急に鳴り響いたサイレンの音。私達は「なんだ、なんだ?」と辺りを見ていた。
すると近くに居た生徒の一人が席を立ち、慌てた様子で移動を開始した。それが呼び水であったかのように周りも動き始める。
「何んだ、これ?」
泡瀬が疑問を口に出す。
「『セキュリティ3突破』って言ってたね…。侵入者が出たって事かな?」
「ちょっと待って物間…君。…さすがにあり得ない…「雄英バリアー」があるでしょ?」
そう、有り得ない。雄英高校には対侵入者用の隔離防護壁、マスコミの間では「雄英バリアー」と呼ばれる警備システムがある。
そうで無くても、数多くのヒーローが常駐している雄英高校。コソ泥の一人や二人ならあっという間だ。
ということは…
「ってことはさー?雄英の警備を抜ける程のなんかが来たってことじゃねーの!?やべーよっ!!」
「落ち着きなよ円場っち!まだそうと決まったわけじゃ…きゃ!」
『うわっ!』
ぞろぞろと移動を始めた集団の波に巻き込まれそうになる。私は咄嗟に隣に居た円場と物間を掴む。
「円場っ!空中に足場作って!早く!」
「おっ、おう!」
大急ぎで円場に“空気凝固”で即席の足場を用意させる。そこに円場と物間を放り込む。人混みをかき分け、吹出と柳を回収、取蔭を保護した泡瀬と合流し、何とか空中に避難する。足場は、その大きさが分かるように吹出が“コミック”で着色していた。…何でも有りだな、お前の“個性”。
何とか自分たちの安全を確保すると物間が眼下を見下ろしていた。
「これは酷いね。予想外の事態に皆パニックを起こしてる」
避難訓練したこと無いのかな?とか、「おはし」って知ってる?とか、少し冗談めかしている物間にチョップを入れておく。今は真面目な話をしているんだ。茶化すな。
…けど、物間の言うことは正直正論だ。この集団は完全に暴走している。中には生徒の悲鳴が混じっていて、多分だが巻き込まれて怪我をしているのかも知れない…。
くそっ!福朗は無事なのか?
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サイレンが鳴ってからは、あっという間だった。
驚愕、動揺、混乱…それらの色に染まった生徒達が我先にと出口を目指す。人波が俺達を巻き込んだ。
「いたっ!!急に何!!?」
「さすが最高峰!!危機への対応が迅速だ!!」
「いや!絶対違うってこれっ!?」
「迅速すぎてパニックに…」
「あわわっ! (•́ω•̀;≡;•́ω•̀)」
パニックになった生徒の暴走が更にパニックを呼ぶ「負のスパイラル」を巻き起こしている。もみくちゃにされている俺達に第二波が襲ってきた。
「どわーーーしまったーーー!!」
「デクくん!!」
「あーーーれーーー!!! (´Д`|||)」
「東雲くーーん!!!」
「あぁ、もう畜生っ!すまん飯田君、麗日さん!僕ロリ保護してくる!そっち任せた!」
「えっ!?ちょっと!大入くん!!?」
こんな中に巻き込まれたら、あのちびっ子は一溜まりも無い!最優先保護対象だ!
俺は少しばかり強引に人混みを搔き分け、無理矢理突破する。
「っ!おにーさんっ! Σ(,,ºΔº,,*)」
「じっとしてろっ!」
「わっぷ! Σ(//口// )」
僕ロリの手を取ると胸元へと抱き寄せる。他の人とぶつかる面積を可能な限り減らして、そのまま人の流れに逆らわずゆっくりと廊下の隅に避難する。
「…ここなら流れが弱いな。僕ロリ、怪我してないか?」
「は、はい…大丈夫デス ⁄(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)⁄」
にしても生で見るとヤバいなこれ…。前世で「喧嘩神輿で死人が出る」って聞いたことあるけど、それも納得だわ。この迫力なら怪我人の一人や二人は居ても仕方ない。
「あ…あの…おにーさん?その…くっつきすぎだと思うのですが… (*´д`*)」
「この状況だ許せ。後で謝るから」
「いや!べ、別に嫌とかではないんですよ?ただ…ムードとか色々必要でしょう? (>_<*」
「なにをいっているのか、わけがわからないよ」
意味不明な僕ロリは放っておいて状況把握に集中しよう。…あっ緑谷君見つけた、押し潰されてら。後、空中に避難している一佳達を見つけた、よかった。
すると、空中をサマーソルトしながら飯田君が飛んでいく。飯田君は出口上方の壁にぶつかるも、必死に配管にしがみつく。
こっ…これは、もしや!!
「 大 丈 ー ー ー 夫 ! ! 」
出たっ!!飯田君屈指の名シーン!「非常口」だっ!この状況では不謹慎だと理解していてもファンの一人として感動してしまう。
何よりも飯田君の真剣で必死な表情から彼の真面目さを感じることも出来る。
先ほどまで混乱し、暴走していた生徒達も突然現れた非常口を見て唖然としていた。
「ただのマスコミです!なにもパニックになることはありません大丈ー夫!!
ここは雄英!!最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」
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人の波は引き、落ち着きを取り戻した生徒達が静かに移動する。
「お疲れ様飯田君!!最高に格好良かったよ!」
「右に同じでーす! (´,,•ω•,,)」
「おおっ!東雲くんに大入くん、無事だったか!?」
「デクくん大丈夫?」
「…う、うん生きてる」
「まぁ、何というか災難だったな…」
再び俺達は一カ所に集まっていた。緑谷君もあっちこっちヨレヨレになってはいるが、目立った怪我も無いようだ。
「ハッ!そう言えば飯田くんっ!侵入者がマスコミって本当なの?」
「ああ、窓の外に報道陣が見えた。恐らく正面玄関に詰め寄っているのだろう。『相澤先生』と『プレゼント・マイク先生』が対応しているが…さすがにあそこまでの強硬手段を取られたら学校側も対処するだろう。恐らくだが、警察に掛け合っているのではないだろうか?」
「下手したら敷地内への不法侵入及び威力業務妨害の可能性もあるからな…。マスコミも大人しく引き下がるだろうな」
「じゃ!無事解決ってことでいいよね!よかった…」
…くぅ
突如どこからか腹の虫が鳴る音が聞こえる。よく見ると僕ロリが下を向き、プルプル振るえている。
「…し、東雲ちゃん?」
「お腹すいちゃいました ( •́ㅿ•̀ )」
「まだ、ご飯の途中だったもんね…。でもこんな状況だし、食堂はストップかもね」
「それなら、購買も厳しいだろうな。同じ状況で、今度はパン取り競争が勃発してるだろうし」
「私達完全に出遅れちゃったしね…」
「うむ、仕方ない。午後の授業は昼食抜きでも我慢するしか無いか…」
「あぁ、それなら…皆手出して」
「「「「…?」」」」
俺は四人が手を出したのを確認した後、パチン!と指を鳴らす。それにあわせてそれぞれ手のひらに〈揺らぎ〉を作る。演出って大事だよね!
〈揺らぎ〉が消えるとそこにはマイソウルドリンク「MAXCOFFEE」が現れた!!
「ええっ!」「何これ?」「ファッ!?マッ缶!? (º ロ º๑)」「うおっ!」
「俺からの差し入れ。お近付きの印にな!糖分補給くらいにはなるだろ?」
そう言いながら自分の分のマックスコーヒーを取り出して一気に飲み干す。
「すごいよ大入くんっ!これが君の“個性”なの?」
「ああ、“物を自由に出し入れする個性”だ。便利だろ?」
「すごいやっ!」
「…さてと。そろそろクラスメイトと合流するわ」
「ありがとう大入くんっ!コーヒーごちそう様」
「いいって、布教活動の一環だから」
「布教活動?」
「貴方、マッ缶信者ですかっ Σ(゚∀゚ノ)ノ」
「それじゃあ、また今度な!」
そう告げて俺はその場を後にした。