最近アニメ効果で皆さんがMHAの二次小説出してますが、私より倍の文量で倍の速度で更新していて本当に凄いと思います。
続きです。
最終種目「ガチンコバトル」
スタジアムに作られた特設ステージ。そこで試される己の自力。小細工は通じない、正々堂々の真っ向勝負。
ルールはシンプル。
相手を行動不能にするか、場外に放り出すか、降伏させるか。
戦いは
一回戦 第一試合
緑谷出久 vs 心操人使
試合の主導権を握ったのは心操。彼は巧みな挑発行為で緑谷を煽動し、“
心操はこの瞬間、勝利を確信した。心操は緑谷に「場外に出るよう」命令した。それに従い緑谷は一歩…また一歩と足を運ぶ。
場外の白線を跨ぐまであと少し…そこで事態は急変した。突然、緑谷の指が爆発した。彼の“個性”であるハイパワー…それが暴発したのだ。幸運にもそのダメージで緑谷は心操の洗脳状態から逃れる。そのまま「これ以上主導権を握られるのは不味い」と言わんばかりに緑谷は心操に挑む。
対して心操は激しく動揺していた。「洗脳が解けた原因」さえ不明だが、それ以上この戦況は不味い。心操の“個性”は強力ではあるものの、その条件は非常に困難だ。「洗脳する意思を持った状態で対象と会話を成立させる」必要がある“
その後は唯々意地だけがぶつかり合う押し相撲。そのギリギリの闘いを制したのは『緑谷出久』だった。
一回戦 第二試合
轟焦凍 vs 瀬呂範太
彼等の勝負は一瞬だった。
先制を仕掛けたのは瀬呂。目にも留まらぬ早業で轟をテープで雁字搦めにして動きを封じた。そしてそのまま場外へと放り出すべくテープを手繰り寄せる。
しかし、先の騎馬戦でプライドをズタズタされた轟は休憩時間中に父親である『エンデヴァー』と面会していた。そこで聞かされた憎らしい説教は轟にストレスを与えた。一口に言って、今の轟は「気が立っていた」。
轟は自身の怒りに任せて全開の
哀れ瀬呂…彼にはもう、どうすることも出来ない。下半身は氷結に埋もれ、自慢のテープも氷点下にやられてボロボロと使い物にならなくなった。
余りの凄惨さに周囲の同情の目は絶えない。「ドンマーイ」と言う慰めの大合唱を聞きながら瀬呂は敗北した。
そして、勝者『轟焦凍』は瀬呂を助けるべく
一回戦 第三試合
上鳴電気 vs 塩崎茨
彼等の勝負は一方的だった。
先制したのは塩崎。無数のツルを津波の様に操り、上鳴をドンドンと追い立てる。
どうにか射程圏内に捉えようと接近する上鳴を塩崎は無数のバリケードで阻む。
闇雲に回避を繰り返した上鳴はあっという間にツルに包囲され、とうとう捕らえられた。
一か八か。上鳴は自分の持てる“個性”の最大電力を放出した。運がよければ放電が彼女を貫通し、最悪でも電熱でツルが傷み拘束から逃れられればと考えた。
しかし、塩崎の方が上手だった。ツルの一部を地面に縫い合わせる事でアースの働きをさせ、効率よく電流を逃がした。
ツルの強度と電気の蓄積量の耐久勝負。制したのは塩崎。上鳴を制圧し、勝利を手にした『塩崎茨』は自らの幸運を神に感謝したのだった。
一回戦 第四試合
飯田天哉 vs 大入福朗
──…
_______________
いやー恐いわー。これが世界の修正力って奴か?
とにかく恐いわー…。
洗脳されていた尾白君が最終種目を棄権するのは予定調和だったが…まさか青山君も棄権するとは思いもしなかった…。
結局心操チームから二名が棄権。繰り上がりで鉄哲さんと塩崎さんが最終種目に出ることになった。
そして、組み合わせの抽選会もピッタリそのまま。唯一俺と発目さんが入れ替わっているだけだ。
ちくしょー…。やはり緑谷チームの機動力である発目さんのポジションを取ったのが悪かったのか。
もし、順当に行けば…
飯田君→塩崎さん→轟君→かっちゃん
と対戦する事になる。
えぇ~、何このハードルート…。もう少し楽な相手はいませんか?…あっ、どのルートでも辛いわ。
…嘆いても仕方ないね。前向きに検討しよう。…と来れば彼の考察だ。
『飯田天哉』
“個性:エンジン”
とにかく足が速い。
体内に車の『エンジン』に類似した器官を持つ異形型の“個性”に該当する。その恩恵は「爆発的に発達した脚力」に集約される。その走力、蹴りによる打撃力は一級品だ。しかも全身を隈無く鍛え抜かれ、体幹も強く、耐久力も高い。
更に注目するべきは騎馬戦でも見た〈レシプロバースト〉。エンジンのトルク回転数を無理矢理引き上げて、約十秒間超加速を繰り出す。
「速さ」と言うのはかなりの脅威だ。
遠距離を一気に詰め。
不利な戦場を一目散に離脱し。
相手の行動の先に割り込み。
速度は運動エネルギーを残し、打撃力に変化する。
彼の足がどんだけ速いかと言うと『個性把握テスト』で彼は50m走を約3秒で走っている。これは単純換算すると時速60kmで走っていると言うことだ…ぶっちゃけ自動車と大差ないレベル。しかも、エンジンの特性上、右肩上がりに加速するため、最高速度はこれより速いと言う事実。
彼に蹴られると言うのは車に轢かれるのと同義と言っても過言では無いだろう。
更にレシプロバーストを発動すればもう一段階速くなるのだから始末に負えない。
「当たらなければ、どうという事は無い」
本当にその通りだと思います。
さて、ここで問題が一つ。俺がレシプロバーストにまるで
騎馬戦で俺は飯田君のレシプロバーストをモロに食らった。しかも彼が騎馬を組んでおり、存分に走れない状況下で…だ。
目算時速100kmを優に超えるスピードに為す術も無く、ハチマキを獲られかけたのだ。
事前に来ることが分かり、身構えた俺にさえまともに動けない。
…さて、ここからどうやって攻略するかだ。
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「すみませーん。隣いいですか?」
彼との出会いは本当に偶然だった。
第一印象は「何だか妙に笑う奴だな」と感じていた。話に聞くところ、東雲くんの恩人なのだそうだ。
詳しく話を聞いて驚いた。なんと彼は入試試験であの超巨大ロボットに立ち向かい。奴を半壊にまで追い詰めたと言うのだ。
彼の“個性”を聞いた上で戦力差を考えても、相当の勇気が求められるであろう事は想像に難くなかった。
それでも超巨大ロボットに挑んだのは、危機が迫っていた受験生を助けるためと言うではないか。
もし彼の勇気ある行動が無ければ、東雲くんや葉隠くんと同級生になることは無く、共に切磋琢磨する事も無かったかもしれない。
何より、今となっては大事な学友となった緑谷くん…。彼と同じだけの事をやり遂げたのだと、素直に尊敬してしまった。
「俺からしたら飯田君も委員長の素質有ると思うよ?
…いや、会って数分もしない俺が言うのもアレなんだが…。要は飯田君は「自分よりも相応しいから緑谷君を推薦した」んだよな?それって「その方がクラスの為になる」って判断したんだよな?「決して利己的にならず、平等に冷静に、『多』の事を考えて」選択したって事にならないか?
だったら飯田君にも素質はあるよ。だって「皆の為に最善を尽くすこと」ができるんだから」
それでいて、彼は優しかった。
クラス委員長を決める投票で気落ちした俺を励まし、元気づけてくれた。
今思えば「ヴィラン連合襲撃事件」で救援を求めて足を踏み出せたのは、あの言葉が頭の片隅にあったお陰…いや、流石にそれは言い過ぎだな。
「…でも、まぁ、返して貰ったぞ。
そして彼は強かった。
彼と初めて対峙したのがあの騎馬戦。驚嘆するほどの実力を誇示して見せた。
あの一瞬の攻防。俺の奥の手を見事にひっくり返して見せたのだ。
そんな強敵に今度は単身で挑まなければならない。
彼の強みは拾ってきた物を武器として使う戦法と風を使った機動力…。
汎用性は八百万くんを、戦闘力は爆豪くんを、足して二で割る様な戦い方だ。
なるほどこれは強敵だ。
考えないといけない。彼に勝つ
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『Yeah!リスナー諸君、待たせたなァ!ちとばかし、スタジアムのお手入れに時間が掛かっちまったぜ!!
さァ!行ってみようか四戦目!』
プレゼントマイクの煽りに乗せられ、会場のボルテージが一段上がる。スタジアムがより一層強い熱を帯びた。
『実はお前ら気になってたんじゃねぇかぁっ!?この二人の対決をよォ!!
選手入場!!騎馬戦では脅威の超加速を披露した一年随一のスピードスター!!飯田天哉!!』
プレゼントマイクのコールに応え、飯田がスタジアムに入場する。
一歩一歩しっかりと踏み締め、観客の声援と拍手…その総てを肌で感じ、感動をしかと噛み締めながら、悠然と歩く。
飯田は奮えていた。胸張り、視線を前に向け、精神を研ぎ澄ました…とても心地よい緊張感。
気炎万丈、威風堂々たる足取りでステージに上がる。
『対するは本大会のダークホース!騎馬戦で選手全員を恐怖のドン底に落とした一年随一トリックスター!!大入福朗!!』
プレゼントマイクのコールに応じて大入が入場する。ゲートから飛び出した大入は、ステージに向けて全力疾走で駆け抜ける。
指を鳴らし、足下に作った〈揺らぎ〉から強風を生むと、それに乗り空へと大ジャンプ。鮮やかな三回半捻りを決め、ステージに着地。右の拳を高々と掲げ、ガッツポーズを決めた。
サービス精神旺盛な大入のパフォーマンスに観客から万雷の拍手喝采が浴びせられる。
春風満面、余裕綽々と観客席に手を振って応えた。
「…随分と派手な入場だな、大入くん?」
「あれ、羨ましい?俺に勝ったら、次は真似していいよ?」
「いや、遠慮しておく…。俺は真剣にこの大会に臨んでいるんだ。
「ムッ…失礼な、俺は至って大真面目だよ!
いいかい!人々の平和を守るだけがヒーローの仕事じゃないんだよ!」
「…どういう事だ?」
「確かにヒーローは敵との戦闘だったり、災害救助だったり、市中の安全パトロールだったりが主な仕事…だけどそれだけじゃない!
ヒーローランキングNo.10の『ギャングオルカ』は「水族館からショー」のオファーを受けたりするし、関西の任侠ヒーロー『フォースカインド』は人気向上のためにボランティアで「人形劇」をしたりする。
つまり!ヒーローってのは守るだけじゃ無く、人々の笑顔を率先して作って行くのだって立派な仕事なのさ!」
「…っ!?なるほど!つまり君は闘うだけでは無く、観客を喜ばせるパフォーマンスを絡める事で、周囲の注目と評価を高めようと考えているんだな!」
「Exactly!(その通りでございます)
但し、勝負が始まったらそんな余裕も無いからね。今は始めと終わりだけでもって事さ…」
「なんて事だ…。君はそこまで、ヒーローとしての在り方まで考えているのか…」
『あんた達、呑気にくっちゃべってないでさっさと構えなさいっ!始めらんないでしょ!?』
ここで思わず主審『ミッドナイト』のツッコミが入る。両者はミッドナイトに謝罪を入れると試合開始の立ち位置に戻り、戦闘の準備に入った。
軽い会話で一度ほぐした緊張を引き締め直し、集中力を高めていく。
その時は来た!
『 S T A R T !!』
開始の合図が鳴り響いた瞬間。大入は距離を取るため、後ろに二歩下がる。
その間に飯田は初擊を当てるべく、八歩前に出る。
射程圏内に捉えた飯田は矢の様な跳び蹴りを大入の顔面に目掛けて放つ。
対して大入は蹴りをしゃがんで攻撃をやり過ごし、伸びきった足を一気に上に叩き上げる。
体勢を崩した飯田に大入はカウンターを狙う。パチン!と指を鳴らすと〈揺らぎ〉が生まれ、中から「長柄の槍の様な武器」が出て、飯田の頭目掛けて横薙ぎに払われる。
回避をするために飯田はそのまま後ろに倒れ込み、咄嗟に片手を地面に着いて体勢を立て直す。
しかし、大入は追撃の体勢に入っている。振り払われた槍は機動を変え、真上から一直線に飯田に向け、振り下ろされる。それをよく見ると、槍の刃が真下を向いた「鎌の様な形状」をしていた。
「うおっ!」
「…あら、外した」
飯田は慌てて横に跳び、そのまま大入の追撃を躱し、急いで距離を取る。
その間に大入は「長柄の槍鎌」を構え直す。
『ぶっ…武器ぃぃぃっ!』
『あれは…』
「ちょっと待ちたまえ大入くん!
「それは違うよ!これは「ロボットの廃材」を継ぎ合わせて
「んな!?マジか!?」
「男ならDIYの一つや二つ
「目的見失ってないか!?」
「違わないよっ!パワーローダー先生だって
ヒーローが自前で武器を作ったって良いんだよ!」
『有りよ!既にパワーローダーのチェックもパスしてるわ!』
「マジか!?」
『なんと大入っ!ここで意外な才能を発揮してきたっ!?でも有りなのかマジでこれ!?』
『…これはルールの盲点だな。
大入の“個性”は「道具をストック」する物だが、競技中に拾った物は自由にして良い。だから、それを武器として使えるように加工したんだ。
要は“発動型個性”が“個性”使用の為に必要なエネルギーを試合前に補給するのと同じ「事前準備」の範疇だ。
しかし、それを加味しても、数時間程度の時間で武器一本仕上げてくるとは正気の沙汰とは思えねぇが…。
武器使いが武器の無い状態から闘うための
『こいつはぁシヴィーーーっ!!?』
「…さて、俺からも攻めるよ!」
大入が指を鳴らすと〈揺らぎ〉を両肩に纏う。そこから噴き出した突風を推進力に飯田に突撃する。
想定以上の猛スピードに飯田が慌てて距離を取る。
逃がす物かと大入が「槍鎌」を振るうと、突然「槍鎌」が
「どわぁっ!?」
『はあぁぁぁっ!!なんだあれっ!伸びたぞおいっ!』
「試作型伸縮式足狩槍鎌『レッドキャップ』…どう、男心
転んだ飯田に追撃を仕掛けるべく、槍鎌を縮めてながら距離を詰める。
槍鎌の石突きを地面に当て、棒高跳びをするように全身を上に押し上げる。更に槍鎌の柄を伸ばし、両肩の〈揺らぎの風〉を噴き出しを加えて、遥か高所まで一気に跳び上がる。
頂点から体重と突風の加速を合わせた「迅雷」の回転蹴りが飯田目掛けて墜落する。
「壊滅のぉ!セカンドブリットぉぉぉぅっ!!」
「おわぁぁぁっ!」
咄嗟に飯田はギアを上げる。エンジンの回転を上げて、落下点から緊急離脱する。
大入は墜落。ステージにクレーターを作り、大小様々な石礫を周囲に撒き散らす。舞い上がった礫の弾幕を突き破る様に、槍鎌の石突きが如意棒の様に飛び出してきて、体勢の戻りきっていない飯田の腹部に吸い込まれる。
「ぐふっ!」
─パチン!…ギャリギャリ…ギャリギャリ!
「〈
飯田が曝した隙に、ここぞとばかりに畳みかける。
大入は指を鳴らし、前面に巨大な〈揺らぎ〉を展開する。轟々と音を立てるそれに、更なる〈揺らぎ〉が重なり、とっておきを吐き出した。
──〈
吐き出したのは「ロボットのネジにボルトとナット、そして小さな歯車」。大入が屋内での対人戦闘訓練では使わなかった
『吹き荒れる鋼の暴風雨ぅぅ!!飯田が呑み込まれたぁぁ!!やったか!?』
『やってねぇよ…よく見ろ』
「…マジかー。これを避けるのか、飯田君」
「はぁ…はぁ…」
飯田はギアを更に上げて、射線から完全に逃げ切っていた。
僅か数秒でステージの端から端まで駆け抜ける機動力…それは飯田の反撃の用意が整った証だった。
「はっ!」
「ちょ!?速っ!」
飯田が右へ左へと進路を切り替えながら距離を詰める。高機動で大入を翻弄して、死角となる背面を狙いに来る。
慌てた大入が槍鎌を伸ばし、広範囲な薙ぎ払いで隙をこじ開けようとする。
「同じ手は通じないぞっ!」
飯田は更にギアを上げる。
薙ぎ払いを悠々と飛び越えて、大入へと肉迫する。
「うん、知ってる」
さっきまで持っていた槍鎌が〈揺らぎ〉に「格納」されて、大入の両手がフリーになる。指を鳴らすと飯田と大入の間に「装甲板」が割り込まれ、飯田の攻撃を阻む。
衝撃を受け止めた大入が大きくノックバックし、体勢を整える僅かな時間…。
その隙だけで、飯田は大入の懐に潜り込んだ。
「っ!?グオっ!!」
『モロに入ったーっ!クリーンヒットぉぉっ!!』
大入の脇腹に飯田の蹴りがめり込む。ミシミシと重い一撃を受けて大入が吹き飛ぶ。
場外に出される物かと、大入は装甲板を投げ捨て、手を叩くと、吹き飛んだ方向に「ロボットの巨大な鉄塊」を展開した。大入は場外行きを阻む巨大な鉄の壁に激突した。
そこに間髪入れずに飯田が高速で突擊、大入をその重厚な鉄塊と、重擊な前飛び蹴りで板挟みにする。
『飯田畳みかける!しかし、大入も負けてはいねぇぞ!!』
「ぐっ、ああ嗚呼あぁぁぁっ!!」
「ぐふっ!?」
気合、根性それだけで大入は意識を引っ張り上げる。
飯田の足をガッチリと捕まえ、片足で不安定な体勢と身長差を利用して、懐に組み付き、がら空きになったボディに鬱憤を晴らすかのようにレバーブローを叩き込む。
重い打撃。
飯田が蹌踉けた隙に、大入は互いの位置を入れ替え、力任せに鉄塊の壁に叩きつける。
オマケと言わんばかりに数発レバーブローを追加で叩き込む。
─パチン!
「離れ…ろっ!!」
「ゴッ!?」
僅かに大入の攻め手が緩んだ。
仕返しとばかりに、今度は飯田が反対に身長差を活かして、両手を握り合わせたハンマーナックルを大入の後頭部に振り落とす。
これには思わず大入も怯み、飯田から離れた。
「っ!?しまった!!?」
大入に更なる追撃を仕掛けようとした瞬間、彼の術中に嵌まった事を悟った。
前に進もうとする力に反発して、鉄塊に引き戻される。
飯田の背中には「紫色の毛玉」が張り付き、それが鉄塊と飯田を繋ぎ合わせていた。
「衝撃のぉぉっ!ファーストブリットぉぉぉぅっ!!」
「があぁっ!!?」
『あぁっと!?大入の重たい一撃が入ったぁぁっ!』
距離の空いた大入が、手を鳴らし、全身に〈揺らぎ〉を纏う。
磔にした飯田に、先程の意趣返しをするかのように「疾風」の左跳び蹴りが突き刺さった。
─パンっ!…パチン!
両手を叩き合わせると〈揺らぎ〉から空気の爆発が生まれ、大入は先程よりも更に大きく後方に跳び下がる。
再び指を鳴らすと、全身に〈揺らぎ〉を纏直し、体を軸に左足を水平に上げ、独楽のように回転する。そして、「竜巻」を彷彿させる必殺技が飯田に向けられる。
(あれは…マズいっ!)
「瞬殺のおぉぉぉっ!!!」
(一か八かやるしか無いっ!!)
「ファイナルブリットおおぉぉぉぅっ!!!」
(間に合えっ!!!)
──〈レシプロバースト !!〉
暴風が高速で飯田に迫り来る。
飯田は奥の手であるレシプロバーストを使った。トルクオーバーしたエンジンはスピードだけで無く、馬力も無理矢理引き上げる。力任せのパワーで体操服を引き千切りながら飯田は加速し、大入へと突撃した。
「がはっ!?」
『ああっと、飯田が場外っ!!勝者、大入!二回戦に進出だァ!!』
最後のぶつかり合い。競り勝ったのは大入だった。大入の計略によって、立ち上がりの遅れた飯田が最高速度に達するのが間に合わず、力負けしたのが決定的な差となった。
大入の一撃に吹き飛んだ飯田は為す術もなく、場外に叩き出された。
「ぜぃ…ぜぃ…大丈夫、飯田君?」
「はぁ…はぁ…こっちのセリフだ、大入くん」
大入が、場外で倒れた飯田に歩み寄る。大入の足取りがフラフラとしている。飯田が叩いた脳天の衝撃が、まだ体に残っているせいだった。
脇腹を押さえた飯田が、億劫そうに上体を起こす。大入から散々叩き込まれたボディブローが、未だに尾を引いていたせいだった。
足元の覚束ない大入が安静のためにスタジアムの壁に背を預け、座り込む。
合わせたように飯田もスタジアムの壁に背を預けられる位置に這いずる。
二人ともダメージが引かないと満足には動けそうに無かった。遠くから主審のミッドナイトがこちらに駆け寄ってくる。後ろには救急用の運搬ロボットも着いているようだ。
「…そだ。ねぇ、飯田君?」
「…なんだ大入くん?」
「俺相手に手を抜いたでしょ?」
「何をバカなっ!そんなわけ無いじゃ無いか!?」
「じゃあ、なんで開幕で超加速を使わなかったの?」
傍までやってきたミッドナイトが両者を軽く触診し、数回質問を繰り返して意識や体調不良を確認していく。
その手際の良さに、プロヒーローの凄さを再認識した。
「飯田君のアレなら俺に何もさせずに勝つことも出来ただろ?
もしかしてさ、「人々を笑わせるのもヒーローの仕事」なんて言い出したから、俺に気を遣って、見栄えのする戦い方をしたとか言わないよな?」
「…いや、それは君の思い過ごしさ。
君なら真っ先に俺のレシプロバーストを警戒すると思ったんだ。レシプロバーストは超加速と引き換えにエンジンがエンストする諸刃の剣だ。騎馬戦と同じように強力なカウンターをねじ込まれたら、それこそ闘いにならないと警戒したんだよ」
「そっか。良かった…話中断したから心配してたんだよ」
「ん?…どういう意味だ?」
「試合前に話した内容覚えてるよな?今さっき言った「人々の笑顔を作るのも仕事」ってやつ…」
「それがどうしたんだ?」
「俺こんな性格だからそういう方向性目指してるけど…飯田は無理して参考にする必要ないよ?
俺の感じた飯田君は、公正に誠実に実直に一直線にヒーローの道を駆け抜けていく…そんな姿が格好いい。君が君の在り方と示し続ければ、自然と君に着いて行く人も出てくるよ。うん、間違いない…」
「なんだか君はよくわからない奴だな…」
「失礼な…」
ちょっとだけ可笑しくなって二人仲良くクスクスと笑い合った。
「俺は負けたが、君の健闘を祈るよ」
「ありがとう。…そうだね、選手宣誓も達成しないと…」
「爆豪君か…彼は強いぞ?」
「うん、知ってる」
「そうか…頑張れ」
「うん、頑張るよ…」
飯田が差し出してきた掌に大入は固い握手で応える。互いの評価が高まった瞬間だった。
観客の拍手が何処までも鳴り響いた。
「あぁ~っ!良いわっ、好いわぁっ!!青臭いっ!!実に青春しているわぁっ!!!」
「「ミッドナイト先生、自重して下さい」」
この後メチャクチャ搬送された(医務室に)。