ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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スター・デストロイヤーは出さないと言ったな? アレは嘘だ!

 501大隊と合流したダース・ヴェイダーは、まず部隊を三つに分けた。

 

 一つは、ホテルの周囲に展開し、警察消防、マスコミ、野次馬などをホテルに近づけないようにしつつ、ホテルの全ての出入り口を封鎖。海魔が外に出ないようにした。

 

 一つは、ホテルの正面から突入。海魔を掃討しつつ生存者を救助。そしてルーク・スカイウォーカーを救出する任を帯びていた。この分隊を率いるのはヴェイダーが深く信頼するクローン大戦時代からの副官、コマンダー・レックスだ。

 

 最後の一つは、シャトルをホテル屋上に着陸させ、直接突入した。

 これが、ダース・ヴェイダーが直接指揮している隊である。

 

  *  *  *

 

 

 ケイネスとランサーは、いままさにホテルの上階で事の元凶であるキャスターことジル・ド・レェと廊下を挟んで相対していた。

 

 ケイネスは礼装の一つである月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の中に閉じこもっている。

 これは何も臆病風に吹かれたワケではなく、中に一般人を匿っているからだ。

 

「お待たせいたしました聖処女よ! 狂乱の宴は楽しんでいただけましたかな?」

「キャスター……貴様は私をおびき寄せる、それだけのためにこれだけの事を起こしたと言うのか?」

「無論! そしてもう一つ! あなたに知ってもらうためです! 神の傲慢さを! 残酷さを! 神は人間を苦しめ喜ぶ存在であると言うことを! 現に御覧なさい! 人々がこれだけ苦しみ嘆いていると言うのに、神は救いの一つも寄越さないではありませんか!!」

「……もういい。やはり貴様とは会話にならん」

 

 この狂人にはもはや何を言っても無駄であると確認したランサーは、槍を構えキャスターに向け突進する。

 しかし無数に現れる海魔に阻まれる。

 ランサーは槍を振るうも、次から次から現れる海魔に突進力を殺されてしまう。

 

「ふふふ、あなたの得物はその長い槍と愛馬……どちらもこの狭い場所で戦うには致命的に向いていない」

「なるほど、無いよりはマシ程度の知恵はあるようだ。しかし、舐めるな!」

 

 それでもランサーは果敢に海魔に向かっていく。

 しかし倒しても倒しても海魔は湧いて出てくる。

 ランサーの体にも海魔たちが巻き付き、動きを拘束していく。

 

「クッ……!」

「武功の程度によって覆せる数の差には限度があります。いかな貴女と言えど、槍を振るい切れず馬に乗れぬこの場では、この数は如何ともし難いでしょう」

 

 余裕の笑みを浮かべるキャスター。

 しかし、突然黒い影が現れ赤い閃光が走ったかと思うと、海魔たちが切り刻まれて消滅する。

 

「ッ! 貴公は……」

「何者だぁ! 誰の許可を得てこの私の邪魔立てをするかぁ!!」

 

 驚愕するランサーと怒り狂うキャスター。

 果たして乱入者は、黒い装甲服とマントに身を包み赤い光剣を握ったダース・ヴェイダーだった。

 

「少なくとも貴様の許可ではないな」

 

 ヴェイダーは素早くランサーの隣に並ぶ。

 

「貴様もよくよく妙なのに絡まれるな」

「ヴェイダー……貴方は」

「話は後だ。……攻撃を開始せよ」

 

 ヴェイダーが合図すると、廊下の向こうから白い装甲服の兵士たちが現れ海魔たちを銃から放たれる光弾で撃ち殺していく。

 戦いと言うよりは作業に近い。

 光弾はキャスターにも当たるが、怯む程度で倒れる様子はない。

 

「この兵士たちは? 貴公の使い魔……ではなさそうだが」

 

 ランサーの質問に答えずヴェイダーはキャスターから視線を逸らさない。

 ブラスターを浴びているにも関わらず禄なダメージの無いキャスターを見て、ヴェイダーは確信めいた呟きを漏らした。

 

「やはり効かぬか。と、なれば……」

「き、貴っ様ぁああ!! 許さぬぅうう!! 思い上がるなよ、この匹夫めがぁああ!!」

「喧しい奴だ……しつこい男は嫌われるぞ」

「私の祈りが! 私の聖杯がその女性を甦らせたのだ!! 彼女は私の物だ! 肉の一片から血の一滴、魂に至るまで私の物だ!!」

 

 髪を掻きむしり絶叫するキャスター。

 その姿を見て、フォースを通じてあまりにも深い狂気と絶望を感じ取って、ヴェイダーは何となくだが理解する。

 

「そうか、お前も同類か」

 

 大切な何かを失い、故に狂った。

 切嗣と言い、コイツといい、この聖杯戦争とやらでは、よくよく同類に出くわす。

 

「同類だと!? 私の痛みが! 悲嘆が! 絶望が!! 貴様如きに理解されてなるものか!!」

「そうだな。だがなキャスター。……お前が何を失ったのであれ、お前はやり過ぎた」

 

 瞬間、ヴェイダーは海魔たちをフォースで天井に叩きつけ、さらに一足でもってキャスターに近づくと、魔導書を持つ手を斬り飛ばす。

 

「ぐ!? ぐがぁあああ!!」

「……ワケあって殺さぬ。しかし、その代わり四肢と舌を斬り落とした上で炭素冷凍させてもらう」

 

 悲鳴を上げて床を転がるキャスターに、ヴェイダーはさらに斬りつけようとするが、キャスターは転がりながらも魔導書を拾っていた。

 ヴェイダーの四方から海魔が飛びかかる。

 が、その海魔たちも突っ込んできたランサーの槍の一振るいで霧散する。

 しかし、その間にキャスターは何処かに逃げ遂せていた。

 

「逃げ足の速い……」

「追いますか?」

「いや、お前たちでは相手にならん。引き続き生存者の救助とダイアノーガモドキの殲滅を優先しろ」

「イエス、マイロード!」

 

 兵士たちに指示を出した後で、ヴェイダーはランサーと向き合った。

 

「さて……」

「助太刀感謝する、ヴェイダー。しかし、その理由を問いたい」

「通りがかったので、ついでだ。……さしあたって、生存者はこちらで預かろう」

 

 ランサーの問いに平坦な声で答えたヴェイダーは、生存者の確保も兼ねて彼女らを保護しようとするが、そこで異論を唱えたのがケイネスだ。

 

「貴様……! サーヴァントでありながら魔術師同士の決闘にこのような部外者どもを……!」

「ランサーのマスターよ。事はすでに魔術師同士の決闘などという枠を大きく超えているのだ」

 

 ピシャリと言い放つヴェイダー。

 

「それに彼らは私の部下だ。私も正規のサーヴァントではない」

「……チッ!」

 

 舌打ちしたケイネスは、月霊髄液の中から姿を現し、兵士たちに一般人を押し付ける。

 記憶は処理済であるようだ。

 

「何者だ。貴様は……!」

「すでに名乗ったはず。私はシスの暗黒卿ダース・ヴェイダーだと」

「そういうことではない!」

 

 イラつくケイネスだが、何とか冷静になろうと努める。

 このサーヴァントが正規の物でないのは確かだが、だとしたらアインツベルンが何かしかの反則を行ったことになる。

 キャスターの件といい、どうも聖杯戦争は思い描いていた魔術師同士が秘術の限りを尽くした戦いには程遠いようだ。

 

「ぬう……」

「ヴェイダー。この借りはいずれ返させてもらおう」

「いらぬ。今回は撤退するならイレギュラーな事態ゆえ見逃すが、次会う時は殺し合いだ」

 

 ランサーの言葉をバッサリと切り捨て、ヴェイダーは兵士たちを率いて去っていく。

 ケイネスは考え込んでいる。

 

 それでもランサーは、感謝を込めて彼らの背に一礼するのだった。

 

  *  *  *

 

 その後、ヴェイダーは部隊を撤収させた。

 

 一足違いで現場に駆け付けた言峰綺麗、間桐雁夜、ウェイバー・ベルベットらが見たのは、僅かな時間で廃墟と化したホテルと騒ぐ一般人たちだけだった。

 

 ケイネスは速やかにこのホテルを引き払い、ソラウ共々別の拠点に居を移した。

 

 キャスターは隠れ家で延々と呪いの言葉を吐き、雨生龍之介に慰められていた。

 

 多数の目撃者が出ながらも、この事件がつまり何だったのか、自分たちが見た物が何なのか理解出来ている者は誰もいなかった。当事者たちでさえも。

 

 結局のところ、この事件は火災と集団幻覚ということになり、そのカバーストーリー流布のために遠坂時臣や言峰璃正神父が四苦八苦する破目になるのだった。

 

 そして、聖杯戦争参加者たちの興味と警戒心は必然的に一つの事柄に集約される。

 

 あの、シスの暗黒卿なるサーヴァントと、その配下と思しい兵士たちはいったい何者なのかと。

 

 言峰璃正神父はアインツベルン陣営をキャスター同様に討伐対象にすることも考えたが、あまりにも正体不明すぎて、それすらも躊躇われた。

 

 そして当のヴェイダーたちはと言うと……。

 

  *  *  *

 

 アインツベルンの城。

 501大隊ごと帰参したヴェイダーは、城の中庭に堂々とシャトルを着陸させた。

 意識を失っているルークを抱いた上体でシャトルを降りると、切嗣とアイリスフィールが二人揃って茫然と上空を見上げていた。

 

 城の上空に、巨大な楔形の宇宙船が静止している。

 死の小艦隊所属、エクゼキューター完成前はヴェイダーの座乗艦でもあったインペリアル級スター・デストロイヤー、『デヴァステーター』である。

 

 切嗣とアイリスフィールに構わず、ヴェイダーはもう一人の人物に頭を下げた。

 白髪と白髭の老人で、着物ともローブともつかない服を着ている。

 

「オビ=ワン。ご足労を掛けました」

「まったくだアナキン。お前にはいつも心配ばかりかけさせられる」

 

 穏やかに笑う老人……オビ=ワン・ケノービだが急に顔を厳しくする。

 

「しかし、お前とルークの『その状態』はいったいどういうことなんだ? それではまるで……」

「そのことについても、お話ししたいと思っていたのです。……キリツグらも交えて、話すとしましょう」

「ああ、彼らからも事情が聴きたい」

 

 彼ら……切嗣とアイリスフィールの方を一瞥するオビ=ワンとヴェイダー。アイリスフィールは舞弥やレックスに声を掛けられて正気に戻ったが、切嗣はまだ上の空だ。

 

「それはそうとアナキン」

「何です? オビ=ワン」

「お前が……もちろんルークも……無事でいてくれて嬉しいよ」

「……はい。ありがとうございます、マスター」

 




ローグ・ワンの街の上に居座るスター・デストロイヤーのインパクトが凄かったので、思わず出しちゃいました。

ちなみにデヴァステーターは、EP4冒頭でレイア姫の乗った船を拿捕した、『あの』スター・デストロイヤー。

……次回は情報を整理する回になるかと。

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