタンちゃんも、団長さんが可哀そうだからそろそろ放してあげようよ」

 そんな彼女は二人を諌めようとしてくれているのだが、なぜかキンギョソウは彼女に違和感を抱いた。

 

「ですが、ですが、ワルナスビ様~!!」

「そのワルナスビ様って呼び方は止めてって言ってるでしょ?」

「そんな、ナイトシェード様が……」

「そのナイトシェード様ってのも止めてってば!!」

 ワルナスビは顔を赤らめて羞恥の表情のまま、両手を突出して二人にそう言った。

 愕然とするラークスパーとキツネノボタンの二人。

 

「ねえ、何したの?」

 彼女の様子がおかしいことを認め、キンギョソウが団長を助け起こして尋ねた。

 

「ふっふっふ、彼女には我が一族に伝わる相手の個性を消失させる呪い、フツウニナールを掛けてやったのだ」

 団長は勝ち誇った表情で、ワルナスビを指差して見せた。

 

「……色々言いたいけど、まずなんでこんなことしたの?」

 とりあえずキンギョソウは犯人に動機を尋ねた。

 

「それは先日、お前と一緒に天体観測をした時のことだ。

 星の位置やら輝きやらで、彼女が数か月後に我のアイデンティティを侵すだろうという占い結果が出た」

「嫌に具体的な結果だね!!」

「だから我が先に先手を打ったのだ。

 ふははは!! 見たかナイトシェード!! 我が本気になれば貴様なんぞこの通りよ!!」

「だからナイトシェードは止めてってば!!

 団長さんってば朝っぱらからそんな大声で恥ずかしくないの!!」

「ぐはぁ!?」

 呪いによって普通になったワルナスビの言葉に、団長は精神にダメージを負った。

 

「おのれ、力を失ってなお我に手傷を負わせるか……」

「…………」

 ワルナスビは何も言わず距離を取った。

 

「ぐふッ、無言が辛い」

「ワルナスビ様、本当に怪盗を辞めちゃうですぱ!?」

 ラークスパーは更にダメージを受けた団長を無視して彼女に縋りつく。

 

「だってラークちゃん、怪盗って泥棒だよ、犯罪者だよ?

 これから一緒に不法侵入しちゃったお屋敷の人たちに謝りに行こう、ね?」

「こ、こんなの、こんなのワルナスビ様じゃないですぱ!!

 こんなのただの可愛くて優しい美少女ですぱ!!」

 わんわん泣き出すラークスパーに、ワルナスビは困り顏で彼女を宥める。

 

「団長、ワルナスビ様を早く元に戻す!!

 早くしなさい、ほら、早く!!」

 そしてその横でキツネノボタンが団長の胸ぐらを掴んで揺さ振っていた。

 

「くくくくく、それが思いのほか呪術と狐の相性が良く、解こうと思っても解けないのだ」

「何とかしなさい!!」

「無理なモノは無理なのだ!!」

 がくがくと揺さぶられ、たまらず団長はそう答えた。

 

「でも、魔法にも効果時間があるように、呪いにもあるでしょ?

 別に殺そうって思って呪ったわけじゃないんだし」

「う、うむ、この呪術は我が先祖たちは奇人変人ばかり故に伴侶が辟易してきた時に己に掛けるものでな。

 一定時間で自然消滅する仕組みになっている。

 これには発動時の威力や呪いの強度は関係ない。設計上の構造なので確実に呪いの終了は訪れる」

 横から冷静に問うキンギョソウに団長はそのように説明した。

 

「本当? じゃあいつまで呪いは続くの?」

「我も実際に使うのは初めて故、どの程度の範囲を“普通”にするのか分からなかったのでとりあえず三日ほど続くように設定してある」

 キツネノボタンが手を放したので、団長は襟元を正す。

 彼の言うとおり、強力過ぎる呪いでワルナスビという花騎士を使い物に成らなくしては騎士団長として本末転倒である。

 

「だからってこんな下らない呪いなんかで……」

 キンギョソウは呆れた様子でワルナスビに縋りつくラークスパーを見やる。

 

「本当に、呪いに屈したですぱ? ワルナスビ様!!

 これを、これを見ても何とも思わないですぱ?」

 ラークスパーは懐からナイトシェードのマスクを取り出し、ワルナスビに訴えかけた。

 

「こんなの捨てちゃおうよ、怪盗なんてするより花騎士として頑張った方が皆喜ぶって。

 ……でも、あれ、何だろう、これを見てると」

 ワルナスビはマスクを手に取ると、若干俯いてこう呟いた。

 

「どうしてかな、胸の奥がぽっかりと穴が開いたような、虚しい気持ちになるんだろう。

 まるで失恋したみたいな、子供の頃から大切なものがなくなっちゃった時みたいな」

 ぽたり、ぽたり、とマスクの上に雫が落ちる。

 そんな彼女を見て、この場に居る全員が居た堪れない気持ちになった。

 

「とりあえず、当面の解決策は模索しておく」

 結局罪悪感を抱いた団長はそう言うしかなかった。

 

「下らない呪いだってのは訂正しておこう。うん。

 これ考えたらめっちゃ恐ろしい呪いだよ」

「ためしにお前にも掛けてやろうか?

 もう変わってるなどと言われなくなるぞ」

「私にとって私は普通だから良いの!!

 他人にとっての普通なんて興味ないし!!」

 キンギョソウはそう言って強がるのだった。

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 




ランタナとペポのキャラソンが出ると知った時、思わず笑いましたww
作者はもうコミケに行くのはしんどいので、いつかネットで買うかするかで聞く事でしょう。
本編ではどうせ電波ソングだろうとネタにしましたが、どんな曲だろうと聞いてみたい所存であります。

それでは、また次回!!

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