ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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祭りの後始末っていうか、後の祭りっていうか。
正直、前回の内容は、もっと怒られるかと思ってました。


隣の芝生は青く見えるもんだ

 聖杯問答が閉幕してより少し後、久宇舞弥は一人、城の廊下を歩いていた。

 問答の最中も狙撃銃を手に潜んでいた舞弥だが、あの……切嗣に対する英霊や他の者たちの態度は不愉快だった。

 なるほど、彼らの言うことにも一理ある。

 しかしだからと言って、あそこまで貶される謂れは……いや、それは舞弥には分からない。

 謂れや理由があるかなど、どうでもいい。自分は切嗣のために尽くすのみだから。

 

 だが、フォローは必要だろう。

 

 切嗣本人には、愛妻アイリスフィールが着いている。

 自分は他を当たるべきだろう。

 さしあたっては、特に切嗣に怒りを感じているのだろう、あのクローンからだ……。

 

「失礼、コマンダー・レックスは何処です?」

「ああ、ミス・マイヤ。コマンダーなら、あちらの部屋に。しかし、今はいかない方が……」

「すごく不機嫌でしたからね。俺たちに指示を出した後は籠りきりで……」

 

 城の中を巡回していたストーム・トルーパー二人に聞けば、そんな答えが返ってきた。

 やはり、怒り心頭らしい。

 二人に礼を言ってから、件の部屋に向かう。

 

「コマンダー、お話しがあります。……コマンダー?」

 

 ドアを叩くも返事がないので、ノブを回してみれば鍵が掛かっていなかった。

 

「失礼します。コマンダー、話が……」

 

 そのまま扉を開けると、レックスは椅子に座って窓の外を眺めていた。

 クローンの肩が震え、しゃくりあげる声が聞こえる。

 

「……泣いて、いるのですか?」

「ッ!」

 

 レックスは、慌てて立ち上がり涙を拭ってから舞弥の方を向いた。

 

「ああ、あんたか。何の用だ?」

「いえ……怒って、いるものと思っていたので」

 

 まさか、涙を流しているとは思わなかった。

 レックスは一つ息を吐く。

 

「怒ってたさ。あんな言い方されりゃあな。……だが、少ししたら悲しみの方が強くなってきた。一度の死別なら覚悟していた。……しかし、二度となるとな」

 

 どうやら、切嗣への怒りより再び散っていった兄弟たちを悼む心の方が強かったらしい。

 レックスは無表情な舞弥のことをどう思ったのか、笑顔を作る。

 

「いや、俺も歳かね。どうにも涙もろくなっていかん」

 

 そう言うレックスの(まなじり)には、まだ一滴涙が残っていた。

 

 舞弥は、ごく自然にレックスの顔に手を伸ばして指で涙を拭った。

 

「ッ!? お、おい……」

「……貴方は、泣けるのですね。怒り、慈しみ、そして悲しむ……私などより、よほど人間的だ」

 

 突然のことに面食らうレックスだが、やはり表情の無い舞弥の口から出たのは、羨望とも憧憬とも付かない言葉だった。

 舞弥はそのままクローン兵の顔を撫でた。

 

「皮肉ですね。私は人らしい心など持っていない。戦場で生き残るために、心は無いほうが良かった。……しかし貴方たちは、戦うために生み出されながら、人間よりずっと人間らしい」

 

 バツが悪げなレックスだが、舞弥の目を見て口を開く。

 

「……そんなことないさ。あんたは十分人間らしいよ。現にルークぼっちゃんに優しくしてくれたじゃないか」

「あれは……切嗣の命令です」

「それだけじゃないだろう。……今や過去がどうあれ、あんたは優しくなれる人だ」

 

 レックスは、自分の顔を触っていた舞弥の手を掴んでゆっくり降ろすと、彼女から視線を逸らす。

 

「あー……それとだ、そういう、アレは止めた方がいい。……男ってのはほら、馬鹿だからな。勘違いしちまう」

「……ああ、そうですね。失礼しました」

 

 舞弥は慌てることなく手を引っ込める。

 

「それとキリツグの奴は……まあ、ああいう奴もいるさ。好きになれるかはともかく、考え方なんか、色々だ。いちいち言ってたらキリが無い」

「大人ですね」

「妥協してるだけさ」

 

 不器用に、もう怒っていないと舞弥に伝えたレックスは、廊下に出て行った。

 その背を見ながら、舞弥は自分の口元に柔らかい微笑が浮かんでいることには気付かなかった。

 

  *  *  *

 

 言峰綺礼は、アジトにしている廃ビルの一部屋で、机に突っ伏していた。

 アイツベルンの城の中庭近くまで潜り込んでいた自分が、聖杯問答が終わった後どうやってここまで帰ってきたのかは、まったく憶えていなかった。

 

 分かるのは、自分が本当に無駄なことをしていたということだけだ。

 

 衛宮切嗣は……自分の同類などではなかった。答えなど、持ってはいなかった。

 英霊たちと切嗣の言い合い……と言っていいのだろうか、あれは……を聞いて、綺礼が感じたのは、衛宮切嗣というのは『普通』の男だということだった。

 人間らしい感情と感性を持った普通の男が、この世の不条理を『当たり前』と受け入れることが出来ずに足掻いている。

 そういうことだったのだ。

 

「あんな男のために……私はクローンたちを犠牲にしたのか……」

 

 もはや切嗣や自分への怒りも感じず、残ったのは徒労感だけだ。

 

 ……いや、心の中に、未だ罪悪感がしこりのように残っている。

 

 これは綺礼が今まで感じたことのない感覚で、非常に心地が悪かった。

 

「酒……」

 

 代行者時代の同業に曰く、こういう時には酒を飲むといいという。

 今まで酒で嫌なことを忘れられたことなど一度もないが、他にすることも思いつかない。

 机に置かれたワインの瓶を手に取ろうとする綺礼だが、それを誰かがヒョイと取り上げた。

 

「ヒデエ顔だ。敗北を酒で誤魔化すもんじゃないですぜ」

 

 顔を上げれば、皺くちゃの顔に痩せ細った体で、腰の曲がった老人が立っていた。

 

 奇形クローンの、99号だ。

 

 その姿を見とめて、綺礼は目を丸くする。

 

「99号?」

「はい。……どうやら、よっぽど酷い気分だったようで。まだパスが繋がってるのにも気付かないとは」

 

 ニヤリと笑う99号に言われて、綺礼はようやく自分とクローンたちとのパスが切れていないことを……クローンが聖杯戦争から脱落したワケではないことを理解した。

 クローン・トルーパーは全滅しない限り、綺礼の魔力を消費することで次の兵を補充できるイレギュラーなサーヴァント。

 一体でも残っているなら、それは脱落とは言えない。

 

「しかし、なぜ……」

「あなたはあの時、『全力で戦い、勝て』と命令された。儂らにとっての『全力』ってのは、次の戦いに備えることも含まれるんでさ。もともと儂は戦闘力が低いですしね」

 

 なるほど、と綺礼は裏表なく感心した。

 以前、師である遠坂時臣はクローン・トルーパーの一体をワザと英雄王に倒させることで、綺礼が聖杯戦争から脱落したと他のマスターに思い込ませようとした。

 それ自体は当のクローンの意見と英雄王の鶴の一声もあって未遂に終わったが、つまり、アインツベルンの城での戦闘はその、拡大版だったのだ。

 これで誰にも怪しまれることなく、綺礼とクローンたちは時臣の裏方に回れる。

 英雄王もクローンたちの狙いを見抜いたからこそ、あの場を機嫌良く退散したのだろう。

 そこで、99号は自分の胸を叩いた。

 

「今日勝てないなら、明日勝てばいい。明日勝てないなら、明後日勝てばいいんです。それが兵士の戦いです」

 

 99号の周りに、いつの間にか5人のクローンが集まっていた。

 エコー、ファイブス、へヴィ、カタップ、ドロイドベイト……ドミノ分隊と呼ばれる五人だ。

 いずれの顔も、次なる戦いへの闘志で燃えていた。

 綺礼は、理解は出来たものの納得が出来ずに愕然と呟く。

 

「お前は、お前たちは……まだ私の下で戦おうというのか? お前たちの同胞を、死地に送り込んだ男だぞ」

「どんな指揮官も、最初から名将だったワケじゃありません。敗北から学んで、名将になるんです」

「……私は」

 

 綺礼はふと内心を吐露した。

 それは、師である遠坂時臣にも、父、言峰璃正にも打ち明けたことのない内心だった。

 

「私は善より悪を愛する。人の不幸に喜びを感じ、人が美しいと思う物を醜く思う……そんな歪んだ人間だ。……お前たちが羨ましい。どうあれ、理由を与えられて生まれ、それを受け入れているお前たちが、たまらなく」

「そうですかい。……でも、儂にしてみりゃアンタの方が羨ましい。自分の生きる意味について悩めるってことは、自由だってことだ。歪んでるってんなら、クローンなんざ歪みの極致だ」

 

 綺礼は、再び驚愕した。

 このクローンは、異常者の自分を、外道の自分を、羨ましいと言ったのだ。

 ポンとマスターの肩に手を置き、99号は優しい顔になる。

 

「マスター、人間って奴は自分が持ってない物を持ってる奴が、すごく輝いて見えるもんさ。金を持ってる奴、家族のいる奴、頭のいい奴、顔のいい奴、力の強い奴……実際には、みんなそれぞれに悩みを抱えてる。……あんたの悩みがそう簡単に晴れるとも思えんが、とりあえず、ここにあんたを羨んでいる奴がいる。……そう考えれば、少しは楽にならんかね?」

 

 そんな馬鹿な……と言うことは出来なかった。

 実際、99号の話を聞いて綺麗は少しだけ……本当に少しだけ、心が軽くなった気がした。

 

「お、ちょっといい顔になりましたね。じゃあ、一杯どうぞ」

「敗北を酒で誤魔化すのは、良くないんじゃなかったか?」

「ですんでこれは、祝い酒です」

 

 99号はコップにワインを注ぎ、綺礼に差し出した。

 受け取った綺麗はそれを一口含む。

 

「……酒というのは、こうも味が変わる物なのだな」

 

 今まで飲んできたのと同じ種類のワインなのに、まるで違って感じる。

 遅ればせながら、綺礼が愉快な気分になってきたからだ。

 一山いくらのクローンたちが、並み居る英雄や魔術師を出し抜いてみせた。何とも、痛快なことではないか。

 

 ……それは、綺礼が求めてやまない人並みの感情の発露だったが、この時の彼はそれに気が付かなかった。

 

「そう言えば、師と連絡が取れんのだが、何か知らないか?」

「はい。実は向こうも色々と大変なことになってたんで。酒の肴の代わりにでも話すとしましょう」

「そうだな。……お前たちも飲むといい。持ってきた酒を開けろ、無礼講だ」

 

 結局、綺礼はその後酔い潰れるまでクローンたちと飲み明かし、師と父を驚かせ、英雄王を、どうせならそっちの宴にも参加したかったと不機嫌にさせることとなったのだった。

 




書いてて思った。

あれ? この作品のヒロイン、舞弥さんだっけ?(アイリさんは出番が少ないのに……)

いや、そもそもこの作品の主人公誰なんだ?
ルークか? ヴェイダーか? 切嗣か?

……つまり、この小説はそこさえ決めていない適当な小説です。

で、次回は時臣の話の予定。
これもう分かんねえな……。

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