転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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アニメの話
いやー場外に叩き出された塩崎さんが可愛すぎた。思わず三度見たね。

そしてここから試合運び早すぎィ!?追い越されましたorz

コミックの話
角取さんの情報紹介ページがありました。そしてあの私服!童顔に綺麗な瞳!低身長で有りながら出るとこでてるセクシーバディ!ヘソチラルックス!新時代の幕開けを感じました。(←変態)

そして、趣味に『日本アニメ』追加だとっ!益々キャラクターを絡ませるしか無いじゃ無いか!(歓喜)


………失礼しました。続きです。




61:最終種目 準決勝 2

不敵に笑う大入が立ちはだかる。

 

轟は意識を切り替えた。スイッチを入れたと言っても構わない。

轟は殺意だけで相手を射抜けると錯覚するほどに鋭く、大入を睨みつけた。

 

 

「氷は無駄だ…だから炎を使え。…そう言っているのか?」

「そうだ」

「そうかい…だったら、右側(こっち)だけで勝ってやるよっ!」

 

 

再び轟は氷を放つ。

しかし、先程の様な大規模な物では無い。地面にスケートリンクを張るかのように薄く浸食する氷結。ステージ上の銀盤は大入に向けて、放射状に打ち出された。

 

 

「…なる程、足下か」

 

 

大入に対して、氷による拘束技は意味をなさない。全て格納されることが証明されたからだ。

しかし、それにも弱点はある。観察して判明した事だが、大入の格納には「手のひらで直接触れる」というプロセスを踏む必要がある。

そこでこの攻撃だ。足下のみを凍らせれば、それの解除のためにしゃがむ等の何らかの大きな隙が生まれる。

轟は氷結を拡大させながら、大入に接近する。足を封じた瞬間に格闘戦に持ち込む算段だ。

 

当然大入も対抗手段を打ち立てる。指を鳴らし、〈揺らぎ〉から武器を取り出す。長さ20cm程度の細い鉄パイプを八本、指の間に挟むように握り込む。それを轟に向けて投擲し、簡易的な弾幕を張った。

 

 

「そんなもの…」

「まぁ、当たるわけ無いよな」

「…っ!?」

 

 

鉄棒の弾幕を轟はなんて事無いように潜り抜ける。意識を逸らされた轟の僅かな隙の内に大入は新たな策を完成させていた。

指を鳴らし〈揺らぎ〉から出したのは長い鉄パイプの柄の先端に、沢山の細い鉄パイプを束ねた「鋼鉄の竹箒」。大入はそれを思いっきり地面に叩きつける。するとガキガキガキリっ!と喧しい音を鳴らし箒部分が爆発した。その衝撃で箒の繋ぎ目が破壊されて、夥しい数の鉄パイプが散弾銃の様にバラまかれた。

試作型噴射式発破戦鎚『コダマネズミ』の改悪武器、試作型発破式散弾箒鎚『ヤマアラシ』という武器だった。

 

接近し短くなった距離、身を屈ませたことによる不安定な体勢。轟は回避出来なかった。

咄嗟に防御を選択して、氷の城壁を生成して鋼の銃撃を凌いだ。

そのまま轟は直感に従い、横に飛んだ。次の瞬間、氷の壁が爆発して、氷の欠片が飛散する。大入の手にはハンマー…『コダマネズミ』が握られていた。

 

 

「おやおや、もう下がるのかい?もっとゆっくりしていきな…よっ!」

 

 

大入は手に持ったハンマーの残骸を轟目掛けてぶん投げる。彼がそれに対処している間に、こちらから仕掛ける。

指を鳴らし、〈揺らぎ〉から今度は40cm程度の鉄パイプを右手に携える。

それをレイピアの様に構え、突進。轟を圏内に捉え、次々と刺突を繰り出す。

轟は攻撃を回避しながらも圏内から逃れる様に少しづつ後ろに後退する。

 

 

「はっ!」

「……随分と芸達者だな…」

「よせやい、照れる」

「ちっ!誉めてねぇ…よっ!」

 

「おっと!?」

 

 

轟が防御とカウンターを同時に狙った氷を放つ。前面を覆う無数の氷柱、槍衾の様な攻撃的防御だ。

大入は針鼠の様なその防壁に触れると〈揺らぎ〉で包みこみ、一気に格納した。しかし、この先に轟の姿は無い。

 

 

(貰ったっ…!!)

 

 

その僅かな隙に轟は大入の裏をかいた。遮蔽物を利用した「空蝉の術」の様な不意打ちで、大入の背面を捉えた。

轟は大入に右手を伸ばす。狙いは「大入の手のひら以外の拘束」。大入の格納による無効化を封じ、動きを封じる必殺の手だった。

 

 

──パチン!

 

「ぐっ!?」

 

 

指を弾く音が鳴った。次の瞬間には轟の腹部に拳大の瓦礫がメリ込んでいた。

何故?どうして?いつの間にっ!?

轟の頭に驚愕と疑問符が乱立した。それこそが大入の術中に嵌まった証拠だった。

動揺した轟に、大入は振り向きざまに後ろ回し蹴りを放つ。轟の頭を正確に捉え、蹴り飛ばした。

 

 

『クリーンヒットぉぉっ!!こいつぁ良いのが入ったぞっ!立てるか、轟っ!!』

 

 

「だから言ったろ…右側だけじゃ駄目だって…」

 

 

轟は手足に力入れ立ち上がる。頭が揺れふらつく。それでも闘志の炎は消えていない。

 

 

「これで分かっただろ?さっさと使いなよ、左側の炎」

「うるせぇ…」

「なぁ、轟君…。君さぁ、エンデヴァー(お父さん)の事嫌いだろ?」

「っ!!」

「さっきエンデヴァーに聞いたんだ「何故轟焦凍は炎を使わないのか」…とな。そしたら「反抗期」と返されたよ。

だから母親由来の“個性”ばかり使うのか?父親の力は必要ないと言わんばかりに…」

「…」

「沈黙は肯定と見なすぞ」

 

 

轟は押し黙る。しかし、大入を睨みつけていた。

 

 

「…轟君。例え話をしようか?」

「…っ?」

 

 

大入が攻撃の手を止めて語りかける。

何故この場で?…と疑問があるものの僥倖。轟は自身の回復を待ち、話に応じた。

 

 

「君は『ヒーロー』、そして俺が『ヴィラン』だとする。さっきやって見せたように君の氷は効かない。援軍は見込めない。

君の後ろには大切な物がある、大切な人が居る。母親でもいい、兄弟でもいい、恋人でも、友人でも、可愛がってるペットでも構わない…。

もし、君が負けたら、俺は悪逆非道の限りを尽くすだろうな。男は殺し、女は犯し、子供や畜生は玩具の様に弄んで壊すだろうよ…。

なぁ、ヒーロー…そんなんじゃあ、全て失うぞ?」

 

 

そう言い終えると、大入は轟に向けて突撃した。

 

 

_______________

 

 

「やはり、強いな…」

 

 

灼熱の煉獄を揺らめかせ、眼下のステージを見下ろしていた。そして、顎髭の炎をそっと撫でた。

 

ステージを駆けめぐる二人の戦士。

 

一人は我が子、轟焦凍。ヒーローの血を引く次世代の英雄。

無数の氷山が道を阻み、取り囲もうと氷刃が枝葉を伸ばす。

 

一人は大入福朗という少年…。あのヴィランの血を引く男。

愉快犯…いや、怪盗(・・)『リーカーズ』。あらゆる警備を潜り抜け、数々の警察の包囲網を突破し、多くのヒーローの追跡を煙に巻いた稀代の大泥棒。

大胆さとは裏腹の入念な下準備と、繊細さとは裏返しの即興の奇策で、数多の獲物を奪い取って見せた極悪人。彼等の手に掛かった人々は全て転落した。

 

その血を引く彼もまた、異常と言わざる得ない。

 

己を磨き上げ、研鑽された純格闘技術。

戦況に合わせて武装を自在に操る武芸。

意外な発想で特殊な武器を作る知識量。

奇策を構築し、それを実行する柔軟性。

 

その能力は、そんじょそこらの二流三流のヒーローより卓越している。到底、数ヶ月前まで中学生の子供だったなどとは思えない。

 

 

更に、幸か不幸か大入は焦凍との相性も良い。

氷による拘束も防壁も、彼の前には意味をなさない。オマケにそのトリッキーな戦法は、焦凍の甘い部分を的確に突いている。彼は間違いなく焦凍の超えるべき壁となっている。

 

一方で焦凍は氷が身体を冷やし、その動きを鈍らせている。この間まではいずれ致命的な差を生むだろう…。

 

 

「…さぁ、今のお前では勝てないぞ、焦凍?使え、左をっ!」

 

 

焦凍に勝算があるならそれは、炎を使うことだ。炎があれば冷えた肉体は回復する。

更に無形の炎は大入の格納対象にはならないだろう。明確過ぎる攻撃手段になる。

 

 

「でないとお前は負けるぞ…?」

 

 

期待を込めて我が子を見守った。

 

 

_______________

 

 

戦いは激化する。大入が右手に持った鉄パイプで果敢に攻め込む。氷の発動できない左側面から殴打を加え、反撃には鉄パイプのリーチを持って牽制する。

 

熾烈な大入の攻めに轟は仕切り直しを計る。氷の壁で大入の侵攻を阻み、その隙に横に逃げ…指の弾く音が鳴り、轟が転倒した。

足下を確認すると、短い鉄パイプとワイヤーを繋ぎ合わせた『ボーラ』が足に絡み付いていた。

 

 

突風銃(トップガン)〉と言う中・遠距離攻撃を持つ大入は近距離戦闘になると、その悪質さに磨きが掛かる。大入の〈揺らぎ〉の射程は自身から半径5m の範囲だ。その中ならどんな場所(・・・・・)でも、どんな角度(・・・・・)でも、取り出し口を自由に設定出来るのだ。

この性質を利用すれば、大入は敵対者の正面に立ちながら、相手の背中を撃つ(・・・・・)ことが出来る。

 

 

突風銃(トップガン)背度撃ち(ハイドショット)

 

 

これが大入の殺しの間合い。精密射撃は必要ない。体の一部に当たり、集中が切れた瞬間こそが大入の狙い目。激しい連続攻撃の最中に、死角からの不意打ちが轟を翻弄していた…。

 

 

そして、倒れた轟に大入が鉄パイプを振りかぶる。スイカ割りでもするかの様に振り下ろされた鈍器を、轟は苦し紛れに防ぐ。大量の氷が吹き出し、大入を丸々呑み込んだ。

轟は拘束を逃れ、距離を取る。その頃には大入の〈揺らぎ〉が氷を呑み込んでいた。

 

 

「粘るな…」

 

「…どっちがだ」

 

「いい加減使ったら、それ?」

「断る…っ!」

「強情だなぁ…」

 

 

目まぐるしく切り替わる攻防。どちらも消耗が見え始めた。

どんなに氷を無効化出来る大入でも、流石にその冷気までは防げない。冷気耐性のある轟と比較して、少しづつ形勢が轟に傾きだした。

 

 

「…仕方ない、(そっち)も潰すか」

 

 

そう呟くと大入は手持った鉄パイプを投げ捨てる。両手を合掌するように叩くと〈揺らぎ〉を背中に纏った。〈揺らぎ〉から強風が噴き出すと、大入は右へと駆けだした。

指を鳴らし、追加で投擲用の鉄パイプを出すと、それを轟に牽制して投げる。そのまま近接戦闘。高速のヒット&アウェイに投擲と不意打ちの射撃が混ざり合う。

堪らずに轟が大入を押し戻そうと氷の津波を放つ。

 

 

「ヒール…」

 

 

大入は氷結に真っ正面から突撃した。

 

 

「アンド…」

 

 

氷に飛び乗り指を鳴らす。足下に濃密な〈揺らぎ〉が生まれる。

 

 

「トウっ!!」

 

 

〈揺らぎ〉から空気の爆発が生まれた。氷の津波を叩き割りながら、大入が空へと跳躍。そして轟の頭上を捉えた。

 

 

「…っ!?しまっ!?」

 

「〈合成砲(コンポジットアーティラリー)〉…っ!大放水砲っ!!」

 

 

大入は両手を合掌するように叩き合わせる。そして両手で〈揺らぎ〉を挟み込むように両手を合わせてノズルを作った。

 

 

流水濫射(カレントランサー)っ!!!」

 

 

手で作られた銃口から『青色の液体』が吹き出す。滝のように流れ出たそれは、回避出来なかった轟に浴びせられる。

そしてそのまま轟の頭上を超え、大きく距離を取った。

 

 

「くっ…!」

「また氷か……」

 

 

轟が今一度氷を放つ。再び足を捕らえようと薄い氷結を繰り出した。しかし、その速度は目に見えて遅くなっていた。

 

 

「だが、まだ足りないっ!足ぁりないぞォォオっ!?」

 

「なっ!?」

 

 

大入は怯むこと無く、直進を始めた。

 

 

「お前に足りないものは!それは!」

 

 

さっきまでのフェイントをかけた動きとは裏腹に、真っ正面から馬鹿正直に高速で走り抜ける。細かい氷柱は体当たりで砕き、薄氷は踏み抜いた。

 

 

「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてェなによりもォォォォ!!」

 

 

一気に大入は轟に肉薄する。轟は慌てて氷壁を作ろうとして違和感に気が付いた。

異常な身体の冷え、駄目だ氷の成形が遅い、間に合わない…。

 

 

「ぐあっ!?」 

 

「速さが足りないっ!!!」

 

 

最短距離を最高速度で駆け抜けた大入は勢いのままに飛び後ろ回し蹴りを轟に向けて叩きつける。

轟を盛大に吹き飛ばした。

 

 

『またもやクリティカルっ!ヤベーぞ轟!押されてる!頑張れ轟っ!!』

『執拗に左側面を狙ってやがるな。加えてあの青色の液体…何かあるな?』

『…ホウホウ』

 

(にしても、轟の動きが単調だ。緑谷との戦いで調子を崩しているな…)

 

 

 

「てめえ…今何しやがった?」

 

 

立ち上がった轟は大入に問いただす。しかしダメージが酷く、膝が笑っていた。

 

 

「…さぁな、自分で考えなっ!!」

 

 

轟の問をはぐらかし、大入は再び高機動戦を仕掛けてきた。

 

 

言うまでもなく大入が放った水鉄砲。あの青色の液体に原因がある。当然ただの水では無い、それだと競技中に手に入る物では無いためレギュレーション違反だ。使ったのは「冷却液」である。

ラジエーター液、クーラント液と呼ばれるこの液体は自動車等のエンジンパーツがオーバーヒートするのを避けるために冷却するために用いる物だ。しかも冷却液には寒冷地での凍結を避けるために「不凍液」が含まれている。それが轟に纏わり付いているのだ。

不凍液の主成分の融点は約-10℃…つまり、それだけ凍結に強い冷気を求められる。轟の氷結は必ず右半身の体表面から開始されるため、表面に付いた不凍液が邪魔をし、氷結の開始点が下がる。結果、氷の生成がワンテンポ遅れたのだ。しかも、先程より強い冷気で凍結を行ったために、轟の体温は著しく低下するという副次的効果まで付いてくる。

 

 

一度は傾いた形勢を瞬く間に覆された、凍えた轟の身体は精彩を欠き、防戦一方に追い込まれる。

それでも大入の容赦ない攻撃が続く。高速戦闘に投擲、包囲射撃に水鉄砲…と無数の手札が轟を削る。

 

戦いは完全に大入が掌握していた。

 

 

________________

 

 

「くちんっ!」

 

 

少女が顔を覆い、身を屈めて、可愛らしいくしゃみを鳴らす。

顔を起こすと鼻を指先で軽く擦った。

 

 

「大丈夫ですか、一佳さん?」

「うん、平気…」

「いいかげん、上を着たら如何ですか?」

「…あぁ、うん、そうする……」

「…?」

 

 

ラフな格好の拳藤が塩崎の勧めを受けて、渋々といった様子では有るが上着を羽織る。不自然な拳藤の返しに塩崎に疑問符が残る。

 

実は拳藤、単に暑いから上着を脱いでいたわけでは無い。止ん事無き事情あってのことである。

先程の試合開始前の一幕。拳藤と大入との和解、抱きしめた瞬間、刹那の濃密な時間。瞳から溢れた大入の涙が拳藤の肩を濡らした。そして、それは拳藤の肩に跡を残した。

そんな目立つ物があってはクラスメイトの言及は避けられない。苦し紛れの偽装工作だった。

 

しかし、背に腹はかえられない。余りにも寒い。

ジャージの肩を確認し、生乾きではあるものの跡が消えた事に内心安堵して、拳藤はジャージに袖を通した。

 

 

「それにしても冷えるな」

「あの氷ですからね…」

 

 

ステージに目を向けるとその上では二人が戦いを繰り広げていた。

 

大入はステージを高速で動き回り、様々な角度から轟に攻撃を叩きつける。

対する轟は大入を止めようと氷を放ち、ステージを白銀に染めていく。

激しく移り変わる戦況が、氷を生み、氷を砕き、氷を消す。ステージに出来上がったジオラマを次々に作り替えていく。

今も大入が優勢を保ち続けているが、対する轟も巧みに防壁を張り凌ぎ続けている。

 

 

「いけーっ!やれーっ!大入っちーっ!!」

「防戦一方だぞっ!!押し込めっ!」

「足だ、足を狙えっ!」

 

 

B組の声援が大きくなる。戦況を掌握し、大入が醸し出す押せ押せムードにクラスメイトの皆が色めき立っていた。

 

ここで、エンデヴァーJr.を下す事が出来ればA組一色だった期待感は完全に塗り替えられる。

当初から思っていたB組全体の悲願が達成されるのだ。興奮せずには居られない。

 

 

(くそっ!…何をやっているんだよ、大入っ!?)

 

 

そんな中、物間寧人は焦りを感じていた。親指の爪を噛み、ステージの…大入を凝視する。

 

 

(何を狙っている?勝利の決定打は既に持っているじゃ無いか!?何だ!何がしたいんだっ!?)

 

 

次の瞬間、事態は動いた。ステージ上の轟がとうとう膝を着いた。

 

 

_______________

 

 

「…もういいだろ、左を使いなよ…。体が冷えて来てんだろ?筋肉はガチガチに硬くなって、関節が錆び付いたように軋むだろ?軽い低体温症が始まっている証拠だ。充分な氷を作るのも一苦労じゃないか…」

「いやだ。…俺は証明するんだ…親父の力なんて要らねえ。俺は右だけで最強だって示さなけりゃならねぇ…。そうしねぇと…そうしねぇとっ……!」

 

「…そうか」

 

 

何度も轟を諭す大入。少し顔を伏せ息を大きく吸い込む。そして、口を開いた。

 

 

 

 

「いいかげんにしろよお前っ!!」

 

 

 

 

突然、大入の怒号が響き渡る。ビリビリと空気を振動させ、観客席にまで到達するほどの大声を上げた。

 

 

「っ!?」

 

「右だけで勝つだなんて今更出来もしないこと言いやがって!!第一になぁっ!お前の目的とやらは既に破綻(・・)してんだよ!!」

 

「な…なにを…」

 

「忘れてんじゃねぇよ!お前は既に使ってる(・・・・)じゃねぇか!?

コレを見ろ!お前が焼いたんじゃないか!その左でっ!俺の右腕を(・・・)焼いている(・・・・・)じゃ無いか!!不都合だからって目ぇ逸らしてんじゃねぇよ!!

使えよ、炎をっ!?今更、使うのが二回三回増えたってなんにも変わんねぇよ!!!」

 

 

さっきまでの温和な語り口調とは全く異なる罵詈雑言。大入の豹変ぶりに轟の言葉が詰まる。

 

 

「轟焦凍っ!お前は何のためにヒーローを目指しているっ!親のためか!それとも親のせいかっ!?巫山戯るなっ!!さっきから聞いてりゃ「右だけで勝って父親を否定する」だって?ぶっちゃけただの親子喧嘩じゃねぇか!!?嘗めるなっ!!わざわざこんなとこにまで持ち込んでんじゃねぇっ!!周りにまで迷惑なんだよお前っ!!帰れっ!!」

 

「っ…!?黙れよお前っ!!お前に何が分かるっ!」

 

 

轟は思わず声を上げていた。大入の物言いに我慢がならなくなった。

 

拷問と思ってしまうほど鍛錬の日々。苦しむ母の顔。あのグラグラと煮え滾る様な父親の野心、その双眸。

思い出すだけで怒りが沸々と沸き騰がる。

十年にも渡る禍根。それを「親子喧嘩」の一言で斬り捨てられたのだ。当然のように轟の逆鱗に触れた。

 

轟の殺意が膨れ上がる…。

 

しかし、臆すること無く大入は暴言を続ける。

 

 

「いーやっ!黙らないねぇっ!!

別にお前が父親の事が憎いなら憎いでそれは一向に構わねぇよ!思う存分殴り合うなりすればいいさ!!

だがなぁ、それは「助けを求めている人達」には何にも関係ねぇ話じゃねぇか!?俺はなぁ!お前の復讐(ワガママ)にそんな人達まで巻き込むなって言ってんだよ!?」

 

「っ!?」

 

「いいかっ!よく聞けっ!!さっき言った様にお前がヒーローで俺がヴィランだとしたらなぁっ!?お前は既に負けてるんだよっ!お前がタラタラとその大っ嫌いな炎を使わなかったせいでっ!!後ろに居た大切な者達を失ってなぁっ!!

分かるかっ!?そいつ等はお前の復讐に無理矢理付き合わされてっ!復讐の犠牲になったって事なんだぞっ!!

気付いてんだろ?目を閉じてんじゃねぇよ!!耳を塞いでんじゃねぇよっ!!お前の後ろに居た大切な人達はなぁっ!お前に助けを求めて居たんだよっ!!お前がっ!お前自身がっ!!それを蔑ろにしているんだよっ!!?

お前はそれを許せるのかよっ!?納得できんのかよっ!?方針(ポリシー)を守ったんだって満足できんのかよっ!?

それが出来ないならさっさと使えっ!何駄々捏ねてんだよ!!可能性があるなら喰らい付けよっ!しがみつけよっ!!なにそこで諦めてんだよ!!?自分に蓋してんじゃねぇよっ!?

大体っ!お前のその大っ嫌いな炎だってなぁ!!生まれて来てからお前にずっと寄り添ってきた体の一部(・・・・)じゃないかっ!!何故使ってやらねぇ!何故認めてやらねぇ!何故受け入れてやらねぇんだよっ!!!」

 

 

 

 

──『“個性”というものは親から子へと受け継がれていきます。

しかし、本当に大事なのはその繋がりではなく…自分の血肉…「自分である!」と認識すること。

そういう意味もあって私はこう言うのさ!

「私が来た!」ってね』

 

 

 

 

(…っ!?何だっ、今のっ!?)

 

 

「人生っていう奴はなぁ!!理不尽なんだよっ!どんな不幸が降り注ぐか分からないっ!どんな絶望が蔓延るかも分からないっ!お前だって分かるだろっ!!感じてるだろっ!?

ヒーローってのはなぁっ!!そんな理不尽を覆す『奇跡』なんだよ!不幸を振り払う『救世主』なんだよ!絶望を打ち破る『希望』なんだよ!そんだけ凄いことが出来る力なんだよっ!!!

それにはなぁ!全力が必要なんだよっ!!自分を限界まで限界まで限界まで振り絞ってっ!最後の一滴まで搾り出してっ!初めてそれが叶うんだよ!!!

それが出来るか?お前なんかにっ!!半分にされちまった全力なんかで!それが出来ると本気で思ってんのかよぉぉっ!!?」

 

 

大入の激情に轟が呑まれる。先程沸いた殺意の行方など遠に忘れて、唯々大入を見ていた。

 

 

「ちゃんと見ろよ轟焦凍っ!!お前が憧れたヒーローをっ!お前が目指したヒーローをっ!お前がなりたいもの(・・・・・・)を…ちゃんと見ろよぉぉおおっ!!!」

 

「っ!」

 

 

そう叫ぶと大入が両手を合掌するように手を叩き合わせる。そして〈揺らぎ〉を生み出した。しかし、その〈揺らぎ〉は今までに無い異質だった。

半径5m。直径10mの〈揺らぎ〉の球体。大入が出せる最大規模。轟々と風を鳴らし、突如爆発。ロケットを撃ち出すように天高く駆け上がる。会場の最高点を超えるほどに上昇した。

 

 

「〈合成砲(コンポジットアーティラリー)〉っ!…悪天注意砲っ!」

 

 

そして、放つ…。

 

 

超弩級(ドレッドノート)っ!」

 

 

大入の最大最悪の必殺技…。

 

 

降雨機関銃(フルマシンガン)っ!!」

 

 

降り注いだのは『鋼鉄の豪雨』だった。装甲板、鉄パイプ、何処の部品かも分からなくなった機械の残骸。大入が戦いの中で蒐集し続けた、武装の残滓。

ステージ全体を叩き潰すかのように落下した。

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

轟が防御したのは初擊が届く寸前だった。氷の天蓋を形成した瞬間に豪雨は来た。ガンガンと喧しく金属音を鳴り響かせ、鋼が氷を乱打する。脆い氷は歪み、削れ、割れた。

轟は全力で氷を吐き出し続ける。しかし、冷えた肉体では満足な氷さえ作れない。すぐに限界が来た。

 

 

『…っ!?(ダメッ!既に攻撃は始まっている!!止められないっ!!?)セメントスっ!!』

 

「わかってるっ!!」

 

 

主審ミッドナイトが副審セメントスに指示を飛ばす。それより早くセメントスは動いていた。

セメントスは手を地面に着け、コンクリートを操作する。彼が急速に作り上げた岩石のドーム。それが鋼の散弾を弾き飛ばした。

 

 

『ひゃーっ!!これは激しい鋼の雨霰…って…はああぁぁぁぁっ!?』

『…これは!』

 

 

ピシリ…ピシリ…と岩石のドームに罅が入る。

大入が最後に出したのは、「ステージ全土を叩き潰す大氷塊」。皮肉にも開幕で轟が出した「最大威力の大氷結」だった。

岩石と氷塊が、その質量と強度を持って衝突。結果は相殺、両者に亀裂が走り、バラバラに砕け散った。しかし、壊れた瓦礫はどうにもならない。大挙して轟目掛けて落下した。

 

 

「超えて見せろよっ!!理不尽をっ!不幸をっ!絶望をっ!

死ぬ気で乗り越えて見せろよおぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、世界が制止した。

 

周りの光景が無限に引き延ばされるような感覚。時間が停滞して、全ての物がその動きを止めた。

濃厚な死の予感、それに対して脳が反応を開始していた。生存本能に従い、ありとあらゆる手段を模索する。神経細胞が焼き切れるかと思うほどに、全身を電気信号が駆け巡る。

そして見つけた一つの記憶…。

 

 

──「………でも、ヒーローにはなりたいんでしょ?』

 

 

思い出したのは背中の温もりだった。

 

 

──『いいのよおまえは、強く思う“将来”があるなら…」

 

 

見えたのは煌々と照らす光だった。

 

 

──『血に囚われることなんかない…』

 

 

聞こえたのは優しい声だった。

 

 

──『なりたい自分になっていいんだよ…』

 

 

(思い出したっ!…あれは、あの時の!)

 

 

走馬灯…。死の淵に立たされて、無理矢理引き摺り出された轟の記憶。

遂に見つけた、轟の安らかな思い出。温かくて、優しくて、何処までも輝いていた。

それこそが彼の出発点。

 

もう大丈夫だ、彼は見つけた。自分の原点(オリジン)を…。

 

全身に広がる温かい感覚、優しい感覚。力が漲る。もう寒くはない。

轟は手を伸ばす。空から降り注ぐ絶望に向けて左手をかざす。視界が緋色に包まれた。

 

 

 

 

 

 

轟の左手から炎が生まれた。生まれた高熱は凍えきった空気を瞬く間に灼き、氷を溶かした。氷は水に、水は水蒸気へと一気に変貌する。

 

 

 

 

ステージが轟音の咆哮を鳴らし、爆発した。

 

 

 

 

『水蒸気爆発』。水は水蒸気に変化する際、その体積が約1700倍にまで膨れ上がる。その膨張こそが巨大な爆弾になるのだ。押し込められた空気が外へ逃れようと一斉に流動を開始する。空気が荒れ狂い、それは会場全土を巻き込むほどだった。

 

 

「何コレェエ!!!」

 

 

観客席の至る所から悲鳴が湧き上がる。暴風は会場内では納まらず、空気の奔流は上空へと逃れていった。

 

 

『何今の…。今年の1年何なの……』

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ』

『それでこの爆風てどんだけ高熱だよ!ったく何も見えねー。オイこれ勝負はどうなって…』

 

 

次の瞬間、巨大な何かが落下した。巨大な蜃気楼の球体…大入だ。着陸と同時に強風が吹き、ステージが顔を出した。

 

叩き割られて、最早形を成していないステージ。壁に激突して壁画と化した鉄塊と岩石。轟はやり遂げたのだ。理不尽を覆し、不幸を振り払い、絶望を打ち破った。

 

 

「…やっと使ったか。遅いんだよ、使うのが…」

 

 

大入はやり遂げた顔で相手(ヒーロー)を見る。

左腕から噴き出した炎が片翼の様にユラユラ揺れ、緋色の光が右側の氷刃を美しく照らしていた。

 

ついに来た!轟の本気だ!!

 

 

「勝ちてえくせに………ちくしょう…」

 

 

その声は震えていた。色々な感情が渦巻き、丸でコントロール出来ない。しかし、轟はそれを不思議と不快には感じなかった。

 

 

「どっちがフザけてるって話だ…」

 

 

轟は右手で涙を拭う。そして顔を上げた。

 

 

「俺だってヒーローに…!!!」

 

 

その顔はぎこちなくとも笑っていた…。

 

 


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