転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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39:介入 2

『仮眠室』…ここに居るはずだ。オールマイト先生と根津校長。原作なら授業に出れないオールマイト先生を根津校長先生がOHANASHIをしている筈だ。

こっそり聞き耳を立てる。幸い防音効果は無いらしく、中から僅かに話し声が聞こえる。誰の声かは分からないが、独り言がここまで聞こえる声量になるはず無い、十中八九校長先生の声だろう。

 

腹を括れ大入福朗。これは俺の戦いだ…。

 

意を決してドアをノックする。

 

 

「どうぞ」…と中から返事が聞こえる。

 

 

つばを飲み込む。緊張で手汗がにじむ。

 

 

「失礼します」

 

声は裏返っていないだろうか?頭の中がグルグルと回り、胃が痛くなる。

ドアを開き中へと踏み込む。

 

 

(この人があのオールマイトっ!)

 

 

より、正確に言うならオールマイト真の姿(トゥルーフォーム)。授業で初めて生でオールマイト見た時の衝撃を遥かに超える衝撃だった。

筋骨隆々と言う言葉が相応しいあの姿は見る影もなく、痩せこけた頬、枯れ枝の様な手のひら、ピッチリだったスーツはブカブカで頼りない印象が彼の覇気を削いでいた。

 

しかし、落胆はしていない。その眼光は戦闘形態そのもの、(ヴィラン)が畏れるヒーローの光だった。

彼の瞳は警戒を示していた。当然だ、本来俺は居るはずの無い乱入者(異物)だ。

 

怖じ気着いてはいけない。もう、後戻りは出来ないんだ。

 

一拍長く礼をする。早くも三度目の決意を固める。

 

 

「1年B組、大入福朗です。失礼を承知で校長先生にご相談があって参りました」

 

 

面食らっていた二人は一瞬の間を空けてからハッと気付いたよう俺をソファーへと促す。その際オールマイト先生は席を根津校長の隣に移した。

ソファーに腰掛け、改めて対面する。頭脳最強と脳筋最強の三者面談。なにそれ死ねる。

 

 

「…それで?君は本来授業を受けている時間じゃないのかい?サボタージュしてまで話をしに来たなんて、よっぽど大切な話なんだろうね…」

 

 

校長先生が話を促すように見せかけた高速ジャブを放ってくる。…嫌だもう帰りたい。

試合開始一分でグロッキーだ。

 

 

「大変すみません。話が終わったら授業に戻りますので、どうかお時間を頂けませんか?」

「…わかったよ。改めて聞くけど話とは何だい?」

「話を切り出す前に…『オールマイト』先生は本日どちらにいらっしゃいますか?」

「…っ!」

 

「…彼なら今、所用で校外にいるよ。彼に関係のある事かな?」

 

 

俺の切り出しにオールマイト先生はギョッと目を見開く。当然だ、当事者なんだから。

彼が何か言うよりも早く校長先生が話をでっち上げる。静かに目配せをして、話を合わせる様にと合図を送っている。ダウト。

 

 

「…俺…いや、私は時々『正夢』を見るんです」

「…『正夢』?」

「はい、そんなに頻繁に起こる物では無いのですが…それを見るときは「気持ち悪いくらいに正確に」見えるんです。いっそ『予知夢』と言い換えても差し支えないくらいに…」

「それじゃあ…」

「い、いやっ!でも、“個性”じゃないんです。「一斉“個性”カウンセリング」でも該当しませんでしたし…。

だけど、「そんな根拠のない物でも」無視することができない「悪夢」でした…」

 

 

顔を見られないように少し伏せる。怯えるように、怖れるように、恐がるように、苦しそうに、ハッタリだと覚られないように。

 

 

「…教えてくれるかい?君はどんな「悪夢」を見たんだい?」

 

 

躊躇うように、言ったら後悔するように。間を空けて、少し息を吸う。浅く…浅く殺すように。そして、告げる。

 

 

「…『オールマイト』先生が殺される夢」

 

「「っ!!」」

 

 

「…あの場所には見覚えがありました。以前に授業で訪れたUSJ。間違いありません。

そこには夥しい数の敵、暗闇が空間を支配して暗転。次は地獄のような世界でした…

 

岩山で焼き焦げた姿の二人の女性…

 

湖の中で血の海を浮かべる少年と少女…

 

瓦礫の様に全身がバラバラなって死んだ少年…

 

炎に包まれ藻掻く少年…

 

血溜まりに沈む二人の教師…

 

 

それだけじゃありませんでした。その中には見知った顔もありました…

 

 

足を串刺しにされ、磔にされた飯田君…

 

衣服を引き裂かれ、涙に顔を歪める麗日さん…

 

全身が砂の様に崩れ、跡形もなく消えた緑谷君…

 

 

そして…

 

 

上半身と下半身を泣き別れさせた『オールマイト』先生」

 

「「…」」

 

 

 

「…でも、「全部私の気のせい」なんですよね?…だって今、オールマイト先生は学校居ないんですから…」

 

 

自分の頬を叩いて気合いを入れる。覚られないように安堵をイメージする。

 

 

「変な話をしてしまって申し訳ありませんでした。…でも、話して良かったです。気持ちが楽になりました」

 

 

そう言って席を立つ。細かい突っ込みは多分綻びを見せる。

 

 

「では、私は授業に戻ります。ご迷惑をおかけしました」

 

 

そうして俺は逃げるように『仮眠室』を後にした。

 

 

 

廊下の角を曲がり、大きく息を吐く。

 

 

はたしてこんなので上手く、行くだろうか?

 

 

言うなれば俺が取った行動に命名するなれば『オオカミ少年作戦』。言うまでも無く、イソップ物語の「嘘をつく少年」のことだ。

その昔、少年が悪戯で嘘を吐き、大人達を困らせていた。嘘つき少年は、最後には誰からも信じて貰えずに、その身を滅ぼすのだ。

 

しかし、少年の嘘は僅か数回なら信じて貰える。

 

だから、今回は敢えて「虚実織り交ぜた針小棒大な嘘を吐く」。

「夢なんて不確定の物にどれだけ目を向けてくれるか」は懸念材料しかないのだが、ここは“個性”と言う多種多様な異能が絡む世界だ。ほんの少しでも警戒し、行動してくれたら御の字だろう。

 

せいぜい俺に出来る原作介入はこの程度だ。流石にこれ以上は無理がある。

嘘つき少年はオオカミに食い殺されてしまうからな…。

 

 

さて、種は播いた。後は実を結ぶことを祈ることにする。

 

 

俺は足早に授業に戻ることにした。

 

 

 

_______________

 

 

仮眠室から大入が去って行くのを確認すると、先程の話を反芻する。

要約すると『敵に雄英高校が襲撃され、何人もの死者がでる…夢を見た』と言う。

 

 

バカバカしい。…一笑に付して終うことは容易だ。

 

 

しかしだ。根津はそれを出来なかった。

大入の表情はどこか確信めいた物を持っているように感じた。「夢が現実になる」ことを本当に怖れていたのだ。

加えて先日の「マスコミ事件」。あれ以来、騒動の犯人は未だに沈黙を保っている。いつ襲撃が実行されてもおかしくない。

 

 

「…今の話、どう思うかね?」

 

 

根津はオールマイトに尋ねる。

 

 

「荒唐無稽…と言うしかないかと。しかし、到底無視できるような内容では無い様に思われます。

実のところ、先ほど相澤先生に連絡を取ろうとした際、「通信に出ない」のでは無く「通信が繋がらない」と言うことが気に掛かっていました。

彼の話を聞いてから私の胸騒ぎは一層強くなっております」

 

 

オールマイトも同様に今の話を懸念していた。

USJは立地場所の都合上、バスでの移動が必要な程に本校舎から離れている。もし何かトラブルが起きれば、対応には時間を要する。センサー類にトラブルを抱えでもしたら気付くことさえままならない。

オールマイトが持つヒーローの勘が警鐘を鳴らしていた。

 

 

「…やはり、確認する他無いか。オールマイト先生、無理を承知でUSJに急行して貰えないかな?」

「言われなくとも私の方から言うつもりでした。あそこには私の大切な教え子達がいる…」

「…はぁ、全くこういう時だけは本当にいい顔をするね…。

いいかい?あくまで偵察だ、君は既に活動限界間近だろ?異変があれば直ぐに連絡っ!ボクも大至急動員できる人手を用意するからさ」

「わかりましたっ!では、私は行って参りますっ!」

 

 

足早に去って行くオールマイトを見送り、根津は溜息もらす。きっと彼は危機が迫っていたら躊躇いもなく飛び込んで行くだろう。昔からそういう性分なのだからどうしようも無いだろうと根津は諦める。せめて迅速に応援を要請するとしよう。

 

 

ふと、思い出したように根津は端末を操作する。開いたのは「彼専用の個人情報」。

 

 

_________

 

氏名:大入福朗

所属:第○○期生(現在1年B組)

出身:植蘭中学校(千葉県)

生年月日:20○○年9月26日

血液型:O型

“個性”:ポケット

手で触れた物を取り込み格納、任意で展開。

経歴:

四歳の時に両親は他界、天涯孤独の身となる。身寄りが無く、現在は後見人『大屋敷護子』の下、児童養護施設『陽だまりの森』に入所している。

小学時代、「素行が悪く、喧嘩が絶えない」と報告があったが、彼自身の生い立ちのせいもあり、迫害されていたのが原因とされている。カウンセリングを受けて、現在は矯正は完了している。

中学時代、文武両道・品行方正で教師からの評価も高く、生徒会・ボランティア活動に積極的な姿勢を見せていた。

雄英高校の推薦候補に挙がるも落選。一般入試にて実技試験を1位で通過する実力を見せた。

高校入学時の面談では「独立志向が強く、孤立傾向を持つ」という報告があったものの、クラスメイトの友好関係は極めて良好。

 

備考:

「AVENGER計画」第一被験者

(別途資料参照)

 

_________

 

 

AVENGER計画

 

A born Villain EN bloc. Give a chance of the Education and Rehabilitation.

(意訳:生まれついてのヴィラン全てに教育と社会復帰の機会を与える)

 

 

概要:

“個性”の発現者人口の上昇に伴い、犯罪者数・検挙率は増加の一途を辿る。英雄及び自警団の活躍より、治安は一定水準を保っているが、新たな問題が浮上した。

 

「ヴィラン二世問題」

犯罪者を出した親族が世間や職場からバッシングを受けて迫害、所属企業の風評被害による倒産やリストラが相次いだ。生活苦から軽犯罪に手を染めるケースが後を絶たなくなり、社会問題にまで発展した。

その中でも深刻だったのが次世代を担う若者たちの被害である。「犯罪者の子供」と言う烙印を押され、教育機関ではイジメが蔓延し、人間不信・不登校・自殺など子供の成育に甚大な被害をもたらした。

 

本計画は、然るべきプロセスで教育及びメンタルケアを行い、正しく社会に貢献する児童の育成に努めるものとする。

 

(以下計画の詳細が書かれている……)

 

 

 

 

_________

 

 

根津は「犯罪者(ヴィラン)の子供である大入福朗」のことを考える。

 

勿論、彼の経歴を洗い直した後に、黒い所は見受けられなかった。当然だ、彼は計画により「徹底的に管理されている」。潔白と言っても良いだろう。

 

しかし、そんなところに今回の話だ。

 

本人は夢だと言っていたが、それは真っ赤な嘘で、本当は「確かな筋からの情報」だとしたら?

もしそうだとして、それは「何処からもたらされた」のだろうか?

 

入学試験当時に抱いた疑念が再び膨らむ。やはり、警戒して然るべきだろうか…。

 

 

「大入君…。一体君は何者なんだろうね?」

 

 

 


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