ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
いまや帝国軍の臨時駐屯地と化したアインツベルン城。
中世ヨーロッパを思わせる城を白い装甲服のストームトルーパーや二足歩行の兵器AT-STが警備している姿は、酷くミスマッチだ。
上空にはスター・デストロイヤーがデェェェンと居座り圧倒的な存在感を放っている。
新型クローキング装置によって外部からは探知されないようになってはいるが、さすがにいつまでもは無理だろう。
そんな城の一室には、切嗣とアイリスフィール、ヴェイダーとオビ=ワン、さらにレックスが集まり、皆で長テーブルを囲んでいた。
「まずは挨拶から。私はオビ=ワン・ケノービ。このアナキンの師……だった者だ。弟子とその息子が世話になった」
「丁寧にどうも、私はアイリスフィール・フォン・アインツベルンです」
まずはオビ=ワンが立ち上がり礼と共に自己紹介する。
対しアイリスフィールは挨拶をし返すが、切嗣が絞り出したのは疑問だった。
「つまり……つまり、君たちは本当に宇宙人だったのか?」
「君たちから見れば、そうなる」
「それでセイヴァー……ルークとヴェイダーを回収に来たと」
「ああ」
オビ=ワンが答えると、切嗣は頭を抱えたくなるのを堪えなければならなかった。
さしもに、これが現実であると受け入れなければならない。
それだけではなく、もはや力関係は完全に逆転した。
こうなったら、聖杯戦争を続けることなど不可能だ。
「それじゃあ、あなた方はもう帰ってしまうの……?」
不安げに声を出したのはアイリスフィールだ。
しかし、ヴェイダーは首を横に振る。
「いや、そういうワケにはいかない」
「え? それって……」
「説明するより見せる方が早い。……レックス、ブラスターを貸してくれ」
「? 何に使うんです?」
愛用のブラスターピストルを差し出すレックスの疑問に答えず、ヴェイダーは素早くブラスターを受け取って自分の腕に銃口を当て、引き金を引いた。
「!? 何を……!」
驚愕するレックス以下一同だが、ヴェイダーの腕には傷一つない。
「これは……どういう手品です?」
「手品ではない。……これでハッキリした。私の体はサーヴァントと同質の物になっているのだ。おそらく、ルークも」
呆気に取られるレックスにヴェイダーは苦々しげに答える。
「聖杯、とやらの影響だろう。私たちは死んではいないワケだから、疑似サーヴァントとでも言うのだろうか」
「そして、それを解決する手段は分からない」
オビ・ワンも大きく息を吐く。
彼から見て、ヴェイダーとルークはフォースの塊のように見える。
肉体が滅びフォースと一体化した者が、こういう姿で現れることがあるが、ヴェイダーたちは間違いなく生きている。
「どうあれ、私と息子は聖杯とやらに縛られているのだ……!」
怒りに満ちた声を漏らすヴェイダー。
それを聞いて、切嗣はすぐに頭を回転させる。
つまり、まだアインツベルンの聖杯戦争は終わっていない。
それも、この軍団を上手く使えば容易に勝利出来るだろう。ルークに対する令呪はまだ生きている。
……しかし、ヴェイダーは銀河帝国の実質的な№3であるという。
つまりルークは要人の息子ということで、それを拉致したとなれば武力介入する理由には十分だ。
聖杯を使って世界から争いを無くしたとしても、宇宙から攻めてこられて滅びましたじゃ、冗談にもなりゃしない。
表面上は無表情を保ちながらも、切嗣は深く懊悩する。
聖杯を諦めるという選択肢が頭をよぎる。
だが、それだけは出来ない。絶対に出来ない。
* * *
その場はお開きと言うことになった後、アイリスフィールは部屋で休んでいた。
金色の人型ドロイドが、お茶を机に置く。
「どうぞ奥様。この星のお茶の淹れ方は分からなかったので、わたくしどもの知る淹れ方ですが」
「ありがとう……うん、美味しいわ」
アイリスフィールがカップに口を着けると、いつもと違う風味が口の中に広がる。これはこれで悪くない。
「お褒めに預かり光栄です。……それでR2-D2。アナキン様に迷惑をかけてなかったろうな」
そう言って、C-3POは傍らのR2-D2の頭部を軽く叩く。
「何だって? むしろ自分が迷惑をかけられた? まったくお前はいつもそんな生意気な口を利いて! アナキン様に怒られて、スクラップにされてもあたしゃ知らないからな!」
ルークに対する慇懃な態度とは違う砕けた態度でR2に接するC-3POに、アイリスフィールは思わず笑む。
「あなたたちは仲が良いのね」
「仲が良いだなんて、奥様! ただの腐れ縁ですよ!」
両手を上げて驚きを表現するC-3PO。
「こいつときたらとんだ性悪ドロイドで、いつも無茶ばかりしてるんです!」
抗議するように電子音を鳴らすR2-D2。
「フフフ……でも、『アナキン様』ってヴェイダーのこと?」
微笑んでいたアイリスフィールだが、ふとC-3POの言う名が気になった。
オビ=ワンもそうだが、彼もダース・ヴェイダーを『アナキン』と呼ぶのだ。
「もちろんでございますとも。私にしてみれば、何で皆さんアナキン様のことを『ダース・ヴェイダー』とか、『ヴェイダー卿』なんて呼ぶのか理解できませんね。私はあの人に作ってもらったんですよ」
「ヴェイダー……いえ、アナキンに?」
「ええ、ええ。今でも憶えてます。まあ、ドロイドの記憶は消去しない限り消えないんですけど。とにかく、わたくしは砂と岩ばかりの惑星タトゥーインで生まれました。あの頃、アナキン様は奴隷の身分でお母様のシミ様のために……」
突然、R2が甲高い電子音を鳴らした。
「何だR2! ……喋り過ぎ? とりあえず人前ではダース・ヴェイダーと呼んでおけ? 馬鹿を言うんじゃないよ! 例え銀河中の人間が言ったって、私は認めないね! あの人はアナキン・スカイウォーカーじゃあないか!」
怒るC-3POに、R2は何処か呆れたような……しかし柔らかい電子音を出した。
「うん、そうだねって? 何を分かり切ったことを言ってるんだい!」
漫才めいたやり取りをするドロイドたちに、アイリスフィールは思わず笑みを浮かべるのだった。
* * *
城の中庭では、舞弥がストームトルーパーに囲まれて射撃訓練をしていた。
舞弥が持っているのは、愛用の小銃や護身用の拳銃ではなく、ストームトルーパーが使うブラスター・ライフルだ。
レックスの短い説明を受けた舞弥は危うげなくホログラムの標的を撃ち抜いていく。
「へえ、上手いもんだな。本当にブラスターは初めてかい?」
「ええ、この星では光線銃はまだ実用化されていませんから」
舞弥の横では、レックスがヘルメットを外して立っていた。
頭髪を剃り、口の周りの髭には白い物が混じっている。
「しかし、やっぱり美人は何してても絵になるねえ」
「コマンダー! 俺らにもその美人さん、紹介してくださいよ!」
「どうですお嬢さん! この後、俺とカクテルでも!」
「喧しい! とっとと持ち場に戻りやがれ!」
やんややんやと囃し立てる兵士たちだが、レックスに怒鳴りつけられてブー垂れながらも仕事に戻っていく。
「すまんな、何せ女日照りなもんで……」
「構いませんよ、兵士というのは、そういう物ですから」
無表情に言う舞弥に、レックスは苦笑する。
「……まあ、アンタには感謝してる。ルーク坊ちゃんを守ってくれたこと、改めて礼を言わせてくれ」
「切嗣の命令でしたので」
「そうかい」
あくまで表情を変えない舞弥。
と、そこにルークが駆けてきた。
「マイヤー!」
「ルーク、どうしました?」
「うん! あのね、あのね! このお城で花を見つけたんだ! だからマイヤにあげるね!」
「そうですか…………ありがとう」
小さな花を差し出すルークに舞弥は柔らかくフッと笑む。
それ見て、レックスも笑顔になった。
「何だ、そんな顔も出来るんじゃないか」
* * *
城の城壁の上では、ヴェイダーとオビ=ワンが歩きながら話していた。
そろそろ日が暮れようとしている。
「……では、サーヴァントを生け捕りにして、カーボン冷凍すると?」
「はい。そうすれば、アイリスフィールの肉体が崩壊することは防げるはずです」
「正直、難しい事だと思うが」
「それでも、やらねばなりません。……ルークが、キリツグとアイリスフィールの娘と約束したのです。私が二人を守ると」
ヴェイダーの言葉を聞いて、オビ=ワンは苦笑混じりに笑んだ。
この男は本当に身内に甘い。
そこが美徳でもあり、弱点でもある。
「後は、どうキリツグに納得させるかですね。あの男は聖杯に執着している。……正確には、聖杯で願いを叶えることに」
「世界の平和、争いの根絶……聞く限り、そこまで悪い目的とは思えないな」
「そう簡単な話ではないようです。それに上手い話には裏があるもの。この私とルークを巻き込むような聖杯ですよ? 思わぬ落とし穴がありそうです」
ヴェイダーの口調や声色は、切嗣やアイリスフィールと話している時よりも砕けた調子だ。
二人の間にある深い信頼故である。
「それで、キリツグとはどんな男なのだ?」
「一番『拗らせて』た頃の私と同程度に拗らせてる男です」
「何だろう……急に関わる気が失せたんだが」
微妙な表情になるオビ=ワン。
ヴェイダー……アナキンは、過去、その優れた才能と能力が故に増長していた時期がある。
そこに元奴隷のコンプレックスやら、ジェダイへの不信やらが重なり、大きな悲劇を生んだ。
ヴェイダーも、マスクの下で何とも言えない顔をしていた。
「聞くところによると、サーヴァントはマスターに似た気質の者が呼び出されるとか……ならば、私とキリツグが似た者同士なのは当然でしょう」
「私にはそうは思えないな。……アナキン、お前は何があろうと愛する者を犠牲にすることは、絶対に無いじゃないか」
それが、オビ=ワンから見たヴェイダーと切嗣の最大にして決定的な違いだ。
この男は出会ったばかりの少年の頃から、愛する者を守ることを何より優先していた。
それ自体は美徳であったはずなのに、執着はジェダイの道に反するからと否定したのは自分たち旧来のジェダイだ。
そのことが、この多感で危険なほどに純粋な男を、どれほど傷つけたか……。
「まあとにかく、早く皇帝に連絡を入れないと。あの方もルークを可愛がっていますから、無事な姿を見れば安心するでしょう」
ヴェイダーは話題を変える。
オビ=ワンの苦悩に気が付いたのか、彼としてもあまり触れたくない話題なのかもしれない。
と、オビ=ワンがバツの悪そうな顔になる。
「そのことだが……アナキン。実は一つ、言わなければならないことがあるんだが……」
「オビ=ワン? 何ですか」
「ああ、実はな……皇帝がこちらに向かうことになっている」
「そうですか、皇帝が…………何ですって?」
ヴェイダーの声がらしくもなく上ずる。
「皇帝陛下が、この星にいらっしゃると?」
「ああ、それもデス・スターに乗って……」
「な!? 何で止めなかったんです!」
「止まると思うか?」
オビ=ワンの言葉に、ヴェイダーは天を見上げた。
確かに、あの皇帝がオビ=ワンの言葉で止まるとは思えない。
即断即決と言えば聞こえはいいが、気まぐれをすぐに行動に移すのだ。
何せ『カッコいいから』と言う理由で惑星をも粉砕するスーパーレーザーをデス・スターに仕込む御仁である。
「……キリツグには黙っておきましょう」
「それがいい」
「出来れば、皇帝が到着する前に事を終わらせたいですね」
「出来ればな……」
二人は揃って溜め息を吐くのだった。
と、ヴェイダーのヘルメットに仕込まれた通信機が鳴った。
「失礼……私だ」
『ああアナキン様! 大変でございます!!』
オビ=ワンに断ってから通信機を開くと聞こえてきたのはC-3POの声だ。
「3POか、どうしたんだ?」
『はい、わたくしアイルスフィール奥様と談笑していましたのですが、奥様はわたくしのお茶を褒めてくださいまして、そうしましたら、奥様の様子がおかしいじゃあありませんか。奥様のおっしゃることはわたくしにはサッパリで……』
相変わらず要領を得ない説明に、しかしヴェイダーは少し安心していた。
昔とは何もかも変わってしまったが、あのプロトコルドロイドは自分が起動した時から、ほとんど変わらない。
「3PO、それでアイリスフィールは何と言ったんだ?」
『ああはい。つまり奥様が言うには結界を越えて侵入した者がいるそうです』
「ッ! 分かった。アイリスフィールに礼を言ってくれ」
通信を切り、ヴェイダーはオビ=ワンと向き合う。
二人は頷き合うと、敵を迎え撃つべく動きだした……。
そんなワケで、次回はある意味Fate/Zero前半のハイライト、聖杯問答の予定。
しかし反乱者たち、ヴェイダーとスローンの別格感がヤベエ。