「さあ、成績発表だ」
機械を操作して、個性把握テストの総合成績を表示する。生徒たちが自分の成績を確認して一喜一憂している。
「…これで個性把握テストは終了だ。各々自分の得手・不得手について理解が深まった事だろう。今後、自分の長所・短所にどう向き合うかが、ヒーローの資質を上げる重要なカギになる。これから精進するように。…さて、この後は制服に着替えてホームルームだ」
私が締め括りの言葉を言うと生徒一同は教室に戻るため移動を開始する。「あれが楽しかった」「これが面白かった」などと言う、浮ついた…緊張感の欠けた雰囲気に少々気落ちするも「これから自覚を持つようになってくれれば」と気持ちを立て直す。
落ち込んでばかりも居られないのだ。
「…物間。ちょっといいか?」
私は一人の生徒を呼び止める。
『
目下一番気掛かりな生徒だ。
「…何でしょう、先生?僕に御用ですか?」
「何で“個性”を使わなかった?」
「…」
「お前の“個性”は“コピー”。触れた相手の“個性”を自由に使うことが出来る。それを利用すれば少なくとも今より良い成績を出せただろう」
生徒たちの“個性”の情報が無かったからコピーしなかった。…確かにあるかも知れない。
しかし、塩崎・宍田のように“個性”の特徴が明確で、かつ強力な者も居る。とりあえずその力を借りてテストに臨むことも可能だったはずだ。
「…先生は僕の“個性”をどの様にお考えですか?」
「そうだな…。常人より多彩な戦法を運用出来る良い“個性”だと思う」
そう、間違っていない。味方のみならず敵からもその“個性”の一端を借りて使う事が出来るのだ。逆転の切り札としては申し分ない。
「そうですね。普通はそう思いますよね?けど、僕は違います。僕はこの個性を「酷く不安定な“個性”」だと考えています」
「不安定な“個性”?」
「例えばの話をしましょう…。任侠ヒーロー『フォースカインド』。彼の個性は“四本腕”左右に更に一対の腕を持つ異形型の“個性”ですが、これを「コピー」したとしましょう。でも僕は四本も腕は有りません。だから、その腕の全てを自由自在に操る事は適いません。そもそも体の感覚が異なるのですから当然です」
一呼吸置いて更に言葉を続ける。
「他の個性にも言える事です。発現型の“個性”でも、使用の際の意識の仕方など、感覚の違いをしっかり把握しなくてはなりません。そうしないと発動すらままなりませんから」
問題はこれだけではありません。と彼は更に言葉を紡ぐ。
「まず、肉体的適正。例えば“増強型個性”、ハイパワーだけを手に入れても体がそれに耐えられる物でないと、反動で自爆するだけです。そして人体への影響、“個性”の最大使用回数が実際に使うまで分からず、許容量の限界を超えてもやっぱり自爆してしまいます。
言うなれば、僕の“個性”は説明書もチュートリアルもないゲームを初見でプレイするような物です」
しかも、制限時間付きでね。…と自嘲気味に嗤う。
「僕の“個性”は結局の所「限られた時間で“個性”の性質を把握して、如何に“
ーーーだから、これは戒めなんです。
「僕は自覚しないといけないんです。自分が
「これで充分ですよね?」と最後に一言告げて彼は皆の後を追った。
…私は彼に答えを与えることは出来なかった。…与えては、いけなかったのだ。この答えは彼自身が、自らの手で見つけるべき物だ。そうすれば、彼は確実に
私は彼の今後に不安を抱きつつ、その背中を見送った。
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「全く!最低だな!アンタは!」
「全くだね!紳士にあるまじき行為だよ!」
「お前の事だよ馬鹿っ!」
「なんと!」
一佳とじゃれ合いながら帰路につく。紳士にあるまじき行いを咎めた後も、何だかんだで傍に居てくれる一佳は本当に器がデカい。将来は旦那を尻に敷く、良き肝っ玉母ちゃんになることだろう。
「…で?いつものアレ?」
「あぁ、“個性”観察。にしても皆の“個性”は凄かった!」
「まず、塩崎さん!彼女の“個性”の柔軟性は凄い!伸ばしたツルは圧倒的なリーチを誇るし、束ねれば束ねるほどパワーも増す!パワー不足な俺としては羨ましいね!」
「次に宍田君!彼の“個性”はシンプルに強い!パワー・スピード・瞬発力・柔軟性に反射神経!全てが高水準に備わっている!多分純粋なフィジカルなら最強なんじゃ無いか!」
「鉄哲も素晴らしい!きっと“個性”の性質のせいだろうな。“個性”に適応するために相当なトレーニングを重ねたんだろう。その下地がとても分厚い!」
「それから!それから!」
「はいはい、分かったから」
「あぐっ!」
興奮する俺にチョップをかます。いてぇ…。
“個性”観察。大層な名前が付いているがたいしたことはしていない。“個性”を見て、最大値を目算し、“個性”のメカニズムに想像を巡らせる。たったのこれだけ。
俺が転生してからずっとして居る習慣だ。
元々は緑谷君の「将来のためのヒーロー分析ノート」に倣っていたものだが…、これが中々馬鹿に出来ない。
異能バトル物は如何に自らの能力を誤認させ、相手の能力を看破するかに掛かっている。観察力は戦況を有利に運ぶ為の重要な要素だ、鍛えない手は無い。
「私からしたらアンタも大概だよ」
「…何が?」
「個性把握テストの結果だよ!何で半分位の競技で“個性”未使用なのにしれっと総合3位なんだよ!」
「日々の鍛錬!後は自己暗示!」
「自己暗示っ!?」
「…なんというか?こう…走るときに「速くなれ~速くなれ~」って念じたり、握力計るときに「もっとパゥワーをっ!!」ってイメージしながらやると、凄いいいかんじの結果になる」
「いや、ねーよ」
「う~ん、にしてもな…」
「何よ?」
「いやな?話戻すんだが、小大さ…」
「…」
「その拳は下げなさい。真面目な話、小大さんの“個性”って非常に中途半端なんだよな」
「中途半端?」
「巨大化すると身体能力も等倍で強力になるようだけど…」
俺は先ほどの個性把握テストを思い出す。
「巨大化完了までにかかる時間は約1分、元に戻るのにも約1分。全長は目算8m。巨大化する際に身に着けた物も巨大化出来る様だけど…展開速度・最大値共に一歩及ばない」
ぶっちゃけこれでは『Mt.レディ』の方が強い“個性”だ。
「大きさはコントロール可能のようだけど、この大きさじゃあまり変わらないな。…となると、最大値はもっと上なのか、他に何か秘密が有るのか…。うむ、解らん」
「なんだよそれ…」
減なりする一佳。俺の中途半端な考察を聞かされればこうなるのも仕方ない。
転生者である俺自身、そこら辺に関してもある程度情報を持っているので推測だけなら出来るが…口にする程では無い。あくまでも推測の域なのだ。
これからも観察を続け、しっかり情報が出揃ったら改めて話すとしよう。
「私としては物間の方が気になるけどね」
「…あぁ、最下位の人?結局何処にも“個性”使わなかったもんな…。身体能力に反映出来ないタイプなのかな?」
彼の正体を知りつつも口裏を合わせる為に嘘をつく。『物間寧人』の“個性”は“コピー”。…その筈なんだが、何故か彼は“個性”を一切使わなかった。
何でだろう…?一番に考えられるのはコピーするための制約かな?実は触れる以外にも“個性”の情報が必要とか?
「それもそうなんだが、そっちじゃなくてだな…」
「…?」
「他の奴に比べて距離があるんだよ…」
※注意
B組生徒のメンバーには多くの「独自解釈」「設定捏造」が含まれます。公式と誤解されませんようご注意下さい。