ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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またしても続いちゃいました。


まるで駄目なお父さんズ

「よーし! 今日こそは絶対に負けないからねー!」

 

 アインツベルンの城を囲む森で、イリヤスフィールは胡桃の冬芽を探していた。

 普段なら父である切嗣も共に探すのだが……しかし、ここ最近は事情が違った。

 

「イリヤー! くるみ見つけたよー! ボクが一番だい!」

「ええー、またルークが見つけたのー!? 早すぎるよー!」

「えへへ、これぐらい簡単だよ!」

「むー……よーし、次は私が見つけるからねー!」

 

 先日召喚したサーヴァント、セイヴァーことルークがイリヤとそれは仲良さげに雪景色を駆けまわっている。

 普通なら微笑ましい光景なのだろうが、切嗣からしてみれば英霊などと言う碌でもない男が可愛い可愛い娘に迫っている図にしか見えない。

 それでも、娘が喜んでいるのは事実なので何も言えない。

 

 故に木の陰から能面のような無表情のまま死んだ魚のような目で二人を覗き見ることしかできないのだった。

 

  *  *  *

 

「……………」

 

 窓の傍で愛息子と切嗣の娘が遊んでいるのを……ついでにまるで駄目なお父さんオーラ全開の切嗣……ヴェイダーは腕を組んで眺めていた。

 聖杯戦争についての『説明』を受けたヴェイダーだったが、その内容はとても受け入れることは出来ない物だった。

 

 曰く、あらゆる時代、あらゆる国の英霊を七騎のサーヴァントとして召喚、使役して行う殺し合い。

 曰く、そうして最後の一人に与えられる聖杯は、あらゆる願いを叶えることが出来る。

 曰く、その聖杯を使えば自分とルークは元いた場所に帰ることが出来るかも知れない……これが自分たち親子が戦争に参加するメリットだ。

 

 ……馬鹿馬鹿しい話だ。

 

 切嗣は、嘘は言っていないのだろう。

 だが、全ての情報を吐き出してもいない。

 限定的に情報を開示して、意図的にこちらに勘違いを起こさせようとしている。

 切嗣とて、ヴェイダーが信用するとは思っていまい。

 その証拠に令呪によってルークが三回……すでに一度使ったので後二回……まで切嗣に絶対服従であり、その気になれば自害させることも出来るし、ヴェイダーがそれを阻止したとしてもその時は別の手で確実にルークを殺すと仄めかしていた。

 

 フォースの暗黒面の源ある怒りや憎悪が身内で膨れ上がっていくのを自覚しながらも、ヴェイダーは感情の暴発を抑え込んでいた。

 

 ……相手が真実を語らないのなら、こちらも全ての手札を晒す必要はない。

 

「何を見ているの?」

 

 と、アイリスフィールが隣に立った。

 ヴェイダーはそちらを向かずに答える。

 

「別に。息子の様子を見ていただけだ」

「あらあら……」

 

 微笑むアイリスフィール。

 外の夫と娘を見る視線は、慈しみに溢れていた。

 

 受け入れ難いのは、彼女のこともある。

 

 聖杯の力を使って、世界を救済したい。

 

 それが衛宮切嗣とアイリスフィール・フォン・アインツベルンの願いだ。

 その願い自体に、ヴェイダーはとやかく言うつもりはない。言えるほど立派な人間ではない。恐らく切嗣にとって、その願いは呪いにも似た大願であり、諦めるという選択肢さえないのだろう。

 だが自分と息子が巻き込まれた以上、どれだけ高尚な願いだろうと、切嗣がどれだけ切実に真摯に願っていようと関係ない。

 

 何より……その願いのために妻を犠牲にしようと言うのが、許しがたい。

 

 『小聖杯』なる存在であるアイリスフィールは、脱落したサーヴェントの魂の受け皿となり、やがて壊れる。

 

 なぜ、愛する家族を贄にしようとする?

 全身の火傷が、失った四肢が、傷ついた魂が痛む。

 

 無言だが、僅かに呼吸音が早くなったヴェイダーに、アイリスフィールは心配そうに声をかける。

 

「大丈夫? ヴェイダー」

「……何でもない、少し城の外を歩いてくる」

 

 身を翻し、ヴェイダーは部屋の外へと出ていった。

 

  *  *  *

 

 ヴェイダーがここまでの情報を得ることが出来たのは、切嗣にとっては正しく誤算であった。

 

 切嗣とアイリスフィールは、確固たる意思を持っている。

 アハト翁ことユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンも頑迷で視野が狭いが意思は強い。

 しかし……他のホムンクルスはその限りではない。

 そもそもホムンクルスとは意志薄弱な存在だ。

 故にヴェイダーはフォースの力の一端たるマインドトリックを用いて、容易く情報収集が可能だった。

 

 結果として分かったのは聖杯戦争自体が第三魔法なる物の実現、あるいは『根源』への到達を目的とした儀式であり、聖杯が願いを叶えるのはその副産物に過ぎないと言うことだ。

 さらに聖杯は一つの願いしか叶えられない上に『根源』とやらに至るにはサーヴァント七騎分の魂が必要なため、勝ち残ったサーヴァントは十中八九マスターによって自害を命じられることになる……とんだ出来レースである。

 

 そしてもう一つの誤算は、ヴェイダーとルークの親子が元いた場所に帰る手段がないと思い込んでしまった……そうなるようにヴェイダーが仕向けた……ことだった。

 

 ヴェイダーは城外に出ると、周囲に人の気配と盗聴器の類がないことを確認した。

 フッと息を吐いてから……実際に漏れた音は例によってコーホーだったが……手に持った機械を作動させた。

 

『ア…キ…! アナ…ン! 聞こ…るか?』

「オビ=ワン。聞こえている」

 

 機械から投射されたのは、白い髪と髭の老人だった。

 東洋の着物とも西洋のローブとも付かない衣装を着たその老人は、ホッとした様子だ。

 

『アナキン! 突然消えたから心配したぞ! 状況はどうなっているんだ?』

「落ち着いてくださいオビ=ワン。……こちらは今のところ無事です。ルークも発見しました」

『何だって!? いったいどう言うことなんだ?』

「これから説明します」

 

  *  *  *

 

『ふむ。……ではその場所は、未発見の星系だと言うんだな?』

「ええ。現地の呼称では地球と言うのだそうです」

『ううむ……しかし死者を呼び出して争わせるとは、何と言う恐ろしい技だ。死者への敬意と言う物がないのか?』

「シスにも、そのような技はありません。件の聖杯戦争ですが息子に戦わせるワケにもいかないので、私が参加すると言う条件を飲ませました。向こうも最初からそのつもりだったのでしょう。アッサリ受け入れましたよ」

『アナキン、お前はまた勝手に……いや、今は議論の時ではないな。とにかく、そちらへ向かおう。この通信を辿れば、その星に行きつけるはずだ。いずれ、そのフユキと言う街で落ち合おう』

「はい、では彼の地で」

 

 通信を切ろうとしたヴェイダーだったが、それまで真面目だったオビ=ワンの雰囲気が少し砕けたものになった。

 

『あまり無茶はするなよ。……レイアが心配するからな』

 

 レイアの名が出ると、ヴェイダーの纏う空気が悲しげな物になった。

 オルデラーンのベイル・オーガナ議員に預けてきた愛娘のことを思うと、寂しい気分になる。

 

「もちろんです。……私の目的はただ一つ。ルークを無事に連れて帰ることですから」

 

  *  *  *

 

 通信を終えたヴェイダーはマスクの下で一つ息を吐いた。

 まったくオビ=ワン・ケノービはいつまでも自分を弟子扱いする。

 誤解と憎しみから袂を分かち、息子と娘をきっかけに和解して、お互いの立場から距離を置きつつも親交のあるあのジェダイマスターにとって、自分は未だ『手のかかる弟分』なのだろう。

 しかし、悪い気はしない。

 ジェダイとシスがそんな関係で良いのかと先人たちが文句を言ってきそうだが、ジェダイの長老たるヨーダとシス・マスターである皇帝からして茶飲み友達みたいな間柄だから、もうどうでもいいことだろう。

 

  *  *  *

 

「パパー!」

 

 さて城に戻ろうと歩いていたヴェイダーの足にルークが抱きついてきた。

 何故だか泣いている。

 

「ルーク、どうしたんだ?」

「キリツグが……わあああん!!」

 

 また、何かやらかしたのかあの死んだ目のオッサン。

 

「キリツグ、貴様何をした?」

 

 丁度本人が歩いてきたので問い詰めてみれば、切嗣は無表情に答えた。

 

「別に? 君の息子が反則で胡桃の新芽を見つけるから、イリヤにコツを教えただけさ」

「サワグルミも胡桃だって……」

 

 心なし得意げな切嗣と涙声のルークの言に、ヴェイダーはマスクの下でムッとする。

 

「それこそ、反則だろう」

「いやいや、君の息子がフォースとか言う反則をしたからお相子さ」

 

 大人気ないことを言い出す切嗣。

 子供の戦いに大人が首を突っ込むとは。

 

「フォースは反則ではない。ルークの持つ技能だ」

「いいや反則だね。でなければ、イリヤが負けるはずがない」

 

 結局の所、そこに帰結するらしい。

 本当にどうしようもない男だ。

 ルークが負けることなど有り得ない。そんなことも分からないのか。

 

 ……結局この二人、揃って親バカであった。

 

 

 

 

 

 

 ヴェイダー「そういえば、私はどうやってフユキに行くんだ?」

 切嗣「…………(どうしよう、こいつ凄く目立つし、霊体化できないし)」

 




クローン戦争が勃発して、ジェダイオーダーが解散してて、帝国が樹立してるけど、割と皆仲良しな謎時空。

ちなみにオビ=ワンは消えちゃったヴェイダーに変わり、エクゼキューターでピエット提督との二頭体制で臨時に指揮を取ってます。

アハト翁、普通の魔術師って資料と、アインツベルン城の制御AI的な何かの生体端末的なナンかっていう資料があるけど、どっちが正解なんですか?
教えて偉い人!

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