大入と泡瀬の最後の攻防。
モニタールームでは、とあるトラブルに見舞われていた。
『通信設備のトラブル』である。
本来、泡瀬の行き過ぎた行為にオールマイトが強制終了を掛けようとしたところ…
緊急事態にオールマイトはモニタールームを飛び出し、直接戦闘を止めに走ることになったそうだ。
所変わってモニタールーム。
全ての戦闘訓練が終了し、オールマイト先生と生徒21名が一同に会していた。
「マジで調子乗ってすんませんでしたっ!」
大入は物間とヒーローチームに向け、土下座で謝罪していた。はっきり言ってかっこ悪い。
「いや!ちょっと待て!何でそうなるっ!」
「俺が立てた計画のせいで皆を危険な目に遭わせた!そもそも計画が間違っていたんだっ!!訓練だからと言って戦闘重視のゲリラ戦術なんかにしないで、一網打尽の制圧戦にするべきだった!!そうすればもっと少ない怪我で済んだのにっ!」
「…それは戦闘訓練にならないんじゃ無いのかい?」
「物間の言うとおりだ。それに俺と取蔭の事は、ほぼ軽症で捕獲していたじゃないか。加えて最後の一撃…話を聞くとあれは麻酔弾なんだろ?上手く行けば最小限の被害で抑え込む事が出来ただろう」
「そうだよ大入っち!そもそも意固地になった泡瀬っちが悪いんだよ!」
「うぐっ!」
「…そう言わないでやってくれ、取蔭さん。泡瀬君だって必死だったし、実際の現場ではあり得る話なんだ。「絶体絶命の窮地を決死の覚悟で挑むヒーロー」「追い込まれたヴィランが最後の足掻きで暴れ回る」…こんな事は充分起こる可能性だ。俺は相手の精神状況まで考慮していなかったんだ」
ヒーローチーム・ヴィランチームの議論は止まらない。そんな中に拳藤は根本的な疑問を投げかける。
「なぁ、福朗?一つ質問していいか?」
「ん?何?」
「『何故、物間を捕獲した?』『何故、核兵器を取り出した?』『アンタは泡瀬に一体何を言ったんだ?』答えてくれ」
「…一つじゃなかったの?」
「揚げ足取るな、茶化すな、誤魔化すな」
最後のやり取り。実はモニタールームには映像だけで音声は届いていない。
大入の行動は奇行と思われていた。戦闘を止めるためにモニタールームから飛び出したオールマイトは「何のことかな?」と首を傾げている。それに気付いた他の生徒が一連の流れを説明している。
大入は皆に行動の理由を話した。
「物間を捕獲した意図」
「核兵器を出した意図」
「泡瀬を挑発したした理由と内容」
それを聞いた拳藤は突如顔を真っ赤にして、大入を思いっきり殴り飛ばした。一同が驚愕を露わにする中、拳藤はズンズンと大入の元へ向かい、その胸ぐらを掴みあげる。
「馬鹿野郎っ!アンタの馬鹿な作戦でこっちはどんだけ心配したと思っているんだっ!
仲間を危険な目に遭わせないようにしただって?冗談言うなっ!アンタは危ない目に遭っても構わない様な言い方すんなっ!!
わざと挑発して判断力を鈍らせた?巫山戯るなっ!相手を無駄に刺激して、暴走させただけじゃ無いか!余計なことするから、アンタは狙われて攻撃される嵌めになるんだっ!
そもそもだ!アンタは戦闘訓練の為に持てる限りの戦略と力で臨んだだけだろっ!それを「間違っていた」「こうすればよかった」なんて反省はしても後悔するのはお門違いだっ!!
それに今回が初めての実戦なんだ上手く行かない事があるのは仕方ないだろう!いつまでもクヨクヨすんな!」
「そこまでにしないか!拳藤少女っ!」
このまま放置したら原稿用紙5枚を優に越しそうな烈火の如き勢いで不満をぶちまける拳藤。
オールマイトは慌ててそれを制止する。
しかし、先の戦闘で一番ダメージを負い、疲労困憊となっていた大入は最後のトドメを喰らい、完全にノックアウトされていたのだった。
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映像越しに彼等のやり取りを眺める人物が一人…いや、動物が一匹と言うのが正しいだろか?
雄英高校の校長先生『
モルモットの様な白い毛並み。ネズミなのか?犬なのか?熊なのか?…よく分からないが、人よりも遥かに高い知性を持っている事だけは確かだ。
彼は映像から目を離し、テーブルに置いたお茶に手を伸ばす。すっかり冷めてしまったそれで喉の渇きを潤して、ふぅ…と一息つく。
「折角、彼の本性を見極めるチャンスだと思ったんだけど…私の見当違いだったかな?
あの方の
ともかくこれでは疑う理由にはならないね…」
結論から言おう。実は通信設備のトラブルは彼の仕業だった。彼には彼なりの思惑があり、今回このような事をしたのだった。
事の始まりは入試実技試験。試験エリアを網羅する様に徘徊する『大入福朗』の存在が気掛かりとなっていた。
試験が終了した後、彼の素性について調査したところ気掛かりな点が見つかった。
しかし、物心つくより前に彼と「その縁」は既に切れている。しかもその後、「然るべき施設」で育ち、経過も問題ない。
「取り敢えずは限りなく白のグレーって言う置き位置で良いかな?最低限の警戒は必要かも知れないけど…まぁ、心配ないかな?」
そう結論付け、彼は新しくお茶を入れ直すことにした。
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「うぅ…酷い目にあった」
「だからごめんって!さっきから何度も謝ってるじゃ無いか!」
「全くいつまでやってるんだか…」
「でもさ~いいよねっ!こういう感じの気軽なやり取り!アタシは羨ましいよ」
戦闘訓練も終了して、『リカバリーガール』の手厚い治療を受けた後。俺と一佳に物間君と取蔭さんでお昼ご飯を食べに来た。
雄英高校の大食堂『LUNCHRUSHのメシ処』。超一流の料理人であるクックヒーロー『ランチラッシュ』の高級料理を、リーズナブルなお値段で食べることが出来る、なんとも贅沢なことこの上ないカフェテリアである。
午後からの授業に備えるべくしっかりと栄養は摂らないとなっ!
「そう言えばさ?物間っちの“個性”って何だったの?アタシは見てないんだけど…」
「あぁ、“コピー”だよ。触った相手の“個性”を自由に使える」
「はぁっ!?何それズルいっしょ!」
「…いや、君?何を勝手に応えてるの?」
「別にいいだろう?もう、隠すもんでも無いし」
「いや、そうだけどさ…」
「…それとさ?何でさっきから物間っちはお腹を抑えてるの?」
そうなのだ。さっきから物間君はお腹を抑えながら、食事には手を付けず、お茶ばかり飲んでいる。
それってもしかしたら…あっ、察し。
同じ結論に至った一佳がこちらを睨んでくる。俺は自然と視線を逸らす。
「おい、福朗?」
「…な、何かな~?」
「アンタ…“個性”のデメリット教えてなかっただろう?」
「…な、何のことかな~?」
「とぼけるなっ!アンタやっぱり秘密にしてたんだなっ!」
「そんなこと無いよ!ただ、言い逃しただけで…」
「結局教えて無いんじゃないかっ!!」
「あれ?大入っちの“個性”は「物を自由に出し入れする事」だよね?デメリットって?」
「使いすぎるとお腹を壊す。因みに胃の辺りをヤラレル」
「はぁっ!?何それ凄くダサいっ!」
「…いや、物間君?何を勝手に応えてるの?」
「別にいいだろう?もう、隠すもんでも無いし」
「いや、そうだけどさ…って何コレ、意趣返し?」
そうなのだ。俺の“ポケット”は出し入れする物が速いほど・量が多いほど・サイズが大きいほど負担が大きくなり、胃にダメージを負う。限界点を突破すると胃潰瘍になって吐血する。なんとも恐ろしいデメリットを持っている。胃痛系ヒーローとは俺のことだ(笑)
そんな“個性”を使っていた物間君までお腹を壊してしまったようだ。
「何というか…その…すまん」
「と言うよりも何で僕より“個性”乱用しているのにピンピンしてるのさっ!」
「…内臓鍛えろとか、正直言ってどうしようもないだろ?一般人の胃袋じゃ駄目だってことだ。こればかりは“個性”使いまくって慣れるしか無いからな!
後、俺は『リカバリーガール』に治癒してもらってるからな!寧ろ完全回復だ!」
「主にそっちがメインじゃないか!!」
「はっはっはっはーっ!そんな物間君にはデザートのヨーグルトを進呈しよう!愛用の胃薬もオマケだ!」
「くっ!何でか分かんないけど屈辱的だっ!」
「プレゼントを貰っときながらその言い方は無いんじゃないかな?」
「うるさいな!」
俺に対して遠慮無い物言いをしてくる物間君。これは…フレンドリーになったと前向きに捉えてもよいのでしょうか?違っていてもそう思うことにしよう。
その日のお昼は昨日よりも賑やかに過ごした。
ヒロアカ2周年おめでとうございます!ファンの一人としてお祝いします。