ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
言峰綺礼は困惑していた。
何故自分は、クローン・トルーパーたちに『全力で戦い、勝て』などと命令したのだろうか?
ライダーやランサーの宝具を探るため?
いいや、不確定要素が多すぎる。
あの場にはヴェイダーや兵士たちがいるし、フォードーを介して伝わってくる情報は、どれも綺礼の理解を遥かに超えた物だ。
師に指示を仰ぐべきだった。いや、どう言うワケか、師と連絡がつかない。だから自己判断で……。
いや、言い訳はよそう。
魔術を介さずとも、クローンの通信装置を使えば、師の近辺を警護しているクローンに連絡できたはずだ。
結局、自分は衛宮切嗣に会いたかったのだ。彼に問うために。
彼が得た物を、彼の答えを。
しかし、切嗣があの征服王の固有結界に取り込まれた時点で、その目論みは崩れ去った。
この時、綺礼の中には自覚していない『期待』があった。
彼の生まれ持った
このような無駄に散るような命令を受けることで、それでも受けざるを得ないクローンたちの性質故に、彼らが絶望する態を見たいと言う期待。
だが……。
彼らは、絶望などしていなかったのだ。
* * *
「撃て撃て撃て! あれだけ密集してりゃ目を瞑ってても当てられる!!」
隊列を組んだクローン・トルーパーたちのブラスターが一斉に火を吹き、無数の光弾が雨のようにマケドニアの戦士たちに降り注ぐ。
物理的に金属のドロイドを粉砕する光弾は、しかしマケドニアの戦士たちを倒すには至らない。
サーヴァントになった時点で、霊格の差が力の差となっているのだ。
AT-TEが背中の主砲を発射し、着弾と同時に大きな爆発を起こす。
上空からガンシップがイオン砲を撃って、眼下の敵を掃討しようとする。
「怯むな!! 我らの戦いを魅せてやれ!!」
さすがの古代の英霊たちもこれには耐え切れず何騎かは消滅するが、愛馬に跨り先頭を走る征服王の檄の下、突っ込んでいく。
『AAAALaLaLaLaLaie!!』
「来るぞ!! 総員、迎え撃て!!」
クローンたちは逃げずに応戦する。
敵味方が入り乱れ、たちまち乱戦になる。
「ハッハッハッハ! こいつはいい! どこを見ても敵だらけだ!!」
ハードケースと呼ばれるクローンは、愛用のガトリング型ブラスターキャノンを発射し続けていた。
腹に投槍が刺さり、次いで肩、太腿に突き刺さるが、ハードケースは倒れない。
結局ハードケースは、体に8本の槍が刺さり、うち1本は頭を貫通したが、消滅する瞬間まで撃つのを止めることも、倒れることもなかった。
ロングショットと呼ばれるクローンは正面から迫る騎兵を狙い撃つ。
しかし、騎兵は止まらない。
突撃を躱そうとするロングショットだが間に合わず、騎兵が手に持った長槍がその体を装甲服ごと貫通した。騎兵は、そのままロングショットの体を吊り上げる。
ロングショットは気泡の混じった血と共に言葉を吐き出した。
その顔は不敵に笑んでいた。
「前よりはマシな死に方だぜ……!」
次の瞬間、手に持っていたサーマル・デトネイターを爆発させ、ロングショットは騎兵諸共消滅した。
「クソが! 投槍がここまで届くとか、ありか!!」
ガンシップに乗ったトルーパーたちは、搭載されている全ての兵器を撃ちまくっていたが、有り得ないほどの距離を飛んできた槍がガンシップの装甲に次々と突き刺さり、機体がバランスを崩す。
ついに操縦席の丸型キャノピーを槍が貫き、中の操縦士に致命傷を負わす。
「ッ……! ま、まだだ……!」
レッドアイを名乗るクローンは、どうせ墜落するならと敵陣の中へ突っ込んでいった。
狙い通り、ガンシップはそれに乗ったクローンと同数以上の敵を道連れにしたのだった。
* * *
絶え間なく散っていくクローンたちの感情が綺礼の中を通り過ぎていくが、彼らは誰一人として綺礼のことを恨んではいなかった。
『感謝を! マスター!』
『ありがとうございます! これで兵士として死ねる!!』
『おさらばです! マスター!!』
『どうかお元気で!!』
彼らは皆、感謝していた。
(違う! 違うんだ!! 私は……!!)
いつになく、言峰は混乱する。
善より悪を愛する性ゆえに、クローンたちの感謝が何より苦痛だった。
それに『良心の呵責』という極普通の感情が混じっていることに、綺礼はまだ気付いていなかった。
* * *
(もはやこれまでか……)
フォードーは両手に握ったブラスター・ピストルを連射し続けながら、冷静に戦況を把握していた。
近づく名のある勇士の頭部と胴体に二発ずつ光弾を命中させる。
この星では俗にコロラド撃ちとも呼ばれる撃ち方であるが、ここまでしてやっと一体を消滅させることが出来た。
土台、スペックが違いすぎる。ライオンの群れに犬の群れが挑むようなものだった。
ガンシップは墜ち、AT-TEも寄ってたかって滅多刺しにされている。
もはや勝ち目はない。……『この戦闘』では。
敵の列の中から、見事な黒い馬に乗った偉丈夫が、こちらに向かってくるのが見えた。征服王、イスカンダルだ。
(聞いておいででしょう? マスター)
覚悟を決めたフォードーは、ここにはいない言峰綺礼に向け、念話を飛ばす。
返事は無いが、構わず続ける。
(失礼ながら、あなたの
善よりも悪を愛し、妻の死にも人らしい感情を抱けなかった綺礼。
しかし、彼を人でなしとなじれるような真っ当な生き方を、クローンたちはしてこなかった。
(ですから、せめてこれだけ! 貴方に最大級の感謝を! 貴方は我々をこんなに素晴らしい戦場に連れてきてくれた!!)
偉大な英雄たちを相手取り、無関係の人間を巻き込まず、全力で力を尽くすことが出来る。
そして、敵たる征服王は自分たちを一個の命として認めてくれている。
逃げ場のないこの固有結界の中こそ、クローンたちにとっては一つの理想郷と言えた。
フォードーに向けて、征服王イスカンダルが乗る黒馬が地響きを立てて迫る。
「AAAALaLaLaLaLaie!!」
「いざ! フォースの加護のあらんことを!!」
ブケファラスと交差する瞬間、フォードーは両足に力を籠めて横に飛びブラスターを発射、同時にイスカンダルが剣を振る。
そして……。
フォードーの首と胴体が別々に地面に落ち、やがて消えていった。
対し、イスカンダルには右肩に焼け焦げた跡が残るのみだった。
結果から見れば、それは間違いなく大敗であり、そこに意味を見出すのは無理な話しだった。
「……見事であった、兵士よ。貴様たちは真の勇者、真の英傑であった。天地万物が認めずとも、この征服王イスカンダルが認めよう」
しかし征服王は火傷の付いた右肩を撫でながら、静かに兵士たちを悼むのだった。
聖杯問答編はもうちょっと続くけど、戦闘はこれでおしまい。
言峰が良心の呵責なんて俗な心の動きを見せているのには、理由を用意してあります。
次回は、この作品がアンチ・ヘイトたることの最たる物になりそう(切嗣と言峰の扱い的な意味で)