転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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雄英高校編
10:入学


早朝の駅のホーム。春を迎えたのにも関わらず、少しばかり冷え込む空気の中、始発の次に早い電車を待つ。

 

袖を通した制服は真新しく、何処となく違和感を感じる。

 

そんなむず痒さに目をつむり、暖を取るために、先ほど購入した缶コーヒーに手を伸ばす。カシュ!…と小粋な音を立てながらプルタブを開け、容器の液体を静かに口へと流し込む。

 

 

 

 

…甘い。口の中を制圧するかのように甘い。

 

 

 

 

二、三度口の中で転がし、その甘味を堪能した後、ゆっくりとのどの奥へと流し込む。余韻に浸りながら、ふぅと小さく息を吐く。

 

 

MAX COFFEE(マックスコーヒー)

 

 

我が千葉県にあるマイ・ソウル・ドリンクだ。前世にて、その存在は知っていたが…よもやこのような形で巡り合うとは思いも寄らなかった。

今ではその魅力の虜となり、すっかり愛飲家となった。

 

加糖練乳・砂糖>>>越えられない壁>>>>コーヒー にて構成された圧倒的糖分量を摂取し、脳が少しづつ活性化していく。

 

 

 

「おはよう、福朗!」

 

 

そんな俺の肩を軽く叩き、よっ…と手を上げた一佳が挨拶をする。そんな彼女も俺とお揃いの真新しい制服に身を包んでいる。こういう時「新しい制服、似合っているな」と気の利いた言葉の1つくらい言えれば良いのだが…。どうやら前世から童貞を拗らせた俺には無理のようだ。

「おはよう」と挨拶を返す俺を余所に、ひょいっと俺の手元を覗き込む。すると、先程までの溌剌とした表情が途端に顰めっ面に変わる。

 

 

「げっ…またそれ飲んでんの?それの何処が美味しいだか…」

「俺がブラックは飲めないの知っているだろ?」

「分かってるけど…いや、いくらなんでもマックスコーヒー(それ)は無い。それはコーヒーに対する冒涜だ」

「は?」

「あ゛ん?」

 

「…良いんだよ別に。人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていい…」

 

「アンタその内、糖尿病になるよ」

 

 

一佳はブラックコーヒー派だ。マックスコーヒー派の俺とは、こうして対立しては、彼女の威嚇の前に敗北する。…あれ?俺って弱くね?また、マックスコーヒーの名誉を守れなかったよ…。

 

恒例と化したやり取りを終えると、丁度よく電車がホームに到着する。電車に乗り込むと、車内の乗客の数もまばらだったので、一佳と二人適当な空席へと座る。

アナウンスが鳴り、ドアが閉まると、身体が少しよろけて仕舞うくらいの僅かな揺れ。タタン…タタン、と音を鳴らし、電車は走り出す。

 

 

「「…………」」

 

 

二人に会話は無い。特に話す必要が無いから話していないだけで、別に無理して話す必要が無いからだ。

 

タタン…タタン、電車は揺れる。しばしの間静かな時間と、流れ行く外の風景を眺めるのも悪くないだろう。

 

 

「正直夢みたいだ…」

 

 

ポツリと一佳が言葉をこぼす。

 

 

「一佳さ~ん?…もう朝ですよ~?」

「いらない所でボケかますな。そうじゃ無くて…また、「福朗と学校に通える事が」だよ」

 

 

そう、あの後一佳からも連絡があった。結果は「合格」。ふたり揃って無事に雄英高校に入学する事が出来た。通知が来たときに一佳が号泣しながら、合格の知らせをしてきたのも、まだ記憶に新しい。

 

 

「そうかい?俺としては夢のままにするのは勿体ないがな…」

「え?」

「だって、気心知れた友達と、他愛ない馬鹿な話をしながら、学校生活を送れるって言うのは最高に幸せだろ?」

「友達…そうか友達…だよな?」

「ん?なんか深い意味あったか?」

「えっ!?ナイナイ!そんなの全くないよ!」

「…?そうかい?」

「……そうだよ」

 

 

「「………」」

 

 

タタン…タタン、電車は揺れる。

 

 

_________________

 

 

 

「でかいな…」

 

 

一佳が俺の横で感嘆の声を漏らす。確かにでかい。俺達の目の前には教室のドア。今日から清く正しく強いヒーローを目指すための場所「1-B教室」がそこには有った。

 

 

俺は無事に雄英高校に入学を果たし、「1-B」に配属されたのだった…。

 

 

…いやなんでだよ!?

普通こう言う転生物って主人公達の周辺にいて、事件に巻き込まれたり巻き込まれなかったりするもんじゃ無いのかよ!?

これじゃ緑谷君達がピンチでも介入出来ないじゃないか!

それだけでは済まされない!

生でデク君の活躍が見られないでは無いか!

飯田君の独特な手の動きを見られないでは無いか!!

黒影(ダークシャドウ)ちゃんが見られないではないか!?

 

 

責任者に問いただす必要がある!!

責任者はどこか!?

 

 

…作者か!?誰だよ作者って!!

神か?あのショタ神か!?

ちくしょー!今度逢ったらぶん殴ってやる!!

 

 

閑話休題

 

 

(多分違う意味で)精神的に葛藤した後、気分を持ち直してドアを開ける。すると、中の光景が目に映る。暖かな日差し、そよ風に揺れる校庭の木々、教鞭を振るう教卓に巨大な黒板。そして、教室の中に並べられた21組の勉強机。

 

5掛ける4、その後ろに並ぶ21番目の席。…よかった、俺が入学する事で不合格になった生徒は居ないようだ。…少しだけ安心する。

 

 

「まだ、誰も来てない…か」

「そうだな。まだかなり時間あるし…」

 

 

俺達は自分の出席番号の座席を探して荷物を置く。

 

俺は出席番号2番。

廊下側一列目の、前から二番目。

 

一佳は出席番号6番。

廊下側二列目の、前から二番目。

 

偶然にもお隣さんとなった一佳と談笑しながら他の生徒が来るのを待つ。

 

 

 

 

カラカラと軽くドアの開く音がする。翡翠色の瞳、優しげな表情、同じ制服なのに膝下よりちょっとだけ長くしたスカート丈。そして何よりも特徴的な頭部、植物の蔓の様な長い髪を靡かせた少女『塩崎茨(しおざきいばら)』はそこに居た。

 

 

「あら?随分お早いのですね?おはよう御座います」

「おはよう」

「…あれ?もしかして塩崎さん?」

「はい!ご無沙汰しております。拳藤さんも無事に合格なさったのですね?」

「…?知り合いか?」

「あぁ、入試の時にちょっとね…。紹介するよ、こちら『塩崎茨』さん」

「塩崎茨と言います。どうか、よろしくお願いします」

「よろしく、にしても結構早く来たね」

「はい、本日は大切な入学初日。遅れるような事があってはなりませんから…つい足早に来てしまいました」

「うんうん分かる分かる。…んでこっちのコレが『大入福朗』ね」

「扱いが雑っ!人を物みたいに言うんじゃありません」

「ふふふ、よろしくお願いします。…それにしても、随分と仲がよろしいのですね」

「あぁ、幼馴染みだしな」

「それは違うぞ。小学校からの腐れ縁だが、近所付き合いは中学からだ。だから「幼馴染み」は違う」

「細かいことはいいんだよ。小さい頃から仲良かったら「幼馴染み」だ」

「そんなもんかね?」

「そんなもんだよ」

「本当に仲がよろしいのですね」

 

 

その後、次々とB組の生徒が次々と教室に入り、次第に賑やかになってくる。次々に出会う原作キャラに内心ヘブンしていく俺。…大丈夫だよな?顔に出てないよな?

 

「…おい手前ぇ、あの0p敵ぶん殴った奴か?」

 

振り向くとそこには。鍛えられた肉体、小さめの黒目、銀髪が鬣のようにワイルドな印象を与えてくる鋼鉄少年『鉄哲徹鐵(てつてつてつてつ)』が立っていた。

と言うよりも此方を物凄い睨んでいる。

周りがザワザワしだす。そうだな、あんなデカブツと戦ったなんて言われたら、他の人は吃驚する。

 

 

「あぁ、そうだよ。見事にぼろ雑巾にされたけどな」

 

 

この返しにより一層周囲どよめく。

「本当なのですか?拳藤さん?」

「あぁ、アレに単騎特攻したらしくてね」

…あの、お二方?穏やかに談笑してないで助けて下さいませんか?彼、とても怖いのですが…。

 

 

「スゲーじゃねーか!アレに挑める奴なんてなかなか居ねぇ!オレは手前ぇのこと気に入ったぜ!」

 

 

ガハガハと大笑いしながら彼は俺の背中をばしばしと叩いてくる…鉄哲さん痛いです。

どうやら気に入られたようだ。何故だろ?戦っているの見てた人なのかな?

 

 

 

…「A組」に入れなかったのは少しだけ…本当に少しだけ残念だ。緑谷君のそばに居た方が原作介入しやすいし、何より生のやり取りを見ることが出来るんだが…「B組」では難しいだろう。

 

…いや悔やんでいても仕方ない、むしろ前向きに捉えよう。そもそも、物語は無事に幕を閉じるんだ。俺が余計な事をしなくても彼らなら乗り越えられる。そう信じよう。

 

となれば、次は自分のことだ。幸いB組なら一佳がいる。クラスメートの皆とも、彼女の性格のお陰か、非常に良い友好関係が出来つつある。

今日からこの皆でヒーローを目指していくんだ。

 

 

 




※この作品は、作者の妄想により、B組の魅力に焦点を当てたいです。

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