ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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誰得な時臣回、始まるよ~。


子供ってのは親の背を見て育つもんだ

 遠坂時臣は時折、父のことを思い出す。

 それなりの歳に差し掛かって自分を作った両親だが、無駄に厳しくすることも変に溺愛することもなく、真っ当に育ててくれたと思う。

 それに、自分に『魔術師』と『それ以外』の道のどちらかを選ばせてくれたのは、最大の贈り物だった。

 

 ……しかし、当時はまだ少年だった時臣が己の本質は魔術師であると自覚し、その道を選んだ時、父は悲しげな顔で言った。

 

『なあ、時臣。お前がその道を選んだことについて、文句を言う気はない。しかし、お前はあまりにも生真面目過ぎる。このままだと、お前は『魔術師』以外の価値観を切って捨てるようになってしまうのではと、それが心配でな』

 

 どういう意味か、と時臣は聞いた。

 魔術師として生きる以上、それは当然ではないか。

 すると父は苦笑しながら答えた。

 

『この世には無数の価値観があり……中には間違った物もあるが、正しい物もある。他の人々を凡俗など思うのは、唯の傲慢だ。常に余裕を持って優雅たれ……それが遠坂の家訓だが、真の余裕とは広い視野を持つということではないだろうか。……私はそれを、かつての友から学んだ』

 

 父が友と言う言葉を口にする時、それはかつて参戦した第三次聖杯戦争で召喚したサーヴァントのことを指した。

 共にあったのは数日の間だけだったそうだが、そのサーヴァントは僅かな期間で、まだ年若かった父に大きな影響を与えていった。

 典型的な魔術師だった父の人生観を、大きく変えてしまうほどに。

 

『時臣、周りを良く見て、他者を理解することを放棄しないでくれ。それは魔術師として、何より人としてお前の人生の役に立つはずだ』

 

 それも件のサーヴァントに教えてもらったことですか?

 時臣がそう問えば、父は頷いた。

 

『ああ。……彼はサーヴァントだったが、私にとってはある意味で(マスター)であると言っていい』

 

 ……第三次聖杯戦争において召喚され、父の生き方を変えてしまったサーヴァント。

 賢人と言うに相応しい知識と知性を持ち、それでいて寛容さと柔軟さを備えた、光の剣を振るう剣士。

 

 クラスはイレギュラークラスであるルーラー、その真名をクワイ=ガン・ジンと言う……。

 

  *  *  *

 

「……こんなものか」

 

 遠坂時臣は、屋敷の書斎で冬木ハイアットホテルでの事件の後始末に一段落着けて、一息吐く。

 多くの人間への暗示、書類上の辻褄合わせ、各方面への根回し……。

 言峰璃正神父の力を借りたとはいえ、大変な苦労だった。

 

「…………」

 

 時臣は高級な椅子に深く座り黙考する。

 この聖杯戦争はイレギュラーずくめだ。

 

 弟子である言峰綺礼が召喚したクローン・トルーパーに始まり、あのシスの暗黒卿なるサーヴァント。凶行を繰り返すキャスターによるハイアットホテル襲撃。さらに、あの正体不明の軍隊。

 あの部隊の装備のクローン・トルーパーたちとの類似性から見て、彼らと同じ場所から来たと考えていいだろう。

 すなわち、遠い銀河の彼方から。

 

 思わず、深く息を吐く。

 

 聖杯戦争は、魔術師と英霊の戦いのはずだったのに、あんなワケの分からない連中がしゃしゃり出てくるとは。

 

 いや、今はとにかく情報が欲しい。

 魔術師としての大願、根源の到達のために、何としてでも聖杯戦争を勝ち抜かねば。

 幸いにしてと言っていいのか、アーチャーが急に征服王主催の宴に行くと言いだし、さらにそれがアインツベルンの城で行われると言う。

 渡りに舟ではないが、貴重な情報が得られる好機である考え、クローンを送り込むことにした。

 これで、結果はどうあれ情報が得られるはずだ。

 

「相変わらず、つまらぬことを考えておるようだな」

 

 急に声をかけられてハッとする。

 目の前には、いつのまにやら自身のサーヴァントであるアーチャーが立っていた。

 戦闘装束である黄金の鎧ではなく、現代的かつ享楽的な恰好だ。

 

「失礼いたしました。御身がいらっしゃっているとは気付かず……」

「よい」

 

 慌てて……しかし、それを表に出さずに立ち上がって完璧に一礼すれば、アーチャー……その名も高き英雄王ギルガメッシュは鷹揚に頷いた。

 

「しかし、あのような害虫どもが湧いていると言うに、聖杯戦争のことを考えているとは、余裕よな」

 

 ギルガメッシュの言う所の害虫とは、あのダース・ヴェイダーたちのことに他ならない。

 

「無論。例えあのイレギュラーが何者であれ、またそれで世がどう動くのであれ、聖杯によって根源に至るのは、魔術師としての本懐ですので」

「……ほう? それは真か」

「は、それこそ遠坂の、そして魔術師としての私めの悲願にございます」

 

 正直に、聖杯戦争に臨む理由を述べる時臣。

 この英雄王には、下手な嘘は通用しない。

 英雄王が、根源に露ほどの興味も無いことは分かっていた。

 尊敬はしているが、それも所詮は絵画に対するような敬意。いざと言う時は、躊躇いなく切り捨てられる。

 遠坂時臣とはそういう男だと自負していた。

 

「……魔術師として、か」

「はい。私のことを貴族などと言う輩もおりますが、私の本質はあくまで魔術師に他なりません」

「ほう?」

 

 そこで、ギルガメッシュはニヤリと顔を歪めた。

 何となく、玩具を見つけた子供のような笑みだと時臣は感じた。

 

「……ときに時臣、貴様には娘が二人いるそうだな。可愛い盛りだろう」

「私には娘は一人しかいません」

「ああ、そうだったな。これも綺礼から聞いたが、一人は養子に出したとか。……確か間桐、だったか。そう、あのバーサーカーのマスターであろうな。養子に出したとあれば、もはや身内のような物。身内と戦うとは、さぞや辛かろうな」

 

 言っていることとは裏腹に、英雄王の表情は楽しそうだ。

 多少、ムッとする物を感じる時臣だが、それを顔には出さない。

 

「辛いなどと。魔術師同士、目的が違えば戦うことは覚悟の上です。それに他の家に養子に出した以上、最早あの子は間桐の子。私の身内とは言えません」

「なるほどなるほど、貴様は自分の血を引く子を赤の他人と呼ぶか……」

 

 英雄王は、無遠慮に……この男の思考に元々遠慮の文字は無いが……時臣の机の上に乗った写真立てを手に取る。

 写真に写っているのは、妻の葵、第一子の凛…………そして第二子の桜の三人だった。

 海外と思しい場所で、三人一緒に笑っている。

 家族で海外旅行に行ったおりに、機械音痴の時臣が四苦八苦しながら、それでも撮った家族の写真だ。

 

「後生大事に、家族の写真を机に飾っている男の台詞とは思えんよなあ」

 

 そろそろ、顔を平静に保つのも限界に近いが、それでも時臣はありったけの理性を掻き集めた。

 この気まぐれな王は、自分が礼儀を欠けば容易く命を奪っていくだろうからだ。

 

「我が娘はどちらも素晴らしい魔術の才を持っていました。それを最大限生かすためには、片方を養子に出すことが最適だったのです。幸いにして間桐の家は数百年続く名家。間桐の家の子になることは、あの子の幸せでもありました。」

「ほう? いずれたるや、魔術師同士として相争うことになってもか?」

「…………無論です」

 

 やや間を置いてから、時臣は答えた。

 英雄王はいよいよニヤニヤ笑いを大きくする。

 

「ああ、時臣よ。まったく貴様は愉快な道化よな。魔術師と一人の親としての二つの価値観の間で葛藤する態は、見ていて面白いぞ」

「…………!」

「くくく、まあ悩むのは人の特権ぞ。いつまでも答えを出せんのは愚かだがな。……では我は宴に行ってくる」

 

 言葉に詰まる時臣を少し満足げに眺めたギルガメッシュは、霊体化して消えた。

 時臣はドッと疲れたように椅子に座り込む。

 

 ……英雄王の言っていたことは、当たっていた。

 

 他者の価値観を理解するという父の教えを忠実に守っていた結果、時臣は一般人に近しい感覚を手に入れていた。

 余人からは胎を目当てに結婚したと思われている……それも正しいが……妻や、もちろん娘のことも心から愛している。

 

 しかし、それが果たして幸福なこととは時臣には思えなかった。

 

 桜を養子に出したのは、封印指定から守るためだ。

 しかし、桜のいない家を寂しく感じる。

 

 魔術師として娘たちが殺し合うことになろうとも、類稀なる才覚を腐らせ凡俗に堕ちるよりは遥かにマシだ。

 そう思わねばならないのに、心が痛む。

 

 表面上は、魔術師にして貴族たる対面を完璧に保っているが、相反する二つの価値観は時臣に果てない葛藤をもたらしていた。

 

 ……いいや、私は魔術師だ。

 遠坂の悲願のため聖杯を手に入れ、根源に至る。

 そのために、一般人の価値観などと言う心の贅肉は捨てるとしよう。

 

 あくまでも魔術師であろうと、時臣は決意を新たにする。

 まずは、アインツベルンの城で行われる宴を利用して、情報を得なければ。

 

「失礼いたします。トキオミ様」

 

 その時、一体のクローン・トルーパーが実体化した。

 時臣の身辺を警護すべく遠坂邸に常駐している数人のクローン。その隊長格らしい個体だ。

 白地に黄色の模様が入ったアーマーを着て、ヘルメットには青い異星人の子供の顔が描かれている。

 名前は確か……ワクサー、だったろうか。

 

「ノックも無しに何の用かね?」

「急ぎお耳に入れたいことが」

「ふむ、言いたまえ」

 

 すでに余裕を取り戻していた時臣は、優雅な態度で跪いているトルーパーにたずねる。

 ワクサーは、少し葛藤するような間を置いてから答えた。

 

「ご息女が、キャスターのマスターと思しい者に捕らえられました」

 

  *  *  *

 

 街に展開していたクローンの一人が、遠坂凛を見つけたのは偶然だった。

 薄暗い路地裏をうろつく主の上官の娘に、さてどうしようかと思っていたクローン……名をオズだが、そこで紫のジャケットを着た軽薄そうな若い男が数人の幼い少年少女を地下のバーに連れ込むのを目撃した。

 とりあえず、この見るからに怪しい紫ジャケットの男については後で警察に匿名通報するとして、問題は遠坂凛の方である。

 一般人を装って接触しようとした時、何と遠坂凛は紫ジャケットの男と子供たちを追ってバーに入っていったのだ。

 

 これはマズイとすぐに追ったオズだったが、バーではちょうど紫ジャケットの男が遠坂凛に異常な笑みを浮かべているところだった。

 

 オズはすぐさま実態化し、ブラスター・ライフルを構えて遠坂凛と子供たちを解放するように男を脅すが、男は驚きこそしたものの恐怖はせず、それどころかヘラヘラと笑いながらオズのアーマーやブラスターを褒めてくる。

 オズが一発威嚇射撃をしても、超COOLとか何とか笑いながら言うばかりだ。

 

 埒が明かないと肉弾戦でぶちのめしてやろうとしたオズだが、そこへ背後から異様な気配を感じ振り向くと、そこには蛸とも海星ともつかない異形の怪物がいた。

 キャスターの召喚する海魔だ。

 

 オズは仲間に通信を飛ばすも、すでに何処からか這い出してきた何体もの海魔に取り囲まれ……。

 

  *  *  *

 

 遠坂時臣がワクサーから、凛が捕らえられたと仲間から通信があったと聞かされた時も余裕のある表情を保っていた。

 

「……これは我々の失態です。どうぞ、我々にご息女の救出をご命令ください」

 

 頭を床に擦りつけんばかりに深く下げるワクサー。

 確かにワクサーの言う通りだ。

 別にクローンの失態がどうとか言う話ではなく、凛の救出は彼らに任せた方が理に適っているというだけだ。

 

 現状でマスターである自分がこの結界で守られた屋敷を出るのは危険だし、これからアインツベルンの城で何が起こるか全くの未知数である以上、細かい情報を得つつ状況に対処していかねばならない。

 父の言いつけを守らない愚かな娘を救いに行く時間はないのだ。

 魔術師としての価値観が、そう言う。

 

 

 

 

 

 

 

「……すぐに案内してくれ」

 

 しかし気付いた時には、時臣は愛用の杖を手に遠坂邸を後にしていた。

 

  *  *  *

 

「ハアッ……ハアッ……」

 

 夜の街の明かりも届かない路地裏に、一人の男が壁に寄り掛かるようにして座り込んでいた。

 クローン・トルーパーのオズである。

 仲間に通信をした後、何とかして海魔の包囲網を抜け出したが、すでに彼は死に体だった。

 

 全身をあちこち食い千切られ、特に脇腹には大穴が開いている。

 アーマーが損傷し、仲間に通信することも出来ない。

 

「ああ、畜生……碌でもない死に方だな……」

 

 血液と共に、オズは後悔を吐く。

 どうせ死ぬなら戦場で……いや、それよりも遠坂凛や子供たちを救えないことが心残りだった。

 目を瞑ろうとするオズだが、建物の陰から蛸のような触手が現れていよいよ生存を諦める。

 

「へへ……来いよ、このラスターの出来損ないめ……バーベキューにしてやる……!」

 

 しかし、どうせならとブラスターを何とか持ち上げ、海魔と刺し違えようとする。

 

 ……が、海魔が陰から現れた瞬間、何処からか飛来した飛蝗に似た虫の群れが海魔の体に群がる。

 飛蝗は青黒い体色と複数ある緑の目が特徴的で、大きさは人の頭ほどもある。

 鋭く力強い下顎を持った飛蝗に群がられ、海魔はあっという間に全身を食い千切られる。

 

「……よーし、もういいぞ。みんな御苦労さま」

 

 一欠片も残さずに海魔が食い尽くされると男性の声が路地裏に響き、飛蝗の群れは何処かに飛び去った。

 

「ッ! おい、あんた大丈夫か!?」

 

 飛蝗を操っていた男はオズに気付き慌てて駆け寄ってくるが、すでに意識が朦朧とし目が霞んでいるオズには、男のシルエットしか見えなかった。

 もう、腕に力が入らずブラスターを下ろしてしまっていたのは幸運だろうか。

 

「酷い怪我じゃないか!! ……でも、何だこの……鎧か、これ?」

「ゴホッ、ゴホッ……お、俺が何かなんてどう、でも……いい……! トオサカ……リン……に、危け、ん…が……!」

 

 薄れゆく意識の中で、オズは何とか言葉を出す。

 相手が何者でもいい、とにかく遠坂凛と子供たちの危険を伝えねば。

 

「何だって! 凛ちゃんに何があったんだ!!」

「この、チラシの、バー、た、頼む……早く、トオサ、カ…ト、キオ……ミ……さま、に……伝え…て……こ、ども………たち…………助け……!」

 

 震える手で、さっきのバーからくすねていたチラシを差し出す。

 チラシには、もちろんチラシの住所が地図付きで書かれていた。

 

「安心しろ、俺は時臣や凛ちゃんの知り合いだ。俺が凛ちゃんを助ける!! ……時臣にも伝える!」

 

 男は片膝を突いてオズを助け起こしながら、その言葉に力強く頷く。

 オズはニッコリと笑って……力尽きた。

 全身から力が抜けると同時に、その身体が消滅する。

 

「サーヴァント、だったのか……」

 

 何もなくなった腕の中を見ながら茫然と呟く男だが、すぐに頭を振ってチラシを拾って立ち上がり、懐から取り出した携帯電話を操作する。

 遠坂邸に電話をかけるが、しばらく待っても繋がらない。

 

「おいおい嘘だろ……! でろよ、時臣。頼むから……!」

 

 イライラと足踏みする男だが、電話はいつまでも繋がらない。留守番電話にもならない。

 

「クソッ! 留守電の使い方くらい覚えろよな、あのエセ貴族!!」

 

 携帯電話を切って懐にしまった男は、少しだけどうするか考えるが、それも本当に少しだけだった。

 

「凛ちゃん、無事でいてくれよ……!」

 

 オズの最後を看取った男……間桐雁夜は、知己である少女を救うべく、駆け出すのだった。




そげなワケで、実は第三次に参戦していたクワイ=ガン。
そのクワイ=ガンの影響で当時の遠坂当主の意識が変わり、その影響を受けた時臣の性格も原作とは変わっているワケです。

子は親の背を見て育つが故に、親が変われば子も変わる。そんな話でした。

で、ついでに雁夜おじさんが操ってるバッタはグルッチンというユージャン・ヴォングの生体兵器。
本来は宇宙船に搭載する魚雷のように使う兵器で、宇宙空間だろうがハイパースペースだろうが飛び回り、宇宙船も人間も喰ってしまうとかいう恐怖のバッタ。
これでも、原作に比べれば脅威度は格段に下がっています。

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