転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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37:時には素敵な日常を…2

──大入君と取蔭さんと──

 

 

一佳・塩崎さんとのハードなトレーニングをこなした翌日。回原君の執拗な質問攻めをのらりくらりと躱しながら一日を乗り切った。

 

そして放課後、今は…

 

 

「あぁぁっ!もうっ!終わらないしーっ!!」

 

 

隣で『取蔭切奈』さんの断末魔を聞いている。

 

 

「落ち着きなよ、取蔭さん。リテラシー室ではお静かに」

「とは言いながら凄いペースでやってんじゃん大入っち!アタシ置いてかれちゃうって!」

「何言ってんの。俺のレポートの半分も無いんだから頑張りなさいよ…」

「ひぃんっ!!」

 

 

俺達は学内に在るリテラシー室を利用してレポート作成をしていた。

『技術工学』のレポート課題で、『ヒーロー基礎学』にも関連する内容だったテーマ(それ)は「自身のヒーローコスチュームの性能の評価」であった。

 

これまで幾つかの実技授業を受けて、自身の“個性”とヒーローコスチュームでどんなことが可能か?問題点は?改善点は?等の内容をまとめていく作業なのだが…。

 

 

 

これは罠だっ!

 

 

 

ヒーローコスチュームの要望書が三倍だった俺はコスチュームケースも三倍。つまりレポート量も三倍ってことなんだよぉぉぉっ!

 

レポート作成で暗礁に乗り上げる取蔭さんを尻目に俺は親の敵の如くキーボードを叩いていく…最も孤児の俺に肉親なんて居なかったりするのだが。

 

 

「ねぇねぇ、大入っち!ヒント!何かヒントちょうだいっ!」

「…はぁ、分かったよ。とりあえずコスチュームの取扱説明書貸して」

「本当っ!ありがとう~っ!」

 

 

取蔭さんが両手を拝むように合わせて「頼むよ~」と懇願してくる。結局俺が折れて手伝うことになった。

取蔭さんから説明書を受け取ると概要をよく読んだ後に詳細を読んでいく。詳細は見出しをざっと確認し、気になった項目だけをピックアップして熟読していく。

 

 

「取蔭さんってさ?」

「ん~?」

「おい、携帯弄るのやめなさいな。レポート手伝ってるんだから真面目にやって。

…取蔭さんのヒーロースタイルってさ、隠密・索敵をメインとした偵察が主だよな?」

「そうだね~。ピンチになっても“個性”使って捨て身で逃げれるし。あっ、でも索敵性能は微妙かな?基本嗅覚便りだからね。…こんなんだったらピット器官とか欲しかったな~」

 

 

ピット器官とは蛇が持っている器官だな。簡単に言うと熱源を感知する役割がある。スネークヒーロー『ウワバミ』の“個性:蛇髪”が正にそれだな。

蛇の生態を聞かれたら必ず上がる項目じゃ無かろうか?

 

 

「無い物ねだりしてもしょうが無いでしょ。まず、偵察技能の補助だな…」

「えっ!?出来るの?」

「取蔭さんのヤコプソン器官ってさ、何か感知しやすい『匂い』ってある?」

「ん~…強いて言うなら『男』?」

「なにをいっているのか、わけがわからないよ…。

まぁ、いいや。『匂い』で判断できるならそれを相手に着けるアイテムがあると便利だな。例えば、コンビニなんかに支給されてる「防犯用カラーボール」。あれに固有の匂いを着ければ自分だけじゃ無く、他の人も視覚的に追跡が可能になる。最近じゃハンドガンタイプも普及してきたから取り回しもいいだろうしね」

「お~」

「後は直接戦闘の補助。これも手っ取り早いのはアイテムを使うことだな。オススメはスタンガン。ハンドタイプの小さい物より電気銃(テーザーガン)警棒型(スタンロッド)の方が戦闘に向くかな?屋内戦ならこれに閃光弾(フラッシュグレネード)煙幕弾(スモークグレネード)合わせたら中々良いかもな…」

「ふむふむ…なるほどね~」

「後は“個性”のアシストか…。取蔭さんって爬虫類系の体質があるんだよな?もしかして寒いの苦手だったりする?」

「嘘っ!?分かるの!」

「わからいでか。

とにかく、それなら体を冷やさないために露出を減らすべきだ。

手っ取り早いのはインナーをチューブトップからノースリーブに変更。

ジャケットにヒーター機構増設して…いや、寒冷地仕様に全身を覆えるロングコートタイプと二種類欲しいな、袖口はゆったり余裕を持たせれば“個性”を阻害することも無いだろうし。

足元をハイソクックス…は駄目だ、“個性”の切り離しが出来んな。スニーカーとレッグカバーのツーピース構成にして。ホットパンツにはインナーで太股まで隠せるスパッツを履き込めるな。

仕上げにさっき言ったアイテム類を装着するポーチを増設すれば…っと、こんなもんかな?」

「ほえ~結構いろいろあんだね~」

「道具は文明の力さ。大いに利用するに限る」

「じゃっ!大入っちのおかげでレポート出来たわ。お先ねっ!」

 

「あっ!!(きった)ねっ!」

 

 

結局独り寂しくレポート頑張りました。

 

 

________________

 

──大入君と発目さんと──

 

 

 

「失礼しまーす。パワーローダー先生居ますかー?」

 

 

何とかレポートが書き終わり、俺はサポート科の関連施設である『工房』に来ていた。ここではヒーローのコスチュームや装備、その他の道具等の研究や開発が行われている。

サポート科は世間で躍進するヒーローは勿論、俺達ヒーローの卵でさえ多かれ少なかれ、これのお世話になる。特に俺のように「数多くの道具を使う」スタイルだと頭が上がらない存在だ。

 

本当は職員室にレポートを提出に行ったんだが、先生が居なかった。近くの教員に尋ねた所「この時間なら工房だろう」と教えて貰い、こっちに脚を伸ばしたと言うわけだ。

 

それに一度来てみたかったんだよな~工房。何せここには…

 

 

「おや?どちら様ですか?」

 

 

メ イ ち ゃ ん い た ー ー っ ! !

 

セミロングに切り揃えた華やかなピンク髪、最低限度の身嗜みは整えればオシャレには興味がないといった感じの刎ね毛。

服装は汚れやケガを防ぐために繋ぎ服を着ているが…どうやら邪魔らしく、上は脱いで袖を腰の辺りで結び留めている。下に着ていた厚手のタンクトップはピッタリのサイズらしく、体のラインをハッキリと映し出している…デカイ。

 

 

「1-Bの大入って言います。技術工学のレポートを提出に来たんですが、パワーローダー先生は居ませんか?」

「ご丁寧にどうも、私は発目です。

先生は私用で外回りですよ。しばらくは戻って来ないのではないでしょうか?」

 

 

…困った、先生は外出中か。レポートどうしよう。明日改めようか、でも今日中の提出って言われてるし…。

 

 

「あの、B組と言うことはヒーロー科ですよね?レポートと言うのは、もしやコスチュームに関連することでは?」

「ええと…装備の利点と改善点に関する考察を」

「やっぱり!あのあのっ!良かったらレポート私にも見せて頂けませんか!?私興味がありますっ!!」

 

 

案の定凄い食い付きを見せる発目さん。グイグイ来ます、近いです、鼻息荒いです、後女の子特有の汗の匂いとかします。

ばれたら気持ち悪がられるので、それとなく視線を逸らしつつ応えることにする。

 

 

「…そうですね。俺のレポート見て貰えますか?後感想貰えると嬉しいです」

 

 

確かに、装備について情報を調べたり考察をしっかり重ねて作成したレポートではあるが、量が多いため粗が目立つ。ならば他の人から疑問点を貰えるとすれば、レポートの質の向上に繋がると思う。

しかも、発目さんの様にサポート科の視点ならではこその独自の視点やユーモラスな発想が見つかるかも知れない。案外、利点では無かろうか?

後これをきっかけに是非ともお近づきになっておきたい(アイテム開発的な意味で)。

 

そうなれば…と俺は発目さんにレポートを手渡した。

 

 

「…こっ、このレポート量っ!?もしや貴方が子沢山(・・・)の方っ!!」

「コダクサンっ!!?」

「以前パワーローダー先生に聞きましたっ!『他の人より何倍ものサポートアイテム(ベイビー)を使う生徒が居る』と!ズバリっ貴方の事ですね?」

「べ、ベイビー?」

「あのあのっ!宜しかったらベイビー…貴方のサポートアイテムを見せて下さいっ!お願いしますっ!!」

「ちょっ!近いっ!近いって、発目さん!!?」

 

 

 

 

 

すったもんだあって結局、発目さんに俺のコスチューム及びアイテムをみせることになった。正直、レポートぐらいならと思っていたのに、実物見せて大丈夫だろうか?勝手に改造されて違法改造とかにならないよな?

戦慄する俺を余所に発目さんは次々とサポートアイテムを物色していく。あぁ、ちょっと乱暴に扱わないで…。ガチャガチャいってるから。

 

 

「あぁぁっ!…いいです!凄くいいですっ!アイディアがビンビン来てますっ!!」

 

 

頬を紅く染めて興奮する発目さん。そこはかとなくエロい。

例えるなら新しい玩具を貰ったばかりの子供のように童心を輝かせている。

 

…かと思いきや、立ち上がり此方を振り向く。その顔たるや、満足げで何処かツヤツヤしている。

 

 

「いや~実に良い物を見せて頂きました!!お礼に私のベイビーを紹介しましょうっ!着いてきて下さいっ!」

 

 

そう言い出すと俺の手を取りズンズンと歩き出す。向かう先には「テストルーム」。

 

 

「さぁ!たんと見て下さい!私のドッ可愛いベイビー達をっ!…と言ってもまだ少しなのですがね」

 

 

テストルームの片隅には山積みなったサポートアイテムがあった。確かに積み上げた二桁にも届かない数種類のアイテムは確かに少ないのかも知れないが…入学式から2週間も経過していない僅かな期間でそれをこなしたと言う事実が、この『発目明』と言う新米メカニックの異常性の証左と言えるのでは無いだろうか。

 

…ただし

 

 

「あ、あの…発目さん?これ、凄い焦げてるんだけど…」

「あぁ、そっちのは実験中に爆発しましたからね」

「んなっ!?」

 

 

さらりと恐ろしい事実を告げる発目さん。

俺が驚愕する間にもその山の中から何点かのアイテムを引っ張り出してきた。

 

 

「はいっ!まずはこれから行ってみましょう!」

「うおっ!重っ!」

 

 

そういって発目さんがサポートアイテムを放り投げてくる。重厚感のあるそれはギターケース程の大きさで先端が突起状になった武器だった。…というかそんな物、人に向けて投げるんじゃありませんっ!危ないでしょ!

 

 

「…これは?」

「私のベイビー、独自のアレンジを加えた「パイルバンカー」です!」

「っ!!」

 

 

ぱ、パイルバンカーっ!

 

ドリル、ビット兵器、ビーム砲等の数々ロボット兵器中でも指折りのロマン武器ではないかっ!

炸薬を利用して杭を打ち出すその様は、正に破壊と浪漫!

実は俺もコスチュームの要望に入れてはみた物の、「テーマ性と合致しない」と却下されてしまっていた…。

 

しかし それが 今 目の前にあるっ!

 

 

「ほうほう、貴方には分かりますか。このベイビーの可愛さが…。良かったら試し撃ちしてもいいんですよ?」

「本当にっ!」

「ええっ!勿論ですとも!さぁ、こちらのダミーオブジェに向かってドーンと行っちゃって下さいっ!」

 

 

やばい…なんだこの高揚感。

 

俺はダミーオブジェと呼ばれたテスト用ターゲットに向けて砲身を構えて引き金を引いた。

 

 

次の瞬間、衝撃。

全身を深く突き抜けるような振動と轟音の雄叫びを上げ、鋭利な杭が撃ち出される。

 

空を貫いて吐き出された杭は標的に一直線に伸び、標的を穿つ。

 

その瞬間、全身を強い衝撃が叩き、気が付いたら俺は仰向けに倒れていた。少し間を置いてから「武器の反動でぶっ飛ばされた」事に気が付いた。

 

 

「痛…っ…」

 

「う~ん、流石ダミーオブジェ…雄英バリアーと同じ材質なだけはあります。この程度では傷一つ着きませんか…。今回のは渾身の出来だったのに残念です…。

さて次行ってみましょうか!」

 

 

なし崩し的に俺はテストプレーヤーに任命されたのでした。

 

 

 


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