ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
日が暮れた頃、異変が起こった。
膨大な魔力が、冬木市を縦断する未遠川から発せられたのだ。
日本の河川としてはかなりの幅を誇るそこから、深い霧と共にゆっくりと巨大な物体が浮上した。
それは幾重にも折り重なった肉の触手が形作る、名状し難くも悍ましい異界の邪神像だ。
「これは、いったい……?」
川縁に最初に駆けつけたのは、愛馬ドゥン・スタリオンに乗った青い衣のランサーと、主たるケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。
目を見開くランサーだが、ケイネスは不愉快そうに眉を上げる。
「ふむ。おそらくはキャスターだろうな。あの悪趣味な姿、見間違えようはずもない」
「よう! ランサー!」
続いて、二頭立ての戦車、彼の宝具である
ウェイバーは少しケイネスを恐れているような素振りを見せるが、以前のように恐慌状態に陥ることはなかった。
当のケイネスは、そんなウェイバーに一つ鼻を鳴らしただけだった。
「征服王……!」
「待て待て! 今はそんな場合じゃなかろう。あんなのがおってはおちおち殺し合いもできゃせんわ! 今宵は一つ、共闘とゆかんか?」
槍を実態化させたランサーを、赤い外套の偉丈夫は理性的に諌める。
チラリとランサーが主を見れば、ケイネスは無言で小さく頷いた。
「いいだろう。決着はいずれ」
「応よ! ……さて問題はあやつらか」
女騎士の答えに快活に笑むライダーだが、空を見上げて少し難しい顔をした。
何機かの飛行機のような物体がこちらに向かって飛んでくる。
ヴェイダーの軍勢だ。
その内の一機が一同の近くに着陸したかと思うと、ハッチが開き白い装甲服の兵士たちが吐き出され、その後ろに、黒い黒いマントと装甲服のシスの暗黒卿と、アインツベルンの白い妖精のような美女、さらによれたスーツとコートの男が続く。
「よう、ヴェイダー! うぬらも来たか!」
「アレが見えんほど、目が悪くはないのでな。……で、あれはキャスターの呼び出した物か?」
「おそらくな。……呼び出しただけで、制御は出来ていないようだが。……なんと醜い」
豪放な様子のライダーにヴェイダーが平坦な調子で答えると、ケイネスは心底からの嫌悪感を滲ませて息を吐く。
彼にしてみれば、秘匿も制御も視野に入れていないのだろう巨大海魔は吐き気を催す物らしい。
「あれが上陸して人間を喰らい、魔力を自己生成するようになったら始末に負えないわ!」「それでも遠からず自壊するのは目に見えているが……被害は甚大な物になうだろうな」
アイリスフィールとケイネス、この場にいる中では最も魔術に詳しい者たちの言葉に、一同の表情がより険しくなる。
「というワケだ。ヴェイダー、ここは一つ手を組まんか?」
「仕方がない。今はあれを何とかする方が先だ」
ライダーの言葉に、黒衣の暗黒卿は頷くと傍に控える副官レックスに命令を飛ばす。
「デバステイターに連絡して増援部隊を呼べ。民間人を避難させ、川のこちら側と対岸、それに橋の上に兵を配置して奴の上陸を阻止せよ」
「サー、イエッサー!」
命令を受けた副官はキビキビとした動きで部下たちに命令を伝達する。
それを確認したヴェイダーは誰もいない場所に視線を向けた。
「……さて、出てこい。いるのは分かっているぞ」
「■■■■■■――!!」
視線の先に黒い霧が渦巻き、漆黒の騎士が実態化する。バーサーカーだ。
ヴェイダーは腰のライトセイバーを抜いて起動した。
他の者たちも得物を抜き、特にランサーは殺気と言っていいほどの警戒心を露わにする。
「待ってくれ! 俺たちも協力しにきたんだ!!」
しかしそこで川岸の坂をパーカー姿の青年が駆け下りてきた。
その姿を見とめたライダーが一同を代表して問う。
「お前は? バーサーカーのマスターと言ったところか?」
「ああ……間桐雁夜だ。初めまして」
無論、切嗣やケイネスは前もって集めた情報からバーサーカーのマスターが雁夜であろうと当たりを着けていたが、今は関係ないので黙っておく。
「それで、協力とのことだが……」
以前バーサーカーに追い回された経験のあるランサーは懐疑的な視線を漆黒の騎士に向けるが、狂戦士は以前と違い静かに佇んでいた。
みっともなく狂乱することなどなく、そうしているだけで迫力を感じさせる。
「俺のバーサーカーの力は、触れた物を自分の宝具に変える。あんたらの兵器と合わせれば、大きな戦力になるはずだ。……それとキャスターについて、重大な情報がある」
雁夜の説明に、一同の視線がヴェイダーとアイリスフィールに集まる。
確かに、帝国軍の兵器が強化できれば心強い。……それが自分たちに向かなければ、だが。
そうでなくとも、情報は欲しい。
「……いいだろう。申し出を受けよう。それで情報とは?」
「ありがとう。……キャスターのマスターはもう死んでいるはずなんだ」
明かされた情報に、一同はざわつく。
雁夜はキャスターのアジトに乗り込んだこと、そこでマスターである猟奇殺人鬼を殺したことを話した。
一応、時臣やクローン・トルーパーのことは伏せてだが。
「となると、今は本格的に暴走している状態か……」
「我々は時間を稼ぐだけでいいワケだな」
ケイネスと切嗣が冷静に言う。
魔力を供給するマスターを持たないサーヴァントの末路は消滅のみだ。
「情報、感謝する。レックス、ミスター・カリヤとバーサーカーを地上部隊と合流させてやれ。……仕掛けを忘れるな」
ヴェイダーの指示の最後の部分はレックスにしか聞こえない小さな声だった。
仕掛けとはつまり、何かあったら武器を爆破する用意だ。
「サー、イエッサー! アポー、案内してやれ」
敬礼したレックスは、近くのトルーパーに指示を出して雁夜とバーサーカーを本体に案内させた。
バーサーカーは大人しくその後に続く。
いったい何があったのだろうか?
まるで前と様子が違う。
「……さて、ランサーよ。このままでは奴らに良い所を全て持っていかれるぞ? それでもいいのか?」
「無論、不服です。かくなる上は、我が愛馬の足と我が槍技の冴えをお目に懸けましょう、マスター」
「では魅せてもらおうか。……
短いやり取り後、ランサーはドゥン・スタリオンを駆って巨大海魔へと向かっていった。
「では余も行くとしよう。小僧、しっかり掴まっておれ」
「あ、ああ……」
戦車の手綱を振ろうとしたライダーだが、そこでよれたコートとスーツの男……衛宮切嗣がこちらを見ていることに気が付いた。
「うぬは……どうした? 何か用か?」
「……僕は英雄が嫌いだ。いや、憎んでいると言ってもいい」
「な!? こんな時に何言って……!」
「待て、坊主」
この場に置いてなお敵意を向けてくる切嗣に顔をしかめるウェイバーだが、当のライダーに諌められる。
切嗣はジッと試すような顔で見下ろしてくる英雄に睨んだ。
「僕が英雄に気を許すことは生涯ないだろう。だが……あんたの兵とクローンたちを、悪く言ったことは、謝る。……悪かった」
拗ねた子供のような、謝罪とも言えない謝罪。
しかし征服王イスカンダルはその言葉から、目の前の男が何か掴んだことを察し、人好きのする笑顔になる。
「フハハハ! 良いわ良いわ! 言ったであろう、貴様の弁にも一理あると! 余と貴様は相容れぬ。それで良いのよ! フハハハハ!」
上機嫌なイスカンダルは、困惑するウェイバー諸共、戦車で空へと舞い上がっていった。
それを見届けたヴェイダーは空を見やる。
シャトルや輸送船が、AT-STや四足歩行の巨大な戦象の如き兵器、AT-ATを投下している。
川縁ではストーム・トルーパーたちが人々を何とか避難させようとしているが、何せあんまりにも現実感に欠けるので上手くいっていないようだ。
その光景に、もう誰もツッコマない。感覚が麻痺し始めているようだ。
さらにフォースを通じて、少し離れた空に奇妙な物体が浮かんでいるのを感じ取った。
金ピカで宇宙船のようなそれに、あのアーチャーが乗っているのを感じる。
すぐ傍には感じたことのない気配。アーチャーのマスターだろう。
彼らに動く気配はない。
あの黄金の王が他と歩調を合わせるなど有り得ないだろう。
「ヴェイダー卿!」
そこにレックスが声をかけてきた。
マスクの下でニヤリと笑っている顔が見えた気がした。
「行くんでしょう?
顎で空を指すと、球体状の本体を二枚のソーラーパネルが挟み込んでいるという特異な形状の戦闘機が何機か飛んでくるのが見えた。その内の一機が近くに着陸する。
これは他の物と違ってソーラーパネルがコの字型になっており、本体も前後に長い楕円球状で、上部にはアストロメイク・ドロイドのR2-D2が当然とばかりに収まっていた。
これこそは帝国軍で採用されている宇宙戦闘機TIEファイターの発展系である、TIEアドヴァンストx1、それをヴェイダーが趣味と育児ストレスの発散を兼ねて魔改造しまくった専用機『エイザー・エンジェルⅡ世』である。
具体的には、
エンジン回りの大胆な改修による大気圏内でのスピードのアップ。
レーザー・キャノンの威力の上昇。
アストロメイク・ドロイドの収納スペースの増設。
チャイルドシートの設置。
などなど、もはや別物と言っていいまでに改造されていた。
この改造にヴェイダーが贔屓にしている元ジェダイマスターの技術者が関わっているという噂があるが、定かではない。
閑話休題。
「ありがとう、レックス。では、この場は任せた」
「サー、イエッサー!」
シスの暗黒卿は副官に礼を言うと颯爽と宇宙戦闘機に乗り込み、操縦席に着くと操縦桿を握る。
「R2、今回も頼むぞ」
長年の相棒は、ピキャピキャと電子音でやる気を漲らせているのを表現する。
マスクの下でフッと笑むと、ヴェイダーはTIEを発進させた。
「大丈夫かしら、彼……騎乗スキルが高いワケでもないのに」
空に舞い上がる宇宙戦闘機を見上げながら、アイリスフィールは不安げに呟いた。
それを聞いたレックスは信じられない物を見たという顔をした。
「何言ってるんですか? あの人は銀河最強のパイロットですよ?」
どうも、お久し振りです。
エピソード8ショックから立ち直るのに時間がかかってしまいました。
それはともかく、ハン・ソロ楽しみですね。
もう、それだけが希望です(大げさ)