「こぉんのっ!お馬鹿ぁぁぁっ!!」
「ちょ、まっ、いつかっ、ゴメっ、ゴメンってばっ!」
「…おいおいその辺にしといてやれよ拳藤」
「そうだよ、結果的に皆の気持ちを代弁してくれたんだし」
「あわ、せくっ!もの、まっん!たっ、助けっ!へ、ヘルプミーっ!」
「二人ともこれをアンマリ甘やかすんじゃないよっ!!」
煽り文句。売り言葉に買い言葉。余りに不敬な粗暴犯。
戦犯『
やめてぇ!そんな両肩ホールドしてガックンガックン揺らしちゃらめぇっ!
のっ、逃れられないっ!こいつっ、“
やらぁ、混ざっちゃうの!脳味噌がマックスにシェイクになっちゃうのっ!
やらかしたことを軽く…いやかなり後悔している
「時間も無いからここまでにするけど、覚えときなよ!」
そう言いながら一佳はズンズンと人混みに向かっていく。いいスタートポジションを確保するためだ。
既に競技は始まろうとしている。
第1種目は「障害物競走」。スタジアムの外周をぐるりと回り、このスタジアムに戻ってくる。走行距離なんと4km。しかも、コースアウトしなければ何でも有りの残虐ルールだ。
さて、どうしようか?…揺れる頭で考える。
勿論俺も優勝を狙っている。と言うより、あんな啖呵を切った以上、引っ込みがつかない。
原作知識持ちの俺ならば、競技の内容は丸わかりだ。考えないと行けない、自分に有利になる試合運びを…。
_______________
パッ…
パッ…
パッ…
パァーーッ!!
『スターーーーート!!』
スタートゲートのランプが点滅し、赤から青に変わる。
合図と共に選手一同が一斉に走り出す。
「ってスタートゲート狭すぎだろ!!」
選手の誰かの悲鳴が響いた。
そう、このゲート非常に狭い。横幅なんて20人まともに整列出来ないほどだ。そこを選手が200名以上通過しようとしているのだ。
文字通りの「狭き門」、既に勝負は始まっている。ここが第一の
それを理解した者は手早く妨害を施す。
スタートゲートギリギリからトップに躍り出た1-A『
“個性:半冷半燃”
右で凍らせ、左で燃やす。それなんてメド○ーア?
彼から生み出される圧倒的な「冷気」は彼の右足から地面へと伝播し、フィールドを凍結させる。
その氷は先制してリードしようとした選手の足を捕まえる。ある者は氷結して硬直し、ある者はスリップして転倒する。しかも後続の集団が密集し、今にも轢き殺されかねない惨状だ。
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」
しかし、事は轟の思惑通りにはいかない。
彼の能力を知る1-Aクラスメイトを筆頭に、状況判断に優れた1-B、運良く距離の離れていたその他の選手達が氷を躱し、トップを追いかける。
(轟君パネェな…。推薦合格者だけはある)
大入福朗は後続からスタートすることにした。ここでの小競り合いより、この後の障害ゾーンを利用した方が抜きやすいと判断したためだ。しかし、ここで彼に計算外の事が起こる。
「さ、寒いぃ…」
「もうやだ。もうマヂ無理…」
「鱗君!?取蔭さん!!?」
前方を弱々しい足取りで走る大入のクラスメイト。実はこの二名、“個性”が爬虫類系統のため、急激な体温低下に伴い、身体能力を落としていた。
大入は二人の元へ駆け寄る。そして如何にも限界な二人に肩を貸し、氷原からの脱出を試みる。
「…ちょっと大入っち何やってんの」
「あぁ、本当に何やってんだろうな?」
「俺達を置いて行けば良い物を…」
「やめてよ、余計に見棄て辛いわっ!…助けるの氷無くなるまでだかんなっ!その後は自力でなんとかしてっ!」
「ははっ、大入っちツンデレ?」
「やめて、本当やめて。男のツンデレとか需要無いから」
「あははっ、…はいはい」
全長約100メートルに及ぶ轟の妨害を抜け出した三人。その目の前にとある二人の人物が目に入った。
「私の事は気にしないで黄昏ちゃん。このままじゃ皆に置いてかれちゃうわ。ここまでしてくれただけでも充分よ」
「何言ってるんですか!?僕がケロちゃんを置いてける訳ないでしょう (*`・ω・´*)」
「梅雨ちゃんと呼んで…」
((あれ?デジャビュ?))
(あっ、そっか、梅雨ちゃんの“個性”は冷気も苦手なんだった…)
先程のやり取りの天丼をお代わりしているのは、カエル少女『
蛙吹は、鱗や取蔭の様に動物の一片だけを抽出した“個性”とは訳が違う。
『蛙吹梅雨』
“個性:カエル”
カエルっぽいことは大体できる。
その“個性”は動物そのものである。結果的に影響が色濃く反映されているのだった。
寒さに当てられて冬眠しかけた蛙吹を東雲はその小さな体格でここまで連れてきていたのだ。
「けど、もう大丈夫ですケロちゃん !!( ๑>ω•́ )۶
ここまで来ればこっちのものですっ!」
そう言って東雲は“個性”を発動する。入試試験でも目撃した「光る掌」だ。
「太陽おおおおおっ ( ✧Д✧) カッ!!」
勇壮活発、気合一発。その小さな体からは考えられないほどの力を“個性”に込める。すると彼女の「光る掌」はその光量を増し、暖かい光を生み出した。
『東雲黄昏』
“個性:光の
太陽の光を宿した拳を発現し、自在に操る。
優しい陽気は蛙吹の体を温め、次第に元のコンディションへと整えた。
「ありがとう黄昏ちゃん。助かったわ」
「何の何のですー ٩(๑>∀<๑)۶」
「さぁ、先を急ぎましょ」
「…凄い“個性”だな僕ロリ」
「あっ!おにーさんっ!…僕ロリはやめてください ( ー̀ωー́ )」
「正直助かったわ。ありがとう」
「…はて?僕何かしましたか ( ˘•ω•˘ )?」
「お前の“個性”のお陰でウチの凍えてた二名も回復したんだよ。だから、礼」
「な、な、な、なんとっ!!敵に塩をプレゼントしてしまったのですか Σ(ŎдŎ|||)ノノ」
「気付いてなかったんかい!?」
終始和やかなムード。忘れないで欲しいが、只今競技中である。
『さぁいきなり障害物だ!!
まずは手始め、第一関門「ロボ・インフェルノ」』
『プレゼントマイク』の実況が流れる。前方を眺めれば入試試験のロボット達が徒党を組んで、選手の行く手を阻んでいるのが伺える。その直後0pロボット『エグゼキューター』が氷結して、崩れ落ちた。
(轟君はあそこか…意外と離されたな)
「ほぇ~あれはショーちゃんですね。やっぱり速いです ٩( >ω< )و」
「おい僕ロリ、前方が苦戦してるようだが、どうする?」
「勿論、他の人のため道開くのに協力しますよ ( ¯∀¯ )」
「そうかい、じゃあさっきの礼だ。手伝うよ」
そう言うと大入は速度を上げ、眼前の1pロボット『ヴィクトリー』に突貫する。そのまま相手の持つ大盾に跳び蹴りを咬ます。
「ヒール!…アンド!」
パチン!と指を鳴らすと蹴りの接地面に〈揺らぎ〉が発生する。
「トウ!!」
次の瞬間、強烈な突風と共に1pロボットは周囲のロボットを巻き添えにして吹き飛び、大入は反動で宙に跳んだ。狙いは3pロボット『インペリアル』。その上に着地すると、もう一度指を鳴らし右手に〈揺らぎ〉を作る。風の鎧を纏った手刀を全力で振り下ろす。
「剛腕!粉砕撃っ!!」
攻撃は亀の甲羅のような装甲の隙間を穿ち、ロボットの機能を停止させた。
すぐさま大入は鉄塊から飛び降りて目に付いたロボットに突撃する。
「…ストリップっ!」
無造作にロボットに触れるとロボットの体の一部が〈揺らぎ〉を纏って「格納される」。突如半身を失ったロボットはバランスを崩して動かなくなった。
「さて、ガンガン行こうぜ!」
大入は再びロボットの集団に突撃した。
_______________
『オイオイ、第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?』
『落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!』
『ザ・フォーーール!!!』
第二の障害物は綱渡りだった。谷底が見えないほどに深く切り立ったフィールド。そこに無数に張り巡らされたロープが唯一の道だった…。しかし、当然のように例外はある。
「良いペースだ円場。このまま行くよ!」
「おーうっ!」
『物間寧人』と『円場硬成』は協力する。“
しかし、この“個性”には弱点がある。この“個性”は吸い込んだ息を吐き出す必要が有る。強度も保つのにもサイズを確保するのにも空気が大量に要るのだ。ロングコースに障害物、選手の妨害も相俟って息が乱れ始める。
そこで物間の“
「おっ!物間君、円場君お疲れー」
「ん、大入?」
「何やってんだ-?」
二人の前に切り立った山々を“個性”を用いたロングジャンプで先に超えてきていた大入が合流した。
「んー?『妨害工作』?」
「お前は鬼かっ!」
そう言いながら大入は第二関門終了地点のロープを次々と取り外していた。
こうすれば、爆豪・蛙吹の様な長距離を跳ぶ能力や、轟・円場の様な物質を生み出す“個性”でなければ突破出来ない。
選手に直接手は出していないし、この谷を超える“個性”を持たない者の大半を妨害している。実に合理的な妨害工作だ。
地面にアンカーで打ち付けられたロープはちょっとやそっとじゃ抜けない代物だが、大入の“個性”を応用すれば大した苦労は無い。
大入が〈
例えばの話だが、大入が“個性”でカプセルトイを「格納した」としよう。この場合「カプセルと中の玩具をまとめて格納する」が、集中することで「中の玩具を残したまま、外のカプセルのみを格納する」ことも可能だ。
これによって「ロボットの装甲を剥ぎ取ったり」「障害物を一瞬で撤去したり」「地面に埋まった物を掘り出したり」と実に便利な使い方ができる。
『ここで先頭がかわったーーー!!喜べマスメディア!!
おまえら好みの展開だぁぁ!!』
「…残念。タイムアウトか…」
「…?大入?」
実況席から先頭のデッドヒートを聞き、大入は腰を上げ、最終関門『怒りのアフガン』へと向かう。
この後、大入は劇的な場面を残すことなくゴールゲートをくぐる。
順位は40位。予選通過者は44名だった。