ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
『それ』と出会ったのは偶然だった。
ある晩、夜空から地上に星が墜ちてきた。
それがたまたま自分の生家の近くだっただけだ。
物見遊山のつもりで見に行けば、それは極めて奇妙な星だった。
一言で言うのなら、星の海を渡る船。つまり、宇宙船。
その船の乗組員は、人型ではあるが人間種ではない奇妙な生き物だったが、全て死に絶えていた。
墜落の衝撃で死んだのか、死に絶えたから墜落したのかは分からない。
しかし、その船は彼の知的好奇心を大いに刺激した。
船体は金属ではなく珊瑚のような物で形づくられ、多くの生き物を乗せていた。
剣や槍、鞭のように変形する蛇。
爆弾のように炸裂する蟲。
石や鉄をも容易く食い千切る飛蝗。
特に奇妙なのは、蛸とも水母とも付かない巨大で丸い頭と無数の足を備えた軟体動物だった。
それらが何であれ、魔術師のすることは決まっている。
すなわち、その生き物たちを己の魔術に組み込めないかと試行錯誤すること。
するとどうだろう。
それらの生き物は、彼が元々研究していた蟲たち以上に、彼の魔術に馴染むではないか。
彼は夢中になって、その生き物たちを調べ、試し、改良を重ねた。
そうするたびに新しい発見があり、船から得た知識は自らの未熟さ矮小さを教えてくれた。
…………時は流れ、彼はいつしか理想を得ていた。
世界から悪を根絶し、平和を作り上げると言う理想を。
しかし、彼は老いていた。
死が、容赦なく迫っていた。
理想の成就を見ることなく塵に還ることへの焦りと恐怖が彼を苛む。
そんな時、あの蛸のような水母のような生き物が子を産んだ。
単性生殖で生み出した子に、母体はテレパシーを通じて同化、自分の全てを子に教えたのだ。
その奇跡のような世代交代を見て、彼は感動に震えた。
そして、ふと思ったのだ。
……この生き物に、自分の魂を移植できないかと。
* * *
シスの暗黒卿、騎士王、征服王、英雄王、クローン兵、さらには狂戦士までもが揃い混沌としていたコンテナ置き場の戦いから、いくばくか後。
冬木の聖杯戦争を始めた魔術師たち、所謂御三家の一角である間桐の屋敷。
その地下に置いて。
屋敷の住人からは蔵と呼ばれるこの空間に入った者は、まず水中にいるのかと錯覚させるほどの濃密な水の匂いに驚くことになるだろう。
その壁や床や天井は生きた珊瑚によって作られ、不可思議な蟲や爬虫類のような生き物が動き回る。
とても人の住む街の中にあるとは思えない、魔術師たちの使う意味とは違う意味において、異界と呼べる空間。
その奥も奥に、あの狂戦士はいた。
……膝を抱えて座り込んで、だが。
「まったく、せっかく狂化レベルを下げる細工を施したのに、勝手に暴走するとは……」
その前に立つのは小柄な老人だ。
杖を突き、頭には一本の体毛もなく皺くちゃに歪んだ顔が妖怪染みた、異様な雰囲気の和装の老人。
老人は隣に立つ青年を睨み付けた。
「貴様も貴様じゃぞ、雁夜! あの局面でバーサーカーを実体化させるなんぞ、戦略も何もあったもんじゃないわい!!」
「いや、せっかくだからカッコよく登場して、時臣のサーヴァントをギャフンと言わせてやろうと……」
「ええい! 遠坂の子倅に拘るのは止めいと、話をつけたばかりじゃろうが!!」
三十路に届かないだろう青年……間桐雁夜に、老人は容赦なく怒鳴る。
「何のために、お主に偽臣の書を預け、儂が手ずから召喚したバーサーカーを操らせておると思っておる!」
「そう言うけどな、爺。こいつあのランサーの姿を見た途端、こっちの言うことなんか聞かなくなったんだぞ」
「ムウ……こやつがこういう反応と言うことは……ランサーめはバーサーカーと因縁があると言うことか……」
雁夜の言葉に、老人は頭を冷やして思考する。
「……あのランサーの正体は置いておくとして、アイツベルンのサーヴァントを始め、この聖杯戦争は難敵ばかりよ……仕方がない。当面はキャスターを片付けるとするか」
「ああ、俺もキャスターを倒すことには賛成だ。……アイツは許せない」
町中に張らせた使い魔からの情報によれば、キャスターのやっていることは非道の極みであり、見過ごしては置けない。
義憤を滾らせる自身の子孫に、老人こと間桐臓硯は息を吐かずにはいられない。
魔道の家を厭い、出奔していたこの子息はどうにも考えの浅く安易に嫉妬や怒りに流される部分がある。
いつまでも初恋を引きずり人妻に横恋慕しているし。
人道や良心を優先し、魔術師の常識に囚われないことは美点でもあるのだが……。
ああ、昔は可愛い子だったのに。
膝の上に乗って、「お爺ちゃん」とか言ってくれる子だったのに。
魔術師としての素養は低くとも、蟲や蛇の扱いには長けた優しい子なのに。
それでも一応にも時計塔に留学して何とかギリギリ卒業できる程度の才覚はあったのに。
優しいからこそ、そこで見た魔術師の生き方にほとほと嫌気が差し、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに魔術の家である生家も嫌いになってしまい、家出して。
盆と正月、甥の慎二の誕生日……そして、早くに病没した兄嫁の葬式……にぐらいにしか帰ってこなくなったけど職にも就いて息災にやっていることだけは分かっていた。
それが遠坂から養子を取ることになった時、兄の鶴野から連絡を受けたらしく舞い戻り、遠坂の子倅こと時臣と喧嘩を始めた時は頭を抱えたものだ。
もちろん今回の聖杯戦争に協力してくれる、掛け替えの無い子であるのだけれども。
早死にした両親に代わって育てた、我が子も同然の血族であるし。
……いやどうにも思考が逸れた。
「雁夜よ。……もう一度確認するぞ。儂らが此度の聖杯戦争に参加した理由は、何じゃ?」
「……決まってるだろ」
「聖杯戦争を終わらせるためだ」
「憶えておったか。ならば、すべきことは分かっておるな?」
「聖杯を間桐の手に……だろ? 分かってるよ、それくらい」
その答えに大きく頷いた臓硯の背後で、『何か』が蠢いた。
直径だけで10m以上はある巨大な球形の頭部と、無数の長い触手。
頭部に申し訳のようについた小さく黒い二つの眼。
蛸とも水母ともつかぬ、異形の生物。
これこそが、500年の時を生きる間桐臓硯……マキリ・ゾォルケンの魂を収めた本体。
老人の姿をした人型は、単なる端末に過ぎない。
「改めて、頼んだぞ雁夜。バーサーカーを用いて、この聖杯戦争に勝利するのだ!」
間桐臓硯には時間が無い。
本来使うはずだった蟲よりもこの蛸のような異界の生き物、『ヤモスク』はゾォルケンとの相性が良く、魂は長持ちしている。
それでも、すでにジワジワと魂の劣化が始まっていた。
次にヤモスクの代替わりに合わせて魂を移した時、ゾォルケンがゾォルケンでいられる保証は無い。
だからこそ、『前回』のことがあるにも拘らず今代に置いて聖杯を得るべく、行動を開始した。
己が己であるうちに理想を成すために。
* * *
「おじさん! おじいさま!」
蔵から出た雁夜と臓硯の前に、幼い少女が走ってきた。
『黒髪』の、可愛らしい少女だ。
「桜ちゃん! 起きていたのかい?」
「目がさめちゃって……」
雁夜はその少女、遠坂から間桐の養子になった間桐桜を優しく抱き上げる。
その後ろから、雁夜とよく似た顔立ちの、髪の長い男性がやってきた。
「兄貴も起きてたのか」
「ああ。夜食を用意しておいた。食え」
「そんなの、俺がやるからいいのに……」
「馬鹿を言え。カップ麺とレトルトを飯とは言わん。使用人にも休みをやったし、俺が用意する他ないだろう」
兄、鶴野の言葉に、弟、雁夜は苦笑する。
雁夜以上に魔術的素養は低い兄だが、聖杯戦争に巻き込まぬために使用人を休ませている今、こうして家事をして家族を支えている。
ちなみに彼の息子の慎二は頭が良い子で海外に留学していた。
「じゃあ、おじさん! いっしょに食べよう!」
「……そうだな。爺も食うだろ?」
笑う桜に微笑む雁夜。
問われて、臓硯も破顔する。
「そうじゃの。せっかくだからいただくとしよう」
家族は揃って食堂へと移動していくのだった。
* * *
間桐臓硯……あるいはマキリ・ゾォルケン。
彼が聖杯に懸ける願いは、世界の平和。
そのために異星……遠い銀河の外で、ユージャン・ヴォングと呼ばれる種族の作り上げた生物の数々を繰り、その一種であるヤモスクに魂を移したのだ。
しかしそれ以上に彼が聖杯戦争を終わらせようとするのは、子孫たちにこれ以上、自分の代からの業を引き継いでほしくないからだった。
雁夜が臓硯に協力するのも、身内の情であると同時に、桜やその子や孫に魔術師として業を押し付けたくないからに尽きる。
終わらせよう。
数百年の夢を。
御三家の大願を。
子らのために。
そのために、臓硯と雁夜は狂戦士を伴い、往く。
バーサーカー(何か、忘れられてる気がする)
おめでとう、妖怪蟲爺は妖怪蛸爺に進化したよ!(タイトルをこっちにしようか最後なで悩みました)
二次創作ではあんまり見ない綺麗な臓硯。
臓硯が綺麗なら、必然的に桜やおじさんは不幸にならないんじゃないかと思いまして。
ちなみにユージャン・ヴォングとは、今はレジェンズと言う名の黒歴史となったスター・ウォーズの小説シリーズに登場した別銀河からの侵略者。
歴史的背景と宗教上の理由から機械的なテクノロジー、とみにドロイドを非常に憎んでおり、手持ちの兵器、身に纏う衣服に防具、さらには宇宙船まで全て生物からなるという連中。(某鉄人調べ)
この作品では、(とりあえず今のところ)攻めてこない予定。
そして、間桐家のユージャン・ヴォング由来の生き物は臓硯が品種改良を重ねており、原作に比べて安全性が高い設定。(危険性が無いとは言ってない)