試験終了まで残り数分。戦場は混乱の渦中に陥れられた。
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突如現れた奴は、緩慢な動きではあるが、障害物なんてあってないような所作で突っ込んでくる。
緩慢な動きとは言うが、あの巨体である。腕を振るえばビルは倒壊するし、電柱は電線同士が絡まりダース単位で吹っ飛ぶ。
こんなもの誰が相手に出来ようか…。結論は「否」。受験者達は一目散に逃走を開始する。
だが、それは叶わない。象の一歩と蟻の一歩の差は埋められないのだ。敵の距離はあっという間に縮まり、拳を振るえば蹴散らせる距離へと到達した。
『プチット、殺ス』
淡々と事実だけを述べたロボットは、その拳を振り落とした。落下地点は逃げ惑う受験者の真っ直中。
「駄目です∑(✘Д✘๑ )」
僕っ娘は咄嗟に前に出る。“個性”で作った光の拳を前に出し、その鉄塊を受け止めようとする。
まるで流れ星でも駆け抜けるかのように繰り出された二つの光。
敵の拳とぶつかり合って…
僅か数秒と保たずに消えた。
「危ない!!」
「ちぃっ!馬鹿野郎がぁ!」
二人の反応は早かった。葉隠は足の速さを活かして、素早く僕っ娘を抱きかかえると後ろへ。鉄哲は自らの頑強さを便りに、二人の少女を庇う様に前へ。
次の瞬間、隕石でも墜ちたかのような衝撃が大地を抉る。三人の少年少女を巻き込んで大小様々な瓦礫が宙を舞う。その光景は正に地獄だった。
「お二人共に大丈夫ですか: ( ºΔº ;):!?」
「「…」」
二人共受けたダメージは深刻だった。その身一つで敵の拳を受け止めた鉄哲は、自慢の鋼の体のあちこちに亀裂が入り、苦しげな呼吸をしている。苦肉の策と、僕っ娘を瓦礫から身を挺して庇った葉隠は、透明な素肌から血を流し、呻き声を上げる。
両者共に迅速に医療機関で適切な処置をすれば何も問題ない怪我ではあるが…、戦闘の最中では致命的と言わざるを得ない。
二人を抱えて逃げようにもさっきの攻撃によって足を痛めた僕っ娘では逃げ切ることすら出来ない。絶望としか言いようがなかった。
『二度殺ス』
そんな彼女たちに、非情にもロボットは二度目の拳を振り下ろした。
「うぉぉぉぉっ!撃滅のっ!セカンドブリットぉぉっ!」
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ズドーン…
遠くの方で、地響きが聞こえる。向こうの方で巨大な影が動き、土煙が空へと昇っている。
(くそっ!出遅れたっ!)
読みは合っていたのに、時間を掛けすぎた!
現場に駆けつけると辺りは地獄のようだった。
逃げ惑う受験者たちによる阿鼻叫喚の大合唱。瓦礫の山を積み上げたお立ち台。その奥で暴れ踊る巨大ロボットが戦場をカオスに染め上げる。
はっきり言ってヤバイ。これが実際の現場なら火災が発生し、逃げ遅れた一般市民も存在し、パニックを起こした民衆の暴走により二次・三次の災害が起こる。確実に被害は甚大になって居るはずだ。状況は最悪としか言いようが無い。
改めて実感した。これはヒーローが立ち向かう現実なんだ。この先、本気でヒーローを目指すなら、これよりも酷い状況は何度でも遭遇する。
この試験は受験者に対して、その事実にどう対処するかが試されているんだ。
別に倒さなくても、試験時間が終わればロボットは停止するし、迅速に救助活動も行われるだろう。それまで、避難誘導でも救助作業でも、やることは山ほど有る。
しかし、…しかしだ。もしこれが試験じゃなかったら?
何時、他のヒーローは駆けつける?
何時、敵は止まる?
何時、救援が来る?
其れまで果たして持ちこたえることが出来るのか?
仮に出来たとしても、決して少なくない被害をコイツが撒き散らすことだけは確実だ。下手をすれば命を落とす人だって居るかも知れない。
…倒さないと。この惨状を生み出し続けているのは0p
被害の中心へと辿り着くと、眼前には既にクライマックスな光景が飛び込んできた。
振り上げられた鉄塊の拳。
足下に逃げ遅れた二つの影。
駄目だ、このままじゃ死ぬ。人が…死ぬ。
それだけは駄目だ。絶対に、駄目だ。
俺は足を止めずに更に加速。右の拳に力を込める。右肩から肘、拳にいたるまで〈揺らぎ〉を纏って風を噴出させる。
爆発するようなスピードを自慢の拳に乗せて、振り下ろされたロボットの拳に向かっていく。
「うぉぉぉぉっ!撃滅のっ!セカンドブリットぉぉっ!」
膨大なエネルギー同士がぶつかり合い、耳を突き破るかのような轟音と衝撃波を撒き散らす。
ロボットの拳と力は拮抗しているものの、このままでは押し通られるっ!気合いと根性を入れて風の出力を上げ、強引に押し返そうとする。
次の瞬間、攻撃を弾くと同時に俺もたまらず後方へと吹っ飛ぶ。土煙を巻き上げながら地面をゴロゴロと転がり、やがて瓦礫に激突する。いてぇ…。
けど!頑張った!セカンドさん超仕事した!敵の攻撃相殺出来た!うちのセカンドさんは出来る子なのだ!腕の感覚おかしくなりそうだけど構うもんか!今はアイツだ!
俺は自身を奮い立たせるため、咆哮と共にロボットの右側面へと回りこむ。ロボットは俺目掛けて垂直に拳を振り落とすが、これを背中に纏った〈揺らぎ〉で加速。一気に回避する。そして、その巨腕を橋代わりに上へと駆け抜ける。右肩まで登り切ると俺は右肩の関節部分へと潜り込む。
その中で、俺はお目当ての物を見つけた。
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次の瞬間である。バガン!!という豪快な音を立てて、0p
ロボットも此れには堪らず行動を取る。脚部の履帯を全速力で回転し、爆走を開始した。たとえ腕が無くともあの巨体で走り回って、ぶつかれば、充分過ぎるほどの被害を生み出せる。…それを理解している彼が、その行動を許しはしなかった。
「やらせるかよっ!」
そう言ってロボットの左肩から飛び出した彼は隣接するビルへ飛び、それを足場に素早く反転。アイツの足下目掛けて降下する。その際、左足全体に〈揺らぎ〉を纏い、再び風を生み出す。体の軸に対し水平に上げられた左足、そこから生まれた風の力で全身は独楽の様にグルングルンと横回転を始める。
独楽は旋風となり、やがて「暴風」を生む。
「瞬殺のぉっ!ファイナルブリットぉぉっ!」
「竜巻」といっても過言では無い回転蹴りは、ロボットのホイール部分に衝突し、左側面の車軸を穿ち、動力系に深刻なダメージを与えた。更には衝撃波により履帯部分を、ボコボコに破壊いく。
幾度となく生み出される衝撃。激しい衝突によって舞い上がる土煙。その中から突き抜けて、再び上空へと向かう影が一つ。
「かぁーらぁぁーのぉぉぉっ!」
彼は再び右腕に〈揺らぎ〉を纏って空へと昇っていく。まるでロケット花火が駆け抜けるかの様な速度で昇ると、ぐっと拳を握り締め。
一回転
二回転
もう一つオマケに三回転
自慢の拳でアイツの顎を殴り飛ばした。
「抹殺のぉぉぉっ!」
「ラストっ!ブリットぉぉぉぉっ!」
天を貫くかの様に撃ち出された渾身の一撃は、見事にロボットの顎を穿ち、空を仰がせる。
『『『終了~!!!』』』
戦場に試験官『プレゼント・マイク』の声が響き渡る。試験は終了し、ロボットはそのまま行動を停止した。