転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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7:試験終了1

試験は終了した。ロボットは機能を沈黙し、とりあえずこれ以上、被害が出ることも無いだろう。良かった、これで安心だ。

 

…さて、次に俺自身の問題を解決するとしよう。俺は先程、渾身の「ラストブリット」を放った。それも遥か上空目掛けてである。

 

 

 

つまるところ、絶賛自由落下中である!!

 

 

 

「うおおおおぉっ!?」

 

 

変な声を上げ、落ちていく俺。全身に〈揺らぎ〉を纏って、風の力で何とかしたいんだが…それが出来ないっ!

先程打ち込んだ「ラストブリット」と「ファイナルブリット」で半身がイカレたらしい。〈揺らぎ〉を作ろうとすると激痛が走り、途端に解除されてしまう。

時間も残り少ない。俺が地面に激突する前に何とかしないとっ!このままではネギトロめいた死体に!

 

 

「わっぷ!?」

 

 

空中でジタバタしているといきなり光る手の平の中に落ちた。そこから、手の平はゆっくりと降下し、俺を地面へと送り届けてくれた。た、…助かった~っ。

 

 

「おにーさんっ!?大丈夫ですかΣ(o'д'o)!!」

 

 

「トットッ」と足を引きずりながら少女が一人こちらにやって来る。って!こいつ最初の僕っ娘じゃねーか!さっきまで無我夢中だったから気が付かなかったが…こいつが巻き込まれてたのか…。

どうやら俺はこのちんちくりんに助けられたらしい。助けられたのに素直に喜べない…解せぬ。

 

 

「最初の僕ロリじゃないか…」

「ボクロリッ ((유∀유|||))ガーン!?」

「とりあえず助かった。最後の一撃で“個性”がコントロール出来なくなってたわ。多分あのままなら落ちて死んでたなコレ」

「死っ((((;゚Д゚)))) 何言ってるんですか!?おにーさん!なんでこんな無茶苦茶なことしたんですか٩(ŏ﹏ŏ、)۶!」

 

 

なんでこんな無茶苦茶なことって…。確かにそうだな。

だって、あくまでこれは試験で、実際の現場じゃない。ヒーローたちが見てるんだから、最悪死人が出る前にストップが掛かるだろうし、アレでいて最低限度の安全性は考慮…されているん…だよな?…うん。でも…

 

 

「『ヒーローは目の前に転がる不幸を無視できない存在(モノ)である』…俺の持論だよ」

「目の前に転がる不幸…」

「まぁ、気にすんな。単なる俺の自己満足だ。…それより」

「それより…(´・ω・`;)?」

「医者?…呼んでくれない?」

 

 

そう言い残すと俺は血を吐いて気絶した。

 

 

「ちょっ!? おにーさぁんっ(இдஇ; )!」

 

 

________________

 

 

「おっ!お疲れ~福朗~って大丈夫?」

「おぉ、ぶっちゃけ大丈ばない…」

「変な日本語使うんじゃないよ」

「うへぇ」

「それもやめなって」

 

 

俺はあの後、ハンソーロボットにより医務室に運ばれ、簡単な検査の後、『リカバリーガール』の熱いヴェーゼにより回復した。

骨に少し罅が入ったらしいが…ダメージは比較的軽度だったらしく、直ぐ治療して貰えた。

うむ、流石『リカバリーガール』だ。全身に疲労感があるものの、痛みも違和感も完全に無くなっている。

 

 

「それで?そっちはどうだったんだ?実技試験」

「う~ん…。ちょっと不安かな?思ったよりもあんまり倒せなかった…。」

「おや~?俺に負けたくない!勝って見返してやりたい!って言ってた一佳にしては弱気な発言ですねぇ?」

「うっ、うるさいなあ…」

「まっ、大方ピンチになってる他の奴の助太刀とかしててあんまり倒せなかったんだろ」

「うぐっ!なんでわかんだよ」

「そりゃ、分かるさ。だって一佳の事だもん」

 

 

その言葉を言った瞬間。一佳は突然立ち止まり、驚いた表情でこちらを見ている。俺が「どうした?」と訪ねると「なんでも無い」と返し、駆け寄ってきて再び隣を歩く。

その後そっぽを向いて歩く彼女に会話は止まる。…ちくしょー、俺変なこと言ったか?キモイとか思われたのか?それはいけないっ!明日から生きていけない!

 

 

「…そういうアンタは?」

「ん?」

「実技試験だよ。私にだけ言わせてアンタは秘密ってのは無しだからな」

「あー…。結構良い線行ってるとは思うんだが…。如何せん最後0p(ヴィラン)。アレがマズかった」

「えっ?あのでっかいの?…もしかして…」

「おう!ぶん殴ってきた!」

「はぁぁぁっ!?アンタは何やってんだよ!」

「だってさ!0p(ヴィラン)のところに行ったら逃げ遅れた人、居んじゃん?足止めするしか無いじゃん?」

「だから!なんでそこで正面戦闘なんだよ!救助だけで充分だろ?」

「あれ?正面戦闘って言ったっけか?」

「やっぱりそうかっ!アンタの考えなんてお見通しだよっ!?」

「そこまで以心伝心してるなんて照れるなぁ…」

「茶化すな阿呆!もしもの事があったらどうする気だったんだ!!」

「反省はしている!だが後悔はしていないっ!」

「…馬鹿だ。完全なる馬鹿がいる」

 

 

一佳は俺の勇姿を「馬鹿」の一言で片づけて頭を抱えている。

 

…確かに馬鹿だった。「シェルブリット」「ラディカル・グッド・スピード」の名を冠して繰り出しておきながら、あの0p(ヴィラン)を倒すことすら出来なかった。アレをワンパンでぶっ壊した緑谷君は本気で凄いと思います…。

 

これでは只の恥さらしだ…カズマさんにも兄貴にも顔向け出来ねぇ。もっと鍛錬しないと、少なくとも一撃で屠れる位に…。反省点はここしかないな!

 

やはり、一番の問題は肉体の強度だな。もう少し筋肉をつけないと!帰ったら筋トレだっ!

後は…そう、もう少し型の練習をしよう。威力を一点に集中させればアイツを破壊出来たかも知れない…。やることはまだまだ一杯だな!

 

 

「あ~あ。また、馬鹿なこと考えてる顔してる…」

「馬鹿馬鹿言うな。俺は今回の問題点を洗い出して今後のためにだな…」

「はいはい、分かった。分かったからとっとと帰るよ。帰りの電車無くなるぞ」

「おい、待てって一佳」

 

 

軽い足取りで先を行く一佳。俺は慌ててそれを追う。日は沈み一日が終わる。家へと帰る社会人達の中に混ざり帰路につく。

 

筆記試験及び実技試験。ここ数日でもより一層密度の高いスケジュールをこなした俺達は疲労困憊だった。俺も一佳も全力を尽くした。所謂「人事を尽くして天命を待つ」と言う奴だ。出来るなら…二人とも合格したい物だ。

 

…しかし、俺にはある問題がある。「原作に『大入福朗』なる人物は存在しない」と言う事実だ。これが「そもそも入学出来ない運命にあるのか?」「入学したとして他の誰かが不合格になるのか?」予想がつかない。そんな不安を抱えながら帰ることになった…。

 

 

________________

 

 

電車の中。座席に座り、眠りこける一佳。一見して、余裕綽々としていた彼女も流石に気が緩んだのか、夢の世界へと旅立っていった。無防備に口元をだらしなく開けて、涎を垂らしている。お止めなさい、恥ずかしい。

まぁ、こんな一面を鑑賞出来るのも親しくなった者の特典だな。偶に「えへえへ」と愛らしく破顔する彼女の顔を眺めながら物思いに耽る。…思わず写メに収めたい衝動に駆られるが…ここはぐっと堪える。後が恐いからな。

 

 

 

今思うと凄い偶然だな。この隣で眠る少女。一佳こと『拳藤一佳(けんどういつか)』は俺と同じ中学だ。

俺が初めて邂逅を果たした原作キャラであり。俺がヒーローを目指す切っ掛けをくれたのも彼女だった。

彼女がくれた物は今となっては俺の原動力だ。だから、俺も恥じない自分になろう。彼女に恥じない自分になろう。自分に恥じない自分になろう。

今日の失敗を経て、改めて決意する。

 

…さて、もうすぐ降りる駅だし、そろそろ起こそうか。辺りも真っ暗になってきたし、家に送り届けて、そっから鍛錬だな。…いや待てよ、その前に二人とも晩御飯もまだだし、帰る前に一度どこかサイゼにでも寄って、今後「万が一の為」の後期試験の話でもして…。あっ!

 

 

「0p(ヴィラン)部品(パーツ)…返すの忘れてた…」

 

 

 


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