「さぁ着いたぞ、お前達」
「「「「「おぉーーーっ!!すっげーーーっ!!」」」」」
ゲートを抜けたら…災害の国でした…。
バスに揺られること数十分。俺たちは救助活動訓練のため、ある演習場に来ていた。
東京ドーム何個分なんだと言わんばかりの広大な敷地にアトラクションを彷彿させるかのような様々な設備。
某テーマパークが連想されるアノ場所である。
正面を見つめれば、休日にはカップルや家族連れが憩いの場に出来そうなほど、きれいに整備されたセントラルパーク。
右手を眺めれば
左手を眺めれば
ありとあらゆる救助活動の現場を想定した施設が目白押しである。
「凄いな…これUSJみたいだ。でも、私は東京ディ…」「それ以上はいけない」
俺は一佳のコメントを喰い気味に潰す。あのままでは黒いエージェントさんに連れ去られて、永遠に夢の世界の住人にされてしまう。阻止。
「ふふふっ。どうです?驚きましたか?」
「ケケケッ、随分浮かれているじゃないか…」
俺達が正面入り口に整列していると、先日技術工学でお世話になったパワーローダー先生がやって来た。今日は授業の時に装備していたヘルメットとグローブだけでなく、戦闘用パワードスーツと各種アタッチメントを搭載したミニコンテナを引っ張って来ている。
さらに、もう一人。全身を宇宙服を模した戦闘服に包まれたヒーローがそこに居た。
「ここは水難事故・土砂災害・火事に震災、遭難事故等々、ありとあらゆる事故や災害を想定し、それに対応するノウハウを習得するべく作られた演習場です!
その名も
(((((USJだったー-っ!!!)))))
一同が驚愕する中、話は進む。
「…さて、皆さん初めまして。スペースヒーロー『13号』と言います。僕の“個性”は“ブラックホール”…どんな物でも吸い込んでチリと化します。得意分野は災害救助で、僕の“個性”で障害を排除するのが役割です。
今回は皆さんと災害救助訓練を行って行きたいと思いますが…。その前に少々お小言を…」
そう言うと13号先生は一度呼吸を整え、こう告げた。
「超人社会は“個性”の使用を資格制にして、厳しく規制することで成り立っています。
しかし、“個性”は簡単に人を傷つけてしまう力です。皆さんの中にもそういう“個性”がいるでしょう。
ほんの少しの不注意が、相手の命を奪うことだって有ります、大切な物を失うことだって有ります。
超人社会はそんな不安定な薄氷の上にあることを忘れないで下さい。
皆さんは先の個性把握テストで自身の可能性を知り、対人戦闘でその力の危険性を感じたかと思います。
この授業では、大切なものを守るため生かすため、自身の“個性”をどう活用するか学んでいきましょう。君達の力は救うためにあるのだと心得て下さい…以上、ご静聴ありがとうございました!」
「マァ、難しいことは考えるな。「力ってのは考えて使え」って言う話さァ」
「ちょっと!パワーローダー先生、そんな大雑把な…」
「いいんだよォ、大切なトコが伝わればそれで」
パワーローダー先生と13号先生の気軽なやり取りのお陰か、緊張していた生徒の表情が少しだけ柔らかくなった。こういう周りを安心させる気遣いも、ヒーローに必要な技術なんだろうな…。素直に尊敬してしまう。
「さぁ、時間も限られているんだ。早く始めよう」
「そうですね…。では今回の訓練の説明をさせて貰います。
名づけて!『災害ウォークラリー』!!!」
13号先生は高らかな宣言と共に、どこからか取り出した垂れ幕を掲げる。
何やら普通では聞き慣れない単語の組み合わせに首を傾げる一同。
そんな生徒のために先生はガイダンスを進める。
「皆さんにはこれから7人1組のグループを作って貰います。この3組にそれぞれに教員1名が同伴し、救助活動訓練を行います。USJ内の全訓練施設を順番に廻って貰い、様々な場面で各々がどういう形で救助活動に協力出来るか考えていきましょう」
…なるほど。グループを分けることで教員一人当たりの負担を軽減した上に、複数の訓練施設を並行して効率よく利用しよう…って考えなのかな?つまり、特定の状況下よりも全般的な救助活動…広く浅くと言ったチュートリアル的な意味合いが強いか?
などと適当な考察をしている傍らで、先生はグループを作るように促す。あぁ、そうだ約束を果たさないと…。
「福朗っ!グループ組もう!」
「ああ良いよ。ただ…」
「大入さん、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
一佳とグループを組んだ所に塩崎さんがやって来た。
「どうぞ、約束したしな」
「なぁ、福朗?約束って何のこと?」
「グループ組むように頼まれたんだよ、塩崎さんに」
_______________
話は廊下での一幕にまで遡る。
「…実は、大入さんにお願いがあります。
貴方の強さの秘訣を教えて下さいっ!」
そう言うと塩崎さんは俺に向け頭を下げてきた。
斜め45度の美しい姿勢のお辞儀のまま、相手…俺の答えを待つ塩崎さん。
「…えっと、いくつか聞いてもいいかな?」
「はい、何でしょうか?」
彼女は姿勢を戻し、キョトンと小首を傾げる。
…あれだ、回原君と話した事だが…改めて見るとあの意見に納得だ。所作の一つ一つが何処か儀式的な動きで美しい。塩崎さんの
閑話休題
とにかく、塩崎さんを待たせて怪訝な顔になる前に話をしないと。
「…まず、「何で俺に聞くのか?」だな。
ここは雄英。勿論オールマイト先生を筆頭に数多くのヒーローが教師として所属しているじゃないか。それをわざわざ、実力も大して差の無い俺に相談するのも変な話じゃないのか?
仮に指南を受けるとしたら、広範囲攻撃や包囲戦術が得意な『セメントス先生』とか『エクトプラズム先生』に話した方が塩崎さんのメリットになるんじゃないかな?」
「そうですね…大入さんの言うとおりです。しかし、私が聞いたのはそういう理由ではありません」
「というと?」
「一言でいうなら「興味がある」からですね」
「え?なにそれ、興味があるとか言われると少しだけドキドキするんだけど…すみません真面目に聞きます」
いつもの癖で冗談を挟むと塩崎さんがジト目で睨んできた。うぅ…そんな目で見ないで。
「…分かって頂けたなら良いのです。
貴方は「個性把握テスト」で半分の種目を個性無しで測定した上で、あの成績。加えて、「対人戦闘訓練」は予想外な戦法と咄嗟の行動力。極めつけは、「屋外逃走劇」で直接戦って感じた強さ。
同年代で有りながら、ここまで研鑚を積み重ねていたら気になってもしかないではありませんか」
あれか。この間のヒーロー基礎学。
物間君に説教された日の授業だ。あの「鬼ごっこ」でヴィランチームが初手から仕掛けてきたのが塩崎さんだった。
敵役は全員逃走するはずだった中、塩崎さんだけは殿としてヒーローチームの前に立ちはだかり、一人で包囲網を形成。全力で追跡妨害をしてきたのだ。
それを鎌切君と凡戸君の機転でヒーローチームは包囲網を突破出来たが、すぐに塩崎さんが追撃。敵役からヒーローチームが逃走することになった。
今度は俺が塩崎さんの前に躍り出て敵を足止めをする殿となり、彼女とタイマン張ることになった。
結果は辛くも俺の勝利。幾度となく包囲網を誘うことで塩崎さんの“ツル”を限界量まで消費させ、疲弊した彼女を拘束する事に成功した。最も、時間をかけすぎてしまい、爆走する回原君以外は捕獲が済んだ状態だったんだが…。
ともかくそれらを経て、俺の力量に興味を持ったとのことだ。
「そっか、じゃあ次なんだが…「ここのところ俺を見ていた」のは、それが理由でいいの?」
「…はい、そうです」
視線を少しだけ逸らし、申し訳なさそうにする彼女。
…うん、まぁ、わかりますよ?自分より強い奴がいたら、その人の強さの秘訣を知りたいとか。観察したら何か掴めるんじゃ無いかとかさ。
でも、常日頃かあの視線に曝されるのは少し辛い。何とか止めて貰えないだろうか…。
「分かったと言いたいところだけど…。一般よりハードなトレーニングを続けてきたとしか言いようが無いんだよな…」
「でしたら、トレーニングの仕方を伝授して頂けませんか?」
「あー……それなら師匠に聞けばいいかな?許可を取り付けてみるよ」
「師匠?」
「…そう、師匠。俺の育て親で、戦いの基礎はその人に鍛えて貰ったんだわ。許可が降りたら今度稽古付けてくれるかも」
「よろしいのですか!ありがとうございますっ!」
塩崎さんも一先ず納得してくれた。よかった。しかし、彼女の探求心は尽きなかったらしく…。
「それとなのですが…今度のヒーロー基礎学でチームを組んで頂けませんか?」
「それは良いけど…なんで?」
「この間は敵対しましたから、今度は仲間として臨みたいのです。それではよろしくお願いします」
そう言うと塩崎さんは再びお辞儀をした。
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「…と言う訳なんだっ」
「と言う訳なのです!」
「何であんたらは息ぴったりなんだ…」
「ノリと勢い、後その日の気分」
「そうなのですかっ!」
「…はぁ」
バスでの移動の間、塩崎は大入に日頃の鍛錬方法や生活環境など色々な質問をしていた。途中、話題が家族構成のことなり、兄弟の多い大入ファミリーの話に塩崎が凄い食いつきを見せた。一人っ子の塩崎は兄弟や姉妹に強い憧れがあったらしく、これが彼女にクリーンヒット。
二人は完全に意気投合していた。しかも、これに加えて今度の休日は塩崎が大入の家に遊びに行く約束まで取り付けていると言うのだから展開が早い。
…その様子を回原が殺意の篭もった目で睨んでいたのは見なかったことにしよう。
ともかく、そんな二人に呆れて頭を抱える拳藤の気持ちも分かって欲しい。
「塩崎さんっ!今回もチーム組みましょうっ!」
「大入君、僕も混ざって良いかな?」
するとそこに回原と物間が合流する。回原は塩崎と物間は大入と、前回・前々回同じチームとして行動していた為、互いに連携し易い。グループの申し出があるのは自然な事だろう。
「あっ、言い忘れましたがグループを作る際には、なるべく一緒になったことの無い人と組んで下さい」
だがしかし、ここで13号先生が追加注文をする。…先生からしたら入学から日が浅く、互いのことに慣れ親しんでいない生徒のためにクラス内の交流の機会を設けるために出した要望でしか無いのだが…。
「…回原さん申し訳ありません。先生からの指定ですので、今回は失礼いたします」
「物間君もゴメンな。次回はグループ組もうな」
「…そ、そんな」
「先生が言うんじゃ仕方ないな。じゃあ回原君、他のグループ行こうか」
ショックの余り、この世の終わりが来たかのような表情で立ち尽くす回原。それを平然と物間が引き摺って退場していく。
その様子を眺めて拳藤は再び溜息を吐いた。