ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
夕日の差し込む部屋の中、ダース・ヴェイダーと切嗣はお互いに黙りこくっていた。
やがて、ヴェイダーの方が先に口を開いた。
「……アリマゴ島、シャーレイ、ナタリア」
短い単語の羅列だったが、切嗣はピクリと眉を動かした。
ヴェイダーは深く息を吐く。
「やはり……か。キリツグ、お前の過去を見た。お前も見たのだろう? 私の過去を」
切嗣は答えず、深く頭を垂れる。
その様子に、ヴェイダーは困ったような声を出した。
「あれだけのことがあったのだ。ああいう考えを持つのも、仕方ないことだと思う」
「……同情はよしてくれ。言えばいいだろう、空回りしてばかりの愚かな男だと! 自分勝手な男だと、罵ればいいだろう!」
絞り出すように吐かれた声は、やがてやり場のない怒りを含んだ大声に変わった。
「愚かというなら、私も愚かだ。傲慢さと独りよがりな思いこみで、このザマだ」
「君と僕だとまるで違う! 君は、君はいつだって愛する者のために動いていた。あれほどの憎しみを、捨てることさえできた。……僕には出来ない。どれほど独りよがりだと分かっていても、勝手な思い込みだと自覚できても、それでも……願いを捨てることができない……」
大声は消え入るような慟哭になる。
ヴェイダーは、切嗣の肩に優しく手を置いた。
「キリツグ……お前は私が何か、特別なことをしたと思っているようだが……そんなことはないんだ。あの時、ただ私はルークとレイヤをこの手に抱いて、自覚したんだ。自分が父親になったのだと。もう、自分の都合で周りを振り回すばかりの時間は終わったのだと」
その言葉に、切嗣は自然とアイリスフィールとイリヤスフィールのことを思い浮かべた。
愛する妻と、娘。
衛宮切嗣の、家族。
「自分を捨て、大義のために生きる。それを否定するつもりはない。
己をシステムとして、それに徹するのもまた、一つの選択肢なのだろう。
武であれ学であれ、一つの目的のために他の全てを削ぎ落す生き方は、きっと美しいのだろう。
……しかし『我々』にはできない」
静かに、ヴェイダー……我武者羅に愛に生きていきたアナキン・スカイウォーカーは語る。
「……結局は、僕も君も一人の男にすぎない、ということか」
「世界を救う前に、家族も救えないくらいのな」
苦み走った笑みを漏らす切嗣に、ヴェイダーも悲しげな声を出す。
「……かつて、ある男に聞いたことがある。『星をそこの住人ごと吹き飛ばせば平和が来るのなら、そうするのか?』と」
「ウィルハフ・ターキンか」
「見たのか。……なら答えは知っているのだろう?」
切嗣は頷いた。
恐るべき冷徹な軍略家、ウィルハフ・ターキン。
切嗣のような『ロボットのふりをする人間』でも、あるいは何処かの誰かのように『人間のふりをするロボット』でもない、『ロボットの冷徹さと人間の柔軟さを併せ持った怪物』。
彼は、自分の信じる秩序のためなら、星を破壊することすら、厭わないだろう。
「実はその話には続きがあってな。……随分と後になって尋ねたのだ。『ならば、吹き飛ばす星がお前の故郷でも、躊躇わずやれるのか』とな。……YESと答えたが、それでも彼は僅かにだが逡巡した」
切嗣の顔が驚きの色に染まるのを確認したヴェイダーは、言葉を続ける。
「ターキンのような男でさえ、故郷への情を捨てきることは出来んのだ。増して我々が、情を捨て去ることなど出来るはずもない」
結局、彼らはあまりにも普通過ぎた。
例えばアーサー王のように、あるいは征服王イスカンダルのように、そして多くの魔術師や武人たちのように生きるには、彼らは情が深すぎた。
「だが……僕の手は、もう血に染まっている。こんな手でイリヤを抱く資格が……」
「資格の問題ではないだろう。……お前が、どうしたいかだ」
「………………」
グッと、切嗣は両の拳を握り締めた。
どうしたいかなど、もう決まっていた。
「イリヤを、アイリを、助けたい。……正義の味方で、なくてもいい。僕は妻と娘の味方でありたい」
その答えに、ヴェイダーはマスクの下で口角を上げた。
「では切嗣……取り引きしよう。知っての通り、私とルークは聖杯に縛られている。私たちが自由になる方法を探すことに協力してもらうぞ」
そして、切嗣に向かって右手を差し出した。
「代わりに、アイリスフィールが死なないで済む方法を探す。そしてイリヤスフィールを救出する」
「そう、都合よくいくかい?」
「いかせる。何、銀河は広いのだ。知恵を借りられそうな相手にもいくらか当てがある」
黒い布に包まれた手を見つめながら、切嗣はフッと笑む。
取り引きとは言うが、実際には善意を向けられることに慣れていない切嗣のために、そう言っているに過ぎない。
不器用な気遣いに、自然と笑みも浮かぶ。
そして切嗣はヴェイダーの手を握り立ち上がった。
「いいだろう。取り引き成立だ」
「ああ、よろしく頼むぞ。……マスター」
その時、切嗣はシスの暗黒卿のマスクの裏に、あのアナキン・スカイウォーカーの顔を見た気がしたのだった。
「ところでヴェイダー、ルークが四歳だとしたら、君はいったい何歳なんだ?」
「今年で26になる」
(まさかの年下……!)
* * *
何処か闇の中。
「龍之介……」
一人の男が、地面に蹲るようにしてすすり泣いていた。
黒を基調としたローブに、魚類が如き目の飛び出た異相。
男……キャスターの前には、異様な物体があった。
一言で表現するなら、肉の塊。
人間のパーツと多足類のような触手が突き出た肉団子。
海魔と呼ばれる異界の怪物と人間を、無理矢理混ぜ合わせ、捏ね繰り回して、球状にしたようなナニカ。
人間の顔のように見える部分から呻き声を漏らすそれは、かつて雨生龍之介と呼ばれた殺人鬼の成れの果てだった。
遠坂時臣により焼殺されたかに見えた龍之介だが、辛うじて生きており、キャスターの邪法によって海魔と融合されたことで生き延びたのだ。
熱と酸欠により脳はほとんど機能しておらず、本当に生きている『だけ』だが……それでも死んではいなかった。
「龍之介……待っていてください」
すすり泣いていたキャスターは立ち上がると、決意に満ちた顔でその場を後にした。
彼の望みである、聖処女……ジャンヌ・ダルクの復活はすでに叶い、聖杯への願いはなかったが……。
「今は違います。龍之介、あなたの復活を、聖杯に願いましょう」
往年の……かつて故国を救うべく聖処女の隣で戦っていた時のように、キャスター・ジル・ド・レエは戦場へと向かう。
願いを叶えるためには、全てのサーヴァントを……彼がジャンヌであると思い込んでいるランサーをも倒さねばならぬことに、彼は気付いていなかった……あるいは無視していた。
そして、果たしてその願いが、命の意味を求め死に焦がれていた雨生龍之介という男のためになるかは、誰にも分からなかった。
何で更新遅れたのかって?
………………察していただきたい。
なお、最後のジェダイのネタバレはどうかお控えください。