『さァ、残り時間半分を切ったぞ!!』
『B組隆盛の中、果たして1000万Pは誰に頭を垂れるのか!!!』
戦いは佳境を迎える。
「うらぁっ!」
大入が飛翔し、ハチマキを狙う。目標は鱗チーム。
「ぐっ!下がるぞ!」
「がおう!」
「塞げっ!
「アイヨ」
大入の一撃を防ぎ、後退する鱗チーム。それを包囲するかの様に背後を取る常闇の
『目標発見ブッ殺ス』
「っ!!」
「っ!?危ないっ!」
騎馬チームが攻勢に出たのを読んだかのように1p ロボットが突貫してくる。大入は慌てて騎馬に戻り、接近したロボットを風力を上乗せした攻撃で蹴り飛ばす。
「ハイヤぁぁっ!」
「がおおぉぉっん!」
「拾えっ!
「アイヨ」
「ぐっ!…疾いなっ!!」
一瞬にして鱗チームは攻撃に転じる。攻撃後の無防備な大入の体からハチマキを奪いに掛かる。
大入は慌てて指を鳴らし、装甲板を割り込ませる。上からの覆いかぶさる様な攻撃に落下しそうになるのを常闇がカバーして騎馬に連れ戻す。
「助かった常闇君…」
「どうと言うことは無い。それにしても
「うん、この状況は不味いかも」
常闇の懸念に緑谷は同意した。
『『『『目標発見ブッ殺ス』』』』
大入チームは自らが出したはずのロボットの軍勢に包囲されている。大入チームの騎馬の周りをグルグル旋回し、逃げ場を封じる。
更に厄介なのは鱗チーム。ロボットの群れの中を走り回り、こちらの警戒の緩んだ所から何度もアタックを繰り返して来る。
不思議な事にロボット達は鱗チームを一切攻撃しない、あんなに
「くそっ!ごめん!
「いや、大入くんが謝ることじゃ無いよ。奥の手の一つや二つ持ちたいのが人ってものだし。アレが無かったら実際、フィールド全体をパニックにする有効な手ではあったんだし…」
「でも…デクくんどうするの?」
「…まずはロボット達を排除しよう。常闇くんが攻撃。大入くんは防御に回って」
「…オッケー」
「了解した。いけるな?
「アイヨ」
たった一つの計算違い。これがもたらしたピンチはとても大きい。
緑谷は決して腐ること無く打開策を打ち出していく。大入の情報も大半を収集し終えて、足並みも合うようになってきた。
大入チームは一丸となって困難に立ち向かう。
________________
「…出鼻を挫かれたな完全に」
「あぁ、無意識の内にB組を蔑ろにしていたようだ…」
「くそっ!俺の“個性”で…」
「お待ちになって上鳴さん。無駄撃ちは厳禁ですわよ」
「…それにしても何者なんだ?
轟チームもロボット達に囲まれていた。
大入チームと轟チームの一騎打ちが始まる寸前に突如ロボットの集団が殺到。二チームを分断し、今も尚引き離し続けている。
原因は分かっている。拳藤チームだ。
彼女達がこのロボット達を誘導している。
「轟さん。私一つ思い出しましたの…」
「なんだ?」
「彼女…「推薦合格者」ですわ」
八百万は拳藤チームの前騎馬。戦場で歌う『柳レイ子』を見てそう告げた。
雄英高校推薦入試。その合格者は『轟焦凍』『八百万百』の他に後二名居る。
B組の『骨抜柔造』がその一人であることは割とクラス内で有名な話だが、『柳レイ子』が推薦合格者であると言う事実は意外と知られていない。何せ口数も少なく、物静かな彼女が、自らそれを大っぴらにしないためだ。
そんな彼女の“個性”が「但の念動力」で収まる訳が無い。
『柳レイ子』
“個性:ポルターガイスト”
ポルターガイストっぽいことはだいたい出来る。
ポルターガイストは怪奇現象の代表格。
在るときには家具を倒し、食器を飛ばし。
在るときには不自然な発光・発火現象を引き起こし。
在るときには「コンピュータを介し通信を送り付ける」。
彼女は歌う。高音・中音・低音と振動は遷移し、小刻みに音を連弾して旋律を紡いでいく。
それに合わせてロボットは踊り。今も尚、轟チーム・大入チームをまとめて相手取っている。
これはもしもの話だが…。
大入が骨抜と塩崎…そして柳で騎馬を組んでいたとしたら…。
大入チームの一人勝ちも有り得ただろう。
「レイ子…いけるか?」
拳藤の問いかけに柳は頭を縦に振り答えた。
今一度、拳藤は自分の拳を見つめる。そこにどんな感情が込められているのか知る者は当人だけだ。
拳藤はその拳を強く握りしめた。
「よし、皆!行こうっ!」
拳藤チームの挑戦が始まる。
対する轟チームは拳藤チームを静観していた。攻勢に出ようとすると、付かず離れずの絶妙な距離を保ち、ロボット達で出足を払い続けている。
「来るぞっ、警戒しろ」
しかし、膠着状態も崩れる。拳藤チームの攻撃の気配を察知したためだ。轟チームは警戒を強める。
拳藤チームの騎手拳藤が“
そこから会心の一矢が放たれる。
右手を
ゆっくりと
横に薙ぐ
ただそれだけだった…。
「「「「…?」」」」
行動の意味が分からない。あんな物攻撃と言えるのか?
更によく観察しようとした瞬間、異変は起きる。
「ぐっ!」「あぁ!!」「目がっ!」
「っ!?どうしたんだ!三人とも!!」
(くそっ!…目潰しか!?)
正解だ。拳藤はその巨大な掌を振るうことで微風を起こし、目潰しをした。
…しかし何を使って?
拳藤は砂を握りしめていたわけでもないし、他に使える物は無い。
否である。
一つ使える物がある。それは彼女の味方、小森だ。
小森は“
この攻撃らしくない攻撃を回避したのは、唯一眼鏡を着用していた飯田だけである。
「ア タ ッ ク っ !!!」
「「はいっ!!」」
『『『『目標発見ブッ殺ス』』』』
拳藤の号令を受けて騎馬が突撃を開始した。柳もそれに併せるかのようにロボットを煽動する。
「来るぞ!ロボットは左右から各2っ!騎馬は正面だっ!!」
飯田は咄嗟に目として働いた。視界を封じられた三名を助けるように、できる限り正確に情報を伝える。
「っ!八百万っ、ガードと伝導の準備!上鳴はいつでも撃てるようにしろっ!」
「はいっ!」「お、おうっ」
飯田の働きに轟は応える。直ぐさま指示を飛ばし、迎撃態勢を整えた。
轟チームの視界が回復する。拳藤チームは目前に迫る。
八百万が轟のオーダーに応える。
『八百万百』
“個性:創造”
ありとあらゆる物質を作ることができる。
八百万が出したのは「絶縁体のシート」と「鉄製のステッキ」。それらを手早く身につけた轟は攻撃の指示を出す。
「やれっ!上鳴ぃっ!」
「しっかり防げよ…!」
──〈無差別放電130万V〉!
『上鳴電気』
“個性:帯電”
全身に電気を帯びる。放電現象も引き起こす事が出来る。
強力な雷光が奔流となって迫る。電流に当てられたロボット達がショートし、火花を散らし、黒煙を上げて次々と倒れる。そして雷擊は最後に残る拳藤チームに牙を向ける。
「やれぇぇぇぇっ!レイ子おおぉぉっっ!!!」
拳藤の掛け声で柳の歌声が叫声に変化する。柳の“個性”がロボットを操作する歌声から念動力の叫び声に切り替えたのだ。
柳が操作したのは「装甲板」。彼女が動かせるありったけの量の鉄板を次々と轟チームの周辺に突き刺す。
「「「「何っ!!」」」」
轟チームの周辺に突き立てられた鉄板は、「避雷針」の役割を果たして電流を吸収する。鉄板へと吸い寄せられた放電は、地面へと流れ逃げていく。
「がっ!?」「っ!!」「うっ!」「きゃっ!!」
しかし、電流は完全に消えるわけでは無い。幾ら減衰したとはいえ、防ぐ手立ての無い電撃は非常に凶悪だ。その荒れ狂う雷擊は拳藤チームを貫く。
しかし、拳藤チームは足を止めない。
ここまで漕ぎ着けたのはたった一つの偶然だ。
大入福朗…彼という存在。
彼が装甲板を持ってきたから…。
彼がロボットを引っ提げてきたから…。
こうして勝負に臨める。
この数奇な運命を逃す物かっ!
ほらあと5m…
3m…
1m…
届いたっ!
「あああぁぁぁぁぁっ!!」
拳藤は渾身の力を込めて手を伸ばす。
手にはハチマキが握られていた。轟チームのハチマキだ。
「やった!」
しかし、それでも届かない。
「そ れ を か え せ … っ ! !」
「っ!逃げっ…」
拳藤の全身を駆け抜ける悪寒。脳味噌がガンガンと警鐘を鳴らした。
瞬く間に氷が迫る。拳藤チームが逃走しようとした瞬間、騎馬がグラついた。
一瞬…
ハチマキを手にした一瞬の気の緩み。拳藤一佳は頭から抜け落ちていた。
「一佳っち…ごめんっ…」
電撃攻め・急速冷却。二重の責め苦に取蔭が落ちる。
拳藤チームに逃げる術は無かった。
拳藤チームは氷に捕まる。騎馬の足を全て凍らせ、前騎馬の柳と騎手の拳藤に至っては最後の抵抗すら封じるために上半身まで軽く氷結させる容赦の無い拘束だ。
「うっ…」「ぐっ!…くそう…」
「…驚いた。まさか此処までやるとは…」
まさしく意表を突かれた…と感心する顔をする轟。悪意は無いが、その澄ました顔がこの瞬間だけは堪らなく憎らしい。
これが、拳藤一佳と拳藤チームの敗北が決定した瞬間だった。