ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
「我が名は征服王イスカンダル! 此度の聖杯戦争に置いてはライダーのクラスを得て現界した!」
雷鳴を纏って黒い戦士と青い女騎士の戦いに割り込んできたのは、二頭の牛に引かれた戦車に乗った、堂々たる偉丈夫であった。
赤い髪と外套、古代の鎧、筋骨隆々とした肉体に、自信に満ち、それでいて人懐っこそうな顔。
正しく人々が思い描く英雄豪傑を絵にしたようだ。
「何を考えていやがりますか!? この馬鹿はーーッ!?」
……脇に小柄で貧相な少年がいるのが、いささかアンバランスではあるが。
「うぬらとは、聖杯を巡り相争うめぐり合わせだが……まずは問うておくことがある」
新たな乱入者に、そしてその乱入者が自ら秘匿すべき真名を明かしたことに、戦っていたヴェイダーとランサー。
それを隠れて見ていたあらゆるマスターが驚き動揺する。
「うぬら、一つ我が軍門に下り、聖杯を余に譲る気はないか? さすれば余は貴様らを朋友として遇し! 世界を征する快悦を共に分かち合う所存である!!」
さらに、豪放な笑みと共に放たれた言葉はサーヴァント、マスター、その両方の理解を超えていた。
やはりと言うか、最初に反応したのはヴェイダーとランサーだった。
「無論、断る。二君に仕える気はない」
こう言ったのヴェイダーではあるが、彼の言う『二君』とはもちろん切嗣とライダーのことではなく、皇帝とライダーのことだ。
「そもそも、貴様はそのような戯言を述べ立てるために我らの戦いを阻んだのか? だとすれば、騎士として許しがたい侮辱だ!」
ランサーも顔をしかめつつ拒否する。
にべもなく断る二騎に、ライダーは自分の親指と人差し指で輪を作って見せる。
「対応は応相談だが?」
「くどい!」
ランサーが吼え、ヴェイダーは無言で大きく息を吐く。
「むう……」
「重ねて言うなら……私も一人の王として一国を預かる身。いかに大王と言えど臣下に降るわけにはいかぬ」
「ほう! それほどの美貌で一国の王とな! さぞや、臣下も士気が高かったであろう!」
ランサーの言葉に面白そうに笑うライダー。
それをどう受け取ったのか、ランサーは形のいい眉を吊り上げる。
ヴェイダーとしては、様々な星の王や女王を見てきたので、別に珍しいこととも思わなかった。
第一、妻が女王だったし。
「……その女の一突きを、その身に浴びてみるか? ライダー!」
「こりゃあ交渉決裂か、むう、勿体ないなあ」
「ライダァアアア!!」
『あんな馬鹿に世界は一度征服されかけたのか……』
怒る女騎士、残念そうな騎手、絶叫する少年、呆れて思わず念話してくる切嗣。
そのいずれにも特に興味は無く、しかし油断なく一連の流れを眺めていたヴェイダーだが、新たな気配を察知した。
「だいたいお前は……」
『そうか、よりによって貴様か』
新たに聞こえた声に、ポカポカと征服王を叩いていた少年が固まる。
『いったい、何を思って私の聖遺物を盗み出したのかと思えば……まさか君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはねえ……ウェイバー・ベルベット君?』
どこか神経質そうなネットリとした声。ランサーのマスターだろう。
『君については、この私が特別に課外授業を受け持ってあげよう。魔術師同士が殺し合うと言う本当の意味……その恐怖と苦痛を、余すことなく教えてあげるよ。光栄に思いたまえ』
その男……ケイネス・エルメロイ・アーチボルトのネットリとした声に、ウェイバーは頭を抱えて震えあがる。
どうもこの二人、何らかの師弟であるようだ。
魔術師とはシスのように恐怖で弟子を鍛え、憎しみを煽るのだろうかとヴェイダーは考える。
だとすれば、この厳しい態度も弟子を鍛えるためにワザとやっているのだろう。
中々に堂の入った嫌われ役っぷり。見事な物だと感心する。
……これが素でやっているとは、露とも思っていなかった。
「おう、魔術師よ! さっするに貴様はこの坊主に成り変わって余のマスターになる腹だったらしいなあ? だとしたら片腹痛いのお! 余のマスターは、余と共に戦場を駆ける勇者でなければならぬ! 姿を晒す度胸もないような輩なぞ、役者不足も甚だしいぞ!! フハハハ!!」
ウェイバーの背を叩き高笑いする征服王。
しかしヴェイダーは、その意見には賛同しかねた。
切嗣の説明や短い間だがウェイバーを観察するに、どうも魔術師と言うのは『学者』であって『戦士』ではないと見受けられる。
そんな連中を前線に連れてきても、足手まといなだけだ。
そう言う意味では切嗣は『当たり』と言えるだろう。
……自分がガチガチの非戦闘員だった幼少期に、戦場に乱入したあげく敵艦を沈めたことを大きく棚に上げた思考だった。
「それで? 貴様は結局、我らを勧誘しに来ただけか?」
「おう、黒いの! 確かヴェイダーだったか? そう急くな! 他にも闇に紛れて覗き見ている者がおるようだからな! 貴様とランサーの戦いに引き寄せられたのが、まさか余だけではあるまい!!」
「ああ、霊体化してる奴らのことか。二体ほどいるようだが?」
何てことないように言うヴェイダーに、ランサーは目を見開き、ライダーはムウと唸る。
ついでにアイリスフィールと切嗣も唖然としていた。
「貴公、霊体化したサーヴァントの姿が見えるのか!?」
「『何となく、ここらへんにいる』と言う程度だがな。どのような姿形なのか、どの程度の強さなのかは分からぬ」
「フハハハ! こいつは芸達者な奴よ! さあ、出てくるがいい!! もう逃げ隠れは出来んぞ!!」
果たしてライダーの声に応えたのか、新たな気配にヴェイダーがそちらを向くと、眩いばかりの金色が目に入った。
「我を差し置いて王を称する不埒者が、一夜に二匹も湧くばかりか、王の姿を盗み見る痴れ者までもが湧いて出るとはな」
街灯の上に実体化したのは、金色の鎧を着た若い男だった。
金色の髪に赤い瞳の優男だが、ヴェイダーをして驚嘆させるほどの純粋で強烈なフォースを感じる。
その表情には信じがたいほどの傲慢さが滲んでいた。
「難癖つけられてもなあ……、イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが……」
「たわけが。真の王たる英雄は天上天下にこの我唯一人。後は有象無象の雑種に過ぎぬ!」
「そこまで言うなら、まずは名乗りを上げたらどうだ? 貴様も王たる者ならば、己の異名を憚りはすまい」
「問いを投げるか、雑種風情が… 王たるこの我に向けて! 我が拝謁の栄に浴して尚、この面貌を知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すら無い!」
「『そんなこと』はどうでもいい」
赤い王と黄金の王の間に割って入ったのは、シスの暗黒卿だった。
「貴様が……いや、貴様らが何者であろうとどうでもいい。全て倒すだけだ」
「ほう? 我の耳も聞き間違えとやらがあるようだ。貴様、この我を『どうでもいい』などと抜かしたか?」
「どうでもいい、と言った。貴様が何者であろうと、敵として現れたからには斬るだけだ。まして死人の、さらにその影に過ぎぬ貴様らに興味など湧かん」
黄金のサーヴァントの顔が不快と怒りに歪む。
「よくぞ抜かした雑種! ならば我が財宝を仰ぎ見て、同じ台詞を吐けるか試してやろう!」
その背後の空間に水面の波紋のような物が浮かび、槍と剣が顔を出す。
二振りとも、ランサーの槍には及ばずとも凄まじい存在感を持っている。
ヴェイダーはライトセイバーを構える。
殺気が高まる二人だが、そこに新たな影が踊り込んできた。
魔力が渦巻き、黒い鎧と黒い霧で全身を覆い隠した騎士が現れた。
「むう!?」
「今度は何だ!」
「あれは……バーサーカー!?」
呻く、ライダー、ヴェイダー、ランサー。
この戦場、乱入者多過ぎである。
そのサーヴァント……バーサーカーは、辺りを見回しアーチャーを見上げる……前にランサーを二度見した。
眼をこすり、三度見。
さらに頭を振ってからまさかの四度見である。
「え、えっと何でしょうか?」
「■■■■■ーーッッッ!!」
ジィーッとランサーを見つめていたバーサーカーだが、おもむろに天に向かって吠えた。
さらに四つん這いになったかと思うと地面を何度も殴りつける。
その間にも絶えず咆哮しているが、その声は慟哭のように聞こえる。
彼は言葉を発さぬバーサーカーではあるが、あえて訳するならば、こうなる。
「違うんだ! 王って言うのは小さいからいいんだ!! あの、『え? あれ男装って言い張るのは無理がね?』みたいな感じの容姿で、少年だと言い切る思い切りの良さと、絶妙なズレが素晴らしいんじゃないか!! それなのに、何だそのタワワな二つの果実は!? 私はどちらかと言えば人妻萌えだが、思わず新たな性癖に目覚めちゃいそうじゃないか!! いや、今はそんなことはどうでもよく、王なのにそんな女性的な姿がケシカランと言うことで、そんな姿だった日ににゃ、アルトリアたん萌え派の主権確定じゃあないか! アグラヴェインとかヤバいことになっちゃうでしょ!! 何が言いたいかと言うと、そんな『くっ殺せ!』とか言い出しそうな王を王と認めてなるものかぁあああ!! アーサー王燃えぇええええ!!」
……つまり、どうしようも無かった。
「え。えーと……」
「貴様に対する強い執着と動揺を感じるぞ。知り合いか?」
「むう、ランサーよ。お主が袖にした男ではないのか?」
「いえ、多分赤の他人かと。……と言うか、何故だかアレが知り合いだと思いたくない」
動揺するランサーに、ヴェイダーとライダーが問う。
サーヴァント、マスター含め何とも言えない空気が場を支配した。
だが、次の瞬間、バーサーカーがランサーに向かってきた。
「ッ!」
咄嗟に後ろに跳ぶランサー。
バーサーカーは近くの街灯を力づくで引っこ抜くと、それを振り回す。
その間にも絶えず泣き喚くかのように吼え続けていた。
気のせいか、兜の目元から血涙が漏れている。
「何ともまあ……」
「征服王、アレには声を掛けんのか?」
「いや、アレはさすがの余も誘うのを躊躇う」
ヴェイダーが聞けば、難しい顔で腕を組む征服王。
かなり混沌としているが、戦闘は再開された。
さて、どう動こうかとヴェイダーが思考を回していると……。
「クッ!」
剣と槍が飛んできた。
咄嗟にフォースで自分を弾き飛ばす、名付けて『フォース緊急回避(ルーク命名)』で躱す。
地面に爆発を起こして突き刺さった剣槍は、先ほどあの黄金のサーヴァントが展開していた宝具に相違ない。
「我を無視するとは良い度胸だ!! その無礼、首でもって対価とせよ!!」
乱入者の濃さに忘れられていた、黄金のサーヴァントは無視された怒りに任せさらなる宝具を背後に展開する。その数、六。
「ば、馬鹿な!? あれだけの数の宝具を持ってるなんて!?」
常識破りの黄金のサーヴァントに悲鳴を上げるウェイバー。
征服王はとりあえず、成り行きを見守ることにしたのか動く気配がない。
ヴェイダーはすぐさま体勢を立て直すと、ライトセイバーを構える。
「せめて散り様で興じさせよ! 雑種!!」
「散るのは貴様だ。金ピカ」
射出される黄金のサーヴァントの宝具。
唸るヴェイダーの光刃。
こうして、多少情けない経緯とはいえ、シスの暗黒卿と黄金の王の戦いが始まったのだった。
サーヴァント五騎も集ってるせいか、倉庫戦がなかなか終わらない……。
そしてランスロットさん、ごめんなさい。