「さて、着きましたよ皆さんっ!ここが『水難事故ゾーン』です!」
13号先生に連れられた大入・拳藤・塩崎・角取・宍田・鎌切・鱗の7名はUSJ内の一角「水難事故ゾーン」に来ていた。
広大な湖、その中央にポツンと漂う船が一艘。そこに真新しい水を並々と注ぐかのように、激流地帯・洪水被害を再現したウォータースライダーが何基も設置されている。
下手な市民プールやレジャーランドなどは軽く凌駕しているのではないかというほどのスケールで皆を出迎えた。
「すげぇ…遠目に見るよりも迫力が全然違うな」
「んだな。一体いくら金掛けたんだべな…」
「少なくとも学校全体で都市一つ開発するくらいの資金力だからな。一体何千億有れば足りるのやら」
「軽く目眩いがしそうだべ」
「俺思ったんだけど、入試のロボットと言いここと言い、一体全体どこから金が湧くんだ?」
「んー…きっとアレだべさ。学生の授業料やOB・OGの寄付で賄えるハズがねぇがら。国が率先して資金援助してるか、投資家や富豪のパトロンがいるんだべ」
「…いや、もしかしたら物質変化系や創造系の“個性”持ちがレアメタルやレアアースを造って、それで稼いだ金が…」
「感想が夢無さ過ぎるよ!」
戦闘訓練の際、男同士の友情(物理)により、気安い間柄になった鱗・宍田の二人組が交わす夢の国にあるまじき酷く現実的な話に思わず、大入のツッコミが入る。
そんな馬鹿騒ぎを呆れた顔で眺める拳藤、困ったようにはにかむ塩崎、微笑ましい笑顔を浮かべる角取、野郎共が話す馬鹿話を真面目に考察しだす鎌切。
そんなまとまりの無い集団に対し、13号先生は手を鳴らし注目を集めた。
「はいはいっ、皆さん注目!皆さんにはまず、この水難事故ゾーンでのミッションを説明します」
今回の救助活動訓練「災害ウォークラリー」は専門的な訓練よりも施設全体を紹介を兼ねた比較的初歩的な物で有った。
暴風・大雨ゾーン・水難ゾーン・火災ゾーン・山岳ゾーン・土砂ゾーン・倒壊ゾーン
この六ヶ所それぞれに設けられたミッションをこなす。
各チェックポイントを順番に網羅する。
だからこそ災害ウォークラリーなのだ。
但し、行く場所は偽物とは言え「被災地域」。教師の同伴は必須のようだ。
「突然ですが皆さんあれを見て下さい」
生徒達が先生の指さす方を見ると水中に何か漂っているものを見つけた。遠目でその全容を捉えることは出来ないが人一人と同じくらいのサイズの大きさのように見てとれる。
それに向け13号先生は指先に付いているフタのパーツをパカリと開く。先生の“個性:ブラックホール”が発動し、指先が轟々と音を立て空気を吸い込み始める。
その勢い…掃除機も真っ青な圧倒的吸引力で、水難ゾーンの大量の水を吸い上げていく。すると水を吸われた部分に新たな水が流れ込み、水面に先程までとは異なる水流が生まれる。その流れが水面に漂っていた何かをこちらの方へと引き寄せる。
流れ着いたそれを引き上げると人の形を模した人形だった。
「マネキン?」
「救助演習人形です。水難ゾーンでは、この人形を二十人救助して貰います。勿論、要救助者を想定してますので、優しく扱って下さいな」
13号先生の「それでは。よーい、どん!」の掛け声で生徒達は行動を開始する。
真っ先に動いたのが大入。彼は自分の“ポケット”から何点かアイテムを次々と取り出していく。
「…ほい!〈ゴムボート〉と〈オール〉。後は、〈ロープ〉かな?ごめん、浮き輪は用意してないや」
「いや充分だろ福朗…むしろ何で持ってる」
「“個性”の有効利用です(キリッ!
…と言いたいところだけど、このゴムボートは四人用なんだわ。悪いけど救助者を乗せること考えると二人が定員かな…」
「でしたらこういうのはいかがですか?」
すると塩崎は“ツル”を大量に伸ばしだす。それを塩崎は細かく編み込んで切り離す。すると即席のイカダが出来あがっていた。それは大入が用意したボートの倍のサイズだった。
「こうすれば皆さんも水上で探索が…どうしましたか大入さん?」
「…あぁ、うん、なんでもないよ」
「ナンダカ大入サン落ち込んでマース」
「気にすんなよ塩崎・角取。福朗が持ち込んだゴムボートが不用になった事にへこんでるだけだから」
「ハッキリ言うなよ~もう~!いいもん、いいもん、先に行くからな!」
「きゃっ!」
「ちょっと!何してんだ福朗っ!」
突如大入は自らの仮面を外し、籠手を外し、上着のジャケットとワイシャツを脱ぎ出す。急に始まった男のストリップショーに慌てた女子一同が赤面して視線を大入から逸らす。
「やばいべ…女の前で脱ぎ出す変態がいるべ」
「大入、溜まっているのか?」
「…大入。節度は保つべきだぞ」
「せ、先生としてもどうかと…思います」
「違うからねっ!?そう言うあれじゃ無いから!!」
大入の変態行動に男性陣の非難殺到で有る。至極当然の結果だ。しかし、大入も好き好んで脱いでいるわけでは決して無い。
「水上からの探索」の目処が立ったので有れば、次は「水中の探索」だ。要救助者が水に溺れているのであれば、水の中にも沈んでいる危険性も考慮する必要があるのは当然だろう。
と来れば、水の中に潜る要員もそろえなければならない。大入はその準備をしているだけに過ぎない。
そんな彼は周りの集中砲火にへこたれそうになる。刺さる視線に耐えながら、上はインナー姿、下はズボンに裸足になった彼は脱いだ服を“個性”にしまい、追加でアイテムを取り出しいく。
取り出されたのは〈水掻き〉と〈金魚鉢のようなヘルメット〉だった。彼は素早くそれらを装備していく。
「それじゃ、俺は水底調べてくるからっ。皆は水上から捜索お願いな!」
そう言い残すと、最後に〈金魚鉢のようなヘルメット〉を被り、水の中にザブザブと進んでいく。ブクブクと泡を出して水底へと潜っていった。
「大入サン、行ってしまいマシタ…」
「あんな装備で水中調査出来るのでしょうか?」
「ヘンテコな被り物と水掻きだげだっだな。スキューバダイビングにしちゃ装備が足りねぐねぇが?」
「…いや、問題ないな。あれはヘルメットの中に“
「やはり凄い“個性”だな。「予め用意しておく」という制約があるものの、何でも必要な物を持ち込めるから取れる選択肢も多い」
「いや、アイディア自体もぶっ飛んでんだろ。“物を持ち運ぶだけの個性”でここまでするか?普通?」
生徒達が大入の装備について考察していると話題の本人が水面に顔を出す。その両脇には今しがた救助してきたであろう二人の人形がかかえられている。
引き上げを要求しているらしく、皆の方を向いて手を振っている。
「ほら福朗が呼んでる。塩崎・角取、行こうか」
そう言うと拳藤は塩崎の造ったイカダを水面に浮かべる。三人が乗り込むと、拳藤は“個性”で手の平を巨大化しそれを用いて水を搔く。イカダはスイスイと水面を進み大入の近くに到達。塩崎と拳藤の手によって人形が引き上げられる。
「ほら、皆さんも動いて下さい。授業は始まってますよ」
「そうだな俺達も作業に入らないと…」
「でもどうすんだ?塩崎は先に行っちまってイカダ作れないぞ」
「問題ねぇべさ。大入のゴムボートば使えばいい」
「あっ、それもそうか…」
女子+大入メンバーの作業を眺める男子生徒を先生が促す。すっかり乗り遅れた男子3名は慌てて作業に加わる。
大入のゴムボートを使い、メンバーの後を追った。