ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
聖杯問答、前半。
ライダーから受け取った酒を一口含むや、アーチャーは「まずい」というようなことを言い出し、自分の蔵の中から「本当の酒、王の酒」とやらを取り出した。
気を利かせたクローントルーパーが恭しく酒の入れ物を受け取り、これまたアーチャー自前の器に注いで英霊たちに配る。
「おお! 旨い!!」
「確かに」
これには、英霊たちも満足したらしい。
オビ=ワンも一口含み、なるほどと笑顔で頷く。
ヴェイダーがマスクに仕込まれた開閉ギミックで口元をパカッと開き、慣れた様子で酒を飲みはじめると、英霊も人間も一様に少し驚いた様子だった。
そうして始まった問答であるが、予想通りと言うべきか揉めに揉めた。
かいつまんで言えば、アーチャーに曰く聖杯は自分の所有物であり、それを得るのは当然であると言う。
ライダーは自らの受肉を聖杯に願い、自らの大願たる世界制覇は自らの力で為すと言い、周囲を驚かせた。
そしてランサーは、自らの故国の救済……過去の改変を望むのだと言う。
そこからは、さらに問答は紛糾した。
身を挺して国を救わんとするランサーをアーチャーはせせら笑い、己の刻んできた運命を覆そうとするランサーにライダーは渋い顔をした。
国と民に尽くすことこそ王道であると言うランサーに対し、ライダーは国と民が王に尽くすことが王道であると言う。
理想に準じ民を救うことが王の在り方と信じるライダーに対し、ライダーは誰よりも強欲であり故に民を導くことが王の在り方と解く。
己の生涯を受け入れているライダーに対し、どうも生前のことを悔いているらしいランサーでは相性が悪いようだ。
「失礼ながら、征服王殿。貴方の言い方は、余りに一方的に過ぎるかと……」
ヴェイダーは酒をチビチビと飲みながら興味なさげにしていたが、ランサーの旗色が悪くなったあたりで、オビ=ワンが口を挟んだ。
周囲の視線が集まったところで、オビ=ワンは言葉を続ける。
「私のいた場所では、ランサー殿の在り方も、決して否定される物ではありませんでした。むしろ、国を背負う者には推奨されていると言っていい」
「むう、しかしな、ああー……」
「オビ=ワン・ケノービと申します。ケノービで結構」
「ではケノービよ、そうは言うがな。己と臣下の残した道を、否定する王などあってはならんではないか」
「もちろん、私とて過去を変えることは間違っていると思います。しかしあなたの言葉は、あまりにも極論ではないでしょうか? 私からすれば、貴方の言い分は強者の傲慢とも受け取れます」
「ほう? 中々に言いよる」
オビ=ワンの言葉に、ライダーはむしろ面白そうな顔をした。
「失礼。しかし、貴方を貶める意図が無いことをどうかご理解いただきたい。私が言いたいのは、価値観は多数あると言うことです。どれか一つに拘泥してしまうのは、あまり良いこととは言えない」
「……いかにも雑種らしい考えよな。貴様の言は、結論を出せぬ能無しの常套句ぞ」
アーチャーが皮肉っぽく言っても、オビ=ワンは動じない。
ここらへん、かつては調停者の異名を持ったジェダイ・マスターの面目躍如だった。
「そも、我らサーヴァントは皆聖杯への願いを持って顕現しておる。話し合いでどうこう出来ると言うのが間違いよ」
「しかして、暴力だけで解決するのもあまりにも短絡的と言うもの。だからこそこうして言葉を交わしているのではありませんか?」
自らの言葉に動じないオビ=ワンに、アーチャーは鼻を一つ鳴らす。
「だとしても、その権利を持つのはそこな黒い害虫であって貴様ではないわ」
「黒い害虫って、ゴキブリかよ……」
ライダーの後ろで小さくなっているウェイバーのツッコミは、当然の如く無視された。
しかし、ライダーは納得した様子で頷く。
「しかし尤も。第一、余たちはまだ、貴様が聖杯に懸ける願いを聞いておらん」
「それは……私も気になってはいた。貴公は何を望んでいる?」
ランサーも同調し、英霊たちの視線がヴェイダーに集中する。
ヴェイダーは面倒くさげに杯を置くと、息を吐いた。
「……そんな物は無い」
無感情な言葉に、ライダーは目を丸くし、アーチャーは逆に鋭く細める。
一同を代表するように、ランサーは疑問を発する。
「無い、だと? どういうことだ?」
「言った通りの意味だ。私にとって聖杯戦争は、厄介事に巻き込まれたという意味しかない」
「望んで聖杯戦争に参加しているワケではないと? ならばどうして……」
「パパー!!」
さらに問おうとした時、突然場違いな声が響いた。
この場に最もそぐわない存在の声。子供の声だ。
全員の視線が、声のした方に向くと、やはりそこにいたのは4才ほどの白人の少年だった。
少年は居並ぶ英霊たちに構わずヴェイダーのもとへと駆けてくる。
「ルーク? どうしたんだ、こんな夜更けに」
少年……愛息子のルークを抱き留めたヴェイダーが問うと、ルークはニパッと笑った。
「えへへ、目がさめちゃった……? この人たち、だれ?」
そこでルークは、初めて周りの見知らぬ人々に気が付いたようだった。
ヴェイダーはどう説明したものかと少し考え、嘘にならない程度に本当のことを隠すことにした。
「この人たちは……パパが仕事をしている相手だ。私たちは、今仕事について話しているんだ。ルークはいい子で寝ていなさい」
「ええー! 遊んでよー!」
「ダメだ」
頬を膨らませて分かり易く不満を表現するルークに、ヴェイダーは少し息を吐く。
一方で、面食らっているのはサーヴァントやマスターたちだった。
「ヴェイダー……その子は」
「見ての通り、私の息子だ」
「息子!? いやしかし、その子はサーヴァントで……親子とも共々召喚されたと言うのか!?」
ランサーは、衝撃のあまり目を丸くしている。
答えは、意外な所からもたらされた。
ここまで発言の少なかったアーチャーが、鼻を鳴らす。
「何を驚いている? その男は、今世を生きる身。
「はあああ!?」
素っ頓狂な声を上げるのは、ウェイバーだ。
「そんなことあるワケが……」
「いいや、そこの金ピカの言う通りだ。……私とルークは、今を生きる人間だ。少なくとも、まだ死んではいない」
衝撃に包まれる英霊と魔術師たち。アーチャーだけは、表情を変えなかった。
「どういうワケだか、我が子ルークがサーヴァントとして召喚され、私は迎えにくる途中で……やはり召喚されたのだ」
「そんなことが……これはいったい、どういうことだアインツベルン!!」
「正直、私にも分からないことが多すぎるの、ロード・エルメロイ。アインツベルン家にとっても、ヴェイダーたちのことはイレギュラーなの」
ケイネスはアイリスフィールに問いを投げるが、彼女は首をゆっくりと横に振った。
「最初は『そういう考えに囚われているだけの』サーヴァントだと思っていたのだけれど……あの宇宙船やミスター・ケノービがそれを否定しているわ」
夫の言葉を拝借しつつもアイリスフィールは正直に答える。
ここに至って嘘を吐いても仕方あるまい。
ヴェイダーは、ルークを抱き上げたまま皮肉っぽい声を出す。
「しかし、貴様たちも見ての通り私たちは疑似サーヴァントとでも言うべき状態だ。理由も理屈も分からんがな。そうでなければ、死人どもの茶番劇に誰が参加するというのだ。王道でも何でも、勝手にやっていればいい」
「……アナキン」
段々と口が悪くなってきている元弟子を、オビ=ワンが諌める。
それから、英霊たちに頭を下げた。
「申し訳ない。普段は、もう少し礼節をわきまえた男なのですが……」
「息子を攫われた上に、殺し合いに放り込まれればこうも言いたくなります。……つまり、私にとって聖杯戦争は単なる厄介事だ」
「言うではないか、害虫。……しかし、生きているのならばこそ、欲も願いもあるのが道理。万能の窯を手にしたくはないのか? 叶えたい願望は? そこの王を名乗る娘のように、やり直したい過去……あるいは蘇らせたい死者がいるのではないか?」
探るような黄金のサーヴァント。
ヴェイダーは、少しだけ考えた後、言葉を出した。
「……やり直したい過去ならいくらでも、ある」
ヴェイダーとて、あらゆる願いを叶える聖杯に、まったく魅力を感じていないワケではなかった。
あの時、もう少し早く動けたら、母は死なずにすんだかもしれない。
あの時、もう少し賢かったなら、弟子はまだ傍にいたかもしれない。
あの時、もう少し心を強く持てたなら、妻は子供たちと笑い合っていたかもしれない。
それでも。
「それでも、私は過去を変えたりはしない」
「…………」
「パパ?」
何故と、視線で問うランサーに答える代わりに、息子の頭を撫でた。
「この子は四つになる。……娘もいる。この子とは双子で、頭の良い子だ」
そう言うヴェイダーの口調は正しく『父性』と言うべき優しさがあった。
「たかが四年、それでも、この子たちは四年の歳月を生きてきた。その時間を否定することは、私には出来ない」
「つまり、貴様の行動原理は、息子と娘と言うことか。……随分と、矮小なことよ」
嘲るような言葉を吐くアーチャーの目は、しかし試しているような光があった。
「小さいとも。私の手に国家だの銀河だのは大き過ぎる」
こう言うヴェイダーであるが、帝国軍を指揮し銀河を又にかけて戦いを繰り広げる暗黒卿らしからぬ違和感を覚える者もいるかもしれない。
しかし、それも言ってしまえば子供たちのため……子供たちに少しでも良い状態の銀河を残すためだ。
結局のところ、ダース・ヴェイダーとは……アナキン・スカイウォーカーとは、あの砂の惑星で奴隷だった少年時代から、一貫して家族への強い……あまりにも強い愛のために生きているのだ。
「私に王道は分からぬ。……どうでもいいと言ってもいい。子供たちに未来を約束してくれるなら、銀河中から憎まれる暴君でも私にとっては忠誠に足るし、子供たちに犠牲を強いるなら全ての人間が諸手を上げて賞賛する名君でも逆らうには十分だ」
「全ては子らのため。そう言うのだな?」
なおも、アーチャーは試すようにヴェイダーに問う。
ヴェイダーは顔を伏せた。
膝の上のルークは、やはり眠くなってしまったようで、うつらうつら舟を漕いでいた。
「いや、結局は自分のためなのだろうな」
その言葉は酷く悲しげだった。
「良い息子にも、良い夫にも、良い弟子にも、良い師匠にもなれなかった。だから、せめて良い父であろうとあがいている。……それだけだ」
何とも言えない重い沈黙が場を支配した。
オビ=ワンは沈痛な面持ちで沈黙していた。
ヴェイダーはフッと息を吐く。
「……どうにも少し酔ってしまったようだ。旨い酒だったので、少し飲み過ぎた」
アーチャーはやはり傲慢な表情を崩さないが、多少ではあるが目元にある種の柔らかさが生まれていた。
「子を産み、育て、慈しむは、喰らい合い殺し合いの対岸に位置する、もう一つの生命の真理ぞ。……どちらか一つが絶対と信じる愚か者は後を絶たんがな」
ライダーは、らしくもなく感じ入った様子で酒を煽る。
「我が覇道に未練は無く、生涯に悔いは無い。……が、生まれてくる我が子を抱けなかったことは残念ではあった」
征服王イスカンダルの病死したのは王妃が妊娠していた時期であり、その名を継いだイスカンダルⅣ世は死後に誕生した子であった。
そしてランサーは黙り込んでいた。
彼女は常に王としての自分を優先してきた。
それが間違っていたとは決して思わないが、王であるが故に、王妃ギネヴィアを幸せにできず、モードレッドを自分の息子と認めることが出来なかったのも事実である。
アイリスフィールも、ケイネスも、ウェイバーも、それぞれ何か考え込んでいるようだった。
ヴェイダーは、眠ってしまった息子の頭を撫でる。
その場にいる全員が、ヴェイダーがマスクの下で優しく笑むのを、全員が見た気がした。
しかし同時にその笑みの奥に、途方もない悲しみがあるのも、見えた気がした。
「私は子供たちを守る。そのためなら、銀河の果てまでだって飛んでゆくし、どんな敵とでも戦う」
それは冗談でもよくある比喩表現でもなく……ヴェイダーにとっては、当たり前のことだった。
王様たちの語り合いは、どうしても原作通りになってしまうので、バッサリカット。
個人的に、アルトリアの王道を推したい所存。
イスカンダルの王道はカッコいいけど強者の傲慢っていう側面があるし、ギルガメッシュの王道はウルク民でなければ付いていけそうにないし。
ようするに、今21世紀(作中だと20世紀)だしマケドニアや紀元前ウルクの価値観で話されても……と思ってしまうワケです。あくまで個人的意見ですが。
ちなみにギルガメッシュがやたらヴェイダーに絡むのは、ヴェイダーたちを(実力ではなく存在そのものを)警戒しているからです。
次回、クローンのターンの予定です。