ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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※注意:今回、アンチ・ヘイト成分が特に強い回となっております。ご注意ください。

それでも物語上必要な話と考えて、投稿した所存。


悲報:英雄王の腹筋、大崩壊

 六本の足のうち二本を破壊され、全体に槍を突き立てられてハリネズミのようになったAT-TEが倒れるのを最後にクローン兵たちが全滅したことを確認した征服王は、あえて傷ついた腕を掲げて勝鬨を上げる。

 主君に合わせ、生き残った勇士たちも鬨の声を上げた。その総数は、3分の2にまで減っていた。残っている者の多くも傷ついている。

 

 やがて固有結界が霧散し、マケドニアの軍勢も、砂漠も、まるで夢の一間のように霧散し、後には何も残らなかった。

 

 目撃者たちの心に刻まれた何かを除いては。

 

 ウェイバーは憧憬と羨望の籠った熱い瞳で、ライダーの背を見つめていた。

 

 ランサーは胸に手を当てて瞑目し、勇敢な兵士たちを悼んだ。

 

 一見して何も変わっていないように見えるケイネスだが、手の震えを隠せてはいなかった。

 

 不機嫌な様子を隠そうともしないアーチャーだが、この多弁な王が沈黙していることが、彼なりの追悼のようだった。

 

 自分と同じ作られた存在の戦いと死に、アイリスフィールは何か感じ入った様子で佇んでいた。

 

 ヴェイダーは無言で共和国式の敬礼を散っていった両軍の兵士たちに送った。

 オビ=ワンも、もちろんレックスも、ストームトルーパーたちも、偉大な英雄たちを敬礼でもって送り出す。

 

「…………くだらない」

 

 しかし、切嗣は表情を変えないまま吐き捨てた。

 自然とその場にいる全員の視線が切嗣に集まる。

 一番先に声を出したのはランサーだった。

 

「くだらないだと? 貴様は何を言っている」

 

 ランサーの問いに、しかし衛宮切嗣は答えない。

 それどころか、視界に入れようとすらしない。

 

「答えろ! 戦場に散っていった兵士たちが、くだらないだと!!」

「私も聞きたい。……どういう意味だ? キリツグ」

 

 吼えるランサーにヴェイダーが同調すると、ようやく切嗣は口を開いた。

 それはヴェイダーに向けられたもので、ランサーが眼中に入っていなかったのは明らかだった。

 

「戦いを美化する奴らには、反吐が出ると言う意味だ。……ようするに人殺ししか出来ない異常者どもが、勝手に殺しあっただけじゃないか。それがくだらなくないと言うなら、他に何がくだらないと言うんだ」

「貴様……!」

 

 怒気を発するランサーだが、切嗣は動じない。

 そして怒りを感じているのはランサーだけではなかった。

 

「……さすがに言い過ぎでは? 余人がどう言おうと、彼らは栄光ある勇者だ」

 

 レックスだ。

 当然ながら、兄弟たちを愚弄されて不愉快に思わないはずがない。

 しかし、兵士として努めて冷静に振る舞おうとしていた。

 

「勇者? 殺人鬼の間違いだろう。……ああ、あの兵士が言っていたな、兵士と殺人鬼は違うと。……僕に言わせれば、同じことだ」

 

 その物言いにレックスの怒気が静かに膨らみ、殺気の域に達する。

 あまりにも刺々しい事を言う夫に、アイリスフィールは心配そうに声をかける。

 

「切嗣? いったいどうしたの?」

「どうもしないさ」

 

 ……そんなはずがない。

 

 ルークを召喚したこと。

 ヴェイダーが現れたこと。

 最初は妄想と思っていた彼らの言が、オビ=ワンたちが現れたことで本当だと分かったこと。

 そのことで聖杯戦争の行く末が暗礁に乗り上げたこと。

 ……これらのことは、確実に衛宮切嗣から冷静さを奪っていた。

 さらに、切嗣が蛇蝎の如く嫌悪する英雄たちの王道を聞かされたことと、クローンたちの自ら望んで死地に赴く姿を見たこと。

 アサシンことクローン・トルーパーが脱落したことで……アイリスフィールの死が免れなくなったことで、限界を迎え爆発してしまったのだ。

 

「戦場に名誉だの誇りだのあるワケがない。あっちゃいけない。何故なら、戦場以上の地獄なんて有り得ないからだ!」

 

 段々と語気が強くなってくる切嗣にランサーは眉を吊り上げるが、ライダーとアーチャーは黙って聞いている。

 

「確かにその通りだ。しかし、なればこそ戦場で戦う者たちの栄光を否定することは許されない」

「栄光? 栄光だって? 聞いたかいアイリ? この英雄様は、戦場にも栄光があるんだとさ」

 

 切嗣は僅かに表情を変えるが、そこには果てしない侮蔑が込められていた。

 

「そんな物は断じて無い!! 戦場は唯の地獄以上の物であってたまるか!! なのに人類はどれだけ死体の山を積み上げようと、その真実に気付かない! いつの時代も、勇猛果敢な英雄様が、華やかな武勇譚で人々の目を眩ませてきたからだ! 血を流すことの邪悪さを認めようともしない馬鹿どもが余計な意地を張るせいで、人間の本質は、石器時代から一歩も前に進んじゃいない!! 何が英雄だ! 何が王道だ! そんな物は戦いに巻き込まれ蹂躙される人間からすれば、いい迷惑だ!!」

 

 一息で切嗣は言い切る。それは血を吐くような慟哭だった。経験に裏打ちされ、彼がその人生の中で掴んだことだった。

 普通の人間であれば、それに飲まれ反論することなど出来ないだろう。

 

 だがこの場に普通の人間などいない。

 

「むう、なるほど。貴様の言い分にも一理は有るな」

 

 別に不機嫌な様子も見せずに頷く征服王に、ウェイバーは驚いた顔を向ける。

 

「この身が民を戦に導く悪であると言うなら、余は甘んじてその誹りを受け入れよう。しかしな、それと命をなげうってまで戦場で戦う者を愚弄するのは、ちょいと話が違うだろう」

 

 諭すように続けるイスカンダルだが、切嗣はそれに反応しない。

 オビ=ワンは溜め息を吐いてから自分の意見を言う。

 

「その意見には私も賛成だ。戦争を嫌うことと、戦争に参加した者を嫌うのは、似ているようでまるで違う」

「何が違う。同じことだ」

「……兵士たち全員が、望んで戦場に立っているとでも? それぞれの事情があることや国家の都合に振り回されているとは考えないのか」

 

 僅かに声に怒りを滲ませるオビ=ワン。

 

「僕だって、別に兵隊の全部が全部、そうだとは言わないさ! だが望んで死んでいくような奴らを賞賛する異常性に耐えられないだけだ!!」

「……望んで?」

 

 レックスが、ついに堪えきれないとばかりに声を上げる。

 ヘルメットを乱暴に外すと、先ほど散っていったクローンたちと同じ顔が現れた。

 

「俺たちが、望んで死地に赴いたとでも思っているのか!! 俺たちだって生きたかった、何かを残したかった! だが俺たちには、それしかなかったんだ! 戦うために作り出され、戦うために教育された! 俺たちには戦場での名誉以外に、生きた証を建てる方法は無かったんだよ!! 貴様みたいな部外者に、馬鹿にされる謂れは無い!!」

 

 怒りと悲哀に満ちた叫びに、しかし切嗣は答えない。

 その態度にさらに怒りを爆発させて掴みかかろうとする副官を制し、ヴェイダーは呆れた調子で呟いた。

 

「嫌いなことからは目を逸らし、言うだけ言って都合の悪いことにはダンマリか。まるで子供だな」

「……名誉だの栄光だの、そんな物を持て囃す殺人者に語る言葉がないだけだ。君も名誉とやらを信じるのか」

「いいや、もっと単純な理由だ。……彼らは、私の友達だった。友達が馬鹿にされれば、気分が悪くなるのは当然と言うものだ」

 

 諭すように切嗣に語るヴェイダーだが、切嗣は暗黒卿から視線を逸らす。

 一方でレックスは感謝と尊敬を込めた視線を上官に向けていた。

 

「だいたいからしてキリツグ。貴様はこの場にいる英霊たちを愚弄できるほど、清廉な人間ではあるまい。……少なくとも、敵に占拠されたホテルを生存者ごと爆破して、敵対者を葬り去ろうという程度には」

 

 ヴェイダーの言に、ケイネスはそれが自分たちのいた冬木ハイアットホテルのことだと察し、目を剥く。

 切嗣はこの場にいる全員の視線が集中する中で、自らの失態を自覚しつつも胸の内を吐き出した。

 

「……ああ、そうだ。僕は悪だ。今の世界、今の人間の在りようでは、どう巡ったところで戦いは避けられない。最後には必要悪としての殺し合いが要求される。だったら最大の効率と最小の浪費で、最短のうちに処理をつけるのが最善の方法だ。それを卑劣と蔑むなら、悪辣と詰るなら、ああ大いに結構だとも。正義で世界は救えない。そんなものに僕はまったく興味ない」

「……そうは見えんがな」

 

 今までと打って変わって静かに言葉を吐くキリツグに、ヴェイダーが感情の読めない声色で呟く。

 それに気付いているのかいないのか、切嗣は語り続ける。

 

「終わらぬ連鎖を、終わらせる。それを果たし得るのが聖杯だ。世界の改変、ヒトの魂の変革を、奇跡を以って成し遂げる。僕がこの冬木で流す血を、人類最後の流血にしてみせる。そのために、たとえこの世全ての悪を担うことになろうとも……構わないさ。それで世界が救えるなら、僕は喜んで引き受ける」

「切嗣……」

 

 そこまで言い切った夫に、アイリスフィールは内心で自問していた。

 夫の願いは知っていた。だがその深い理由までは理解していなかった。

 それで……夫を愛していると言えるのだろうか?

 

「……クッ、くくく、ははは、ははははは!!」

 

 重苦しい沈黙が場を支配する中、突如笑い声が響いた。

 ここまで黙って切嗣と他の者たちの言い合いを眺めていた黄金のサーヴァントだ。

 愉快で堪らないとばかりに、腹を抱えって嗤っている。

 その姿に切嗣は一瞬呆気に取られた後、思わず怒鳴る。

 

「何が可笑しい! 何故、笑う!!」

「ははは……これが嗤わずにいられるものかよ。殺し合い、食い合うのが生命の本質。貴様はその本質を否定しようと言うのだからな」

「だからこそ、聖杯に……」

「だが、真に滑稽なのは……そうなることで、この世の苦しみの一切を掃えると本気で信じていることだ!」

「なに……?」

 

 黄金の王の言っていることが理解できず、切嗣は目を大きく開く。

 そんな切嗣に、アーチャーは笑いを含んだまま諭すように語る。

 

「よいか? 仮に世界から争いの一切を消したところで……ヒトの全てが幸福になることなど有り得んのだ。何故なら、ヒトは老いる」

「ヒトは病む」

「ヒトは飢える」

 

 黄金の鎧の王の句を、示し合わせたはずも無かろうに、紅い外套の王と、青い衣の王が継ぐ。生きた時代も信じる思想もまるで違えども、三人が等しく人の上に立つ王であるが故だった。

 

「抗いがたい困難に抗うことこそが、ヒトが争うことの本質、その一端だ。……貴様はその力をヒトから奪おうと言うのだ。後に待ち受けるのは、老いにも(やまい)にも飢えにも立ち向かわぬ、緩やかな死。救いに見せかけた滅びの道よ」

「詭弁だ!」

「おお! こう言うのを当世ではブーメランとか言うのだったな! 我、腹筋が大崩壊だぞ!! ははは、はっはっはっは!!」

 

 あまりにも馬鹿にした調子で再び嗤いだすアーチャーに怒りがぶり返してくる切嗣だが、ふと周囲を見回せば、征服王は憐みに満ちた視線をこちらに向け、女騎士とケイネスは複雑そうな顔をしていて、オビ=ワンとレックスは怒りを内在した表情を張り付け、アイリスフィールは俯いて顔を上げず、ヴェイダーは腕を組んで黙っていた。

 

「あ、あの……」

 

 そして、ウェイバーはまるで怖い先生に意見するように、小さく声を出した。

 切嗣が怨嗟の視線を向けると怯むウェイバーだが、自分のサーヴァントの好奇とも期待とも付かぬ視線を感じ、口を開く。

 

「ぼ、僕は戦争のこととかよく知らないけど……歴史の本とか読むと、戦争の原因ってのは、国が貧しかったとか、作物が不作だったからとか……そういう『民』の側にも理由があることが結構少なくない気がして……全部がそうだとは言わないけど、英雄のせいって決めつけるのは少し短絡的なんじゃないかと……」

「確かに。征服王はともかくとして、ランサーが戦ったのは国土の貧しさと、そこから来る貧困と飢餓が大きな理由だった」

 

 意外にも、ケイネスがウェイバーの意見を補足する。

 

「ならば、こいつらが正しいとでも?」

 

 切嗣の反論に、ケイネスはまるで不出来な生徒に対するような目を切嗣に向けた。

 

「正しいかどうかは問題ではない。物事には理由があり、過程があり、結果がある。英雄が生まれるのは、戦争という過程の結果であり、そもそもの理由ではない。付け加えるなら、彼らの生きた時代の戦いと君が体験したと推察される戦争では、まるで内容が異なっていることも考慮に入れるべきだろう。君が言っているのは一方的な価値観の押し付けだ」

 

 まさしく教師の姿勢そのままに言い含めるケイネス。

 時計塔の講師の面目躍如と言ったところか。

 

「はっはっは……いや愉快愉快。そこな騎士といい、当世にも見事な道化がいるものよ。今日は満足した故、我は帰るとしよう! ははは、はーっはっはっは」

 

 切嗣が口を開くより早く、最後までマイペースに笑い通したまま、黄金の王は粒子化して消えていった。

 

「……ま、今宵はこれでお開きとしておこう。行くぞ、坊主。……ヴェイダー、貴様も中々に厄介なマスターに当たったものだな」

「そこは否定しない」

 

 戦車を呼び出してウェイバーを引っ張り上げると、ライダーは空へと飛び立っていった。

 

「マスター、我々も」

「ああ。しかし、これはいよいよ聖杯戦争に付いて考えなければならないか……」

 

 ランサーは表情こそ暗いが、それでも愛馬を召喚してケイネスを後ろに乗せる。

 ケイネスがブツブツと考え込みながらも跨ると、ランサーは手綱を振るい、ドゥン・スタリオンはその凄まじい脚力で城の屋根に飛び乗り、そのまま駆けていった。

 

 残された切嗣は言い知れぬ感情に振り回されながらも、それを表に出さないように努めていた。上手くいっているかはともかく。

 

「……野郎ども、仕事に戻れ」

 

 レックスは兵士ならではの切り替えの早さでストームトルーパーに指示を出すが、声はまだイライラとしていた。

 

「ううん……あれ? さっきまで砂漠にいたのに、夢だったのかな?」

 

 と、オビ=ワンの腕に抱かれていたルークが目を覚ました。

 ヴェイダーは息子の頭を撫でる。

 

「ルーク、起きたのか」

「うん。あれ? キリツグどうしたの?」

「どうした、とは?」

 

 言葉の意味を父に問われ、ルークはキョトンとした顔をした。

 

「だって、なんだか泣きそうだよ? ソロがチューバッカとケンカすると、あんな顔するんだ……」

「………………」

 

 息子の言っていることの意味を何となく察しヴェイダーは無言で切嗣を見やる。

 

 月に照らされ一人佇む切嗣に、アイリスフィールが何も言わずに寄り添っていた。

 

 あの二人の中に様々な感情が渦巻き、そしてそれに葛藤していることを、ヴェイダーは感じていた。

 フォースの流れだけでなく、自分の経験からも。

 

 英霊たちの宴が行われていた庭園は、多くの祭りの後がそうであるように、一種の寂寥感で満たされているのだった。

 




切嗣スーパーフルボッコタイム。
原作より前倒しで切嗣がキレることになったけど、作中では一日で、

ジルの旦那のハイアットホテル襲撃。

帝国軍withオビ=ワン襲来。

聖杯問答、原作では切嗣はこの場にいない。

王の軍勢対クローン・トルーパー。

といったことが起こっているので、限界がくるのもやむなし……ということにしといてください。
本当は言峰側のことも書きたかったけど、長くなったので次回に持ち越し。

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