ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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ちょっと他陣営の話。

まずは、気になるだろうアサシン陣営から。


まったく代わり映えしない顔だな、兄弟

 彼らは戦うために生まれた。

 

 最強の賞金稼ぎの遺伝子から機械的に『製造』され、戦うことだけを教えこまれ、戦いの中で死ぬ、戦うためだけに生まれた兵士たち。それが彼らだ。

 

 寿命を調整され、僅か10年で一人前の兵士となる彼らは、言いかえれば僅か10年で戦場に駆り出される。

 そして戦場に出た彼らは、恐るべき速さで『消費』されていく。

 

 ある者は銃に撃たれ。

 ある者は光刃に切り刻まれ。

 ある者は砲火によって粉々になり。

 ある者は野獣の餌食となり。

 ある者は船ごと宇宙の藻屑と消え。

 ある者は、ある者は、ある者は……。

 

 銀河のあらゆる場所で戦う彼らの死に方のバリエーションは無限大だ。

 彼らはあくまでも彼らを作った存在の『所有物』……物でしかない。

 物がいくら壊れても、新しく作ればいいだけだ。

 

 遺伝子を弄りまわされ、

 生命の尊厳など無く生み出され、

 親からの愛など知り得ようはずもなく、

 戦場で無限に物として消費され、

 挙句の果てに普通の二倍の速さで年老いて。

 

 嗚呼、こんなことが許されるのか?

 

 その有り様は、どうしようもなく歪で、異常で、滑稽で、醜悪で……。

 

 

 

 

 

 

 どうしようもなく尊く、言葉に出来ないほどに美しい。

 

 

  *  *  *

 

「ッ……!」

 

 言峰綺礼は粗末な簡易ベッドの上で目を覚ました。

 上体を起こして辺りを見回せば、そこは雑居ビルの一室だった。

 

 教会の一室ではない、雑居ビルの一室である。

 

 テナントは入っておらず打ちっ放しのコンクリートの壁が寒々しいが、簡易ではあるが家具一式が置かれている。

 

「お目覚めですか?」

 

 声をかけられたのでそちらを向けば、背が曲り痩せ細った皺だらけの老人が立っていた。

 綺礼は、後頭部を摩りながら答えた。

 

「ああ、99号。……私はどれくらい寝ていた?」

「ほんの、30分ほどです。軽い物でしたら用意出来ますが、食べられますか?」

 

 どうも、キャスターの暴走を時臣に報告した後、慣れない環境に疲れて少し横になったらそのまま寝てしまったようだ。

 腹も空いていないし、仕事を優先するとしよう。

 

「いや、いい。……それより、何か報告は?」

「ああはい。ギルガメッシュ王がいらっしゃっています。リビングにいますが綺礼様を起こさなくてもよい、とのことでしたので」

 

 99号の報告に、綺礼の顔が厳しくなるのだった。

 

  *  *  *

 

 本来なら、綺礼はアサシンのサーヴァントを召喚し、師と仰ぐ遠坂時臣と共謀して彼を勝利へと導く……はずであった。

 

 いや、時臣と共謀しているのは確かなのだが召喚したのはアサシンはアサシンでも、山の翁ではなく、見たことも無い装備に身を固めた兵士『たち』だった。

 

 

 『クローン・トルーパー』

 

 

 そう名乗る彼らは、同じ人物の遺伝子を基に製造されたクローンたちであり、ある戦争で散っていった兵士たち、その集合霊であると言う。

 彼らの霊格は低く、そこらの悪霊魍魎に毛が生えた程度。

 強さも一人一人では、大したことはない……いやサーヴァントとして見ればとんでもなく弱い。しかし、その真価は数にこそある。

 綺礼程度の魔力でも一度に数体から数十体は実体化させられる上、全ての兵を一度に倒さない限りいくらでも新しい兵が補充される。

 

 しかも、彼らは聖杯に懸ける望みは無く、戦いの空気に惹かれてやってきただけであり、『指揮官』である綺礼とその『上官』である時臣に従うと言う。

 

 つまり綺礼は、その背後にいる遠坂時臣は、あらゆる王が、将が、支配者が、欲してやまぬ物無尽蔵の兵隊を手に入れたのだ。

 

 

 

 

 

 ………だが問題は、綺礼も、時臣も、綺礼の父の言峰璃正も、時臣が召喚したアーチャーも、そんなもんの使い方が分かっていないことである。

 

 綺礼と璃正は元代行者だが人を率いる立場ではなかったし、時臣は個人主義の強い魔術師、アーチャーことギルガメッシュも雑兵なぞ知ったことかと言う性質だ。

 

 とりあえず、時臣発案の下ギルガメッシュにアサシンの一体をワザと倒させて綺礼が聖杯戦争を脱落したように見せかけて裏で動かすという策を取ろうとしたのだが……。

 

 

「恐れながら、時臣様。……そのような策が通じるのは、ズブの素人くらいのものです」

 

 そう言ったのは、当のアサシンの一体、『フォードー』と名乗るクローンであった。

 顔をしかめる時臣に、他のクローンより位が高いらしいフォードーは臆することなく続けた。

 

「あまりにもワザとらし過ぎます。いかに英雄王がお強くても、無傷での勝利と言うのは嘘っぽく見える物です。加えて申し上げますと、そのような兵士を無駄死にさせる作戦には賛同できかねます。どうかご一考を」

 

 そこまで言われてなお、時臣は考えを曲げず綺礼に令呪を使わせようとしたが、それを止めたのは他ならぬ英雄王だった。

 曰く、クローンの話の方が面白そうだからと。

 

 かくして、綺礼は時臣と表面上対立したまま身を隠すことになり、彼らがいつの間にか用意した新都の雑居ビルに構えた隠れ家に身を潜めているワケだ。

 綺礼の指示を受ける間でもなく方々に散ったアサシンたちは、様々な方法で敵の情報を収集していた。

 

 ある者は霊体化したまま、街を徘徊し。

 ある者は市井に扮して人々の噂に耳を傾け。

 ある者はどこからか調達したパソコンでインターネットにアクセスして……意外とこれが有効であることは、綺礼にとっても新鮮な驚きだった。

 

  *  *  *

 

 雑居ビル丸々一つ使った隠れ家の一室にあるリビング。

 

 そこに置かれたソファの上に金髪紅眼の青年がデーンと寝そべっていた。

 

 部屋に入った綺礼は思わず息を吐きながらその青年……ギルガメッシュに声をかける。

 

「何の用だ? 英雄王」

「なぁに、貴様の顔を見に来たのよ。時臣よりは貴様の方が面白いからな」

「……………」

「と、言うのは冗談でな。ここの兵士どもを愛でにきた」

 

 端正に整った顔を悪戯っぽく歪め、ギルガメッシュは何処からかちょろまかしてきたワイングラスを傾ける。

 99号の他、この隠れ家には綺礼の護衛として『ドミノ分隊』と呼ばれる五人のクローンが常駐している。

 どう言うワケか、この傲慢で気まぐれな英霊はクローンたちを気に入っていた。

 

「作られた人形でありながら、人間のように振る舞い、その癖持って生まれた性を受け入れている。その姿は見ていて哀れであり滑稽。人形芝居としては中々の見物だ」

「悪趣味な……」

「我はな、綺礼。人の業こそを愛でるのだ。故に業の化身のような兵士どもを愛でるのは必定と言う物。……そう言う意味では、時臣もそれなりに面白いが」

 

 クックックと、堪えきれないようにギルガメッシュは笑いを漏らす。

 

「表面上は退屈な魔術師の顔を繕っているが、あの男の中ではな、正道の魔術師足らんとする自分と、一人の男としての自分がせめぎ合っている」

 

 確かに、時臣は魔術師としては人間臭い男だ。

 

 その際たる例は、次女の桜の件だろう。

 極めて稀有かつ高い才覚を持つ彼女は、その魔力に惹かれてくる魑魅魍魎や他の魔術師から自衛するために魔術を覚えなくてはならない。

 しかし、そのままでは魔術協会によって封印指定にされかねず、遠坂の力だけでは守り切れないと間桐の家に養子へ出すことになった。

 

 この時、時臣は重箱の隅を突くが如く間桐の家について調べ上げ、さらには間桐の家の面々の性格や性癖までも調査していた。

 その姿は、まるで養子に出さない理由を探しているようだと彼の妻である遠坂葵は語る。

 とにかく問題無しとして養子縁組をすることになったのだが……。

 

 取決めのためにそれぞれの家族が全員集合した日、何処で聞きつけたのか間桐の家を出奔していた間桐雁夜が乱入してきて時臣と殴り合いの喧嘩に発展。

 何かもう、余裕も優雅もポイして封印指定の件とかをぶっちゃけた挙句、

 

「私だって桜を余所の家の子になんかしたくなぁあああい!!」

 

 と泣き叫んだそうな。

 

 その後、泣きだした桜を姉の凛がこちらも泣きながら抱き、そんな娘たちに己のしようとしていることの残酷さを痛感した葵が「ごめんなさい! ごめんなさい!!」と娘たちを抱きしめた。

 そんな妻子を時臣が「すまない、すまない……私が魔術師なせいで……」と魔道を遥か彼方にうっちゃって抱擁した。

 

 泣きながら抱き合う家族の姿を見て間桐臓硯がホロリともらい泣きし、雁夜が何だか敗北感に打ちひしがれていたそうである。

 

 ……正直、ちょっと見たかった。

 

「ま、それはともかく……綺礼よ、貴様はどうだ? あの兵士どもを見て、何を思う?」

 

 綺礼の意識は、ギルガメッシュの現実に声で呼び戻された。

 そう問われて、綺礼はふと考える。

 父、璃正や師、時臣はクローン・トルーパーの有り方に少なからぬ嫌悪を示していた。

 命を弄り回して生み出された、同じ顔と同じ声を持った存在が、それこそ型を取ったように無数に並ぶ。

 そこに生理的であれ、倫理的であれ、あるいは宗教的にであれ嫌悪するのは人間として当然だろう。

 だが自分は……。

 

「……さてな」

 

 綺礼は話題を変えることにした。

 

「あの黒いサーヴァント……シスの暗黒卿、だったか? あれは何者だ?」

「……あれは世界の外から来た物だ。この世界は余すことなく我の所有物。しかし、あれは違う。あれはこの世界を壊しかねない」

「世界の外? しかし、それならアサシンたちも……」

 

 ギルガメッシュは右頬に付いた一筋の傷を撫でながら露骨に顔をしかめた。

 同時に、ワイングラスを持つ手に力が入っていく。

 

「兵士どもは、単なる人形。しかし、あの害虫は違う。あれは意志と欲を持った存在だ。先程も言ったが、我は人の業を愛する。業の果てにこの星を捨てるのも、また認めよう。……だが、それは世界の外から来た者どもの入れ知恵によることではあってはならん!!」

 

 音を立てて、手の中のワイングラスが砕け散った。

 綺礼はギルガメッシュの内心を聞いても心が動かない。

 心配なのはワインとグラスの値段くらいだ。

 偉大な王の怒りに心動かないことは異常だと理解しつつも、それくらいしか思えなかった。

 ギルガメッシュは軽く息を吐いた後、首を回す。

 

「まあ、そう言うワケだ。あれは我の獲物と決めた。……あの兵士どもを上手く使ってやれ。そうすれば、貴様の魂の形も見えるやもな」

 

 ギルガメッシュは調子を取戻し不敵に笑った後、霊体化して姿を消した。

 散らばったグラスの欠片とこぼれたワインはそのままだった。

 

「……99号」

 

 綺礼は息を吐いた後、戦闘力が無いので自分の身の周りの世話を担当することになった奇形クローンを呼んだ。

 ほどなくして、99号が足を引きずりながらやってきた。

 

「はいはい。何か」

「客人が帰った。ここを片付けておいてくれ」

「イエッサー」

 

 敬礼をしてから掃除道具を取りに部屋を出ていく99号を見ながら、言峰綺礼は考える。

 

 彼らクローン・トルーパーは、この世界の常識と道徳に照らし合わせれば異常で嫌悪されるのも仕方のない存在だ。

 魔術師でさえも、その有り方には顔をしかめる。

 彼らのいた銀河でさえ、彼らを恐れ蔑む者たちはいた。

 

 しかし綺礼は、万民が美しいとする物を美しいと思えない破綻者の綺礼は……。

 

 

 パスを通じてクローン・トルーパーの物語を夢で垣間見るたびにこう思うのだ。

 

 何て、美しく、気高く、尊いのだと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

へヴィ「お前らはいいよなー、立派に戦死して。俺なんか新兵(シャイニー)のまま自爆して終わりだぜ」

ドロイドベイト「俺、ほとんどモブみたいな死に方だし……」

カタップ「お前らはまだいいよ。俺なんかウナギの餌だぜ?」

ファイブズ「長生きしてもなー。俺は陰謀に気付いたからって謀殺されたんだぞ」

エコー「なんか俺、すごい怖い形で『実は生きてました!』やった気がしたけど、そんなことなかったぜ!!(この二次では)」

99号「何にせよ、みんなとまたいっしょに戦えてうれしいよ」

 

 自分の死に様で盛り上がるのが持ちネタのクローン・トルーパー。

 




綺礼、時臣、臓硯の性格が違うのには理由を用意してあります。
詳しくは次回以降で。

クローン・トルーパー燃え。
99号は本物の勇者。異論は『断じて!』認めない。

いやマジな話、国や民や家族を守るために血を流し散っていった名もなき一般兵たちこそが、真の英雄だと言うのが作者の考えだったりします。

……どうせ人殺しだろって切嗣なら言うだろうし、究極の一とか目指しちゃうTYPE―MOON世界だとナンセンスなのかもしれないけど。

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