転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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遅くなりました。
遅筆故に待たせてしまってすみませんでした。

アニメの話
皆のヒーロー名発表会ホクホクします。
そして飯田君あんなに綺麗な顔をしてるのにまさかあんな事になるなんて…超心配。

続きです。




63:最終種目 準決勝 4

「大入っ!」「大入ぃっ!」「大入さんっ!」

 

 

先程の轟との試合、あの激戦。対飯田、対塩崎の戦いよりも更に酷いダメージを負った大入福朗は、ステージの上で力尽き、倒れ、この医務室に運び込まれた。

本大会のため特別出張した医務室。そこに物間と鉄哲と塩崎が駆け込んできたのだ。

そして、目の前に驚愕の光景が飛び込んできた。全身は痛ましい包帯姿、そして目を閉じ静かに眠る大入の姿だった。

 

 

「ねぇ…しっかり…しっかりしてよ、福朗…」

 

 

目の前には三人よりも早く医務室に駆けつけていた拳藤一佳が居た。

大入の手を握り、呆然と…しかし現実を受け入れられないように何度も…何度も彼の事を呼んだ。

しかし、大入は応えない。その目を開く事すら無く…静かに、但静かに眠っていた。

 

 

「そ、そんな…」

「オイ…まさか大入が…」

「…大入さんが…」

 

 

 

 

──死んだのか…?

 

 

 

三人の頭に暗雲が立ちこめた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぴー…すぴー…」

 

 

「「「…は?」」」

「………え?」

 

 

突然聞こえた、気の抜けた寝息。思わず音のする方…大入を見た。

 

 

「何をやっとるんだい、アンタ達はぁ…」

 

 

横の方からひょっこりとリカバリーガールが顔を出す。どうやら他の選手の手当てをしていたらしく、今し方手が空いたようだ。

 

 

「その子の治療はとっくに終わったよ。

今は少しでも体力を回復しようと寝ているのさ、静かにしなよ」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

彼女が大入の容態を簡潔に説明すると。四名は目をパチクリさせていた。

 

 

「「巫山戯んなよ大入いいぃぃぃっ(ないで下さい大入さんっ)!?」」

「ちょっと二人共、ストップっ!ストップっ!?」

 

「も~…あ~も~…勘弁してよぉ~も~……」

 

 

余りにも紛らわしい…いや、勝手な勘違いなのだが…。あんな重傷、下手をすれば死ぬかも知れないほどの危険な戦いだったのだ。こちらがどれだけ心配したと思っている。

それなのにだ、目の前のコイツはグースカ寝てやがる。呑気なものだ。

思わず鉄哲と塩崎がキレた。大入にとっては与り知らぬ処、理不尽な言い掛かりでしかない。

慌てた物間が自分のキャラとポジションを忘れて、止める側に回っている。

そして拳藤は内心に荒れ狂った激しすぎる感情…その落差を消化するべく、顔を大入が眠るベッドに埋めていた。

 

 

「喧しいよアンタ達っ!?ここは怪我人の治療の場だよっ!騒ぐなら出て行きなっ!」

 

「っ!?すみませんっ!!ほらっ!二人とも戻るよっ!」

「きゃっ!」「やめっ!」

 

 

リカバリーガールの叱責に思わず退散を決め込む物間。

さり気なく塩崎から拝借した“個性(ツル)”で鉄哲・塩崎を絡め捕り、ずるずると引き摺る。二人が抵抗を始めたので、一度頭のツルを切り離し、“個性(ツル)”を“個性(スティール)”に切り替えて、自身の重量と膂力を底上げして無理矢理連れ出す。

 

 

「…あぁ、拳藤?君はどうする?」

 

「私は…もう少し福朗と居たい…」

 

「そっか…じゃあ任せるよ」

「おい、放せって物間ァ!」「放して下さい、物間さん!」

「はいはい、お邪魔虫は退散しましょうね~」

 

 

そう言い残すと3名はしめやかに退散した。

それを見送った後、拳藤は大入の手を両手で包み込むように挟む。そしてそれに拳藤は自らの額をコツンと当てた。

 

 

「…また(・・)、居なくなっちゃうかと思った。頼むから消えないでよ…福朗…」

 

 

拳藤の漏らした呟きは余りにも小さくて、誰の耳にも届くことは無かった…。

 

 

________________

 

 

轟焦凍と大入福朗の戦いは、それは激しいものだった。

二度の大氷結。二度の大爆風。鋼鉄の豪雨。決勝戦かと見間違う程の総力戦。流石にステージが悲鳴を上げた。

現在ステージの修復作業が急ピッチで行われて居た。運営一同、セメントスの尽力には頭が上がらない。

 

 

「あ、飯田くんお帰り」

「飯田くん遅かったね…。あれ?どうしたん?」

 

「…」

 

 

先程電話が掛かってきて、席を外した飯田がクラスメイトの…取り分け懇ろにしている緑谷・麗日の元に戻ってきた。

二人は彼を温かく迎え入れようとしたが、そこで異変に気が付いた。飯田の表情は強張り、緊迫した様相をしていた。

 

 

「麗日くん、緑谷くん…突然だが僕は早退させてもらう」

 

「えぇっ!?」

「どうしたの、急に!?」

 

 

飯田から告げられた突然の早退。品行方正で規律を重んじる彼が、早退を決断するということは、かなり珍しい。

その表情の事もあり、相当な事情があった。

 

 

「兄が(ヴィラン)にやられた」

 

 

あまりにも呆気なく伝えられた言葉。現実味が無かった。

先程の電話。彼の母から伝えられた悲報。

 

 

「インゲンニウムが…(ヴィラン)に!?」

 

 

彼の兄『飯田天晴』…ターボヒーロー『インゲンニウム』。

東京都で活動し、65人もの相棒を抱える大規模ヒーロー事務所。親の代から続く有名所で、組織力も非常に高く、業績も安定し、活動範囲の治安維持に多大な貢献をしている。

 

 

「…事態は一刻を争う。急がなければ」

「お兄さん無事だと良いね…」

「……あぁ、本当に済まない」

「気を付けてね…」

 

 

別れの言葉を交わすと飯田は足早に去っていった。

 

 

「ケロぉ…飯田ちゃん心配ね…」

「…そうだね。蛙吹さん」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

「大丈夫です…大丈夫ですよ!何てったってテンさんのお兄さんはあのターボヒーローなんですからっ ヾノ。ÒдÓ)ノシ バンバン!!」

「そうだね…うん、そうだよ!!」

 

 

飯田兄の安否を気にしつつも、一同は励まし合っていた。

 

 

 

 

「いやーそれにしてもA組最強の轟が負けるなんてな…」

 

 

話題は先程の轟vs大入に戻る。やはり轟の敗北はA組一同にとって番狂わせだった。まさか、ぽっと出のB組にこうまで泥臭く勝利をもぎ取られるとは思いもしなかった…。

 

 

「いや、正直言うと轟が負けてくれてオイラよかったと思う」

「はぁ?なんでよ?」

「だってよぅ。轟とやり合った相手、皆重傷じゃねぇか…」

「あー…」

「瀬呂くんは全身凍傷。緑谷くんは手術レベルの複雑骨折。B組の彼は全身火傷だもんね…」

「おい、やめろ峰田に葉隠。思い出しただけで寒気がする」

「特に緑谷と彼はガチ引きするくらいマジだったもんね」

 

「なんか…すまねえ」

 

 

轟の圧倒的な強さ。敗北を記してもその強力さが揺らぐ訳では無い。轟と戦った勝者も敗者もそれ相応の代償を払わされていた。

 

 

「…ガチヒキ…」

「だ、大丈夫だよデクくん!?デクくん凄かったよ!?」

「そうだぜ緑谷っ!お前の轟への啖呵っ!あん時俺は胸が熱くなったぜ!

んでもってB組の奴らもスゲーよなっ!!俺を負かした鉄哲だって爆豪相手にあそこまで漢らしい戦いしたし、塩崎っていうツルの女も熱い性格してた!

そして何より大入の奴に至ってはあの絶叫!緑谷に負けず劣らずの魂を感じたぜ!!」

「そうですっ!デクちんの熱い想いはちゃんと伝わっていますよ (*>∀<)ノ゛」

「でもね、緑谷ちゃん。そんなになるまで無茶はしないでね。皆心配しちゃうわ…」

「うん、ありがとう切島くん東雲さん、あす…っゆちゃん」

「無理はしなくていいのよ?自分のペースでいいわ…」

 

 

緑谷の捨て身に近い戦い方。決して折れることの無い不撓不屈と言えば勇ましいが…。

あんな大怪我をするようでは、仲間として相棒(サイドキック)に招き入れる先輩方からすれば心労物である。峰田の言ではないが、行き先に苦労しそうだ。

そんな意気消沈する緑谷を仲間が励ましていると、話題は自然と次の試合に移り変わる。

 

 

「とうとうA組で残ってんの爆豪だけになっちまったな…」

 

 

次のマッチングはA組が誇る「クソを下水で煮詰めた様な性格の爆ギレバーサーカー」あの爆豪だ。

麗日戦では女相手でも情け容赦なく爆破し、鉄哲戦では生身の相手に殺害レベルの爆破を叩き込んだあの爆豪だ。

しかも次の相手は、ヒーロー科ですら無い、か弱い女子が相手だ。既にイヤな予感しかしない。

 

 

「しかし、あのサポート科の意外だよな…完全にノーマークだったぜ」

「あぁ、間違いねえ…。あの女、立派な(モノ)をお持ちだぜ…っ!」

「サイっテーですわっ!」

 

「ほぎゃっ!?」

 

 

A組一同の発目への感想は、驚愕の一言に尽きる。

サポート科に席を置きながら、我らヒーロー科を完封した事実に対して、いかに自分たちが持て囃されていたのかを痛感した。

ただ…約一名平常運転の峰田が耳郎のイヤホンに爆音され、蛙吹の舌にぶん殴られている。

 

 

「芦戸と常闇が負けるなんてな…。ぶっちゃけ常闇とかは優勝候補だと思ってたぜ」

「「うっ…!」」

 

 

上鳴のさり気ない言葉に芦戸と常闇…「発目被害者の会」がばつの悪そうな顔をした。

芦戸はローション地獄に電気責め。常闇は輝かしい(照明的な意味で)扱いにより、全く実力を出すことすらできなかった。

 

ハッキリ言って碌なヤラレ方をしていない。

 

 

「スゲーよなアイツ。こうまで的確に相手の弱点(・・)を突けるもんかねぇ…」

「…ん?ちょっと待って上鳴くん。今なんて?」

 

 

感慨深そうに言葉を漏らす上鳴。しかし緑谷はそれに僅かな引っかかりを覚えた。

 

 

「いやよ?芦戸の時は届かないくれぇ高い所から一方的にバンバン射撃してさ、トドメには…薬剤?で酸使い物にならなくしてたろ?

常闇の時だってライトで影を完全に封じてたしさ?」

「………ねぇ、芦戸さん、常闇くん。二人ともあの人に会ったこと…ある?」

「いや、無いケド…」

「…俺もだが…それがどうしたんだ、緑谷?」

 

「…やっぱりおかしい、…おかしいよ。何であの人「二人の弱点」を知っているの?」

 

芦戸の射程距離は観察すれば直感的になんとかなるかもしれない。

しかし、常闇は別だ。発目は常闇を封じるために「大量のサーチライト」を用意した。それが有効打で有ると確信していたのだ。

 

そうなのだ。本来、発目は知るはず無いのだ。この大会で対戦相手の情報を集めたにしては正確過ぎる(・・・・・)

特に常闇の弱点。緑谷でさえ、それを知ったのは「騎馬戦」の時だ。

 

発目が緑谷以上の観察力を持つか、そういった“個性”をもっていれば、話はそれで終わりだが…。

そうで無いとしたら…?

 

 

「情報提供者…?」

 

 

ふと思い出した。

 

それは緑谷自身がやったこと。対爆豪を想定して、麗日に伝えようとした「作戦」。過度の肩入れ(・・・・・・)

それと同じ事をしている者が居る。

 

 

「まさか…大入くん(・・・・)…?」

「えっ!?」「何っ!?」

 

 

常闇の弱点の流出(リーク)…。そもそも彼の弱点を知る人物自体が限られる。

常闇が直接、自身の弱点を教えたのは口田・緑谷・麗日…そして大入だ。

消去法どころの話では無い。教える可能性が有るとしたら彼以外あり得ないのだ。

 

 

「おいおい待てよ緑谷!大入って…B組の?あいつだってサポート科と繋がりは…」

「いえ、彼は確実にサポート科にコネクションを持っていますわ。

彼…武装に関して造詣が深すぎます。その証拠に廃材から創られた武器の数々…どう見ても素人の仕事ではありえません」

「確かに…冷静に考えりゃ単純明快な話だ…。

アイツの“個性”は「物質をストックする能力」だ。…何度も実況で解説した通り、ありとあらゆるサポートアイテムを自在に取り出し、それを駆使する…。自分の装備を充実させるためにサポート科に行かねえはずねえ」

「マジ…かよ…。じゃあ二人はグルって事か?」

 

 

大入と発目の関係。ここにきて、その可能性が浮き彫りとなった。

 

 

「何それずっる~いっ!?」

「そういやB組の奴が言ってた…。大入(アイツ)はB組の切り札(ワイルドカード)だって…騎馬戦の撹乱くらい単独(・・)で熟せるって…」

「っ!?じゃあ、大入くんの狙いは下克上(・・・)!?」

 

 

緑谷はここにきて大入の目的を完全に理解した。大入の目的はB組のそれと同じだ。

 

「ヴィラン連合襲撃事件」により高まったA組への期待感。

B組一同は協力してA組を下す事で、A組一辺倒のムードを喰らおうとしていた。

しかし、大入だけは違うアプローチをした。A組のメンバーを、戦闘においてド素人である他の科の生徒に狩らせる事で、「案外A組は大したことない」と思わせる策を講じたのだ。

 

そして、策は効果を出している。

 

最終種目出場選手16名の内訳はA組11名・B組3名・普通科とサポート科から1名づつ。

B組とサポート科の手によってA組の選手6名…つまり半数以上が脱落させられたのだ。

観客達がA組以外にも一目を置くようになっていた。

 

 

「ちょっ!ちょっと待って下さいデクちん (゜Д゜;)

つまり、おにーさんは計算して、そこまでやっているのですかっ!?」

「いや、待ってよ!そもそも、騎馬戦の通過者は大入くんだけで、他のB組メンバーは偶然の繰り上がりじゃない!?」

「……確かに。元々、塩崎さんと鉄哲くんが繰り上がったのは偶然だ。その前の時点では、B組出場のファイナリストも大入くん彼一人だった。そんな彼がB組の事を印象づけようと考えたのかも知れない。そのためにサポート科と手を組んだ。

いや、でも………もしかしたらって可能性が有るだけで、必ずそうってわけじゃ…でも、考えてみるとあり得る話だ…」

 

 

大入の打ち出した奇策。それが真実だとしたら、とんでもない奴ではないか…と皆が戦慄していた。

 

 

「…なあ?もしその話が本当だとしたらさぁ」

「…?」

 

 

「爆豪の奴。対策(・・)されてるんじゃ無いか?」

 

 

_______________

 

 

『セメントスっ!ステージの修繕お疲れさん!!さァ何度も待たせてすまないなァ!リスナー諸君!!トイレはすませたかぁ!?

バトル再開していくぜぇっ!?

ヒヤァーユウィーゴーーっ!!!』

 

 

ようやく修繕が終わり試合が始まる。待ってましたと観客がその万雷の歓声で応える。

既に選手二人はステージの上にスタンバイしていた。

 

 

『今大会の大番狂わせっ!!期待されたA組を痛快豪快に打ちのめし、ここまで上り詰めたサポート科っ!!オマエ本当にサポート科?発目明っ!!!』

 

 

発目は既に準備万端だった。先程の試合でも来ていた白コート…『クーラントコート』を身に纏い、それ以外の装備は未だ公開されていない武器に一新されている。

サポートアイテムのクオリティもさることながら、そのバリエーションの多さも目を見張る物が有る。これらの量のサポートアイテムを入学してからのたった2カ月で仕上げているのだ。異常としか言えない。

 

 

『対するはっ!行動の端々にクレバーな思考が見られる知能犯っ!?変幻自在なサポートアイテムの数々をどう突破する?爆豪勝己っ!!!』

 

 

爆豪は相も変わらず敵対者を睨みつける。観察する、考える。自分の勝ち筋を探す。

 

 

『S T A R T !!』

 

 

「爆速ターボっ!!」

「っ!?」

 

 

開幕と同時に爆豪は掌を後ろに向け、爆破。爆風を推進力に換え、一気にトップスピードに乗る。広大なステージを一瞬で駆り、発目に肉迫した。

 

 

「死ねぇっ!!」

 

 

爆豪の男女平等爆撃が炸裂し、爆発が発目を飲み込んだ。

爆豪の選択は即断速攻。さっさと場外に叩き出し、発目がサポートアイテムを使う前にケリをつける腹づもりだ。

 

 

『爆豪っ!油断も隙も無えぇぇっ!!女子相手に至近距離の爆破って、お前本気でヒーロー志望かよオイっ!!』

 

「チッ!」

 

『ひゃー!凄まじい爆発ですね爆豪さん!!

しかしっ!!私が開発したサポートアイテムさえ有ればお茶の子さいさいですっ!』

 

 

爆風が晴れるとそこには発目が立っていた。

彼女のサポートアイテム、左腕に装備した円盾が急に巨大化して、その衝撃を完全に防いでいたのだ。

 

 

『まず紹介しますはこちらっ!「携行ラウンドシールド」!

取り回しを改善するべく折りたたみ式になっており、防御時にはその面積が1.5倍にまで展開っ!

更には内部に複層重積構造を採用っ!盾の軽量化を図りつつ、受けた衝撃を全体にバランス良く分散する事に成功致しました!』

 

 

そして発目の解説が始まる。既に彼女が自分のペースを作り始めていた。

 

 

『しかも、前回ご紹介しましたこの「クーラントコート」は、耐熱性能だけでは無く耐衝撃性能を備え、今回の様な過酷な火災現場で真価を発揮します!』

 

「遊んでんじゃねぇぞクソアマがぁ!」

 

 

爆豪は再度突撃。今度は近付いた瞬間にフェイント、進路を左に切り替え、発目の右…盾を持たない右側を狙う。

しかし、それを読んだ発目は体を反転して盾で二度目の爆破を防ぐ。

大きくノックバックしたものの、危なげなく踏み止まった。

 

 

『更にはこの足元の踏ん張りっ!秘密はこれっ!「エレクトロシューズ」!

電磁誘導を利用して靴底に磁場を形成!地面に吸着し、強力な踏ん張りを実現する他、壁面走行、天井直立など三次元機動を実現します!』

 

「…ちっ!」

 

 

苛立ちながらも爆豪が発目に向かって攻め込んでくる。しかし、発目はそれを鮮やかに宙へ跳び躱した。

 

 

『加えて磁場を反転させることで、地面と反発!圧倒的な跳躍力による緊急回避を可能にしました!』

 

 

一気に距離を離された、爆豪は急速旋回して発目を猛追する。

 

すると爆豪の目の前にペットボトルの様な物が落下した。発目が空中に跳んだ際に仕掛けた罠だった。

慌てた爆豪が急制動をかけて止まる。目の前を通過したボトルは地面に落ちて破裂、中から白い粉を散布された。

 

 

「…っ!」

 

 

前方を見ると発目が背中に背負った小型の自動小銃の様なサポートアイテムを構えていた。

咄嗟に爆豪は牽制・目隠しを狙った爆破を放つ。…が…

 

 

(んなっ!?爆破できねぇ!?)

 

 

しかし、爆豪の爆破は空撃ちに終わる。手のひらでパチリと小さく爆破して牽制も目隠しも出来なかった。

そして、動揺している間に発目の銃口が火を噴いた。

 

 

「ウオっ!!?」

 

『スモおおぉーークっ!?ここで煙幕を張るっ!』

『いや違う、これは…』

 

『火災現場ならこれ!「消火弾」と「消火器」!従来型よりもその薬剤散布範囲を収束する事で消火性能の向上を狙った消火アイテムです!』

 

 

爆豪の“個性”は掌の汗腺からニトログリセリンの様な液体爆薬を発汗して、それを爆発させる事で発生させている。

しかし、爆豪の最大火力(・・・・)…あれ程の規模を手のひらの汗のみで賄えるだろうか?

答えは否。爆発の拡散には空気の燃焼が関係している。手のひらから発生した大雑把な指向性を持った爆発が、空気中の酸素を燃焼する事で爆炎を保持し、空気中に漂う塵やホコリを燃やして拡散しているのだ。

 

そんな“個性”をどうやって封じるか?

 

やはり根元から絶つのが最善だろう。そのために消火アイテムを用意した。

消火弾は地面に叩きつけるなどして破裂・散乱した薬品が化学反応を起こし、不燃性のガスを発生させる。燃焼に必要な酸素を阻害して爆破の拡散を防ぐのだ。

しかし、消火弾だけでは足りない。本来消火弾は屋内などの密室で使用する物。屋外では不燃性ガスが風で流され、満足な消火性能を発揮できないのだ。

だからこそ消火器も用意していた。界面活性剤・多糖類・リン酸塩を配合した「中性強化液消火器」。それが自動小銃の正体だ。よく観察すると自動小銃にはシリコンチューブの様な物がつながっており、それが背中に背負ったガスボンベに直結していた。

銃口から吐き出された消火液は界面活性剤の働きと噴射の勢いで泡立ち、白煙と共に爆豪を飲み込んだ。小泡が纏わり付いて窒息状態を作り、酸素の燃焼を抑え、“個性”を阻害した。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

泡を纏った白煙によって塞がれた視界。その先から何が飛来して爆豪に直撃した。

 

そして白煙が晴れると観客が見たのは「網に包まれた爆豪」だった。

 

 

「んだこれはっ!?クソがあああぁ!?」

 

『はいっ!お答えしましょう!

これは「対(ヴィラン)用捕縛銃」です!カートリッジ式を採用しておりまして、最大なんと五発の捕獲ネットを撃ち出す優れ物です!』

 

「うるせぇええぇっ!!?誰が(ヴィラン)だっ!」

 

『爆豪っ!捕まって動けねえ!都心に迷い込んだ猛獣の捕獲作業みてえになってっぞ!?ウケルーーっ!!』

 

「黙れ山田っ!殺すぞゴルァ!?」

 

『本名呼ぶんじゃねえヨ!爆裂ボーイっ!?』

『会話すんなお前等』

 

 

網に包まれてジタバタと転がる爆豪。山から下りてきた危険動物の様に暴れ、敵対者に対して殺すような視線を投げかける。

しかし、発目は意に介さずに自分のサポートアイテムを熱心に解説していた。

 

爆豪が手のひらに纏わり付いた消火液の小泡をジャージのズボンで拭うと、爆破性能はすぐに回復した。

復活した爆破を使い、ネットを焼き切り脱出。爆豪は再び発目に向かって跳びかかる。

 

 

『っ!?』

 

「2度も同じ手は喰わねェよ!」

 

 

予想以上の爆豪の復帰の早さに発目は驚愕する。慌てて消火器を爆豪に向け、再び消火液を浴びせた。

しかし、爆豪も二の舞は演じない。消火液が到達するより早く手のひらを爆破。爆風の壁を作り上げ、消火液を弾き返す。

 

直後、爆速ターボを再発動させ、自らの爆炎の壁を強引に突破。

しかし、その向こうには発目は居ない。

発目はエレクトロシューズを使い、空へ緊急回避。爆豪の頭上を捉え、攻撃を仕掛けた。

 

 

「どわっ!!?」

 

『お次はコレ!「ペイントボール」!

非常に落ちにくい染料と香料を相手に強制塗布!逃げる敵の位置情報を提供するサポートアイテムです。今回は赤・緑・白の三タイプ御用意しました!』

 

「ふざけんじゃねえぞクソがああああっ!?」

 

『あーはっはっはっはーっ!!』

 

『なんか…爆豪、遊ばれてね?』

『見事に良いようにされてんな…』

 

 

頭をトリコロールにされて、爆ギレする爆豪。完全に冷静さを失って、脇目も振らずに発目を追いかけ回す。

対する発目は様々なサポートアイテムを駆使しながら、爆豪の動きを妨害して、引っかき回す。

観客が危なっかしいチキンレースをヒヤヒヤしながら見守る中、発目は悠々自適にサポートアイテムの解説に専念していた。

 

 

 

 

どうして発目がここまで優位に立ち回れるか?

全ては『大入福朗』、奴の入れ知恵である。大入が発目にしたアドバイスは主に四つ。

 

一つ目、「爆豪の手のひらを警戒しろ」。

爆豪は“個性”を使うとき「手のひらをお椀型」にする。ロケットの噴射口の様に爆発を収束し、指向性を持たせるのだ。だからこそ手のひらの観察を助言した。発目の「目」ならば造作もないことだ。

 

二つ目、「爆豪から10m離れろ」。

爆豪は爆発を推進力にした機動力を持つ。その速度は50mを4秒台で動く程だ。大雑把に計算して1秒で12mを駆け抜ける。

爆発の射撃にしろ、加速による近接にしろ、これが発目が対処出来るだろう摩り切り一杯のラインなのだ。

 

三つ目、「状況を引っかき回せ」。

一つ目・二つ目のアドバイスなんて付け焼き刃でしか無い。こんな物「爆豪がフェイントの一つや二つ絡める」だけで楽々振り切れる。それをさせないために爆豪の攻撃を単純化させる必要があった。

そのために煽る。可能な限り爆豪の動きを妨害し、時にはお遊びクオリティのアイテムを混ぜて、とにかく怒らせろ。冷静さを奪え。

 

 

 

 

発目が投げた「アルミ粉カプセル」が誘爆し、コントロールを失った誤作動で吹っ飛ぶ爆豪。

 

発目がいつの間にか仕掛けた「自動巻き取りワイヤー」に巻き込まれ、盛大にすっころぶ爆豪。

 

発目が用意した「痴漢撃退クラッカー」の顔面直撃を受けて、思わず顔を覆う爆豪。

 

おまけに「痴漢撃退催涙スプレー」の追撃を受けて、地面を転がる爆豪。

 

 

完全に爆豪は発目のペースに呑まれていた。

巫山戯たサポートアイテムで爆豪をおちょくり、追撃を放棄して自らのサポートアイテムの解説に夢中になる。「自分の事など眼中にない、見向きもしない事」が爆豪の神経を逆撫でる。

虚仮にされた爆豪は、既に冷静さを失い、猪突猛進を繰り返す獣と化した。

しかし、爆豪は諦めない。どんなに酷い目に遭っても立ち上がる。その根性は凄い。

 

 

発目の用意した「電気銃」に足を痺れさせながらも、負けじと挑む爆豪。

 

発目がばらまいた「携帯ネズミ取り」に足をバチンと挟まれながらも、まだ立ち上がる爆豪。

 

再度「捕獲ネット」に包まれて、オマケに「消火液」をぶっかけられるも、意地で戦う爆豪。

 

 

頑張れ爆豪、負けるな爆豪!

 

 

 

 

 

 

しかし、戦いは呆気なく終わった。

 

 

 

 

 

 

『よっとっ…!』

 

「…………は?」

 

『…………へ?』

『………』

 

『は、発目さん場外(・・)…………爆豪くんの勝利…です』

 

 

選手・審判・実況・観客までもが混乱した。発目を見ると場外の白線を越え、うんと背伸びをしていた。

 

 

『ん~っ………。

実に残念です!今回用意させて頂いたサポートアイテムは以上です!

また次回!3位決定戦でお会いしましょう!!発目明!発目明でした!!』

 

 

 

 

大入の入れ知恵。

 

四つ目、「駄目だと思ったら諦めろ」。

どんなに策を講じても爆豪は強い。

仮に網で捕らえても、場外に叩き出すために近付いた瞬間に即・爆・殺。遠距離のスタンガン攻めも、圧倒的なタフネスで耐えきられる。

いくら、攻撃を抑える手段が有っても、発目が勝利する決め手が一切無いのだ。

だから、手が尽きたらさっさとギブアップをするように推奨した。怪我をする前に自分から場外に出れば、最悪3位決定戦が控えている。もう一回、サポートアイテムを紹介する場が残されているのだ。

 

 

 

 

結局、発目は大入の言に従った。余裕綽々に見せていてもギリギリだったのだ。何より「消火器が空になった時点」で発目に爆豪を防ぐ手立ては無くなった。

逃げるが勝ちである。

 

 

「…ふ」

 

 

爆豪が震える。

 

 

「ふざけんなあああああぁぁぁっ!!!」

 

 

爆豪の叫び声が会場に木魂した。

 

結果を見れば爆豪の勝利。

しかし、発目に面白いくらいに弄ばれ、まともな報復すら出来ずに勝利を譲られる。

勝ち逃げされたも同然だった。

 

 

 

「発目被害者の会」…。

 

 

 

その最たる被害者は『爆豪勝己』であった。

 

 

 


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