転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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45:騎馬戦 3

戦いは苛烈さを増す。大入への攻撃は更に強くなる。

 

 

「ぎゃぁぁぁっ!!死ぬっ!!死ぬって!!!」

「大入くーーん!?」

 

『あぁーっと!!大入選手、流石にこれには手が出ないっ!思わず下がる!』

 

 

大入は逃げる逃げる。右へ左へ、上へ下へと縦横無尽に逃げ回る。

 

 

 

 

 

 

 

カァ

 

 

 

カァ

 

 

 

カァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァカァ────…

 

 

空を覆い尽くすカラスの大群。流動する一つの巨大な生物のように集合しては、蜘蛛の子が散る様に離散する。多勢に無勢な包囲網。

 

 

『お征きなさい、翼を持つ物達よ!あの高慢なる翼無き愚か者に鉄鎚を下すのです!!』

「いいよー口田くん!ドンドンやっちゃってー!!」

「「えげつねぇ…」」

 

 

優勢を保って居るのは葉隠チーム。秘密は騎馬役の口田にある。

 

口田甲司(こうだこうじ)

“個性:生き物ボイス”

動物たちに語りかけ、力を借りる。この力は万の軍勢さえ作ってみせる。

 

 

「えぇい!ちくしょー!こいつでも食らえっ」

 

ガァ゛

 

 

カラスに啄まれて涙目の大入は指を鳴らして武器を出す。円盤状の塊を二つ。一つを適当に放り投げ、もう一つを先に投げた方へ狙ってぶつける。

空中で激しく衝突するとカチリと音がして爆発した。怒りのアフガン産の「地雷」だ。

 

 

『またもや爆発ぅぅ!!一体どんだけ武器をストックしてんだぁ!?』

『大入は予選40位。いくら採取に時間を使ったからと言っても、少ない時間じゃ拾えた武器は決して多くはないだろう…』

 

 

 

 

(け、計算ミスった-っ!!)

 

 

大入は内心焦っていた。頭では理解していたのに認識が甘かった。

原作では戦いの中で描写されない視点が非常に多い。彼等も物事を考え動いているのだ。当然のように視界の外で棒立ちしているなんて事は無い。

大入の油断を突くように死角から攻撃は飛んでくる。手持ちの武器はみるみる減る。

 

 

「F I R E E E E E E ! ! ! 」

 

「ぐっ!?」

 

「いいぞ角取!もう一撃かますぞっ!」

「OK !鎌切サン!狙い撃ちマース!!」

 

「オマエら…騎馬ってか、肩車じゃねぇぇかぁぁっ!」

 

「Shut up !」「喧しいっ!」

 

 

一難去ってまた一難。角取の“個性(角砲)”が大入を狙う。咄嗟に手を叩き、装甲板を出して防ぐ。

綱渡りの様なギリギリの戦いの中で踏み止まれるのは心強い味方のお陰だ。

 

 

「…這い寄れっ黒影(ダークシャドウ)っ!」

「アイヨ」

 

「っ!角とっ!」

「Ouch !!」

 

『光芒一閃んっ!!!ここに来て大入チームに追加点んん!!何だこれは!快進撃が止まらなぁい!』

 

「常闇くんナイス!」

「ふっ当然だ…」

 

 

八面六臂の大活躍を見せる常闇と黒影(ダークシャドウ)。冷静に指示を出して大入をサポートする緑谷。

大入は騎馬に戻りハチマキを受け取ると再び引っかき回しに飛翔する。

 

 

「大入くんっ!?」

「っ!?」

 

「てめェ逃げてねぇで勝負しやがれっ!」

 

『ああっと!ここで爆豪二度目の襲来ぃ!!リベンジなるかぁ!?』

 

 

爆豪の接近に気付いた大入は上へと逃げる。

他の相手なら低空でもなんとかなったが、爆豪は例外だ。彼とは一対一でないと周りから落とされかねない。

 

 

(…クソっ!殺りづれぇ)

 

 

大入は必ず爆豪の頭上を取る。

爆豪の“個性(爆破)”は掌からしか撃てないのに付け入り、逃げ回る。上にいる大入を爆殺しようとすると爆風の影響で失速し墜落する。しかも、大入は身軽なため爆風を浴びて更に高く飛翔する。差が思うように縮まらない。

何よりもこの位置関係が「(大入)が上。お前(爆豪)が下だ」と語っているようで、酷く爆豪の自尊心を刺激した。

 

 

「どうだい?少しは目に入ったかい?」

「あ゛ぁ゛っん!!」

 

 

唐突に大入は爆豪に肉薄し、組み付く。体を上昇させようと両手を爆破した直後の僅かな隙だった。

 

 

「もっと周りを見ろ。周りを認めれば俺よりも強くなれるのに勿体ない…」

「何を言って…グッ!?」

 

 

大入が指を鳴らすと爆豪との間に〈揺らぎ〉が生まれ、空気が炸裂する。

強風に爆豪は墜落し、大入は再び空へと逃げた。

 

 

「平気か爆豪!?」

「問題ねぇよクソが…」

「お前、誰彼構わず当たり散らすのやめろって!」

 

 

再度自分の騎馬に引き戻された爆豪。

爆豪は困惑する。大入(クソモブ)は何を思ってあんなことを言ったのか?

 

 

 

 

『7分経過したっ!現在のランクを見てみよう!』

 

 

『……あら!!?』

『…………』

 

_____

 

1位 大入チーム 10,001,010P

2位 物間チーム    1,450P

3位 鉄哲チーム     745P

4位 轟チーム      650P

5位 拳藤チーム     510P

6位 小大チーム     230P

7位 鱗チーム      135P

8位 爆豪チーム      0P

 

   ・

   ・

   ・

_____

 

 

『ちょっと待てよコレ…!A組、全体的にパッとしねえ…ってか爆豪っ!?あれ!?』

 

 

 

「単純なんだよ…A組っ」

 

「っ!?やられた!」

 

 

大入の一言。その混乱から復帰する僅かな時間、それが致命的な隙を生んだ。

横合いから物間チームが爆豪チームのハチマキを掻っ攫う。

 

 

「んだてめェ返せ殺すぞ!!」

 

「ミッドナイトが″第一種目″と言った時点で予選段階から極端に数を減らすとは考えにくいと思わない?」

 

「!?」

 

 

物間チームは急速旋回し、爆豪チームに語りかける。場を引っかき回すのは大入だけではない。

 

 

「だから、おおよその目安を仮定し、その順位以下にならないように予選を走ってたのさ。

後方からライバルになる者たちの“個性”や性格を観察させてもらった。

その場限り(・・・・・)の優位に執着したって仕方ないだろう?」

 

「組ぐるみか…!って事は大入(アイツ)も!」

 

「彼は違うよ?でも彼はB組の切り札(ワイルドカード)だからね、単独であの程度(・・・・)の芸当なんて余裕さ。

それにしても、いい釣り餌(・・・)だろ?御蔭で君達のような雑魚(・・)がウヨウヨ寄ってくる」

 

「あ゛!?」

 

「だってそうだろ?君らは1000万点(かれ)にまんまと踊らされているんだから…」

 

 

『ああっと!!これはぁぁ!決まってしまうのかぁぁぁ!!』

 

 

「「!!?」」

 

 

突然遮られた会話。『プレゼントマイク』の熱狂の実況がスタジアムを支配する。

物間・爆豪両チームの目に飛び込んできた物は…

 

 

 

 

墜落する大入福朗の姿だった。

 

 

 

_______________

 

 

事は大入が爆豪を追い返した瞬間まで遡る。

 

 

(はぁ…効果あると良いんだけどな…)

 

 

大入が爆豪に掛けた言葉は老婆心から出た助言だった。原作で爆豪は緑谷の秘密を知り、それを呑み込んだ事をキッカケに大幅な精神的成長を遂げる。あわよくばその取っ掛かりだけでもと思い、口に出した言葉だった。

 

最も「いくら爆豪と会話するチャンスが無い」からと言って「勝負の真っ只中で話す事」では決してない。肝心な所で空気の読めない奴である。

 

さて、一息ついて騎馬に帰るか…と思案したところで事態は大きく動いた。

 

 

「大入くんっ!!?」

 

 

緑谷の悲痛な叫びを聞き、何事か?と意識を向けた瞬間。

 

 

「ハイヤぁぁぁぁっ!!」

「がおぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

大入の頭上(・・)から鱗チームが飛び掛かってきた。

 

 

「っ!?…ぐあっ!!」

 

「がぁぁぁっ!」「ぐっ!堪えろ宍田っ!」

 

 

大入は咄嗟に指を鳴らし、地雷を二つ取り出す。それを目の前でシンバルの様に叩き合わせる。痛烈な爆発に三名が巻き込まれて吹き飛ぶ、自爆覚悟の捨て身の防御だ。

 

 

(なんで!なんで!?なんでぇ!!?)

 

 

爆風に巻き込まれ錐揉みしながら大入は飛ぶ。混乱する頭をどうにか抑え込み、姿勢制御と原因解明に思考を走らせる。

この高度、そもそもやって来れるのは飛行能力のある爆豪か飛行アイテムを持つサポート科唯一の通過者である発目だけだ。しかし、鱗チームはそのどちらでもない。

 

 

何故遥か上空(この場所)に届く?

 

 

目から入った情報がパズルピースの様に当てはまり、答えを得た瞬間に、思わず大入は叫び声を上げた。

 

 

「お前かぁっ!?一佳ぁぁぁぁぁっ!!?」

 

 

視線の先の拳藤チーム…いや拳藤一佳は「してやったり」と笑っていた。

 

 

拳藤チームのやったことは大した事では無い。ただのアシストである。

拳藤は“個性(大拳)”を使い。鱗チームを大入の居る遥か上空へと送り出した。

 

それだけでは足りない。

 

大入の元へ届くにはもう一手必要だ。拳藤チーム前騎馬の柳レイ子が“個性(ポルターガイスト)”を使う。一種の念動力に似ている彼女の力は物体を浮かせる。

 

 

しかし、浮かせる物(ざいりょう)は何か?

 

 

皮肉な事に「大入自身が持ち込んだ」ロボットの部品である。

拳藤チームは自分たちと数々の鉄板を足場(・・)に鱗チームを大入の元まで送り出したのだ。

 

 

騎馬戦中にそんな事が出来るのか?

 

 

忘れないで欲しい。彼等は「B組協同戦線」。それはチーム単位の協力をクラス単位の協力に拡大する、異常とも呼べる戦法だった。

 

こればかりは大入では決して真似できない技だった。

 

 

「ぐおおあぁぁぁぁっ!」

 

 

大入は事態のリカバリーに全力で走るが、それよりも周りの反応は早い。

下から伸びてきた1本のロープが大入の足に絡み付く。それは「ピンク色で生温かかった」。

 

 

「ケロっ!さっきはよくもやってくれたわね!これはお返しよっ!」

「やっちまえ蛙吹ぃっ!オイラの頭の怪我の報復食らわせてやれぇぇぇっ!!」

 

 

ロープの犯人は峰田チームの蛙吹。彼女の舌だった。

彼女は舌を振り下ろし、大入を地面に叩き付けようとする。仮に手元に引き寄せてハチマキの奪取を狙うと、大入から手痛い反撃を受ける可能性がある。彼女はそうなる公算が高いと確信していた。

だったらいっそ大入にはその1000万点と共に退場して貰おうと考えた。その方が安全で確実だ。

 

 

「大入くん!」

「助けろ!黒影(ダークシャドウ)っ!」

「アイヨ」

 

「行かせませんよ ヾ(*`Д´*)ノ!」

 

 

「キャンッ!」

 

 

大入を助けようと騎馬チームが動く。しかし、救援を阻むように峰田チームの最後の一人、東雲が前に出る。東雲の“個性(光の腕)”が黒影(ダークシャドウ)の進路を塞ぐと、弾かれたようには常闇の元へ戻った。

もう大入に救いの手はない。

 

 

『ああっと!!これはぁぁ!決まってしまうのかぁぁぁ!!

空を飛んだイカロスの翼はやがて溶けては地に落ちるのかぁっ!!』

 

 

「大入くーーん!!?」

 

「うぐっ!!がぁぁあああぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

パンっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『……は?』』』

「「「「「………は?」」」」」

 

 

会場全体が呆然とする。

 

 

大入福朗は確かに落ちた。

 

 

しかし、地面にではない。

 

 

落下前に大入は両手を合わせ手を叩いた。

 

 

落下地点に向けて展開した〈揺らぎ〉から物体が出現し、その上に大入は降り立ったのだ。

 

 

あれは何か?あれは───…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目標発見ブッ殺ス』

 

 

2pロボット『ヴェネター』だった。

 

 

『『『はああぁぁぁぁぁぁっ!!?』』』

「「「「「はああぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」」

 

 

狂宴の幕はまだ降りない。

 

 


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