中々話が進まなくて済みません。
ちょくちょく更新するのでお願い致します。
「倒壊ゾーン」
広大な土地に都心部の高層ビル群を全て薙ぎ倒した後のような光景は、大小様々な瓦礫が積み上がり、凄惨な山脈を成している。
まるで幼い子供が玩具箱をひっくり返したかのように乱雑なここは、地震や爆発テロなどの要因で生み出された災害を再現した空間と言える。
「鎌切!こっちの石を切り崩してくれ!」
「承知したっ」
「向こうの瓦礫、寄せ終わったど」
「塩崎さん!そこ崩れそうだから“ツル”で縫い合わせてくれっ!」
「はいっ!かしこまりました」
「Hey!大入サン次はこっちデース!」
「ちょ!待っ!早いっ早いよ角取さん!」
「残り時間5分ですよー!」
「くぅ~っ!時間が足らんっ!」
「泣き言言うな福朗っ!とっととそっちの大きいのも寄せてくれっ!」
「わかってるよちくしょー!」
水難ゾーンのミッションを終え、暴風大雨ゾーンを楽々クリアした13号先生と愉快な仲間たちは、続く倒壊ゾーンでのミッションに挑んでいた。
ここでのミッションは「避難経路確保」。行く手を阻む瓦礫を撤去し、被災者を安全なエリアに導くルートを作る課題だ。
角取・大入で先行し、彼方此方と走り回りながら巨大な瓦礫を撤去。角からの砲撃のみならず、鹿などの有蹄類のルーツを持つ“個性”を持つ角取は、動物由来の身体能力が反映されている。時には急斜面を、時には崩れやすい不安定な足場をピョンピョンと飛び越え、障害となる大きめのブロックを選択していく。
その軽快な速度にヒイヒイ言いながらも、しっかり追従する大入。角取が選んだ瓦礫に手を触れ、“ポケット”の中に次々と収納していく。しかし、それでも瓦礫全てを排除は出来ない。大入の“ポケット”では一度に取り込む物体の総量に限界があるし、そもそも乱用するとあっという間に使用限界に到達するためだ。
それをフォローするのが他のメンバーの役割になる。鎌切は邪魔になっている瓦礫を自慢の“刃鋭”で切り落とし、それを拳藤・宍田・鱗が総出で片付けていく。
仕上げには塩崎。大入や鎌切が無理矢理排除した瓦礫のせいでバランスが崩れ、不安定になった部分を“
これらにより、大きな迂回の必要も無く最短距離で目標ポイントへのルートを構築していった。
五分後、先生が手に持ったタイマーのアラームがタイムアップを告げる。どうにか邪魔な瓦礫を退かし、当初計画した目標分の通路が出来上がった。一度生徒たちを呼び戻し、ミッションの出来具合の講評に移る。
「はい、皆さんお疲れ様でした。
…まず、皆さんが作った道の完成度は非常に高いですね。道幅も緊急車両が通るのに十分な大きさに安定した地面、文句なしです。
しかし、大きな瓦礫を切ったり寄せたりする際が少々お粗末でした。アンバランスに積み上がった瓦礫は撤去時に崩れる恐れがあるので注意しましょう。実際に宍田君が巻き込まれそうになってましたしね」
「「うぐっ…」」
「心配ありません。今回出来なかったことはしっかり反省して次回に活かして下さい。それではここでのミッションはクリアです。…さて、これで半分が終了ですね。
それでは皆さん次のエリアに向かいましょう!」
先生の掛け声に生徒達も返事をする…が、それも疎らで元気が無い。仕方ないことだろう。ここまで災害ウォークラリーのミッションに全力を注いできたものの…まだ、半分なのだ。残りの体力も少なくなり、全てのミッションをクリアできるかは…正直微妙なところだ。
「大丈夫ですか?大入さん」
「気遣いありがとう塩崎さん。ちょっと“個性”の使いすぎだな…少しインターバル置かないと辛いかも」
自らの“個性”に栄養を補給するべく、お手製ドリンクを口にしながら塩崎は大入に調子を尋ねる。大入の方も体調を鑑みてそのように返答する。
「なんだ?もうギブアップか福朗?」
「情けねぇべなぁこんぐらいで」
するとそこに肉体派な拳藤と宍田が茶々を入れてくる。
「まさかっ!インターバルが必要なのは“個性”だけで、体力的には余裕だって。むしろ俺としては“ツル”のコントロールに体力も必要な塩崎さんのほうが心配なんだけど?」
「いえっ!私はまだまだ大丈夫です」
「無理はするなよ…そのドリンク剤だって既に一本飲み干してるじゃないか。体は大事にしないと…」
「お気遣い無用ですよ大入さん」
そう言って微笑む塩崎。しかし、その顔色は疲労を見せている。水難ゾーン・暴風・大雨ゾーンに倒壊ゾーンと連続したミッションの中、変幻自在に様々な役割を果たしている塩崎は自然とその負担が大きくなっていた。
優秀であり、一人の力で何でも出来てしまう汎用性の高い“個性”を持つ反面、何でも頑張りすぎてしまう塩崎には少々危なっかしさを感じる。
大入と拳藤は注意を払うよう心に決めた。
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「う゛~う。納得がいきません」
「落ち着きなよ塩崎」
「ですが…」
「どっちにしろ塩崎の“個性”は使用限界なんだ。大人しくしてるしか無いだろ」
私達は現在「火災ゾーン」のミッションに挑んでいた。ここは「倒壊ゾーン」の様なビル群が今度は火炙りになっている。フィールド内は黒煙が上り、熱風が立ち込める。呼吸一つする度に身体の中に火災独特の苦味と熱を帯びた空気が入り込み、不快感を与えてくる。
ここでのミッションは「火災救助活動」。丸々商業ビル一つを貸し切って消火・救助を並行して行うことになった。
鱗・鎌切そして福朗は装備を整えてビルに突入して救助活動。宍田と角取はどこからか放水砲を引っ張って来て消火活動。
私と塩崎は福朗が置いてった〈携行型救助マット〉を組み立てていた。福朗の戦闘服ケースのどこにこんな物があったのか甚だ疑問ではあるけど…深く考えるのは止めよう。疲れる。
塩崎の“個性”なら救助マットの代用品にすることも出来た。けど、今の彼女は使用限界間近まで“個性”を使い切ってしまっている。ここに来るまでに救助活動のあらゆる場面で八面六臂の活躍を見せていたのだ。
しかし、今回のミッション。場所が場所なだけに“個性”が上手く機能せず、この案を福朗が却下した。まあ、仕方ない。
「にしても凄いですね…大入さん」
「あぁ、そうだね」
そう言ってビルを眺めると、突如窓から水が噴き出してくる。
…福朗だ。
ちゃっかり、この火災ゾーンを想定して水難ゾーンから大量の水を拝借していたらしい。その状態をキープしながら先程までのミッションをこなして居たとか…。正直ここまでのキャパシティがあったのかと私もびっくりしている。
「私は悔しいです…」
「…塩崎?」
「今回の訓練で皆さん全力を尽くして挑んでいるのに、私は途中で力を使い果たしてしまいました」
「気持ちは分からなくも無いけど…今回は長丁場だったし、ペース配分についてはしっかり反省して次に繋げてけば良いんじゃ無い?」
「…そうでしょうか?」
「ん?」
「目の前に困っている方が居るのに「ペース配分」と言って力を温存するのは手抜きなのではないでしょうか?目の前に助けを求める人が居るのに「ガス欠を起こした」からと言って手をこまねいているのは甘えではでしょうか?
大入さんは終始様々な場面で率先して動いています。水難ゾーンでは一番大変な水中を、台風・大雨ゾーンでは一番危険な高所を、倒壊ゾーンでは足場の悪い場所を駆け回り、土砂災害ゾーンでは何度も土砂を運び出し、山岳ゾーンでは危険だからと積極的に下に降りて、そしてここでも危険なビルの中に突入しています。
彼は“個性”を使用するしないに関わらず大変な作業をしています。それに比べて私は…」
そう言ったきり塩崎は黙り込んでしまった。ビルを眺めると福朗が救助マットを要求していた。私は彼女を促してミッションに戻った。