「お~い、一佳~」
「おっ!福朗、生きてたか!」
「縁起でも無いっ!生きてるよ!」
「大入っち!!この忙しいのに何やってたのさ!早く手伝ってよ」
「…で?何やってんの?これ?」
「見りゃわかるだろ。掃除だよ、掃除」
一佳達の所に戻るとモップや雑巾、箒にちり取りを装備した皆がせっせと掃除をしていた。
「片付けてるの!これ全部っ!?」
「そっ。あんな騒動があったからね…他のクラスの生徒も手伝ってくれてるし、直ぐに終わるさ」
食堂を見渡せばテーブルには散乱した残飯。床には割れた食器に麺類の残り汁。
…うむ、これはヒドい。
「…まあ、このまま放置しても業者がやってくれそうな気もするけど…気持ちよくないな。オッケーわかった、何からすればいい?」
「そうだな…。一度テーブルとイス全部下げちゃおうか。その方が床が綺麗に早く片付く」
「了解した。泡瀬君、吹出君手伝って貰っていい?」
『オッケー!』
「いいぞ。何すればいいんだ?」
「こっちの端からテーブルとイスを拭いて欲しいんだ。綺麗になったら一度俺の“個性”に収納。んで、床も綺麗になったら再配置」
「わかった、じゃあテキパキやっていくか!」
『おー!』
3人でどんどんと作業を進めていく。バケツにこぼれたご飯やらを放り込んで。テーブルとイスを綺麗に拭き掃除。
床が空いたら、物間君達が割れた食器を拾って床もモップを掛けていく。
それを見ていた他の生徒がマネをしてテーブルを“個性”で持ち上げたり。床を“個性”で次々綺麗にしている。
これなら午後の授業には間に合いそうだ。
「そういえば泡瀬君、いつの間にこっちに来てたの?」
「ああ、物間と取蔭のお陰で早く終わってな。食堂に来たら拳藤達とバッタリ会ってな…。そう言うお前は?」
「一佳に連絡はしたけど、別行動してた。たまたまA組の生徒…あぁと、入試で会ったこと有る奴な。それのグループに混ざってきた」
『想像以上にアクティブ!?』
「…ああ、そう言えば俺の塩ラーメン…、まだ半分しか食べてなかったな…。チャーシューだけでも食べときゃ良かった…」
「未練タラタラっ!?」
「はいっ!そこっ!キリキリ働くっ!」
うへぇ、一佳に怒られた。気を引き締めて作業に戻る。
『…ねぇ、大入くん?』
「なんだい、吹出君?」
『その、気になってたんだけどさ。拳藤さんとどういう関係?』
「…どういう…って、どういう?」
よく分からない質問をされた。素直に質問の意図を聞いたら一瞬だけ…
『(´・_・`)』←こんな顔された
『…んとさ、…大入くんって拳藤さんと同じ中学でしょ?たださ、同じ中学出身ってだけじゃ、二人の仲の良さに納得が出来なくてさ?ぶっちゃけ、特別な間柄だったりするのかな~なんて…』
ああ、そう言う意味か。確かに俺と一佳は終始一緒の事が多い。
でもそれは、単に高校でのグループが形成出来てないこの時期、馴染み深い繋がりに帰属してるだけなんだよ、主に俺が。
更に言うと、あくまで俺が一佳のご好意に甘えてるだけなんだよな…。一佳はどんな相手にも分け隔て無く「優しい」。中学時代、ほぼボッチやってた俺にまで、親切心から接してくるくらいだ。きっと俺に向ける感情も「友情」とかよりも「博愛」や「良心」…そう言う物なんだと思う。一佳さんはホンマモンの女神様やでぇ…。
…思考が反れた。つまり吹出君は仲が良すぎる「俺と一佳が友人以上の関係ではないか?」と気にしているわけだ。思春期真っ盛りの男女が、常に一緒に居たならそんな邪推が出てくるのも理解できる。
誤解を生んではいけないから素直に伝えとこう。
「あれは一佳が「面倒見の良い人」だからだよ。
元々俺って、中学時代ボッチやっててさ…そりゃ『独立独歩』って感じだったのさ。そんな俺を気にして、一佳はいつも俺に声を掛けてくれてたんだ。お陰でクラスの方でも上手くやれたし、これでも一佳には感謝してるんだよ。
だから、俺からすれば一佳は「恩義」の対象であり、「尊敬」の対象であり、「信頼」の対象でもある。…ってだけの話。
一佳の方も、俺に対して無意識にやってる気配りってだけだろうな」
『…そっか』
しばし訪れた沈黙。その静寂も周囲の喧騒に混ざって消えていった。
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「よし、まずは投票の結果からだな!」
食堂を皆でピカピカにして、午後の授業を空腹の中耐え忍び、帰りのHR。議題は朝の委員長決めに立ち返った。
「朝説明したとおり、皆には自分以外に投票して貰ったよ。その結果、無効票が2票、つまり19票で決まった」
「投票はアタシら3人でチェックしたから不正も無いよ!」
あれだけ言ったのに無効票が出たのか…。どれだけ自分に投票したかったんだよ…。
「じゃ、結果を発表するぜ」
そう言うと泡瀬君達が結果を黒板に書き出していく。
拳藤 6票
大入 4票
泡瀬 3票
骨抜 2票
物間 1票
塩崎 1票
小大 1票
凡戸 1票
無効票 2票
「おっ、一佳が一番か」
「そう言うアンタは二番だね」
「あっ、念の為言っておくけど、無効票は大入君と拳藤さんの2人だからね」
「「なんでさ!?」」
「…当たり前でしょ?君等の場合同じ中学出身だから、既に信頼関係出来てるからね。
結果的に相互投票になってたから無効票にしたよ。まぁ、無効票でも結果は変わらないんだけどね」
「因みに拳藤っちの投票理由は『戦闘訓練では孤軍奮闘の活躍でガッツを感じたから』『大入を説教してる様に熱さを感じたから』…後、こっちは昼からの票替えだけど『昼のトラブル時の迅速な行動・事後処理の積極的な姿勢に好感を持った』なんてのがあったよ」
「大入の方は『戦闘訓練での多彩な戦法から頭の回る奴だと思った』『突発的な状況への動きが速く、機転が利く』ってのが主な理由だな。
…さて、と言うわけで一番になった拳藤に委員長を任せたいと思うんだが…拳藤どうだ?」
「…ねえ、皆?私が委員長でも平気?」
一佳が周囲に聞くと周りから賛同する声が上がる。
「大丈夫です!拳藤さんなら立派に委員長を努めることが出来ます!」
「Yes!No Problem!!拳藤サンならダイジョーブデース!」
「そーだなー。拳藤なら平気だろ」
「ん」
「俺も拳藤なら文句はねぇな」
「…大丈夫」
「あのね拳藤さん、ハッキリ言うとね?拳藤さんに入った6…大入君も入れたら7票か。その内の3票が他の人から票を得ている人のものなんだよね。つまり、実際の票数より皆が君のことを高く評価してるんだよ」
「…だってさ。少なくともクラスから4票分の評価を貰った俺だって一佳を推薦してるんだ、心配する必要ないだろ?」
「…分かった。……じゃあ、拳藤一佳っ!委員長の仕事、精一杯やらせて貰うよっ!」
クラスの中は盛大な拍手に包まれる。こうして無事に原作通り一佳がB組のリーダーに抜擢された。とりあえずは一安心だ。
…因みにそのまま、俺が副委員長になるのはまた別のお話。
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雄英高校正面玄関。そこに学校所属のヒーローが集合していた。
「やはり、解体ではなく完全に破壊されております。破壊箇所は各接合部の外側から少しづつ崩れ落ちる様な「風化や劣化が連想される」壊れ方ですね…」
分析器を使い隔離壁の状態を調べていたヒーロー科の教師『海馬』は、チャームポイントの眼鏡をかけ直しながら他のヒーローにそう告げた。
「ただのマスコミがこんなこと出来る?」
保健医『リカバリーガール』が他の皆に問う。
出来るわけが無い。
ヒーロー科の教員全員がそう思った。
ここは日本でも最高峰の学舎。勿論セキュリティシステムだって現代科学の最先端の技術を利用している。
この隔離壁だってそうだ。剛性・柔軟性・耐熱・耐震・耐水・耐電等々、ありとあらゆる機能テストに耐える最高水準で仕上げた特殊合金をこうも容易く壊されたのでは立つ瀬がない。
これを突破出来るというのはつまりそう言う事なのだろう。
「そそのかした者がいるね…」
根津校長は崩壊した壁を見つめながらそう呟く。口調は軽いが視線は真剣そのもの、眉をひそめ瓦礫の残骸を注視している。
「邪な者が入り込んだか」
そこには何かがある。その点だけは明確だ。
「もしくは宣戦布告の腹づもりか…」
敵の正体は見えてこない。しかし、今回の騒動は「事を起こす」予兆以外の何物でも無い。
…悪ならば迎え撃つ。
決意を固め一同はその場を後にした。